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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
番外編3 The beginning
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EX-3-10 ありえたかもしれない未来と非情な現実 前編

「……俺が…………、大アルカナ……?」


 そういえば、イっ君は格納庫で「なあに大アルカナが3人もいて女の子1人、守れないという事もないだろうよ」と言っていたっけ。

 あの場には栞奈ちゃん以外に3人しかいなかったわけだから当然ながら俺も入っていたってわけだ。


 世界さんも加えれば4人の大アルカナ。


「……って言われても、よく実感がねぇんだけど」

「今はそれで構わんよ。とりあえずはまた尖兵ロボットの襲撃があった時に自分の身は自分で守ってもらえれば、そうすれば私とゼロがお嬢さんを守りやすくなる。それだけの力が自分にあると分かれば少しは気も楽になるだろう?」

「おうッ!!」


「ハイエンドモデルの改造人間」だの「それに匹敵する戦略兵器」だの言われたって正直、良く分からないという感覚の方が強い。


 だが自分の身は自分で守れと言われたら話は簡単。


 ARCANAの尖兵ロボットは確かにそれなりに強力なのだろうが、たとえロボット共が銃を装備していたとしても今の俺の身体は照準を付けさせないように動き回る事だって可能なのだ。


 そうやって俺がイっ君とゼロ君の2人に面倒をかけなければ彼らも何度だって栞奈ちゃんをロボットの襲撃から守り通してみせるだろう。

 なにせ、今はエネルギーの節約のためとか言って右前腕部の物だけしか展開していないが、イっ君の2丁のビームガンの速射はまるで速射砲のように凄まじい物だったし、見るからにパワー派のゼロ君はあっという間に5、6体のロボットをまとめてスクラップにする事が可能なのだ。


「おっと、長話をしすぎたね。続きは歩きながらしようか?」


 自らの半生、ゼロ君と世界さんをARCANAの標的にしてしまった事、そして悪の道に落ちた弟を語る時に落ち込んでいた事の照れ隠しのようにイっ君はわざとらしくハッとしてみせ、彼の言葉に従って俺たちは前進を再開する。


『ちょっと待ちなよ? 博士、アンタ、まだ大事なとこに触れちゃいないだろ?』

「なあ世界さん、それ、歩きながらじゃ駄目なのか?」


 正直、よくよく考えてみたら悪の組織のアジトからの脱出行の途中で立ち止まって話し込むというのも不用心な話だ。


 世界さんがアジトの警備システムをハッキングして監視カメラの映像やらを改竄しているという話だったけれど、先ほどの格納庫で俺たちに襲いかかってきたロボットたちの存在を世界さんは把握していなかったのだ。


 つまりは世界さんが掌握している警備システムとは別口の何かが動いていると考えた方がいいだろう。


 だったらとっととこんな場所からはおさらばしてしまった方がいい。

 じっくりと話をするのは歩きながらか、もしくはここから脱出した後でもいいのではないだろうか。


『まあ歩きながらでもいいけどさ。確かに博士が言うように大アルカナが3体もいたなら女の子の1人くらい余裕のよっちゃんで守り通せるんだろうけどさ……』

「そいつぁゴキゲンだね!」

『仁、話は最後まで聞いてよ。……この場にマトモな大アルカナは1体もいないって言ったらどう思う?』

「……はあ?」


 そりゃあ俺は機能制限食らってて本来の性能はまったく出せていないって話だろうけどさ、俺以外の2人は先ほどのロボットたちとの戦闘を思い出してみても十分な能力を持っているといってもいいのではないだろうか?


