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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第15話 嵐の後
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15-1

 ファッ!? 闇髭の野郎、逃げやがった!

 あの妙に強いロボット怪人を僕に嗾けて、ロボ怪人を普段は使えない幻の必殺技「デスサイズ錐揉みキック」で仕留めたら、いつのまにか消えてやがった!


「デスサイズきりもみキック」

 時空間トンネルに突入する時に思い切り、捻りを入れる事によって生み出される強力な技なんだけど、なんていうか……、前進方向だけじゃなくて捻りまで加速されちゃうんだよね。つまり時空間トンネルに入った瞬間、制御不能のスピンに襲われるわけ。

 そんな状態で普通に動く敵に当てようと思ってもまず無理! てか、僕が生身の人間だったら三半規管が馬鹿になっちゃう! 改造人間だから何とか耐えられるだけ! 逃げようとする敵に微調整とか不可能!

 そんなわけで普通は使い物にならない必殺技なんだけど、今回は半永久機関でパワーアップしていたので使える時空間フィールドで敵を拘束できたので微調整の必要がなくなったので安心して使ってみました!


 まあ、ARCANAの遺産なんて使いたい物じゃないし、現在の所有者はいけすかない大企業らしいのでブッ壊しちゃうことにしたので、最後に一度だけでいいから試してみたんだけどね。

 そも高さ1.4メートル、幅1.8×1.2メートルの機械なんて持ち運べるわけでもないので、組織のサポートが無い身では運用なんてできないし。

 過負荷を掛けて自壊させる事にしたのは修理させないため、今ごろは基板もドロドロに溶けかけてるんじゃないかな?


 BON!


 おっ! 半永久機関が小さな爆発音ととも火を吹きだした。

 電子頭脳の計算ではあと3分ほどで完全に破壊されるハズだ。

 僕の時空間エンジンも平常の出力に戻ろうとしているし、空にポッカリと空いた異次元ゲートも少しずつではあるが小さくなっている。


 ん?

 え?

 アレ!?

 炎が……?

 半永久機関の燃え盛っている炎が……、揺らめいている炎が……、止まっている?


 ただならぬ出来事に僕はセンサー類を確認して索敵するが付近には何もいない。だが僕の目の前で起こっていることは何らかの異常事態であるのは明白だ。

 遠くから聞こえてくる戦闘の音。

 ゆっくりと流れていく黒雲。

 おかしいのは半永久機関の炎の止まった揺らめきだけのようだ。


(……!)


 ある可能性に気付き、僕はビームマグナムを半永久機関に発射する。ファニングで6連射。

 だが一足遅かったようだ。いや、炎の揺らめきが止まった時点で遅かったのだろう。6条のビームは機械をすり抜けていく。別に貫通したというわけではない。まるで立体映像を撃ったようだ。


「壊してしまっていいんですか?」


 聞いただけで邪悪な存在であると分かる声。


「……別に。そんな機械に頼っていこうなんて思わないよ」

「貴方自身が機械みたいな物だというのに?」


 半永久機関の陰から現れたのは「笑う魔王」ロキだった。


 スラリと長い手足の長身に悪趣味なラメ入りのタキシードを纏った一見、白人のコメディアンのような男。だが、その双眸は悪意と狂気に溢れ、口角は高く切れている。

 人々の対立を煽り、破滅していく様を見て高らかに笑うトリックスター。それがロキだ。

 大方、今回はハドーの連中が唆されて、そして破滅していったという話なのだろう。


「貴方がいらないのなら、私が貰っていきますよ!」

「もう壊れてるようなもんだけど、直せるのかい?」

「ご心配なく! これでも顔が広いものでして……」


 どうせハドーの残党なり異星人に直させるつもりなのだろう。


 もちろん僕だってロキに半永久機関をくれてやりたいわけじゃない。だが、どうせ僕が今、見ているロキは本物じゃないだろう。試しに再チャージしたビームマグナムで1発撃ってみるが、先ほどの半永久機関のようにビームはすり抜けていく。


