引退変身ヒーローたちは学校に行く-1
「そういや、D子ちゃん、今日から警察で仕事だってよ?」
ペイルライダー撃破から2日後。
一連の騒動によって昨日、一昨日と2日間の休校だったせいでしばらくの間は6時限目で授業が終わる予定の日にも7次元目に補習授業を割り当てられる事になっていたのだ。
今日も7時限目が終わった後にヒーロー同好会の草加会長から呼び出しを受けて僕たちは部室に集まっていた。
草加会長本人は文化祭実行委員の打ち合わせが終わってから来るという事で、今日の呼び出しの理由も文化祭の事だろうか?
「え? 天童さん、D-バスターが『警察で仕事』ってマジ? 『刑務所でお勤め』じゃなくて?」
「マコっちゃんも言うねぇ~! でも、マジのマジよ。昨日、本人からRINEで聞いたもの」
暇を持て余したのか、適当に椅子に腰かけてギャル系の雑誌を眺めていた天童さんが不意にD-バスターが就職したという話を切り出す。
正直、僕としてはD-バスターの事なんかよりも天童さんの読んでいるページにチラっと見えた「初夏の南房総はウキでクロダイ狙ってあげぽよ!!」という煽りの方がよほど気になるのだけれど、ていうか「〇文字系」とか呼ばれているギャル系のファッション雑誌になんで釣りのコーナーが?
「でも、就職が決まるの早すぎない? 面接受けに行くのをもう就職決まった気になってるとかじゃなく?」
「う~ん、『採用決まった』って聞いたんだけどな~……」
「その『採用』って、職員としてで御座るか? それとも備品としてで御座るか?」
ああ、そうか。
三浦君が言うように「採用」という言葉は人と物、両方で使う言葉だったな。
先週の木曜から金曜にかけて「UN-DEAD」が壊滅して、それから就職先を探したにしてはいくら何でも早すぎる。
恐らくはD-バスターは警察に採用されたと言っても就職したのではなく、物品として採用されたのだろう。
それもパトカーや拳銃、無線機、被服などの警察庁が選定して採用を決定する装備品や、パソコンなどの入札が必要な物品という扱いではなく、おそらくはコーヒーメーカーのような署内だけで購入を決める事ができるような消耗品の扱いじゃなかろうか?
D-バスターもあんな性格のくせにアンドロイドなのだから、アレにお茶くみを任せればこれ以上ないほど全自動だと警察の人も考えたのだろうか?。
……D-バスターにマトモなお茶くみができるのかは疑問が残るけど。
「D子ちゃん、真面目にお仕事できるのかしら?」
「さあなぁ……。そもそもアイツら、しれっと3体日替わりで出勤するつもりかもしれんぞ?」
半ば困ったような笑顔の真愛さんと呆れ顔の明智君も話に加わってくる。
確かに明智君が言うようにショゴス怪人化していないD-バスター2体と平行世界から来たまま帰れずにいるD-コマンダーでローテーションで仕事をしにいくというのもありえそうな話。
アイツらはアンドロイドであるので、その日にあった出来事をデータとして共有するのは容易いだろう。
そういえば今日の7時限目の授業中にD-バスター1号から「今、暇してる?」とメールが来たものの、授業中だと返信してからは何も連絡が来ていないのを思い出した。
まぁ、何も連絡が無いって事は大丈夫ってことなんだろう。
「少なくともD-コマンダー殿は鉄子殿から離れそうにはないで御座るが……」
「いやぁ……、それはそれで問題じゃない?」
「俺はアリだと思うぞ? あの人は『UN-DEAD』という組織が無くなった今、いつ命を狙われてもおかしくはないからな。そういう意味じゃ専属のボディーガードがいるというのは悪くない」
「テッコって確か、こないだ来てたアラサーの女の人だろ? 彼ピとかいねぇの?」
