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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第13話 こんな事やってるからダークヒーローって言われるんだよ!
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13-1

「え~、そんなわけでHタワーのすぐそばまで来たわけなんですけど!」

「これからナントカ機関とか探すの大変ですねぇ~! 誠君!」

「ホントだよねぇ~! 翼ちゃん!」


 ニコニコといつも以上の笑顔を見せる山本さんに僕もとびきりの笑顔で返す。


 二人の目の前にはパイプ椅子に縛りつけられたハドーの怪人。ウサギ型の、それも垂れ耳(ロップイヤー)タイプの獣人だ。ご丁寧に猿轡まで噛まされて声を上げられないようにしている。


「いや~、誰かナントカ機関の隠し場所とか教えてくれないかな~!」

「お~っと! こんな所に知ってそうな人がいるよ翼ちゃん!」

「知ってるかな?」

「知ってるんじゃないかな?」

「本当に?」

「知ってなかったら殺すだけだよ。翼ちゃん!」

「くす! それもそうですね!」


 笑顔の僕たち二人とは対照的にウサギ獣人は恐怖で目を見開いてガタガタと震えていた。

 それもそのハズ。そのウサギ怪人(ウサギ型だから可愛いのはもちろんだが、人間のように乳房が2つ膨らみを帯びていて、声も高いことから女性なのだろう)は仲間を次々と惨殺され、縛り上げられてタワー近くの空き店舗に押し込まれていたのだ。理由はもちろん半永久機関の在処を聞き出すため。かと言って長々と拷問に掛けている時間は無い。そのために一芝居打つことにしたのだ。

 僕が変身を解いて人間態になっているのもそのためで、他に山本さんが前に出ているのもそのためだ。マックス君のプランで子供の無邪気な残酷さや狂気を演出してウサギ怪人を怖がらせる作戦だ。正直、脅える瞳を見ると心が痛む。だが背に腹は代えられない。罪悪感を作り笑顔で押し隠す。


「そう言えば翼ちゃん? ジュネーブ条約って知ってる?」


 僕が山本さんを「翼ちゃん」、山本さんが僕を「誠君」と呼んでいるのも子供らしさの演出だ。だが僕の手には大鉈が、山本さんの手には短刀と子供には似つかわしくない物が握られている。ウサギ怪人を椅子に縛り付けているのはただのガムテープだが、アーシラトさんの魔法でハドー怪人のパワーでも千切ることができないほど強化されている。


「なんですか? ソレ? 美味しいヤツですか?」

「違うよぉ! 捕虜を虐待しちゃいけませんとか書いてある世界的なルールなんだけどさ!」

「ほおほお? もっと詳しくお願いします」


 山本さんが手に持ったドスを誇示するかのようにプラプラさせる。

 ウサギ怪人が「捕虜を虐待しちゃいけません」の件で目を輝かせたのを僕も山本さんも見逃しはしなかった。もちろん上げて落とすために希望を持たせただけだ。


「え~と、確か捕虜として扱われるには各国で決められた軍服を着用して所属を明らかにしなきゃいけないんじゃなかったかな?」

「なるほどなるほど! 軍服を着てなかったらどうなるんですか?」

「ゲリラとか工作員として、その場で殺されても文句は言えないみたいだよ!」


 ウサギ怪人の目から希望の灯が消える。


「え~と、軍服、軍服……」


 山本さんが舐め回すような目でウサギ怪人の全身を見詰める。


「軍服以前に全裸じゃねぇか! コノヤロー!!」


 山本さんが発狂したように叫び声を上げるとウサギ怪人の腹部にヤクザキックを浴びせる。縛り付けられていたパイプ椅子ごと後ろに倒れるウサギ怪人。山本さんは構わず怪人に飛び乗りマウントポジションで殴りつける。


「オラァ!! 吐け! 何処だ!? ナントカナントカってどこだってんだよォォォ!! 吐けェ!」


 山本さんは何度も何度も怪人を殴りながら問い詰めるが、実の所、山本さんは返事を聞くつもりはない。その証拠に「吐け」という割に、ウサギ怪人に口を開く暇も与えず殴り続けている。そもそも猿轡を噛ませたままで喋れるわけがない。山本さんの仕事は問い詰めることではない。追い詰めることだ。

 話を聞き出す役目は僕でも山本さんでもないのだ。


「まあまあ、落ち着きたまえよ山本殿……」


 姿を消していたマックス君が山本さんの肩を叩くと、怪人を殴る山本さんの手が止まる。


「山本殿も石動殿も仕事熱心なのは分かるが、もう少し慈悲の心を持ちたまえ」


 山本さんを退かせて、パイプ椅子を直して怪人を座らせてやる。


「大体、猿轡をしたままでは喋ることもできないではないか? それにナントカナントカではこの者も何を聞かれているのか分からないであろう?」


 マックス君が優しく怪人の口から猿轡を外してやる。するとウサギ怪人は緊張の糸が切れたのか大粒の涙を流して泣き出してしまう。


「だ、だじげでぐだざいぃぃぃ!」


 自分でここまで追い詰めておいて思うのも白々しいのだろうけど、やはり心が痛む。今の僕を見たら兄ちゃんはどう思うだろう……。


「大丈夫、大丈夫。安心せよ。予も余所の世界から来た者であるので貴公の気持ちもある程度は分かるつもりであるぞ!」

「はいぃ!」

「予たちに幾らか話を聞かせてくれたら、悪いようにはせぬぞ?」

「はいぃ、何でも聞いてくだざいぃ~!」

「そうか、そうか。済まぬなぁ……。予もこちらの世界においては新参者でなぁ。貴公にも協力してもらわねば後ろのおっかないチビッ子たちを止める事は難しいのだ。それに貴公に仲間たちを裏切らせることになってしまうが、貴公から聞いたとは誰にも言わぬ故、安心されよ」

