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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
番外編3 The beginning
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EX-3-8 ARCANAと大アルカナ 中編

 俺と栞奈ちゃんは世界さんの仲間であるイっ君とゼロ君の2人と合流し、イっ君が持ってきてくれた服を着てから脱出行を再開する。


『いやぁ……、なんていうか、仁って服を着てると普通にイケメンなんだな……』

「あん? 服着てようがパンイチだろうが顔なんか変わらないだろ?」

『さすがにパンツ一丁じゃ不審者感がハンパない……』

「アハハ……、仁さんみたいに鍛えている人だと半裸でもそんなに恥ずかしくないのかもしれないですけど、確かに普通に服を着ているほうがカッコよく見えますね」


 一行の先頭を警戒しながら歩くイっ君のボディーアーマーに取り付けられているハンドヘルドコンピューターのスピーカーから聞こえてくる世界さんの声に俺の後ろを歩く栞奈ちゃんも同意してみせる。


 イっ君が持ってきてくれたのはゆったり目のデニムジーンズにTシャツ、黒の牛革のジャケット。それから靴下に茶色の皮製ワークブーツとごくありきたりの物。だが俺からしてみるとシャツもジャケットもパンツもサイズ感がぽったりで胴や腕、太腿あたりがピチピチにならないだけでもありがたい物だ。


 俺たちは先頭にイっ君、ついで俺、それから栞奈ちゃんという順で進み、殿(しんがり)を務めるのがゼロ君。


「どうだ? 服のサイズは大き過ぎないかね?」

「いや、ピッタリだぜ、サンキュ!」

「ああ、実は服の見立てはゼロがしてくれたのだ。私は丈は良いにしても少しブカブカ過ぎるかと思っていたのだが……」

「いやいや、俺なんか鍛えてるから逆に普段は店でこれいいな~なんて思っても肩とか腕回りとか入んなかったり、無理矢理着てもすぐに裂けたりするからこんなモンだぜ?」


 特に一般的なサイズ感の物しか置いていないファストファッション系なんかはそんな事が多く、逆に弟の誠はサイズもバッチリの気に入った服でもよくよく見てみたら子供服だったりと着る物に苦労する兄弟だった事を思い出す。


「にしてもゼロ君、よく俺の服のサイズなんか分かったな~!」

「うん。なんか見たら分かる……」

「はえ~、そんなモンか?」


 ゼロ君のゴリラを縦も横も倍にしたようなサイズはさすがに改造人間にされてからのものだろうが、人間だった頃は俺と同じようにデカさで着る物に困っていて、それが故で敏感になっていたとかだろうか?


「あの……、ところでイイイイさん、貴方が私を助けてくれるのは分かっているんですが……」


 脱出行という割に和気あいあいとした雰囲気を壊す事を恐れてか、それでも聞かずにはいられないと栞奈ちゃんがおずおずと切り出す。


「えと、ホントこういう言い方しかできなくてすいません。……でもルックズ星人というのは敵性異星人なのではないですか? それも領土獲得が目的の……」

「それは違うよ。大学生の君がもっと幼かった頃の話だ。良く覚えていなかったとしても仕方のない事だとは思うし、そう思われてもしょうがないとも思うがね」


 栞奈ちゃんの言葉にビームガンを構えて前方を警戒していたイっ君も思わずこちらを振り返る。

 その仕草には栞奈ちゃんの言葉が心外であったという色と同時に諦観が見て取れた。


「その辺りから話を始めようか……。自分のしてきた事を正当化するつもりもないが、それでも少しは信用してもらわないと困るしね」


 格納庫を出てしばらく、誰とも出会う事は無くロボットたちの攻撃も無い。

 ある程度は安全が確保できたと思ったのかイっ君は再び前を向いて歩きだしながら自分の半生を語り始めた。


「お嬢さんの言うように我々ルックズ星人が地球人に敵性異星人として認識されているのは『オーストラリア動乱』の時の事があってだろうね……」


 彼が語りだしたところによると、彼らルックズ星人が母星を失ったのはすでに千年以上も昔の事だそうな。


 それ以来、ルックズ星人は同じ境遇の様々な種族の異星人同士で移民船団を組織して宇宙を旅する事となったそうだ。


 その「フラッグス移民船団」に転機が訪れたのが疫病、それも極めて高い伝染力を持ったウイルス性の疫病の発生だった。


 今となってはそのウイルスがどこから持ち込まれたものなのかは分からないという。

 何故ならば、宇宙でも高い技術力で知られた「フラッグス移民船団」は壊滅していてウイルスを研究する事もできないからだ。


 そして「フラッグス移民船団」に疫病が蔓延した頃、彼らはたまたま近くにあった居住可能な惑星、太陽系第三惑星地球に避難先を求めた。


 だが地球の原住民である地球人は母星の外に出る事もできない未開の民であったが、すでに地球を訪れていた異星人たちから移民船団の事は知らされていたのだ。

 その結果、宇宙でも高い技術力で知られる彼らでも手に負えないような疫病が流行っている彼らを受け入れるかどうかで地球でも喧々諤々の論争が沸き起こる事となる。


 移民船団が提供を求めたのはオーストラリアの地球人が住むには適さない砂漠であり、さらに見返りとして地球側への技術提供の申し出もあったのだが、やはり未知の疫病の恐怖は拭い去る事ができなかった。


