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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
番外編3 The beginning
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EX-3-11 ありえたかもしれない未来と非情な現実 後編

ルックズ星人のイっ君が“廻る運命の輪”を名乗ったのはこれから弟の汚名を被って罪を償っていく覚悟の現れ、そして他の候補者からわざわざ俺という1人を選んで助けた事を運命の悪戯に例えた自嘲によるものだった。


「石動仁、君を選んだのは他の者ではこれから訪れる戦いの日々に耐えられないだろうからという理由もある。大アルカナと言っても与えられた特性は千差万別、君ならば少なくとも他の大アルカナが相手であろうと相性差で不利になるという事はないだろうよ。しかも君は私たちがどうこう言う前から、しかも変身もできない状態で尖兵ロボットを相手に戦いを挑んでいくような性分なのは僥倖と言ってもいいのだろうな……」


そこでイっ君はとりあえずの前方の安全を確認した後にこちらを振り返る。


「私が君にお願いをできる立場ではないのは理解しているが、それでも君に頼む」

「俺に頼み?」

「ああ。まずは君の機能制限が解除されてからの話になるのだが、そこのゼロ君の安全が確保されるまでの保護を君に頼みたい……」


一瞬、俺はイっ君が何を言っているのか理解できなかった。


周囲の通路の床や壁面は軽合金の鈍い銀色が塗装もされずに剥き出しのまま。

天井にまばらに設置された証明はほの暗く、その下で俺を見つめるイっ君の表情は真剣そのものの雰囲気を纏っていた。


漠然とした不安。


イっ君の嘘を問いただした世界さんの口調もどこか何かに焦っているような印象を受けたものだったが、思えば彼女も今の俺と同じ感覚を味わっていたのかもしれない。


ただ、俺にはそれが何が原因であるが故の不安であるのかはまだ分からなかった。


「分からないかね? 世界君も言っていただろう。ゼロ君はテスト機として作られたボディーに押し込められてしまったが故に正式版の大アルカナにはとても太刀打ちできるようなものではないのだ。そしてARCANAの連中は逃げ出したゼロ君の事も粛清しようとするだろう……」


そこまでは俺だって分かる。


問題は何故、それをイっ君自身がしないのかという事だ。


イっ君とゼロ君。

2人の関係は良好に見える。


ゼロ君はイっ君を「博士、博士」と随分と慕っているようであったし、イっ君の方も自らのしでかした事の罪悪感もあるのだろうがゼロ君に対して慈しみのような感情を持って接しているような感じを受けていたのだ。


もちろんゼロ君では正式版とやらの大アルカナに太刀打ちできないように、イっ君も大アルカナには勝てないのだろう。


だが、イっ君の頭脳は強い武器となるハズだ。


俺のような空手家が頭突きをも有効な技の1つとして鍛え上げるように、彼の異星人としての高い知識と深い知性は空手家とは別の意味で彼の頭を武器とする事ができるだろう。


そのイっ君と尖兵ロボットを数体まとめてスクラップにするゼロ君の怪力が合わされば、大アルカナとやらが相手でも勝てないまでも十分に逃げおおせるくらいは可能なのではないだろうか?


「まあ君が考えている事は分からないでもないよ。それだけ大アルカナというのは君の想像を遥かに超えたモノなのだよ」

『……いや、仁が気にしているのはそれだけじゃないだろ?』

「お、おう!」


まだ俺の心の中に徐々に立ち込めてきている不安の正体は分からない。


でも世界さんの言葉に俺は威勢だけはよく返事を返していた。


『博士、アンタ死ぬ気だろッ!!』

「……え?」

「…………」


世界さんの言葉は正直、意外過ぎて俺は何度もイっ君のハンドヘルドコンピューターと彼の顔を見比べるが、何度かそうしている内に自分でも不思議なくらいに彼のこれまでの言動についてが腑に落ちてくる。


“廻る運命の輪”悪の道に落ちた弟の汚名を被った事。

そして俺にゼロ君の保護を頼んできた事。


『そんな事、私は聞いちゃいないぞ!? そんな事に私を付き合わせるつもり!?』


脳味噌を抜き取られてミサイルの制御装置にされた境遇ゆえか、それとも将来の気性か、その善人らしい性格とは裏腹に斜に構えた物の言い方をする世界さんが感情を剥き出しにしていた。


「お、オデも博士は一緒に逃げると思ってたぞ!!」


ゼロ君の声はイっ君を非難しているというよりも懇願しているかのような、まるで雨に打たれた子犬のようなか細い声だった。


何故、2人にこうも慕われながらもイっ君は死に向かわなければならないのか。


俺にはとても想像は付かないし、そんな事あってはいけない事だと思う。


「無論、私だってむざむざ詰まらない死に方をするつもりはないさ。……だが、だが石動仁だけは私が命と引き換えにしてでもARCANAの魔の手から逃さなければならないのだ」

「はあ? 俺?」

「石動仁、君はまだ自分の力を知らない。魔法少女プリティ☆キュートが変身できなくなった今、ARCANAの野望からこの惑星を救えるのは君だけなのだ! 君だけがそれをできる!!」


