EX-3-26 友よ見てくれ、この拳 9
人の知能、知性とは一体、何なのだろうか?
少なくともゼロ君が脳移植手術の失敗により知能が低下してしまったというのはイっ君も否定しなかった事からもまるっきり間違いというわけでもないだろう。
もしかするとゼロ君の脳が押し込められた大アルカナのテスト機“愚者”のデカい図体に、その巨体からくる鈍重な動作から「大男総身に知恵が回りかね」の諺のように馬鹿にされてきたのだろうか?
いや、それならば手術に失敗したが故に“愚者”のボディーがあてがわれたという事と辻褄が合わない。
事実、ゼロ君のフォームも滅茶苦茶の大振りのパンチや、キックと呼ぶのも憚られるように緩慢な動作で振られる脚は敵に対して十分な防御のための猶予を与えていた。
3体の大アルカナが驚愕するほどのあの赤いリングも敵中に飛び込んだ状態では使えないのか彼は当たりもしない手足を振り回し続けるだけに終始しているようにも思えるだろう。
それは確かにとても知的なクレバーな戦い方とは言えない。
彼の戦い方の表面上を見て、知能が低下しているが故にマトモな戦い方もできないと言う者もいるかもしれない。
だが俺はそうは思わない。
ゼロ君は“教皇”“女教皇”“廻る運命の輪”の3体を相手にただ闇雲に手負いの獣のように意味もなく手足を振り回して暴れているように見えるが、その実、俺もゼロ君もそれぞれ1人が3体を相手にする事がないように時には自分の巨体を障壁として盤面を支配していたのだ。
これは2対3という状況では至極当たり前のように思える。
しかし変身できないとはいえ人間の姿のまま大アルカナと戦う事ができる俺と、パワーだけなら大アルカナ並みの能力を持つゼロ君を相手にしている3体の大アルカナたちは、互いにまるで何かのダンスのように目まぐるしく位置を入れ替えながら戦う混戦の中で隙を見せたら、3体がかりで俺かゼロ君、いずれかをまず戦闘不能へと追い込もうとするだろう。
「クソっ!! お前ら、どっちでも良い!! とっとと“番号無し”を破壊しろッ!!」
「なら博士が石動仁を押さえといてくださいよッ!?」
「なんか石動仁の拳は脳に響くんですよ!?」
焦ったのか“教皇”が手にしたメイスの先端、球形の重石の数本のエネルギー体の棘を出してゼロ君の正面から襲いかかる。
だが対するゼロ君は自身の前方にあの赤いリングを出現させた。
大きなリングの中に一回り小さなリングを、さらにその中に小さなリングをといった具合にたちまちリングの複合体は障壁となって“教皇”のメイスを防ぐ。
「なっ……!?」
ゼロ君は敵と距離を詰めた状態であの赤いリングが使えないわけではなかった。
使えないと敵に思い込ませる事で最大限の効果を発揮させる事を目論んでいたのだ。
“教皇”のメイスとゼロ君のエネルギー体のリング。
赤い光を放つそれらは同じ輝きであるが、まるで磁石が反発するかのようにメイスが障壁に触れると同時に夥しい紫電を発して“教皇”は後方へと吹き飛ばされる。
「なんだと!?」
「おっと! よそ見してて良いのかい?」
相方を吹き飛ばされた事で“女教皇”は足を止め、その隙に俺は背後から飛び掛かっていた。
狙うは後頭部。
装甲に隙間のある頸部を守るための装甲が立てられた襟のようになっている箇所を避けての飛び蹴り。
「ちょ、ちょこまかと!!」
「良い加減気付け!! お前ら、俺の格闘技の技術が欲しくて俺の脳味噌使って改造人間作ったんだろ!? 機械の体に俺の脳味噌を使えばただのロボットより強力になると思って!!」
後頭部を蹴られた“女教皇”は振り向きざまに槍の柄を突き出してくるが、それを見越していた俺はその槍の柄の上へと着地していた。