「危ないですねぇ……」

「よく言うよ……」


 無駄な時間を過ごしているという脱力感を感じる。

 ロキは侵略者の頻出期の初期より活動が確認されているが、今までに一度も戦っている所が確認されていないのだ。今回もどうせ、僕の手が出ない場所から映像だけ飛ばしているのだろう。


「貴方、確か去年も会いましたけど私への対応がおざなりじゃありません?」

「そう?」

「そうですよ! 他のヒーローの方なら今ごろは目の色を変えて襲い掛かってきていますよ!」

「そりゃあねえ……。殺せるのなら報奨金も高そうだけどさ。無駄な事はしたくないよ」

「冷めてますねぇ……」

「はいはい!」


 マジで相手するのも面倒だな……。どうせアレでしょ!? ロキだけじゃなくて半永久機関もすでに僕の手が出せない状況なんでしょ? とっとと帰ってほしいよ。


 そうこうしている内にロキの体と半永久機関がうっすらと透き通っていく。どういう仕組みだろう? 転送とか? まっ、魔法使う相手にムキになるだけ無駄ってことかな。


「ところで貴方に一つ忠告なんですけど……」

「なあに?」


 僕はロキに忠告を受けるような因縁なんて無い。精々、去年の埼玉での一件くらいだ。それだって僕はただのヒーローチームの一員って所だ。


「貴方、決め台詞みたいに『僕が君の死神だ』って言ってますけど、ぶっちゃけアレ、あんまりヒーローっぽくないですよ!」

「…………」


 まさかの駄目出しだった。


 やがてロキと半永久機関は完全に消え失せてしまう。




「ハア……! ハア……! ハア……! ハア……!」


 闇髭は必死で走っていた。


 デスサイズが強力なエネルギーのリングでB.Bディアス号を拘束したのを見て、祖国の誇る最新兵器の敗北を確信した彼は逃走に転じていたのだった。

 屋上の周囲を覆う手すりに鉤付きロープを引っかけ、一気に地上まで降下。それから一目散に駆けだしていたのだった。


 すでにハドー艦隊の旗艦は沈み、あの死神に異次元ゲートを掌握された今、ハドーの軍勢の全滅も時間の問題と言ってもいい。古来、食い詰め者やならず者の集まりである海賊(パイレーツ)というのは「攻撃」する事は得意でも、「戦闘」なんて向いていないのだ。

 ならば自軍と合流してもすぐに危険が押し寄せてくるだけだ。

 彼は情報交換などで交流のある異星人の元に身を寄せることを決意していた。食客でも一前線指揮官でもいい。とにかく今はどこかの組織に合流しなければ。

 目指すは山間部にある異星人の秘密基地。


 必死で街を駆けていく彼は気付かなかった。

 たった今、通り過ぎたビルの壁からハラリと布が落ちたのを。

 その布は侵略者のもたらした技術を解析して作られた光学迷彩の物である。だが地球の技術では動体への光学迷彩の適用は難しく、静止した物体への投影が可能な程度である。

 そう。闇髭は()()()()()()()のである。


「ハア……! ハア……! ……ぬ、ぬお!」


 一瞬にして背後から何者かにしがみ付かれたと思った直後、闇髭は上方向への強力な重力加速度()に襲われる。


 まるで自身が1発のミサイルと化したかのような無遠慮なGに、闇髭は襲撃者の正体を確認することすらできない。


(何だ! 何だ! 何だ! 何が一体、どうなってやがる!? ん、……う、宇宙?)


 闇髭の視界に広がるもの。それは眩いどこまでも続く星の海だった。

 闇髭が襲撃者の事も忘れて宇宙の美しさに目を奪われていると、Gは向きを反転させ今、上がってきたばかりの大気圏に突入を始める。


「ぬ、ぬおおおおおおお!!!!」


 襲撃者による加速と地球の重力による加速。その相乗効果がもたらすのは圧力。俗に「大気圏突入の摩擦熱」と言われるが、実際にはそれ以上に圧力がもたらす熱の方が深刻である。


 カワバンガ! 海賊船長と襲撃者は共に一条の流れ星となった!

 これぞ機力忍者流奥義、「機力飯綱落とし」である。

 哀れ闇髭は消し炭となって絶命した。


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