54-11
「バーニング・ダァァァンクッ!!!!」
僕の左フックがペイルライダーの顔面へと叩き込まれ、おびただしい火花が散ったのを見て真愛さんが跳ぶ。
宙を跳ぶ真愛さんの振りかぶられた右拳はギチギチに硬く握りしめられ、その握力に呼応するかのように渦を巻く炎が一際大きなものへとなっていく。
僕は彼女が遠慮なく大技を叩き込めるようにと瞬時に退避する事を選択。
敵の空いた右脇を通り抜けようと両膝を胸につけて腕で膝を抱き、小さくなってロケットエンジンで回転しながら飛ぶけど、ロケットの推進力が回転に使われているせいかどう考えても真愛さんの拳のインパクトの瞬間に逃げ切る事はできなさそうだ。
でも、まだできる事はある。
膝を抱いていた両腕。
その内の左腕を柔道で受け身を取る時のように振ってペイルライダーの腰というか臀部を叩き、その反動を使ってさらに前へと飛ぶ。
「はあああああ!!」
「く、くそッッッ!?」
僕が顔面を殴った時に生じた火花でペイルライダーの視界が塞がれたのは一瞬の事だっただろう。
でも真愛さんにはその一瞬の隙があれば十分。
流星のような拳が振り下ろされる。
だが敵も大鎌で振り払う事ができないと瞬時に判断したのか、左手に持っていた複合ビームガンを真愛さんの拳の軌道上に持ってきて激突の瞬間にビームガンを自爆させた。
ビームガンの爆発によって今度は逆に真愛さんの視界をうばってやろうという事なのだろう。
メインウェポンの1つであるビームガンを使い捨てにする手を打つということはそれだけで終わるわけがない。
「真愛さん! 危ないッ!!」
僕は抜き撃ちの状態からファニングでビームマグナムを2連射。
もちろん重装甲のペイルライダーはたとえ背後から撃ったとしても装甲を貫く事はできないだろう。
装甲を撃ったなら……。
僕が狙ったのは奴の膝関節の裏側。
いかに重装甲のペイルライダーといえども完全に全身くまなく装甲が張り巡らされているというわけではない。
そんな事をしたら奴も身動きとれなくなってしまう。
各関節の可動域は残していなければならないのだ。
もちろん奴もそんな事は分かっているだろうし、現に2重装甲や空間装甲を駆使する事でできるだけ奴も装甲の死角は排除しているようだった。
でも膝関節の裏はその可動域の大きさ故にカバーしきれていない。
1対1ならばペイルライダーが背後を取られるという事もないだろうから、それは無視しても良いような事だろう。
1対複数でもそれは同じ事。
大抵の者が相手ならばペイルライダーは次々と敵を打ち倒して結局は奴の弱点を突くことはできない。
でも真愛さんには僕がいる。
そして僕は1人ではない。
初対面のヘルさんですら僕が死んだ時に魂を香川に呼び寄せてくれている。
ウドン屋の少女も気前良く無茶なお願いを聞いてくれていた。
母さんは僕が死ぬ度にお椀にウドンを入れてくれる。
父さんはわんこウドンの用意をしてくれている。
僕が超至近距離での戦闘方に慣れているのは米内さんとの訓練があったから。
戦い続ける気力はヴィっさんが教えてくれた。
ファニングと敵の隙を見る戦い方を教えてくれたのは譲二さんだ。
山羊女の奴は後で「復活1回につき〇〇円な! よし、ジャ〇コ行こう」とか言ってきそうだけど、……まあ、僕が再生できるのはあいつのおかげではあるのだから今は素直に感謝しておこう。
そして僕は兄ちゃんの弟だ。
ここぞという時にしくじるわけにはいかない。
しくじるわけにはいかないのだ。
「……うおッ!?」
ビーム・マグナムから放たれた2本のビームは寸分違わず奴の膝裏に命中し、ペイルライダの大重量を支える膝も膝カックンを食らったようにバランスを崩す。
その隙にバトンを構えた真愛さんは着地と同時に振り子打法のような一撃を叩き込んだ。
「ちぃッ! 誠君、まだよ!!」
ペイルライダーの胸部装甲が砂糖菓子のように砕けて飛び散り、僕はそのバッティングフォームとしなやかに伸びる彼女の肢体に思わず見とれてしまうけど、真愛さんの言葉で僕は我にかえった。
奴は全身のロケットエンジンを使って寸分のところで致命傷を避けていたのだ。
現に飛び散っているのは装甲材だけ。
内部機構にはダメージは与えられていない。
「OK! 真愛さん、『たいよう』だ!!」
「え? でも……」
「大丈夫、僕に考えがある!!」
