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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
番外編3 The beginning
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EX-3-24 友よ見てくれ、この拳 7

「こ、これ、再調整とかってできんのかなぁ……」

「さあねぇ。そういうのは技術者組に任せて私たちは石動仁を昏倒させて捕獲する事にしましょう」

「重ねて言うけど気を付けろよ! アイツ、頭おかしい癖に中々にやるぞ!?」

「いやいや、なんで俺がおかしいみたいな感じで話を進めてんだよ!」


 改造される前の俺が氣功術を使えるのはマジな話だというのに、“教皇”“女教皇”“廻る運命の輪”の3体は揃って腫れ物に触るかのような視線を向けてくる。


 だが生憎と氣功術について今の俺には証明する事ができない。

 実際に俺の螺旋氣功波動拳を見た事がある弟の誠がここにいるのなら話は別だが、その誠も今はどこか別のアジトへ捕らえられているらしいし、機械の体の俺には魂を震わして“氣”を練り上げる事もできないのだ。


 それでも声を張り上げる俺の声も虚しく無視され、3体の黒い改造人間たちは互いに頷きあってから横並びになり青白い光に包まれた。


「ファッ、飛んだ!?」

「フフフ、石動仁、まさか君がアンドロメダ拳法に対応してみせるとは思わなかったよ。でも地球の格闘技は宙を飛ぶ敵を想定しているのかな?」


 大アルカナたちがそれぞれ背中や腰部、脹脛に足裏などに設置されている噴射口から眩い光を発するとまるで機械の体が質量を失い、重力の作用から逃れたように3体の体はふわりと宙へと浮きあがったのだ。


「それじゃ行くよ!!」


 “教皇”の合図と同時に“教皇”と“女教皇”の2体は俺めがけて一気に加速しだし、ワンテンポ遅れて“廻る運命の輪”もそれに続く。


「はああああッ!!」

「ふんッッッ」

「うひょお!?」


 まっすぐに突撃してくる“教皇”のメイスを躱したかと思ったら、そこは“女教皇”の槍の柄の未来位置。


 言葉通りにあくまで俺を生かして捕らえるつもりなのか天井を上階の床ごとくり抜いたあの赤いエネルギー体の穂先を消して棍のようにした“女教皇”の突撃も躱すが、向こうもそれは予想していたのか、敵は空中で手足を振るって姿勢を変え、さらに槍の柄の持ち手を変えて振るってくる。


 なんとかそれも上体を後ろへ思い切りのけぞらせてギリギリのところで躱す。

 床の上を転がっ回避しなかったのは次の“廻る運命の輪”がすぐそこまで迫っていたから。

 さらには“女教皇”に場所を譲るために最初の一撃の後は通り過ぎていた“教皇”もすでに反転し、またこちらへと向かってきているのだ。


 床を転がっても“女教皇”の一撃を余裕を持って回避する事はできるだろうが後が続かない。

 立ち上がる動作の時にどうしても一瞬の隙を生じさせてしまうだろう。


 なんとか“女教皇”が自身の身体ごと突きこんできた槍の柄を躱すが、のけぞらせた上体をバネのように元に戻した頃にはいつの間にか“廻る運命の輪”の手に落としたハズの巨大な砲が握られていて、それを金砕棒のように横薙ぎに振り回してきていた。


 さすがに大型の手持ち砲は素早く振り回すというわけにもいかなかったようでバックステップで躱す事ができたが、今度はまた“教皇”が俺の左方向から迫ってきている。


 “女教皇”の方は今度は上方向からの攻撃を仕掛けるつもりか格納庫の天井付近まで高度を上げ、“廻る運命の輪”はしっかりと床に足を踏ん張って砲を振り回せるようにか青白い光を弱めて着地していた。


