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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
番外編3 The beginning
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EX-3-15 この惑星で兄は空を見た、弟は地の底を見た 前編

 どうしてこのような結末に至ってしまったのだろうと思う。


 摂氏温度で数万度にも上るプラズマ・ビームが大気を焼く熱も、ビームに焼かれて倒れていく尖兵ロボットたちの装甲表面に施されたコーティング剤が焦げて出す刺激臭ももはや気にならないほどに男は自らの半生を悔いていた。


 男が産まれたのは「フラッグス移民船団」という広い宇宙を安住の土地を求めて永い時をかけて旅する流浪の集団。

 移民船団は拠り所となる母星を持たず、後ろ盾となる国家をも持たないが故に必然的に高い技術力を持たなければならなかった。そうでなければ生きてはいけなかったと言い換えてもいい。


 その技術力の提供を対価に銀河帝国の庇護下に入るという選択肢も過去にはあったようであったが、結局はそれもかの国の政情不安定を理由に断り、船団は一本独鈷を貫いてきた。


 男はその移民船団においてルックズ星人の両親から遺伝子を配合されて誕生した。

 同時に制作された同一パターンの遺伝情報を持つ別個体は地球の言葉で言うのならば双子の関係であるといえるだろう。


 施設の製造ロットの番号の若かった男が兄、別個体が弟として両者は兄弟として生を受け、両親と4人良好な関係を築いてきたハズだった。


 今こうして狩りの獲物に猟犬をけしかけるように自分にそれぞれ得物を携えたロボットたちを向けてくる弟ともかつてはそれぞれ別分野へと進んだ研究者として互いに敬意を払って共に移民船団を盛り立てていこうと切磋琢磨した間柄であったのだ。


 だが移民船団が高い技術力を持つとは言っても所詮は根無し草。


 滅びる時は早かった。


 とある星系に立ち寄った際の交易が原因であるとされてはいるが、今となってはどうでもいい事なのかもしれない。


 男は時空間理論学者であって、疫病についての知識は解説書を斜め読みした程度の知見しか持たなかったのだから。


 さらにいうならば、彼らの船団が疫病の猛威にさらされた時、たまたま近くにあった星系の第3惑星、地球へ一時的な土地の貸与を求めた交渉が難航し、悠長に交渉を行っている暇はないと地球侵攻作戦が決行された時も兄弟は兵器の開発、揚陸部隊への参加が求められる事はなかった。


 地球の原住民であるヒューマノイド型人類は繁殖力に特化した進化を遂げていたようで身体能力はあまり高くはなく、彼らルックズ星人も戦力的に不足があったわけではなく、別のルックズ星人であるア氏の男は揚陸部隊へと参加していたのでこれはあくまでクジに外れた程度の事である。


 だが兄弟にとっては自らが所属し愛する移民船団が滅亡の時を迎えるのをただ黙って見ている事しかできないという結果となっていた。


 そして地球侵攻作戦は彼らの不理解により香川県民の参戦を招く結果となって失敗に終わり、船団のほとんどの者が死に絶えた後、兄弟は小型隠密艇に乗って地球に降下する事を選んだ。


 その後、ARCANAを名乗る組織に拾われた2人であったが兄がただ生き残ってしまった自分たちが何をすべきなのかを模索していた時、弟の心に復讐の暗い炎が灯っていた事など知る由もなかった。


 どこから間違ってしまったのだろうかと思う。


 技術力をもって独立勢力である事に甘んじ、長い時を寄る辺もなくただ彷徨っていた移民船団の方針が間違っていたのだろうか?


 数字や記号をこねくり回してああだこうだと仲間内で悦に浸る理論学者ではなく、もっと実践的な学問を修めていたのなら移民船団の滅亡を防ぐ事ができたのだろうか?


 それとも兄弟2人地球に降下する事なく、自害してしまえば良かったのだろうか?