意表を突かれた“女教皇”の一瞬にも満たないわずかな隙。
突き出された槍の柄の上へと立った俺はまるでサッカーのキックオフで相手のゴールを狙うような渾身の蹴りを敵の顔面へと叩き込んでいた。
「くぅぅぅ……」
「おっしゃ! 畳みかけるぞ!!」
そのまま槍の柄から降りた俺へ追撃を行う余裕もなく、“女教皇”は床に膝を付いていた。
先の“廻る運命の輪”もそうであったが、大アルカナは脳震盪を起こしても何らかの薬剤を脳に投与する事によって急速に回復する事が可能だ。
だが投与された薬剤が脳へと回るのにもいくらかの時間を要するようで、その間は“女教皇”を無力化したと判断してもいいだろう。
ならば後は2対2。
こちらは変身できない俺にテスト機でしかないゼロ君の2人だとしても、向こうだって“廻る運命の輪”は砲戦仕様。
格闘戦ならば俺たちにだって勝ち目はある。
いやそんくらいひっくり返せるからこそ俺は大アルカナの候補になってしまったのだろうし、イっ君は俺に打倒ARCANAの希望を込めたのだ。
だが……。
「これは……、雪……? いや……」
先ほど“廻る運命の輪”の手持ち砲から放たれた大出力の光線によって天井に空いた大きな穴から“何か”が俺たちのいる第二格納庫まで降り注いできていた。
それはゆらゆらとゆっくりと舞い降り、その輝きを放つ無数の粒子状の物体は雪を思わせる。
だが第二格納庫の証明は別に黄色味を帯びた物でもなく、むしろ青味の強い物だというのに舞い降りてくる粒子は金色の輝きを放っていた。
俺以外にそれが何か分からなかったのは栞奈ちゃんだけみたいで、3体の大アルカナたちはホッとしたような、それでいて勝ち誇るような顔を俺へと向けてくる。
反対にゼロ君とイっ君は何かに気付いて慌てふためいたような声を上げていた。
「マズい!!」
「仁、オデの後ろへ……!!」
その次の瞬間の事だった。
数条の光線が天井に空いた穴から舞い降りたかと思うと、青いビームは金色の粒子にまるで出鱈目に乱反射してジグザグに折れ曲がり、たちまち俺の視界は閃光によって青く染められ、ついで黒に覆い尽くされていく。
「……ッつ、お……、おい! ゼロ君……!?」
「……仁、ぶ、ぶじか……?」
俺の視界を覆い尽くしていたのはゼロ君の巨体だった。
ビニールやプラスチックのような石油製品や金属が燃える時とも違う何かが焼ける嫌な臭いに、ジュージューと焼けたフライパンに氷を落としたような幾つもの音。
「イっ君、栞奈ちゃんは!?」
「わ、私は大丈夫です! で、でも博士が……」
「だ、大丈夫だ! そ、それよりも気を付けろ、“恋人”だ!」
俺がゼロ君に守られたように栞奈ちゃんもイっ君が覆いかぶさるようにして庇われていた。
着込んでいるボディーアーマーのブ厚い装甲の所々を赤熱させて未だ煙の上がっているのを無視してイっ君が俺へと警戒を促す。
さすがに俺もイっ君が言う“恋人”という言葉に「誰の?」とは思わなかった。
粒子を反射して俺たちを襲ったビームの射手、そいつがタロットカードの大アルカナの1つ、“恋人”だというのだろう。
しかも“廻る運命の輪”たち3体の大アルカナたちに慌てた様子は無く、それどころか余裕綽々、形勢逆転の瞬間を楽しんでいるかのような素振りからするとあの粒子を撒かれた空間中を反射するビームは射手の制御下にあり、敵だけを狙える性質の物なのだろう。
さらに天井に空いた大穴から細い女性を思わせる黒い改造人間が舞い降りてくる。
その両手に構えたサブ・マシンガン以外は本当に美しい女性を思わせるスタイルの改造人間だが、腹部は金属の骨格が剥き出し。その腹部にランタンのような円柱状の装置があって、その装置から金色の粒子を噴出させている。