「囲め! 囲め!!」

「行けるぞ! 石動仁がいかほどの者であろうと大アルカナ3体がかりならば!!」

「く、クソ! 蝿みてぇにちょろちょろとしやがって!!」


 “女教皇”が高度を上げたという事は次の“教皇”の一撃を避けたところで、そこを上から逆落としで追撃されるだけ。


 なら俺が取る手は一つしかない。

 彼我のパワー差があるからマトモに受けるわけにいかないのは当たり前だが、かといって距離を開けるわけにもいかないのだ。


「へぇ。考えたねぇ!!」

「懐に入り込めば、上から降ってくるわけにもいかねぇだろォ!!」


 跳び上がった俺は“教皇”のメイスの柄を握り体操の鉄棒のように腕力で自身の身体を持ち上げていた。


 “教皇”に取り付いてしまえば奴さんの体が邪魔になって頭上から攻撃を降らせる事もできないだろう。


 意外そうな声を上げて俺の顔を覗き込んでくる“教皇”の表情の無い仮面に左手で掌底を打ち込むもやはり踏ん張りの効かない状態で打ったところでダメージを与えられるものでもない。


「でも変身できない君では小細工を弄したところで!!」

「うおッ!? うわぁッ!!」


 掌底のために片手を柄から離したのが裏目となり、“教皇”が滅茶苦茶に体を回しながらメイスを振り回すと俺の改造人間の力でも抗えないほどの遠心力が発生して、俺は吹き飛ばされてしまった。


 一直線に壁めざして飛ばされていく俺をただ黙って“女教皇”が見守っているハズもなく、ハヤブサが獲物を狙うかのような急降下で突っ込んでくるのを、俺もなんとか体を捻って空中で体を逸らして回避。

 すれ違いざまに敵の首筋目掛けて蹴りを放ち、その反動を使って俺は再び、今度は自分の意思で跳ぶ。


 だが、すでに俺の着地地点を予想した“廻る運命の輪”が手ぐすね引いて待ち構えていて、太い砲身をフルスイング。

 さすがに推進器の無い俺にはもう軌道を変える手はない。


「ぐはぁ……!!」


 だが呻き声を上げながら吹き飛んでいたのは“廻る運命の輪”の方だった。


 砲弾のような猛烈な速度で飛んできた岩塊を横っ腹に受けた“廻る運命の輪”は砲身に俺を捉える前に床を転げまわる羽目となっていた。


 辛くも着地する事に成功した俺が岩弾が飛来した方向へ視線を向けるとそこにいたのは巨体。

 頭から足先までみっちり太い巨漢がそこにいた。


「ゼロ君!?」

「仁、博士! 助けにきたぞ!!」


 ゼロ君の背後には栞奈ちゃん。

 2人は第一格納庫の階段ホールの入り口を封鎖していたハズだが、世界さんからすでに2体の大アルカナが下階に降りたのを聞いて救援に駆けつけてくれたのだろう。


 ゼロ君はその巨大な足を四股を踏むように振り上げてから一気に床へと叩きつけ、砕けて跳び上がった床材の軽合金製のタイルを掴む。


「チィッ! 失敗作の愚図が邪魔しやがって!!」

「たかが技術実証用の“番号無し”が僕たちに勝てると思ったのかい?」

「“愚者”というのはコードネームだけというわけではなかったのか?」


 あともう少しというところまで俺を追いつめたところで入った思わぬ邪魔に3体の大アルカナたちは口々にゼロ君を罵倒するが、これまで長い間、邪険にされてきた相手に対しても彼は敢然と宣言する。


「オデを“番号無し”と呼ぶなッ!!」

「はあ? お前は“番号無し(フール)(・ザ・)愚者(ノーナンバー)”だろう?」


 ゼロ君の体の前方、1メートルほどの空間に赤く輝く光の円環が発生する。


 その赤い光は“女教皇”が槍の穂先に発生させていたエネルギー体の穂先を同じ輝きを放っていた。


「……ッ!? その光は……」

「時空間エネルギー!?」

「まさか!? そんな機能は知らないぞ!!」


 慌てふためく3体に手にした軽金属を振りかぶるゼロ君。


「オデはゼロ!! 仁と博士の仲間で、お前らARCANAの野望を打ち砕くヒーローだ!!」


 宣戦布告とともにゼロ君は軽金属タイルをブン投げた。

 ただでさえゼロ君の巨体からカタパルトのように放たれたタイルは彼の前方の赤い円環に飛び込むとさらに加速して俺たちの敵へと向かっていく。

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