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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
番外編3 The beginning
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EX-3-35 再会、そして……中編

 俺がARCANAの通信文に指定されていた座標にたどりついたのは午前10時近くになってからだった。


 その場所はとある山の中腹にある小学校跡地。

 昨日の宿をとった市は県庁所在地とはいえ人口30万程度の地方都市となれば、その隣の市は過疎と少子化の流れをもろに受けて廃校となったのだろう。


 陸上自衛隊から用廃(用途廃棄)寸前の偵察用オートバイ、XLR250Rを譲り受けて廃校を目指して坂道を上る。

 廃棄寸前で性能が落ちているというのもあるだろうが、改造人間である俺の200kg近い体重が延々と続く坂道を登る250ccバイクに悲鳴を上げさせているのだろう。


 明らかに過積載の状況ながらオンボロバイクは陸自の整備員によって丁寧に整備されていたおかげか俺を小高い山の中腹にある廃校へと届けてくれた。


 廃校の敷地の境界を示すように植えられている桜の木々の葉はまだ緑色のまま、だが夏の日光に焼かれ続け、落葉の季節を目前にした緑はくすんだ色だった。

 それが木造の廃校舎に塗られた白いペンキのくすみとひび割れと合わせてどこか俺を感傷的な気分にさせる。


 苔の生えた石造りの校門のすぐ脇にバイクを停め、俺は右手側から見える山の下へと視線を伸ばす。


 眼下に広がる盆地には、俺の目的地である廃校が移転したものなのか真新しい小学校も見え、陽光を受けて白く輝く校舎も今は人の気配はない。

 戦闘の余波による被害を受けないように避難措置が取られているのだ。


 小学校だけではない。廃校のある山の中腹へと続く道は自衛隊によって封鎖されてまるで世界が自分1一人になったような錯覚すら受けるほどだ。

 盆地の向こう側にやっと小さく見える自動車を見つけてなんとなく俺はホッとしたような感覚すら覚えるほど。


 胸が少しだけ軽くなった俺は周囲を見渡すと校舎の前に広がるグラウンドのド真ん中に大きな梱包物を見つけた。


『おい! 今すぐ離脱しろッ!!』

(おっ、世界さん、久しぶりじゃ~ん!)


 あからさまに不自然な梱包物に向かって歩き始めた時、俺の頭の中に直接、怒鳴り声が届いてきた。


 こんな近くに何もない廃校で世界さんが俺に通信を送ってくるという事はつまり彼女はARCANAが仕掛けた監視網を利用して通信を送ってきたのだろうと世界さんが俺に協力しているという事がバレないよう声を出さずに返事をする。


(そんな慌てた声を出さなくたって、これが奴らの罠だっていう事は分かっているよ……)

『そうじゃない! いや、罠である事は間違ってはいないんだけど……』


 低強度の暗号通信。

 昨日、俺が泊まったホテルのすぐ近くでのARCANAの輸送作戦。

 おまけに輸送先は奴らのアジトやそれに類するものでもなく、ただの廃校。

 しかも対象は隠蔽するわけでもなくグラウンドの真ん中に放置されているのだ。


 ここまであからさまだと裏の裏があるのではないかと疑いたくなるほど。


 だが誠を探す手がかりが無い以上、たとえそれが罠だと分かっていても俺は乗ってやるつもりだった。


(俺だってこの数か月、遊んで暮らしていたわけじゃないんだぜ?)


 グラウンド中央の謎の梱包物はヘリか何かで航空輸送されてきたものだろうか?

 鈍い銀色のアルミニウム製輸送用パレットの上に組まれた木枠とグレーのキャンバス地で形作られたそれの高さは3m近い。


 規格化された輸送用パレットを使っている割に3m近い高さというのは輸送機の標準的な規格からは外れているものだが、ヘリから吊り下げた状態でここまで運んできたものだろう。


 だが、そんな事よりも俺の気を引いたのはその梱包の中身だ。


 キャンバス地に覆われたそれの中身を見る事はできないが、俺のセンサーはその梱包物から時空間エネルギーが流出している事を感知していた。

 という事はつまり……。


(時空間エンジン搭載のバイク? ……んなわけないか、つまりは大アルカナが中にいるって事だろ)


 以前に世界さんから聞いた話では、大アルカナの主動力源である時空間エンジンの量産化は難しく、各大アルカナ用と予備の1基が存在するのみだという。


 俺としてはいくら大アルカナを倒しても後から「再生大アルカナです!」だなんてインチキ臭い手を使われないだけありがたい事ではあるのだが、つまりは時空間エンジンの反応があるという事はそこに大アルカナがいるという事であり、ひょっとして罠とはいえ俺を誘き寄せるためのバイクはちゃんと用意しているのではないかと密かに期待していた俺はガッカリして軽く舌打ちをする。


『理由は後から説明してやるから! 早くそこから離脱するんだ!!』

(大丈夫だって! 1対1なら不意を突かれたって平気、平気!)


 なおもこの場からの逃走を促す世界さんを頭の中で宥めながら梱包物へと慎重に近づいていくも、今だ敵の動きはない。


(うん? なんだ、封筒……、手紙?)