青白い色のロケットの噴射炎を吹かしながらゆっくりと降下してくる“恋人”は外見だけではなく、空中で姿勢を変える仕草そのものも品やかでそれが機械の体だとは思えないほどに女性的であった。
美しい。
だが見惚れていられるようなモノではない。
俺の直感は総毛立つほどに新たな敵への警戒を巡らせ、“恋人”のしなやかさもこうなるとネコ科の猛獣のようにしか思えなかった。
さらに“恋人”に別の改造人間が続く。
「あ……、あっ……」
「“皇帝”!? 何故、このアジトに!?」
その姿はまるで中世の騎士を思わせる。
荘厳で重厚な甲冑を模した装甲に、巨大な盾。
盾には剣が収められているようで柄が上部から飛び出している。
だが、それは騎士と言うにはあまりにも大仰であった。
甲冑はその者の権威を示すかのように必要以上に巨大で、その頭部には“教皇”“女教皇”の物よりもさらに大型の冠を模した装飾が。
「おい、ゼロ君、どうしたッ!? イっ君!? 奴はそんな大物だってのか!?」
「大物も何も、奴こそがARCANAの首魁よ!!」
「何だと!?」
“皇帝”の威圧に気圧されたのか、ゼロ君の巨体はまるで小さくなってしまったかのように見え、良く見ると彼の体は震えていたほど。
やがてゆっくりと皇帝は着地し、ロケットの噴射と止めると噴射円に煽られて乱雑に舞っていたマントも重力に従ってその物の威厳に従うかのように垂れる。
新手の次の一挙手一投足を注視し、俺も思わず固唾を飲みこむも意外、“皇帝”はゆっくりと乾いた音を立てて拍手していた。
「な、何を……!?」
「褒めてやろう石動仁、そしてイイイイイ博士……」
左腕の前腕に大型の盾を固定し、左手に右手を打ち付ける形で拍手する“皇帝”は俺とイっ君を見据えてやたら鷹揚な口調を向けてきていた。
もちろん空中には今も“恋人”が俺たちへ手にしたサブマシンガンを向けているという余裕もあるのだろうが、事実、“皇帝”は俺たちを賞賛しているかのような口調である。
「驚いたよ。まさか人間態のままに貴様がここまでやれるとはなぁ。我々の人選は間違っていなかったようだな。その事に気付いた博士も宇宙人の割に人を見る目があるではないか?」
「おう。だったらご褒美に俺らを解放して、ついでにウチの弟も返してくれや!」
「ハハッ! それは無理だ。代わりに貴様には我が大いなるARCANAに加わる権利をやろう!」
うん。これは話が通じねぇ奴だ。
ていうか、コイツ、話をしている風で自分が言いたい事だけ言ってきているだけだろう。
「……石動仁が我らの想定以上の逸材であったのは喜ばしいが、貴公らは一体、何をしている? いくら石動仁の邪魔があったとしても“番号無し”の処分すらできないのか?」
「……ッッッ!」
「ハッ! た、ただ今……!」
「…………」
威圧の矛先が自分らに向いた事で“教皇”と“廻る運命の輪”は姿勢を正し、膝を付いていた“女教皇”も立ち上がって槍の柄を手にファイティングポーズを取る。
「うむ。さすがに大アルカナ4体がかりならば“番号無し”如きすぐに破壊できるだろう? 石動仁を捕えるのはそれからで良い。奴の精神に仲間を救えなかったという後悔を刻み込んで傷を付けてやれば、洗脳処置も楽に進むだろう……」
「やらせるかよッ!! ゼロ君、来るぞ!?」
確かイっ君の話だと、ARCANAの洗脳法は対象のエゴを増幅し、それを自分たちの思い通りに操るというものだそうだ。
ゼロ君を俺の目の前で殺す事で、仲間を守れなかったという念を俺の精神、魂に刻み込んで、その後悔を洗脳処置で今度はARCANAの連中のために戦う事に使おうという事か?