 第一、2人と合流する前の俺と栞奈ちゃんに「できるだけ驚かないでくれるかな?」と前もって言っておいてくれる配慮をしてくれたのは世界さん自身だ。


 その世界さんがイっ君とゼロ君を指して「マトモではない」と称するとは一体、どういう事だろうと俺は訝しむ。


『仁、私自身、空手というものを侮っていた事は認めるよ。まさかARCANAの尖兵ロボットを変身もせず、武器も使わずに倒してのけるとはね!』

「おうよ! ま! 空手家は全身が武器みてぇなモンだかららな!!」

『でも私は言わなければならない。それでも完全な大アルカナと変身機能に制限のかかった君とでは性能に雲泥の差があると!』

「……まぁ、そんな事は分かってるけどよぉ。だからイっ君とゼロ君が付いてきてくれるって話なんだろ?」


 ここまでは言われなくても俺でも分かっている事。

 だが、それから世界さんが言った事は俺が予想だにしない事だった。


『そしてゼロは“番号無し”と呼ばれていた事からも分かるようにあくまでテスト機に過ぎないんだよ。本物の大アルカナとの性能差は計り知れない』

「そうなのか?」

「そうだよ! でもオデ、頑張るよ!!」

「ほら! 本人だって『頑張る』って言ってるじゃねぇか!?」


 ゼロ君は重機のような拳を振り上げて闘志をアピールするものの世界さんはそれでは納得しない。


『あのねぇ……。確かにゼロは大アルカナの動力源である時空間エンジンは持ってるし、人工筋肉の量は正規版以上だからパワーだけなら大アルカナを超えてるんだろうけどさ、攻撃力の要であるビーム兵器も時空間兵器も無いし、ナノマシンを使用した超合金Arの装甲も、イオン式ロケットエンジンも装備されていないんだ。言わば走攻守全てが本物の大アルカナには及ばない状態なんだよ?』


 随分と辛辣な評であったが、世界さんの言葉はさらに続く。


『まあ、まだゼロはテスト機とはいえ大アルカナの端くれには違いないから百歩、いや一万歩譲ってそこは認めないでもない。でも問題は博士だ』

「イっ君が? おいおい世界さん、世界さんだってさっきの見たろ? イっ君のビームの早撃ちは大したモンだぜ?」


 世界さんが言う「時空間兵器」とやらは何の事だかサッパリだが、その点、ビーム兵器ならばイっ君は持っているのだ。


 確か俺の知る限り地球の技術力においては人間が携帯可能なビーム兵器は未だ実用化不可能な代物であるハズだった。


 イっ君のビームガンは彼が着込んでいるボディーアーマーに内蔵している物だが、地球の技術力でも動力付きのパワード・スーツは実用化されている。

 そのパワード・スーツに内蔵できる程度のビームガンが地球人に作れるのならば「実用化が不可能」とは言ったりしないだろう。


 航空自衛隊が誇る自立起動型ロボット「3Vチーム」が装備しているのはレーザー兵器であるし、統幕のヒーローチーム「ブレイブファイブ」が使用する必殺兵器であるプラズマ兵器は大型であるために使用時に彼らの元へと転送される。


 連射可能な小型のビームガンを2丁も持っているというだけでイっ君が高い戦力を有しているという事が分かるだろう。


 一体、世界さんは何が不満なのだろう?


『そうだね。博士はビーム兵器は持ってるね。でも、それ、ARCANAとは関係無い自前の物だとしたら?』

「うん? どういう事だよ?」

「そりゃ簡単だ。これはボディーアーマーはARCANAの物じゃなくて私が元々いた『フラッグス移民船団』の物だからね。ARCANAのビーム兵器の技術は私たちが持ち込んだ技術によって大幅に強化されてしまったのだ」


 つまりは大アルカナとやらはイっ君が持ってるビームガンと同様、あるいはそれ以上の物を装備しているという事だろう。

 だが話はそこで終わらない。


『大体、博士は何で自分の事を大アルカナ“廻る運命の輪”だなんて嘘を言ったんだい? わけがわからないよ……』

「え……?」


 イっ君が大アルカナっていうのは嘘……?


 つまり、どういう事だ?


 自信の言葉を嘘だと言われているイっ君だったが、世界さんの言葉は彼のボディーアーマーの左腕の前腕部に取り付けられているハンドヘルドコンピューターのスピーカーから俺たちの元へと届いているのだ。

 彼がその気になればスピーカーをオフにするなりして世界さんの言葉を遮る事だってできるのだろう。

 だが彼はそうする事はしなかった。


 真意を探ろうと彼へと視線を向けるものの、彼はあえてそうしているのか、前方の警戒から目が離せないとでも言わんばかりにこちらを向くという事がない。


「世界さん、嘘ってなんだい? あんまり人を嘘吐き呼ばわりするのは褒められたモンじゃないぜ?」

『嘘ってそのまんま言葉通りさ。大アルカナ“回る運命の輪”は博士の弟に与えられたコード。博士が大アルカナだなんて私だって初めて聞いたよ。良く考えてみなよ、仁。機能制限を食らってる仁だって空手で尖兵ロボットと戦う事ができたんだ。もし仮に博士が本物の大アルカナなら、どうしてこんな鎧みたいにゴテゴテしたのを着込んでくる必要があったんだい?』