ペイルライダーが今まで地上での戦闘に固執していたのは、僕くらいは難なく殺せるという考えに固執していたため。
口では真愛さんから先に殺せば再生能力も使えなくなると分かったような事を言っていたけれど、豆腐の如きメンタルを持つ僕の事だ。どうしても自分が素体であるデスサイズごとき楽に倒せるという考えを捨てきれなかったのだろう。
でも、僕のビームマグナムによって膝関節のフレームに損傷を負い、真愛さんのバトンで正面装甲を破壊され、その一撃から逃れるために空へと飛んだ今ならば再び空中での機動戦に持ち込もうとしてくるのは想像に難くない。
そして僕も真愛さんも奴との空中戦にはついてはいけないのは分かっている。
そもそも僕は真愛さんとどっこいの機動性しか持たないわけで空中での立体機動では彼女を庇うことも厳しい。
ならば奴に速度が乗る前に仕掛けるしかない。
「……わかったわ。誠君に任せる!!」
真愛さんが『たいよう』を使うように言われて躊躇ったのは、火球に僕を巻き込むことを恐れたから。
今までさんざん僕の再生能力を見ていても欠片1つ残さずに蒸発してしまっては再生できるかどうか分からないと思ったのだろう。
もちろん僕だってそんな事は分からない。
でも、僕が彼女の目を見て大丈夫だというと、真愛さんはゆっくりと覚悟を決めた目でしっかりと頷き返す。
「消し炭になれえぇぇぇぇぇッッッ!!!!」
それが少女が発したものとは思えないほどの雄叫びが響き渡り、ペイルライダーの前方方向の大気の流れが止まる。
魔法による“障壁”によって大気の流れが堰き止められたのだ。
ならば次に来るのは地球に生まれる太陽。
領域内の物すべてを焼き尽くす、情け容赦無い火球が発生する前兆だった。
終末の騎士と呼ばれる改造人間もあの魔法だけは食らうわけにはいかないと体を振った慣性にロケットの推進力を合わせて大気の流れが止まった地点から逃れる。
不可視の“障壁”だが内部の気流の淀みから察するに、形状は球形で、しかも発生してから火球が消滅するまで動く事がないことまではこれまでの戦いから把握できていた。
ホンの一瞬の後、あと僅かでも回避行動が遅れていたら火球に巻き込まれていたであろうタイミングで空中に小さな太陽が現れ、なんとか逃れる事ができていたペイルライダーは身を翻して周囲を観察して敵の次の一手を探る。
「たいよう」は機関銃のように連射できない事も分かっている。
だから次の「たいよう」までは猶予があるハズだ。
警戒しなければならないのは搦め手。
強者故に猪のように真っ直ぐに戦う事しかしらない魔法少女よりも注意を払わなければならないのは平行世界の自分自身。
だが……。
「デスサイズがいない!? どこへ!?」
いないのだ。
デスサイズの姿がどこにも見当たらない。
白いデスサイズは復活して以降、プリティ☆キュートを庇う動きをし続けてきた。この後に及んで周囲のビルに姿を隠す意味もないだろう。
考えられるのは空中に咲いた大輪の花の如き「たいよう」の死角か?
だが、長々と悩んでいる必要はなかった。
姿を消したデスサイズは自ら姿を現したのだ。
だが、それは想像していた火球の陰からではなく、火球の中からだった。
「時空間断裂斬ァァァ!!」
火球の全てを焼き尽くす高熱で肉体を焼かれる事なく、また火球の熱線から地上を守るための“障壁”に遮られる事なく白い死神は終末の騎士へと飛び込んで手にした大鎌を振るう。
胸部を袈裟斬り式に赤く輝く刃によって切り裂かれて地上へと堕ちていくペイルライダーははたして気付いたであろうか?
死神の左腕、そのすぐ上に青白い印が浮かび上がっていた事を。
コウモリの翼を模した外周に、中心には頭足類のような頭部。ヒゲのように生えているのは多種多様な触手だ。
ある邪神が「大海原の覇者の加護」と呼んだその紋章は魔法を無効化する恩恵を持ち主にもたらす。
たとえ一瞬で身を蒸発させる超高熱であろうとも、その高熱を逃さない無比の強靭さを誇る“障壁”であろうと魔法によるものである以上は無効化できるのだった。
クトゥルー君の加護は敵と戦うためのものではなく、ヒロインとともに戦うためのものだった???
なお誠君が魔法を無力化できても、仮に真愛ちゃんと戦えば普通に殴り負ける模様。
でも真愛ちゃんに限らず、性能的に穴の多いデスサイズが作中で強キャラぶれているのは、基本、デスサイズを倒せる可能性のある奴は大概、仲が良いというせい。