“皇帝”が俺たちへ向けて右腕を振るうと、それを合図に“恋人”を加えた4体の大アルカナたちが俺たちへと駆けだしてくる。
だがゼロ君は動かない。
“恋人”のあの金色の粒子の中を不思議に乱反射してくるビームから自身を盾にして俺を守ってくれるほどのゼロ君が“皇帝”の威圧を前に蛇ににらまれた蛙のように動けなくなってしまっていたのだ。
「ああら? 動いてるトコ見ると、静止画よりもイイ男じゃない? 後で仲良くしましょ?」
「おう! ネーちゃんがブタ箱から出てきたらな!!」
今度は俺がゼロ君を守る番だと前へと出た俺へ、空中の“恋人”がサブマシンガンを向けながら妖艶な声を掛けてくる。
その手にしたサブマシンガンは予想通りビームを発する物で、さすがに亜光速のビームを発射されたのを見てから避ける事はできない。
だが戦いの中の呼吸というべきか、銃口の向きを確認しながらここだというタイミングで回避行動を取る事で躱す事はできるのだ。
「プラズマ・ビームを避けるとか、お前はホントに地球人かよ!?」
「なんだ、異星人はそんな事もできねぇのかよ!? 遅れてんなぁ!!」
革ジャンに焦げができたものの辛くビームの3連射を躱した俺に“廻る運命の輪”のあの超低姿勢からのタックルが迫る。
とはいえ、もういい加減に慣れた頃なのでタックルも躱すだけならば容易い。
だが、“皇帝”に発破をかけられた敵の狙いがゼロ君にある以上、俺の後ろにいるゼロ君の元へと行かせるわけにはいかないのだ。
俺はただ躱すのではなく、上へと跳び、俺の下へと敵が入ってきた所で床を踏み抜くくらいに思い切り両足を“廻る運命の輪”の背中へと叩きつける。
さらに再び放たれた“恋人”のビーム射撃を空中で身を捻る事で回避。
だが、右向きに体を捻ったそこには“教皇”がすでにいた。
「そろそろ終わりにしようじゃないか!!」
「うるせッ! 終わりてぇなら勝手に帰れ!!」
やはり敵はゼロ君の事はともかく、俺の事は生かしたままで捕らえるつもりなのか“教皇”のメイスのエネルギー体のスパイクは消えている。
だがスパイクは無くとも大アルカナのパワーで振られるメイスの質量、速度は脅威である事に違いはない。
どうせ機械の体だから少しくらいは壊しても直せばいいとでも思っているのか、横薙ぎに振られたメイスの一撃。
ロケットを使えない俺には空中で軌道を変える事なんてできないと思ったのだろうか?
“恋人”のビームを躱すために身を捻っても、それが何度も使えるわけでもないのは改造人間でも同じ事。
そう思ってしまうのも無理はない。
“教皇”も仮面で顔を隠していなければ笑っていたのが見えたかもしれない。
だが、そうは問屋が卸さない。
俺は鉄棒の選手が別の鉄棒に飛び移るように、自身に向かってくるメイスへと手を伸ばし、その柄を掴んでいた。
そのまま敵がメイスを振るう力をも利用して俺は跳び、迫ってきていた“女教皇”の顔面へ再び蹴りを叩き込む。
「く、くそ! 人間態のまま空中戦だと!? 常識知らずめ!!」
「は? 悪党の手先に常識とか言われたくありませ~ん!!」
まだ脳震盪の影響が残っているのか、“女教皇”は再びの顔面の強打に槍の柄を取り落としてしまっていた。
俺はその柄を掴むと、空中で今度は俺ではなくゼロ君へとビーム・サブマシンガンを向けていた“恋人”を槍投げよろしく投擲。
「あ~ん! もう、忌々しい!」
“恋人”は剥き出しのフレームと円柱状の装置を守るように体の側面で槍の柄を受け、放たれたビームはゼロ君から大きく外れていた。
一瞬でも遅れていたらゼロ君が再びビームの餌食になっていたところだろう。
「へへっ、分かったぜ! あの反射してジグザグに飛んでくビーム、軌道を計算できるようだが、仲間が近くにいたらさすがに使えねぇんだろ!?」
「……それで勝った気になるのは早いんじゃないかしらぁん?」
その言葉の通り、それからは防戦一方となる展開が続いた。