落ちぶれるって怖いなぁと思う。
先週までは地下に潜伏する悪の組織の幹部格だった鉄子さんが、今は放課後の高校生たちに将来の心配をされる元地下アイドルのアラサー女性なのだ。
……まあ、「UN-DEAD」という組織は年に2回の慰安旅行に行っていたり、料理同好会で作ったお菓子を近くの児童養護施設に差し入れたりという組織なので、「悪の組織」というよりは「謎の組織」という方がしっくり来るような気がするのだけれど。
「そういや、鉄子さんと一緒にこないだ来たのっぺらぼうの異星人、ルックズ星人だっけ? あの人は老人ホームで働き始めたそうだよ?」
「宇宙人にアンドロイドもパパッと就職決めたのに地球人の鉄子ちゃんが一番の難物って、なんだかな~」
鉄子さん本人曰く、機甲戦術には一家言あるらしいけど、生憎と日本はそんな物が役に立つような国ではないのだ。
皆で雑誌やスマホを見たり、宿題をする片手間で鉄子さんの将来について話してしばらく。
遅れていた草加会長が陽気に挨拶しながら部室へと入ってきた。
「皆、待たせてゴメンね~! あ、真愛ちゃん、後でサイン頂戴!?」
「あ、ハイ、大丈夫です」
「お疲れ様で~す」
すでに時刻は夕方の5時近くになっている事もあってか、会長は車座に並べられた席に適当に座ると早速、本題に入る。
予想していたように今日の呼び出しの理由はやはり文化祭についてだった。
「……つまり、真愛ちゃんが3年ぶりに復活した事によって、今年の文化祭は過去最高の一般来場者が予想されるってわけ」
「はぇ~、そりゃ景気が良い」
「良すぎて困る、って話ですか?」
「明智君の言うとおりね」
「……え?」
当たり前の話だけれども僕たちの通うH市立第2高等学校は極々普通の学校なわけで、山ほどの来場者が予想される状況というのは想定外らしい。
お客さんの整理や誘導などは生徒たちにやらせるとしても、不審者や不測の事態に対する対処を生徒にやらせるわけにはいかず、かといって必要なだけの警備員を導入するだけの予算もないそうだ。
当然、僕と真愛さんが現場に急行する事はできるけれど、初動対応に避難誘導のためには校内各所へと警備員を配置する必要があるらしい。
「もちろん生徒会長も文化祭実行委員も中止を前提にした話ではなく、なんとかして文化祭をやる方向で考えてるらしいんだけど、さすがに警備にさける予算が5万円くらいで校内全体となるとねぇ……」
まあ、普通はそうだろう。
校内全体に警備員を何人配置しなければならないかは分からないけれど、警備会社に警備員の派遣を頼んだら5万円という予算なんてとても足りないのは僕にだってわかる。
仮に各フロアに2人ずつとして、体育館には何人必要だろうか? 正門、校庭にも必要だろう。あ、文化祭って事は当然、部室棟もか……
この辺は明智君に算定してもらったら楽かもしれないと、僕は頭の中で進めていた計算を途中で放り投げた。
長期の契約ならばいくらか安くはなるのかもしれないけれど、文化祭当日だけとなると割高になりそうだという事も予想できるだろう。
でも普通にやってできないのなら、普通じゃない手段を使えばいいだけだ。
「会長、5万円あれば邪神召喚できますよ?」
「マジで!?」
「属性のバランスとるために天使も呼びましょうか?」
「ぞ、属性のバランスって何!? 偏っちゃ駄目なの!?」
自分で言っといてなんだけど、それは僕も分からない。
そういや、入れるの忘れてた事で、後で追加する予定なんだけど。
前回の警察編でD-バスターが現場に寿司屋の活魚運搬車に乗ってきたのは、もしリミッターを解除して戦闘する事になった場合、戦闘後にトラックの荷台の氷水の入った荷台に飛び込んで体を冷やすため。