魔法少女プリティ☆キュート。

確か東京に住んでいる女の子が異世界「魔法の国」から来た使者から貰った力で変身するヒーロー。


旧支配者「アンゴルモアの恐怖の大王」を単独で撃破する戦闘力を持つが故に「最強」の二文字で呼ばれるヒーローでなければ大アルカナと戦う事はできないというのか。


その最強の魔法少女が力を失った今、大アルカナと戦えるのは同じ大アルカナである俺だけ。


つまりはイっ君の贖罪とは俺をARCANAのアジトから自らの命を賭けて逃がす事だったのだ。


「そして、もし弟が改心する事があったなら、……その時は“廻る運命の輪”は君を逃して死んだ事にして、弟にこの地球で暮らしていけるよう手を貸してやってはくれないか?」

「だが断るッ!!」


あるいは俺は心よく彼の願いを聞き入れてやるべきだったかもしれない。


だが俺にはそんな事はできなかった。


例え俺が良くても世界さんもゼロ君も納得しなかっただろう。

そもそも俺だってイっ君を踏み台にして生き延びてやろうというつもりもない。かといって彼のように命を捨ててでもという気にもならなかったが。


「それをやるべきなのはイっ君。アンタ自身なんじゃないのか? え? 弟さんの悪事を止めるのは赤の他人の俺か? 違うだろ、兄貴であるアンタだろ? 第一、アンタが死んだら弟さんはこの宇宙で最後のルックズ星人になっちまうだろ?」

「…………」

「それにゼロ君と世界さんの事を気にしているのなら、やはりゼロ君を守るのはアンタであるべきだ。もちろんそれには俺だって手を貸すけどよ! 簡単に死ぬなんて言うんじゃないよ!?」

「……あのッ!」


そこで意を決したように割り込んできたのが栞奈ちゃんだった。


「あの、3人で私が住んでる街に引っ越してきてヒーローチームでも結成したらどうです?」

「ヒーロー……チーム……。……俺たちが?」

「私の住んでる街なら、そりゃあ異星人の方や改造人間の方も珍しいっちゃ珍しいですけど、それでもヒーローやってますって言えばむしろ歓迎されますよ! 仁さん、ゼロ君、博士さんの3人って見た目もバラバラですけど、ヒーローチームだと思えば逆に“ぽい”感じだと思いますよ!?」


栞奈ちゃんの言葉は希望に満ち溢れたものだった。


そんな街がホントにあったらの話だが、それでも世界さんとゼロ君の元の身体から脳を抜き取られた姿を見て以来、知らず知らずの内に自分が悪に手を貸してしまっていた事に気付いたイっ君が苛まれてきた絶望を癒してくれるのは明るい未来なのだろう。


だが全ては遅すぎたのだ。


「そういえばウチに昔、流行った愛犬ロボット玩具があるんですけど、世界さん、それ使いません?」

「は? 私にマスコットにでもなれと……?」

「ヒーロー3人に情報担当のマスコットに近所の女子大生。構成としては完璧じゃないですか!」

「オデも博士と一緒が良いぞ!!」


ゼロ君の楽しそうな声を聞いて小さく、だが満足気に頷いたイっ君であったが、その纏っている雰囲気にはどこか冷めたところがあった。


「生き延びたならそういうのも良いか……。ま、生き延びたならの話だがな」

「おいおい! 何を言ってやがる。俺たちならポンコツロボットが何度来ても跳ね返してみせるさ。そうだろう?」

「そうだな。尖兵ロボットだけが相手ならな。……おい、来るぞ! 用意しろ!!」


そう言うとイっ君のボディーアーマーの左前腕部も展開しビームガンが出現する。


キィーンという甲高い高周波音とともにドライブ状態となった左右2丁のビームガンを前方の通路へと向けると足音もなく複数体のロボットが姿を現した。


先ほどのロボットよりも線の細い、だが曲面の装甲で覆われた意匠は間違いなく先ほど格納庫で戦ったロボットたちと同系統の物である事を示している。


『仁、聞こえるか?』

「お、おう!」


イっ君の左腕のコンピューターのスピーカーからではなく、再び俺の頭の中へ直接、声を送り届けてきた世界さんの声は緊張で張りつめているように感じた。


『さっき、私が把握していない部隊が動いていると言ったろ?』

「ああ!」

『先に地下格納庫で戦った奴らの機体にマーキングされていたのは「Ⅲ」と「Ⅴ」、これはあのロボットが“女教皇”と“教皇”の指揮下にある事を示している』


ああ、確か栞奈ちゃんがタロットカードがどうとかって言っていたっけ?


そこで気になった俺が新たに俺たちの進行方向を塞ぐように現れたロボットたちのマーキングを見てみると、そこには先ほどの物とは違い「X」の文字が。


「ええとエックス? ……いや、ギリシャ数字の10か? 栞奈ちゃん、タロットの10って何のカードだい?」

「……タロットカードの10番は“廻る運命の輪”です」

「……は?」


これも運命という奴の仕業なのだろうか?


それともイっ君の弟は兄が組織を裏切ったのをどうやってか知っており、何らかの意図があって自らの指揮下の部隊を送り込んできたという事なのか。


「おい! 押し通るぞ!!」


怒声とともにイっ君のビームガンから閃光が放たれる。

そういやツイッタのトレンドにイデオンって出てきてたから何事かと思ったら、スパクロに「イデオン」と「ぼくらの」「ミンキーモモ」が参戦するらしいっすね。

……え? 何人、死ぬの?

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― 新着の感想 ―
[良い点] これが終わったらチームを結成とか綺麗な死亡フラグ立ててきて草。 スパクロやってるんですか? イデはヤベーけど子供には優しいから(震え声) ジアースヤバくても、あの子らの泣き声でイデが発動…
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