ビームが頬をかすめ、完全に躱したハズでもジーンズは至近距離を通過したビームの熱で穴が空いて、宙を跳び、床の上を転げまわる内にブーツは脱げて、それに気付かず立ち上がった時には靴下が滑って慌てて靴下を脱いでから、反対の靴を靴下と一緒に脱ぎ捨てる羽目になった。
「いい加減に諦めてしまえば楽なものを。わが組織で兄弟仲良くやっていけばいいではないか?」
「抜かせ! 今に誠も助け出してお前をボッコボコにしてやるから覚悟の用意をしておけ!!」
「ふむ。なら、そもそも何故、貴公は1人で逃げなかった? 弟を助けるならこんなとこで足踏みしてる場合ではなかろう? もしかして貴公、未だに麻酔薬の影響が残っているのか?」
4体の大アルカナを相手に大立ち回りを続ける俺に突っ立ったままの“皇帝”が退屈凌ぎとばかりに声を掛けてくる。
一々、返事をしてやる義理もないが、その余裕ぶった鷹揚な口調が癇に障ってしょうがないのだ。
「うるせぇぇぇ!! 誠も助ける。イっ君も、ゼロ君も、栞奈ちゃんも皆まとめて助ける。文句あっかコンチクショオォォォ!!!!」
竜巻の中に巻き込まれてもこうはならんだろうというほどの四方八方からの攻撃を躱しながら俺は叫んだ。
後悔は無い。
かといってコイツらに負けてやる気も無い。
だが打つ手も無い。
弟を助け出した後に「実は兄ちゃん、お前を助けるために友達を見捨ててきちゃったよ! HAHAHA!!」なんて言いたかないし、それ以上に俺は仲間たちの事をすでに存在しない半身以上には大事に思っていたのだ。
「それでは道理が立たんではないか? 博士から大アルカナの戦闘力については聞いていたのであろう? 何かを得るためには、何かを捨てなくてはならない。それがこの世の常、道理、秩序といってもいい」
「秩序なんか知るかッ!! 俺は俺が望むようにやってやるぜッ!!」
「だが、それももう叶わぬようだぞ? ほれ……」
“皇帝”の言葉に俺は嫌な予感がしてゼロ君の方へと向くと、そこにはいつの間にか俺への包囲網から抜け出した“女教皇”がゼロ君の元へと駆けだしているところだった。
“女教皇”の槍の先端に、あの格納庫の天井をくり抜いた赤いエネルギー体の穂先が現れる。
さすがにゼロ君もよろよろを動き出すがとても対処できるようには思えなかった。
「どけッッッ!!」
俺は殴り掛かってきていた“廻る運命の輪”の膝を蹴るようにして跳び、ゼロ君の元へと駆けだす。
空中から“恋人”がビームを放ってくる予感を察するが、減速したり回避運動を取っていては間に合わない。
俺は背後の防御を捨ててでも全力で駆ける事でさらに加速してビームを躱し、だがそれでも間に合わない。
俺とゼロ君との距離は15メートルほどか?
だが、すでに“女教皇”はゼロ君と3メートルほどの距離へと詰めていたんのだ。
「くそ、クソッ!! ゼロ君、避けろ、避けてくれ!!」
だが俺の願いも叶わず、槍を構えて1発の砲弾と化した“女教皇”に対して、未だ“皇帝”の威圧から抜け出せていないのかゼロ君は足を動かす事も出来ずに腕を上げて防御を選択したようだった。
マズい。
あの天井をくり抜いた切れ味の槍の穂先を前にたとえ一撃を防げたとしても、腕は切り落とされ、続く一撃で確実にトドメを刺されてしまう。
(チクショウ! 俺が間違ってたっていうのか!? 間に合わないのか……?)
『いや、間にあったさ……』
俺の頭の中に響いてきたその声はもちろん世界さんのもの。
『どうして大アルカナ4体を相手に生きてられるのかは分からないけど、石動仁、君は間にあった』
「……え?」
『後は音声認識システムを解除するだけ。さあ! 叫べ、仁! 「変身」と!!』
駆ける俺の右の手首にどこからともなく白銀のブレスレットが現れ、俺は走りながら手首を胸の前へと掲げて世界さんに言われるがまま叫んだ。
「変身ッッッ!!」
光に包まれた後、俺は一筋の闇となり、その闇が晴れた時、俺は異形の悪鬼の姿となっていた。
ゴメンね。
今回、めっちゃ長くなっちゃったね。




