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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第54話 僕は君を守る
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54-3

 ペイルライダー、終末の四騎士の内の1柱の名で呼ばれる改造人間。

 その機体各所に設置されたイオン式ロケットエンジンが全力稼動のための展開を始める。


 足裏、脹脛、腰部、それから長く迫り出した両肩アーマーのそれぞれ先端付近に設置された時空間エンジンに直結されたもの。


 それら各ロケットエンジンを露出させるような形で装甲が動く。


 冷却能力の向上、ひいては最大推力の上昇に最大推力発揮時間の改善。

 推力偏向域の増大は空中での運動性能の向上を意味していた。


「殺せる事が分かったんだ。わざわざ動けるデブの土俵で殴り合いに付き合ってやる必要もない……」


 さしづめ高機動モードとでも言えるだろうか?

 変形を終えたペイルライダーはさらに左手に持つビーム・サブマシンガンの側面へとビームマグナムを連結する。

 手首から2本のエネルギー伝達パイプが独りでに伸びてきて2つの銃器に接続されると、ビームマグナムの撃鉄部にも新たな機構が生じてきた。

 自動的に撃鉄を起こすための単純な装置が完成すると、2つの銃器は左手一つで自在に操れるように姿を変えていた。


 そして空いた右手に大鎌を手にして肩に担ぐ。

 先ほどは取り外して使用していたメイスもいつの間にか再び柄の先端へと戻っている。


「あんまり哀れだから教えてあげるけど、貴方、すぐ調子に乗る悪い癖があるって知ってた?」


 対する魔法少女も姿を変えた敵を見て不敵に口角を持ち上げて見せる。


 高機動戦闘ならばプリティ☆キュートとて十八番(オハコ)

 地球に迫っていた旧支配者「アンゴルモアの恐怖の大王」で単騎で撃破した時も彼女はその天文学的なスピードと変幻自在の運動性で敵を翻弄していたのだ。


「…………言ってろ!」

「…………ふん!」


 改造人間と魔法少女はしばし殺意のこもった視線を絡ませあって睨み合っていたが、まるで何かの合図があったかのようにほぼ同時に宙へと飛び上がる。


 両者はともに一瞬で音速の壁を超え、周囲のビルに僅かに残っていた窓ガラスは衝撃波(ソニックブーム)で完全に破壊されてしまう。


「焼き尽くせッ! ≪たいよう≫!!」

「銃身が灼け付くまで撃ち続けてやる!!」


 地表から僅か数百メートルという高さに巨大な火球が生まれ、その核融合の暴力的なエネルギーの奔流をスレスレで回避するように蒼い光条が大空を駆け抜けてプラズマ・ビームを猛射する。


 ビーム・サブマシンガンのか細い火線に時折ビームマグナムの太い光線が混じって、しかも、そのほとんどの射撃はプリティ☆キュートの身体を球形に包む“障壁”魔法へと命中していた。


 魔法少女プリティ☆キュートの代名詞ともいえる必殺技「たいよう」はその名の通り、直径数百メートルから大きいもので数キロメートルにも及ぶ小型の太陽を一瞬にして作り出すものである。

 使用者が「太陽」の漢字が書けなかった頃より使用されてきたその必殺の魔法は、かつて異星人傭兵の千名ほどの部隊を一瞬にして焼き尽くして殲滅した事もあるほど。


 だが、当たらない。

 必殺の「たいよう」が当たらないのだ。


 無尽蔵にも思えるプリティ☆キュートの魔力によって次々と生み出されていく「たいよう」。すでにH市上空で発生した核融合の火球は10を超えている。


 ビームガンの猛烈な連射を続けながらもペイルライダーは空中で自在に身を翻して進行方向を変え、砲弾のように加速し火球を回避し続けていた。


「ッッッおっらああああああッ!!」

「はあああああッッッッッ!!」


 一瞬前まで前方から赤いビームの連射が撃ち込まれていたかと思えば、次の瞬間には背後から赤く輝く大鎌が振り下ろされる。


 魔法少女が凶刃にバトンを合わせて受けても、終末の騎士は鍔迫り合いに固執するような事はなく、また姿を消して、次の瞬間には真上から太いビームが打ち下ろされるのだ。


 ペイルライダーからすれば、空中での高機動戦へと持ち込んだのはそれが最善の手だと判断したから。


 もちろん平行世界の石動誠も魔法少女プリティ☆キュートが高機動戦を得意としている事は百も承知。


 だが魔法少女は魔力で強化された身体能力によって強化された超合金Arの装甲すら素手で毟り取る事ができるのだ。


 ならば全速力を出せない地上で魔法少女に掴まれる危険を冒すような事はせず、大空に上がって自慢の機動力を最大限に発揮すればいい。

 時空間断裂斬がバトンで防がれた時点で鍔迫り合いに付き合ってやる気など毛頭無いのだ。


 そもそも先ほどまで地上戦に付き合ってやっていたのは、攻め方を模索していただけの話。


 狩るという事。

 奪うという事。

 殺すという事。

 ペイルライダーは蹂躙する事が脳内にもたらす快楽に震えるような感覚を味わいながら、再び空中で軌道を変えて加速する。


 いかなるトリックを使ったというのか?