「ありがどうございましゅ~!」


 僕と山本さんの事を「おっかないチビッ子」なんて言ってるが、今回の「飴と鞭」作戦を提案してきたのは他ならぬマックス君自身だ。僕と山本さんが鞭で、マックス君が飴。アーシラトさんは僕たちの脅しが通じなかった時の控えだ。


「で、あのHタワーの上空に現れた異次元ゲートの動力源は何処にあるのだ? 半永久機関とこちらの世界の人間が呼ぶ物があるだろう? 名前が分からねば、今日、こちらの研究施設から奪ってきた機械か何かを何処かに設置してなかったか?」

「はいぃ! 知ってますぅ!」

 ………………

 …………

 ……


 ウサギ怪人が語る所によると、半永久機関は海賊船団の船長である闇髭と呼ばれる海賊がビルの屋上部分に設置したという。だが異次元ゲートの動力源である半永久機関はハドーに取って重要護衛対象で、闇髭の他、多数の大幹部級怪人が守っているという。


「大幹部級かぁ。どう思う?」


 マックス君がこちらを見てウインクする。「脅してみろ」という合図だった。まだ彼女を脅さなきゃいけないの?


「え~、この後に及んで嘘なんか付かないでしょ!? 普通。これで嘘付いてたらコイツはただの自殺志願者だよ!」

「そうだよねぇ~。アーシラトさんは生贄とか欲しい系の人?」


 僕も山本さんも「自殺志願者」や「生贄」などの物騒な言葉を使って反応を見てみる。

 僕の言葉に反応して、今まで奥に隠れていたアーシラトさんがシュルシュルと音を立てて出てくる。


「生贄? 別に無くてもいいけど、あっても別に構やしないよ。フェニキア人なんか赤ん坊を生贄に捧げてくれてたっけなぁ……」

「ひぃっ……!」


 ウサギ怪人はアーシラトさんの姿を見て再び身を震わせる。僕や山本さんとはまた違う剣呑さを感じたのか。あるいはウサギ型獣人だけあって蛇に弱いのかもしれない。


「あ、アーシラトさん、人間の赤ん坊とかたべるんですか!?」

「んなわけないだろ! 『子供が好き』とか言ったら、その次から生贄に出されたんだよ! アタイだってドン引きだよ!」


 それは良かった。確かにアーシラトさんは面倒見が良さそうだし、子供好きっぽい感じはする。古代フェニキア人とか学校の世界史でも習ってないからどんな連中かは分からないけど。


「で、そいつは子供じゃないし生贄にしてくれるなら食べるよ?」

「や、止めてぐだざい~」


 蛇の下半身を伸ばして天井スレスレからウサギ怪人を睨みつけて脅すアーシラトさん。

 う~ん。この怪人、嘘を付いているようには見えないけど。

 嘘はついていないんじゃないかな?


(ねえ、この子、嘘は言ってないんじゃないかな? いい加減、辛くなってきたよ……)

(うむ。予もそう思うぞ)

(私もそう思います。私もそろそろボロが出そうでヒヤヒヤものですよぉ……)


 ウサギ怪人を脅しているアーシラトさんを横目に3人で相談する。山本さんなんかはヒヤヒヤものだとか言ってたけどノリノリに見えたけどな?


(それじゃ、そろそろ締めるか?)

(うん、お願い!)


「まあまあ、アーシラト殿も落ち着きたまえよ! 君も嘘は付いていないだろう?」

「はい! 全部、本当のことですぅ!」

 やはり嘘を付いているようには見えない。僕やアーシラトさんが脅してみたり、マックス君が宥めてみたりと緩急つけているが眼球運動の反応が一定で何かを謀っているようには思えないのだ。


「ん~、それじゃそろそろ行くか?」

「そうだね! 半永久機関が屋上に設置してあるのなら空から行けばすぐでしょ!」

「ですね!」


 幸いにしてアーシラトさん以外の3人は空が飛べる。一気に攻め込んで機関を破壊するだけならすぐだろう。


「…………あ、あの~……」


 ウサギ怪人が僕たちに水を差す。


「なんだね? 拘束ならば今、解いてやるぞ?」

「いえ、そうじゃなくてですね。今、空から行くって言いましたよね?」

「うん」

「それはちょっと不味いと思うんですけど……」

「何でだい?」


 躊躇いがちにウサギ怪人が言葉を紡ぐ。きっと仲間を裏切る事と、大事なことを伏せておいた場合の僕たちの報復を天秤に掛けているのだろう。


「え~と、屋上には機銃座が設置してあって、それが揚陸艇に乗せてあるのとは段違いの性能を持つ新型で、異次元ゲートで本国から運び込んだ新型というか……」

「つまりは空から行くのは止めたほうがいいと?」

「ビルの階段を登っていくのも兵隊が沢山いるハズなんでどっちもどっちだとは思うんですけどぉ……」


 それは確かに。


「どうする?」

「対空砲火ねぇ……。そうだ! 魔法でバリアとか張れない?」

「張れますけど……」

「どの程度の威力か分からない物が相手だし、障壁を抜かれたらねぇ?」

「で、あるなあ……」

「あ~、僕も装甲には自信無いしなぁ……」

「結局、ビルの内部を上がっていく方が無難であるような気がするぞ」

「そうだねぇ……」


 一気に片が付くと思った所で面倒な手段を取らざるを得なくなって皆のテンションが下がる。

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