 すでに梱包物との距離は目と鼻の先と言ってもいいほどに近づいていた。

 それでも梱包の中にいる敵からの反応は無く、そうこうしている内にキャンバス地と木枠との間に挟み込まれた白い封筒が顔を出しているのに気付く。


 封筒には「石動仁様」と俺宛ての宛名が。


 少しだけ考えたものの、毒食らわば皿までの精神でその手紙を読んでみる事にする。


 梱包内部からの攻撃に備えてすぐに飛び退けるようにわずかに姿勢を落として、手元にビーム・マシンピストルを転送してサッと手を伸ばして白い封筒を抜き取ってバックステップで後ろへと下がる。


 それでもまだ敵は動かない。

 手紙くらい読めという事だろうか?


(えっと、何々……)


 白い封筒の中には3つ折りにされた綺麗な便箋が。

 そして便箋には書いた者の几帳面さが窺い知れるような綺麗な字が並んでいた。


 “拝啓、石動様


 平素は格別のご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。


 さて、我々が石動様が我々のアジトからの脱出を為された時の戦闘ログを解析したところ、石動様より「氣功術が使えなくなっている」との苦情を賜りました事を確認いたしました。

 我々といたしましては大アルカナの性能は他に並ぶ物は無く、世界、いえ宇宙でも最高峰のものであると自負がありますが、それでも石動様のおっしゃる氣功術の戦力値の概算化は不可能との結論に達し、石動様が我々の改造手術を受け氣功術が使えなくなった事により不利益を被っている可能性を否定できない事から保証をさせていただく事となりました


 さすがに氣功術の再現は我々にも不可能である事、すでに石動様は攻撃力という面では大アルカナの能力をいかんなく発揮されている事から、保証は石動様の人間形態時の機動力を補うため誠に勝手ながら自動二輪車をご用意させて頂く事となりました。


 さすがにいきなり何の脈絡もなく敵に塩を送るというのは予算がおりませんので、こちらで石動様をおびき寄せる餌として使わせて頂きとうございます。

 なお戦闘による被害をさけるため石動様専用バイク「デビルクルーザー」は○○市の道の駅に停めておきますので、我々の刺客を見事切り抜ける事ができましたら是非、向かってみてください。敬具


 秘密組織ARCANA 大アルカナ改造担当隠者(ステルス・ハーミット)より。”


「なんだコレ……?」


 便箋を抜いた封筒にはまだ膨らみがあり、ひっくり返して中の物を取り出してみると1本の鍵が入っていた。


 その鍵はサイズ的にはぴったりバイクの物と一致しており、裏表にはARCANAとタロットカードの悪魔の番号である「XV」のエンブレムがあしらわれた物となっていた。


 うん。俺が氣功術を使えなくなったお詫びにARCANAがバイクを用意してくれたのは分かった。

 でも「氣功術が使えなくなった事により不利益を被っている可能性を否定できない」もなにも、改造されちまった時点で不利益もりもりなんだよなぁ……。

 ていうか、だったら弟を返してくれって話だしよ。


「……で、この中身が手紙にあった刺客ってわけか」

『おい、そんな手紙なんかどうでもいいから早く逃げろッッッ!!』


 手紙から例の梱包物へと視線を移すと、世界さんが俺の頭の中で金切声を上げてくる。


(そうはいっても世界さん。向こうもやる気になったみたいだぜ?)


 キャンバス地の奥から漏れ出してくる時空間エネルギーはその量を一気に増大させていき、俺が手紙を読み終えた事で戦闘開始の指令が入ったであろう事は一目瞭然。

 今さら逃げようとしたところで背中から撃たれる事は火を見るよりも明らかだ。


「とっとと来な! こちとらおニューのバイクを受け取りにいかなきゃなんねぇんだ!!」


 俺は声を張り上げながら、ビームガンを構えたまま小さなバックステップを2度、3度と繰り返して敵から距離を取る。


「……ウオオオオオオオオオ!!!!!!」


 野獣のような咆哮とともに敵を包んでいたキャンバス地は引き裂け、木枠は飛び散る。


 爆発、ではない。

 爆発にも等しい怪力によって輸送用の梱包は四方八方へと無秩序に飛び散っていたのだ。


「……うそだろ…………」


 その姿を目にして俺は言葉を失い、やっとの事で絞り出した言葉も後が続かない。


 姿を現したその者の身長は2m50cmほど。

 その巨人のような背の丈以上に全身の各部位を異様に肥大化し、たとえゴリラがこのサイズにまで巨大化したとしてもここまでの肉の迫力は出せないだろうというほどである。


「…………ゼロ君」


 その姿は俺の見知った姿とはいささか細部が異なっていたものの、間違えるわけがない。あのARCANAのアジトで俺たちを逃すためにエレベーターシャフトへと飛び込んで消えたゼロ君、彼がそこにいたのだ。


 だが、その目に理性や知性の光は無く、ただの獣と化した友の雄叫びが山間部に虚しく木霊する。

隠者のステルス・ハーミットさんのステルス性能はヤバいレベルで、本編にも番外編にも彼の姿を確認する事はできないほど。


あと、ついでにいうと兄ちゃんがお詫びにもらったバイクは「26-15」でヴィっさんの墓に行くときにちょろっと出てきたヤツ。

兄ちゃんの死後はバ〇ク王に売られた模様。

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