 その一瞬の後、ペイルライダーが軌道を変える前の進行方向で小さな太陽が現れて周囲500メートルほどを灼熱地獄へと変えていたのだ。

 軌道を変えていなければ終末の騎士も火球に飲み込まれていたであろう事は間違いない。


 だが、一体どうやって発生する前の火球を探知したというのだろうか?






「すごいッ!! これが真愛さんの力!!」


 H市役所の庁舎から数kmほど離れた災害対策室の庁舎。

 その屋上に数名の者たちの姿があった。


 災害対策室は「魔法の国」の戦列歩兵たちによって占拠され、その活動を停止。

 情報収集を担当する者以外は手持無沙汰となって窓から、屋上から復活した「最強」の魔法少女の戦いを見つめていた。


 屋上で縄を解かれた宇佐がピョンピョンと跳ねながら歓声を上げる。


「涼子さんが子供の頃に憧れたってのも分かります! 真愛さんならペイルライダーにも勝てますよね!!」


 昨晩の内に赤い軍服を着た羊たちに縄を引かれて災害対策室庁舎へと連れてこられていた宇佐はその持ち前の性格もあって、すでに職員たちと打ち解けた様子だ。


「大丈夫よ! プリティ☆キュートは『最強』で『無敵』なのよッ!!」

「アハハ! 宇佐ちゃんがこの世界に来た時に真愛ちゃんが現役じゃなくて良かったわね!!」


 数名の女性職員たちも宇佐に倣って飛び跳ねて喜びを表していた。


 同じく災害対策室庁舎で拘束されていたヤクザガールズの組員たちも屋上の鉄柵を掴んで長年の憧れであった魔法少女の姿を言葉もなく黙って見つめている。


 彼女たちに取っても、最初は「魔法の国」の兵が自分たちへ銃を向けるなど何事かと思ったものだが、羽沢真愛が出ると聞けば納得するしかない。

 ただ自分も魔法少女となった今、あのプリティ☆キュートと並び立つ事ができないのは残念ではあったのだが、上空で繰り広げられている激戦を見た今となっては自分たちがいても邪魔にしかならないと悟らざるをえない。


 一方でヤクザガールズや宇佐、女性職員たちからは一歩、引いた位置から上空の戦いを見つめていた明智の表情は冴えない。

 辺りを見回してみると災害対策室の室長である木村もなぜか眉間に皺を寄せて首を傾げていた。


「……おかしい」

「室長もそう思いますか?」

「ええ。どう、と言われても言葉が出てこないのですが……」


 羽沢真愛に戦う意思を取り戻させ、プリティ☆キュートにペイルライダーと戦わせる事を考えていた明智にとっては状況は彼の思ったとおりといった所だろう。

 それなのになぜか明智の胸からは小さな棘のような滓のような不安が拭えないのだ。


 木村室長も部下たちの手前、士気を挫くような事は言いたくはないのだろうが、明智と気持ちは同じようである。


 だが2人とも、自身の内に巣くっている言いようのない不安感について明瞭な言葉にする事ができないでいたのだ。


 だが、その時、屋上の入り口のドアがガチャリと音を立てて開き、2人組の男女が姿を現す。


「あなたは……」

「マズいなぁ……。アレじゃ真愛ちゃんは負けるぞ?」


「最強」であるハズのプリティ☆キュートの敗北を予言するのは「虎の王」こと泊満その人である。


「真愛さんは……、プリティ☆キュートは昔に見た時よりも明らかに弱くなっているように見えるのですが……」


 さらに泊満に付き添ってきた西住涼子がその鷹のような鋭い視線を上空へと向けながら呟いた。

ラストバトルは解説役も欲しい

→戦闘に巻き込まれない位置にいなきゃいけない。

→遠くから戦いを見て言った事に説得力が無きゃいけない


つまり西住さんが“超視力”を持ってる設定なのは、この時のためだったんだよ!!

ΩΩ Ω<ナ、ナンダッテー

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― 新着の感想 ―
[良い点] 十分圧倒的に強いのに、これでも(現役時代に比べて)『弱くなっている』のか。 やっぱり毎日のトレーニングや修行を怠ると、ダメなんだなぁ~···魔法少女に修行やトレーニングが必要なのかは置いと…
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