 もう成人した一端の学者だと思い、弟の抱えてしまった闇に向き合おうとしなかったのがいけなかったのかもしれない。


 あるいはせめて自分たちがしでかした地球侵攻作戦の罪滅ぼしのため、自らが修めた移民船団の技術を地球人に役立ててもらおうと研究室に閉じこもり、ARCANAの“皇帝”の真意を探ろうとしなかったのは今になってはただ愚かしい限り。


 そしてその結果、自分の同好の士、あるいは後継者になりうるかもしれなかった少年少女の額から上を切り取られた姿を見てしまった時には全てが遅かった。


 自らの意思とは関係なくそれぞれ“世界”“愚者”にされてしまった少年少女を元の姿に戻してやる事などできず、そして弟は大アルカナへと改造されて自らの怨讐を増幅された形でARCANAの目的のために動く駒へと作り変えられてしまった後だったのだ。


「なあ! 兄者ァァァ! もう少し粘ってくれよ!! そんなんじゃ、そんなんじゃたった1人の兄弟に裏切られてしまった私の気が治まらねぇよッ!?」


 狂ったように弟が吠える。


「終わるものかね!! 私がここで粘らねば未来永劫『フラッグス移民船団』は悪党の集まりだったとこの惑星で語られてしまうのだ!!」

「その心配はいらないよ!! 私が大アルカナの1人として地球征服に手を貸す。その代償として私は香川県を貰う! そして香川県民は皆殺し! ええ!? どうだい? 兄者もわくわくしてこないかい!?」


 床を滑るように飛び、壁を駆けあがるように昇り、天井に引っ付いたように駆け抜けていく。


 タクティカル・パワード・スーツに内蔵されたイオン式ロケットエンジンは快調そのもの。

 だが男は格納庫中を飛び回りながら苦虫を嚙み潰したような様子で舌打ちする。


 イオン式ロケットエンジンはマイクロ波レーザーを用いてプラズマ化させたイオンを用いる推進方式である。

 地球でも同様の理論は提唱されているが、地球在来の技術では最大推力が小さな物しか制作する事ができずに大気の抵抗を受けない宇宙空間を長い時間をかけてゆっくりと加速し続けるための物として知られている。


 だが「フラッグス移民船団」ではこうしてパワードスーツの推進装置として使われるほどにその制作技術は円熟しており、それも男が誇りにしていた移民船団の技術力の高さを実証するものといえよう。


 だが技術力の高さは精神性の証明にはならないとでもいうのか。狂ったように笑いながらわざと男がギリギリで逃げられるように緩急をつけてロボットたちをけしかけていく弟の醜悪さ。

 この広い宇宙で最後の2人かもしれないルックズ星人の2人の兄弟がこうして地球の片隅、地下の穴倉で争う滑稽さ。

 舌打ちでもしなければやってられないではないか!


 とりあえずは高笑いする弟を無視して男は脳内のインプラント・ディスプレーに目をくばりパワードスーツの各部の状態を確認しながら手近に迫ったロボットをビームガンで撃ち倒していく。


 左右のビームガンの冷却装置の限界が迫るとしばらくビームガンを休ませる事にして腰部のサイドアーマーに取り付けてある折り畳み式レールガンで当座をしのごうと手を伸ばすも、次に男に迫っていたのは男のパワードスーツの推進器と同じように青白い輝きを発しながら宙を駆ける飛行型ロボットの一団だった。


(……手の内は読まれているかッ!!)


 パワード・スーツに取り付けていたレールガンはあくまで補助兵装という位置付け。

 高初速で高い貫通力を持つレールガンを嵩張らないように折り畳んで普段は腰の脇を守るサイドアーマーとして扱えるのは良いが、腰の左右に1門ずつマウントされている都合上、可動域が狭く、腕が向けられるならどこへでも向けられるビームガンとは違い、射角が制限されるのも問題。

 だが、今はそれ以上に連射能力の低さが問題だった。


 1回の発射ごとにコンデンサーにエネルギーをチャージしなければならず、しかも補助武装としての可搬性を確保するために装弾数も少ない。


 とりあえずは間近に高周波ブレードを振りかざして迫る1体のロボットに左のレールガンを発射して赤く光るカメラアイが印象的な頭部を撃ち抜き、続く右側レールガンでロボットたちを3体まとめて破壊して下方の空いた空間へとイオン式ロケットを吹かして逆落としにダイブ。


