EX-3-3 ちなみに作者はコ〇コ〇派ではなく、ボ〇ボ〇派でした
「ところで世界さんよ。 ここは一体どこなんだい? なんだか頭の中に靄がかかったみたいにここに来るまでの事が思い出せねぇんだ。そもそも俺はなんで瓶詰のピクルスみてぇな目にあってたんだい?」
室内の様子からは何かの研究室、あるいは極めて特殊な開発施設のような印象を受けていたがそれがどこまで正しかったのかは分からない。
なにせ机の上に乱雑に積まれている資料、あるいはメモ書きのような文書は俺の理解が及ぶような物はまるでなく、中にはアラブ文字やロシアのキリル文字とも違うような見た事もないような異色の言語で書かれているような物もあった。
そらあ俺だって地球上の全ての言語を把握しているわけではないけれど、その俺でも理解できる。
縦書きと横書きを組み合わせた書式で、文章が完成した時には1つの書面が手書きのQRコードのようになるような言語など地球にはあるハズもない。
もし、そんな言語を使うような人間がいるとするならば、文章を書き始める前から完璧に全体の構図を把握できていなければならないだろう。
そうでなければ途中で縦書きの部分と横書きの部分がぶつかって、あるいは余白部分がなくなって縦書き部分と横書き部分の文字がごっちゃになってしまうのはないだろうか?
例えるならそうだ。
まるで異星人が書いたような……。
さらにいうと他にも地球の言語、英語や日本語で書かれている文書もあったが、これも難解すぎて読む人に内容を理解させるつもりがあるのか疑問が残るほど。
俺に理解できる物といえば、机の隅に置かれた週刊少年ジャ〇プくらいなものだ。
『……随分と世界なんてトンチキな名前を平然と受け入れるものだね』
「ん~? キラキラネームってヤツだろ? 教育実習に行った時にもっと凄いのがいっぱいいたぜぇ? まさか『俺の物』って書いてセカイって読ませるわけじゃねぇだろ……」
『ハハハッ! 似たようなモンさ!』
俺の頭の中に声を飛ばしてきているとかいう世界さんとやらと軽く世間話をしながらジャンプをめくってみる。
確か、俺が最後に呼んだ号で新たに連載が始まっていたマンガの第6話が掲載されていた。
つまりは1ヵ月ほどもジャ〇プを読んでいたなかったという事だ。
だが、どのような理由があってそのような状況になってしまったのか、それが思い出せない。
世界さんには気取られないように平静を装いながらも、どこか胸の奥で焦燥感がチリチリと俺の奥底を焦がしていくのを感じていた。
それも1ヵ月もジャ〇プを読んでいなかったという事よりも、もっと大事な何かを忘れているような気がしてならないのだ。
『まっ、マルマルって書いてセカイって読むわけじゃあないんだ。本当は漢字で世界って書いて「エンド・オブ・ワールド」って読むんだけど、さすがに呼び辛いだろ?』
「うん? なら『エッちゃん』ってのはどうだ?」
『遠慮しておくよ。そもそもそれが本名ってわけでもないからね。……って、君、何、ジャ〇プ読みだしてんのさ』
「俺の事は仁でいいぜ!」
『いやいや、そうじゃなくてさ……』
とはいえ俺もこのようなわけの分からない状況下ではそうがっつしと読み込むつもりもない。
せいぜい富樫が今週も休載しているのを確認しておくぐらいにしておく。
『さっき教育実習がどうとか聞いた気がするんですけどね~。そんな年齢になって未だにジャ〇プですか?』
「……いいかい、世界さん? 声からすると君はまだ若い女の子のように思えるから、そのつもりで話すけど、間違ってたらゴメンね」
『まあ、間違っちゃいないよ。もう、その事に何の意味もないけれどね』
姿を現さない事といい、この世界さん、どうも言葉の節々に何かを隠しているというか、なにやら含みのある言い方をする女の子だと思った。
もっとも、それは俺を嵌めてやろうとか悪意の感じるものではなく、どちらかというともうどうにもならない事を俺に話しても仕方がないという心境が自嘲という色になって出てきたように感じられる。
「まあいいや。それじゃ世界さん、君たち若い女の子だってタピオカミルクティー買うために1時間も2時間も行列に並んでいるのを男の人に馬鹿にされたら気分が悪いだろう? ……ジャ〇プもそれと同じだ」
『そ、そうかぁ?』
「女の子が甘いモン食って大人になっていくのに対して、男の子はコ〇コ〇とジャ〇プを読んで成長していくんだ」
教育実習で行った先の学校の相良先生が行っていたのを思い出す。
いつも仲良く楽しそうに生きている子供たちだって、教師の見ていない所では辛い事だってあるのかもしれない。その小さな肩には似合わない重石が乗っているのかもしれない。
男の子はグレて非行に走ったり、あるいはストレスに押しつぶされて自堕落になったり体調を崩したりと分かり易いのに対して、特に女の子は心境の変化に気付きにくいそうな。
しかも、えてしてそういう問題は周りに人間にどうこうできる問題でもない事だってあるわけで、相良先生のようなベテランの教師でもサポートはできたとしても結局は自分で解決したり、折り合いをつけて生きていかなくてはいけないという。
そんな時には美味しいお菓子を食べればその場の元気、活力は得られるそうな。
もちろんチョコレートを食おうが、アイスクリームを舐めようが問題は解決しない。
それでも今日1日を乗り切るため、明日への1歩を踏み出すためだけの心の栄養が女の子には必要な時があるのだ。
極論ではあるけれど「女の子は甘い物を食べて大人になっていく」というのはある意味で至言かもしれない。
世界さんが何を隠しているのかは分からないが、肩肘張らずに甘い物でも食べてリラックスする時だってあるのではないだろうか?