 まくし立てるように言葉を並べ立てる世界さんはイっ君の嘘を咎めているというよりは何かが気がかりで焦っているような声色だった。


 その彼女が最後に俺に投げかけてきた言葉になんとか合理的な答えを見出そうと俺は自分に残された生身の部分を総動員してみるも、そもそもが未だに大アルカナだ改造人間だのといったものの技術については俺自身よく分かっていないのだ。

 そんな俺が頭を捻ったところでそれらしい答えが出てくるわけもない。


 しばし一行は足音だけを立てて進み、その沈黙を破ったのはイっ君自身だった。


「そうだな。私が嘘を付いた理由は3つ……。1つは君たち日本人の言葉にもあるだろう? 「大船にのったつもりでいたまえ」って。相手を安心させるために嘘を付くことだってあるだろう?」

「お、おう。分かるぜ!」

「もう1つはな。石動仁、これも君はわかってくれるんじゃないかな? 私が“回る運命の輪”を名乗っていれば弟の事はうやむやにできるんじゃないかってな」

「弟の……」


 分からないといえば嘘になる。


 イっ君の弟といえばARCANAの連中に感化されて悪に染まっちまったみたいな話だったけど、それでも兄弟としては見捨てられないのだろう。


 ましてやイッ君たちが元々いた「フラッグス移民船団」とやらは伝染病の蔓延で壊滅しているのだ。

 そして、彼らの母星はとっくの昔に無くなっているという。

 つまりは彼ら兄弟はこの広い宇宙でただ2人だけ残された最後のルックズ星人なのかもしれないのだ。


 俺だって、もし弟の誠が生きていて何か道を外れる事があったとしたならば、代わりに罪を被る事もあるかもしれない。できる事かは分からないが代わりに罪を償おうとするのかもしれない。


 そりゃあ本人が罪を認めて自分で罪を償う事が当たり前なのは分かっちゃいるが、それでも弟を見捨てられないというイっ君の事を俺は笑う事ができなかった。


 さらにイっ君は歩きながら言葉を続け、3つの理由の最後を話し出す。


「最後は、まあ自嘲だな……」

「自嘲?」

「世界征服を掲げ、他者を自らの支配下に置こうとするARCANAに対決するため、私は洗脳処置前の君を連れて逃げ出す事にした。他の誰でもなく、君を選んで」

「なんで俺を……?」


 そりゃあ俺だって洗脳されて誰かの言いなりになるってのはゾッとする。しかもそれがガチの侵略組織だというのならばなおさらだ。


 それでも俺は聞き返していた。


 彼の言葉では他にも選択肢があったというのにわざわざ俺を選んだというふうに聞こえるのだ。

 俺でなくてはならない事情があったという事なのか?


「ああ。そもそもこういう真似がそう何度もできるわけじゃないって事はわかるだろう?」

「まあ、そりゃあ……」


 確かにいくら世界さんのハッキング技術で当座は誤魔化せても、それが2度も通用するわけもないって事くらいは俺にも予想が付く。


「ならば私たちが助ける者は誰でもいいというわけではないのだ。他の大アルカナ全てを敵に回しても、少なくとも1対1ならば不利な戦いにはならない。そういう者でなければならなかった。それが君だよ石動仁」

「……俺?」

「それがまるで他人の運命を決めてしまっているようで、それがARCANAの連中とどこがどう違うのか。少なくとも君個人に関しては望むと望むまいと戦いが君を待っているのだ。そんな運命に追い込んでしまった己を自嘲してな……」


 だから“廻る運命の輪”か……。


 格納庫でのロボットたちとの戦いが終わった後、彼は満足そうな様子を見せていた。


 確かに彼は喜んでいたのだろう。

 俺が事情を説明されて言われるでもなく戦いに身を投じていたのだから。


 だが、その陽気さにはどこかやけっぱちな、“他人の運命を決めてしまう”という取返しのつかない事をしてしまったという後悔が含まれていて、だから彼は笑うしかなかったのだ。


 故に彼はもっとも印象深い悪の象徴、墜ちてしまった弟に与えられた“廻る運命の輪”を名乗ったのだろう。

ちなみにイっ君のボディーアーマーに装備されているビームガンは本編のD-バスターが装備しているビームガンと同系統の技術の物。


D-バスター1号が片腕に3門ずつ装備しているのに対して、イっ君は1丁ずつ。しかも威力も控えめ。

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