 だが弟に自らの性格を読まれていたという事だろう。

 ぽっかりと空いていた空間に逃げ込んだハズが、ロケットの勢いを殺すように床の上で転がった先の眼前には大型重装甲タイプのロボットが待ち構えていたのだ。


「チィッ!!」


 まるで一部の地球人が好むアイスホッケーのゴールテンダー(キーパー)が防具で着膨れているかのような全高2.5メートルほどの大型ロボットの機体各所から機関銃が飛び出して男を狙う。


 今度はまんまと誘い出された己の不甲斐なさに舌打ちしながら大型ロボットの機銃掃射から剥き出しの頭部を守るべく、右前腕部のフィールド防御装置を起動して顔の前にかざしながら右のレールガンを発射。


 だが効かない。


 ARCANAの重装甲ロボットの大胸筋を模した胸部装甲はフラッグス移民船団製のレールガンの直撃にもよく耐え、赤熱した弾体は弾けて火花と化していた。


「クソッッッ!?」


 お返しとばかりに浴びせかけられる機銃の弾幕は土砂降りの大雨のようで、宇宙でも有数のインテリジェンスを自認する男もさすがに汚い悪態を付く。


 幸いにして対地球人用の機銃弾は男のパワードスーツにかすり傷しか負わせる事ができなかったが、数多の機銃弾の弾幕の中では視界が効かず、それが男に包囲される事の恐怖心を生む。


 さらにいうならば頭部を守るフィールド防御装置も問題だった。

 なにせパワードスーツに搭載されている小型ジェネレーターではフィールド防御装置を長時間にわたって満足にドライブさせる事は難しく、こうしている間にも刻一刻とオーバーヒートに向かってまっしぐらという状態なのだ。


(やるしかないか! ……ええい! ままよ!!)


 意を決した男は腰部サイドアーマーのレールガンから手を離し、右前腕部から再びビームガンを展開する。


 未だ両肘の後ろに飛び出た数枚の放熱板は赤く熱を持ったままで陽炎が立ち上っているほど。

 だがここでビームガンを使わなければ自分自身がここで終わってしまうのだ。


 そのつもりではあったが、まだ早い。早すぎる。


 石動仁に自らの浅慮が招いた結果でもあるゼロ、そして囚われの女性から悪の道に染まった弟の意識を逸らすにはもうひと踏ん張りは欲しいところだ。


 男は躊躇する事なくビームガンを発射した。


 1射目は大型ロボットのその大きな体躯とは不釣り合いに小さな頭部を撃ち抜き、続く2射目は先ほどレールガンを弾いたブ厚い胸部装甲へと大きな風穴を開ける。

 だが、止まらない。


 頭部の制御装置を失い四方八方へと機銃弾を乱射するロボットの銃弾が運の悪い1体の尖兵ロボットの装甲と装甲の継ぎ目へと飛び込んでアイカメラが消灯し動きを止めるが、そんな事にいちいち喜んでいる余裕などもはやなかった。


 3射目のビームガンによって胸部装甲に空いた穴の奥の動力源を撃ち抜かれ、そこでやっと大型ロボットは機能を停止して崩れ落ちていく。


 それと同時についに高負荷に耐えかねたパワードスーツの右前腕部が爆発を起こして周囲に機械の破片や冷却装置の触媒、そして男の紫色をした血液を撒き散らしていた。


 本来であればそのような事態になりうる時にはセーフティが作動して射撃自体が行えなくなるハズであったが、なんとしても石動仁とゼロをARCANAの魔の手から逃そうと決意し、セーフティーを事前に解除していた結果である。


 大型ロボットは撃破した。

 だが、それと同時に、男の右腕は使い物にならなくなってしまう。


 右手の骨は砕け、大量の血液の噴出は体液の流れによって全身の筋肉組織を動かすルックズ星人にとっては右手だけではなく全身の運動能力の低下を意味していたのだ。

本編のD-バスターといい、フラッグス移民船団の連中、熱管理を甘く見てないか?

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