『……男の子は大人になるって言わないんだ?』
「そらそうよ。男はいつまでたってもガキの部分があるからな!」
『あ~、なるほどね』
「なになに、知り合いにもそういう奴がいるのか?」
『ああ、知り合いってほどの付き合いもないけど、そいつらのおかげで今の私はこんな憂き目にあってるのさ』
先ほどまでと同じ、何のこったかさっぱり分からない含みのある言い方。
だが、これまで違ってここで初めて世界さんの声に毒が混じっているのを感じ取る事ができた。
「……ま、まあ、それはともかく、話は戻るけどタピオカにしろジャ〇プにしろ本当に大事なのはそれ自体じゃあない。人気のお店のタピオカ買うために行列に並んでいても友達と一緒なら楽しいもんだろう? マンガだって同じよ。友達と今週のワンピがどうのこうの、今週も富樫は休みかとか、みんなでワイワイやるのが大事なのさ。そういう何気ない日常がいつか大事な思いでになるんじゃないのかな?」
『……私、1人でタピオカの行列に1時間並んだ事あるけど?』
……マジか。
「そ、それはSNSにアップしなきゃいけないとか?」
『いや、そのまま自分で飲んでそれでおしまいだったけど』
1人で並んでいいのはラーメン屋だけじゃなかったのか……。
「え? 後から友達が来るとか、そういうのじゃなくて、マジで1人?」
『うん。1人っていうか、独り……』
これが休日に1人で観光に行った先での事ならば話は分からないでもない。
でも、これがいわゆるボッチという奴ならばどういう風にいうべきなのだろうか?
これがある程度の年齢になったならば休日にいつも友人を捕まえられるわけでもなかろうし、そういう人向けにメディアだって「お独り様」なんて言い方で訴求をしてきているのだけれど、どうも世界さんの声はどうにもまだ中高生くらいの印象を受ける。
「……え、ええと。行列に並びながらでもできる筋トレの仕方でも教えようか?」
『あ! そうそう、仁がいきなりジャ〇プとか読み出すから言い出しそびれちゃったよ!』
自分で1人でタピオカどうのこうの言い出した世界さんも、そんなに突っ込まれたくない話だったのか、わざとらしく声を張り上げて話題をそらしていく。
だが、彼女が切り出してきた話はそれまでの雰囲気を一気に吹き飛ばすのに十分なほどに衝撃的なものだった。
『仁さ、けっこう筋肉鍛えてるよね?』
「おう! 空手家は体が資本だからな!」
『で、こういうのは悪いけどさ、今の仁ってもう筋トレとか必要ないって言ったら、どう思う?』
「……は? としか言いようがないな。え、どういう事?」
『実はそうなんだ。今の仁の身体っていうのはほぼ全てが作り物で』
「いやいや、空手家の肉体が筋トレで作ったってのは当たり前の話じゃないか?」
どこか飄々とした風に感じられていた世界さんの話し方がもったいつけたものへと変わっていた。
それは何か酷い事実を伝えなければいけないために、いきなりそんな事を伝えたらショックが大きいだろうからと段階を踏んで少しずつ内容を伝えているように思える。
『ええと、だから私が言いたいのは仁の筋肉がプロテインとサラダチキン、それとハードなトレーニングで作ったって言いたいわけじゃなくて、……仁の身体は脳味噌以外ほぼ全てが人口の物であるってこと』
「え゛……?」
『こういったら分かるかな? 石動仁、君は改造人間にされてしまったんだよ』
ゴメン。
今回はタイトル良いのが思い浮かばなかった\(^o^)/