「地球の諺にも『貧すれば鈍する』ってあるだろ? 私らもそんな感じだったのだろうな……」


 国連で議論が行われている最中も刻一刻と疫病の侵攻は続き、ついに追いつめられた移民船団は最後の手段に出た。


 この辺りは俺も小学校低学年の頃の出来事であったが、地球に数千人規模の異星人部隊が侵攻してくるというのは前代未聞の出来事であり、朧気ながらも当時のニュース番組なんかを覚えている。


「その時の侵攻部隊に私と同じルックズ星人が参加していたから、私らは敵性異星人と言われているのだろう。ま、結局、乾坤一擲の地球侵攻部隊も香川県民の参戦によって失敗に終わったわけだが……」


 彼ら移民船団にとって最大の不幸は白羽の矢を立てたのがオーストラリアの砂漠であった事だろう。

 これがサハラ砂漠やゴビ砂漠であれば彼らの侵攻作戦は成功していたかもしれない。


 だがオーストラリアと言えば小麦の一大生産地であり、ウドンの原材料である小麦の生産に支障が出るような侵略を香川県民が許すわけもなかったのだ。


「その後、ニッチもサッチもいかなくなって私は弟と2人、小型艇で母船を脱出して地球へと降下したのだ。その後、すぐに私たちに接触してきたのが彼らだった」

「……彼ら?」

「……ARCANA」


 絞り出すようにして言ったイっ君はこちらに背を向けているためにどのような表情をしていたのかは分からない。

 だが、その声には後悔が深く刻み込まれていた。


 ……あっ、イっ君、のっぺらぼうだからこっち向いてても表情なんか分かんないか!


「驚いたよ。何しろ地球侵攻作戦の後だ。おまけに必勝のつもりで送り出した部隊が全滅していたのだからな。我々の技術力の限りを尽くして隠蔽した小型艇で降下したハズだったのだ」


 つまりはARCANAとかいう連中は「フラッグス移民船団」の生き残りと接触する前から、彼らの隠蔽技術を無効化できるほどの技術力を有していたという事だ。


「そこで私たち兄弟は身の振りように困っていた事もあって、彼らの元へと身を寄せて協力する事になったのだ」

「……最初からわっるい組織だと分かっていたのか?」

「いや、知ろうとしなかった私にも問題があったのだろうがね。少なくとも彼らは私に『地球圏を外敵から守るため』と言っていたよ……」


 21世紀の現代においても宇宙からの脅威に対して地球人にできる事は極めて限定的だ。


 オーストラリア動乱の時だってフラッグス移民船団は広い土地を求めていたがために地球上に侵攻部隊を送り込んできたが、これが宇宙空間から地球上への爆撃が行われていたら香川県民とて何もする事はできなかっただろう。


「言い訳にもならんだろうがね。組織の存在が秘密である事も一応は納得していたよ。なにせ宇宙には旧支配者なんて呼ばれているような連中もいて、奴らに対抗するための戦力を統一政権を持たない地球人に渡したところで、旧支配者が来る前に地球人同士の争いに使われるのは目に見えているようなものだろ?」


 旧支配者と言えば、一昨年、魔法少女プリティ☆キュートが倒したアンゴルモアの恐怖の大王もそうカテゴライズされる存在であった。


 アンゴルモアの恐怖の大王の迎撃ミッションは宇宙空間で行われ、プリティ☆キュートが単独で撃破したのだが、逆に言えば地球圏にはかの魔法少女くらいしか旧支配者と戦える存在がいなかったという事でもある。

 そうでもなければ、まだ小学生の少女1人を宇宙空間へと送り出すような非情な真似ができるわけがない。


「地球では人体改造は非人道的な手段と思われているらしいが、宇宙ではサイバネティックなど珍しくもない事だったから特になんとも思わなかったよ。だがな……」

「うん?」


 そこでイっ君は足を止めて振り返る。


 視線の先は俺でも栞奈ちゃんでもない。

 敵の襲撃を警戒して最後尾を歩くゼロ君だった。


「だが、ただ適正があるというだけのなんの罪も無い者を無理矢理に拉致してきて、日常生活にも戻れないような体に作り変えてとなれば話は別だ」

やっと兄ちゃんが服を着てくれた……(´・ω・`)

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