52-16
僕が1発ペイルライダーを殴れば向こうは2発、3発と拳を叩きこんでくるような展開が続く。
同じ超合金Arに超合金Arをぶつけているのに奴を殴って生じる火花が僕が殴られた時にできる火花よりも明らかに小さいのは純然としたパワーの差だろうか? それとも奴の装甲は密度を増して強固になっているという事なのだろうか?
恐らくは両方だろう。
僕に兄ちゃんほどの格闘センスがあればパンチやキックで外装にダメージを与える事ができなくとも、顎先に拳を掠らせる事で生身の脳味噌を揺らして脳震盪を起こさせる事もできたかもしれない。
兄ちゃんでなくとも咲良ちゃんやヴィっさんでも同じ事ができるかもしれない。
でも生憎と僕にできる事ではなかった。
僕が間合いを詰めた状態で放ったショートアッパーは奴が間合いをさらに詰めてきたために顎先へ上手く掠らせる事ができずにクリーンヒットし、結局は装甲に阻まれ、衝撃も堅牢なメインフレームに吸われてしまう。
しかも、そのままタックルのように突っ込んできたペイルライダーに突き飛ばされて僕は地面へと叩きつけられてしまった。
もちろん僕の装甲がいくら薄いからってアスファルトにぶつけたくらいで傷つくような物ではない。
でもその中身。装甲の内側のさらに奥のケースに包まれた脳味噌は大きく揺られてしまい、意識を飛ばしてしまいそうになる。
皮肉にも自分が狙っていた事を相手に返されてしまったという形。
「ねぇ。君も僕と同じ事を考えてないかい?」
「誰がッ!!」
「だって羽沢真愛の事は君やD-バスター、ストーカーのオジサンたちだって助けようとしていたのに、君がこうしてピンチに陥っていても誰も君の事は助けようとはしないじゃないか!?」
ペイルライダーの体が青白い光に包まれて宙へと浮かぶ。
……マズい。
もう少し僕で遊んでればいいものを、もう勝負を決めるつもりになったのか?
「ヒーローたちだけじゃない! 見てみなよ!」
一際大きな声を張り上げたペイルライダーは両腕を広げてクルリと空中で回り背後へと振り返った。
奴が見下ろしていたのは街の夜景。
僕が暮らすH市の夜の姿。
人が営む生活の証である眩いばかりの電気の光。
「君がこうして今にも殺されそうなのに、何十万という人間が平気なツラして暮らしてやがる。ムカついてこないか!?」
「お前だってそうだったんだろうがッ!!」
僕だってARCANAに自分が拉致られるまではヒーローたちの事なんて大して知らなかった。
誰かが邪悪と戦って、傷ついて、守り抜いてくれていた事は知識としては知っていたものの、それでも僕はそんな事など気にも留めずに平穏と暮らしていたのだ。
平穏なほのぼのとした何気ない幸福。
それは酷く脆弱なものなのかもしれない。
悪意ある者が息を吹きかければ砂で描いた絵のように消えてしまうような。
もはや幻想と言ってもいいかもしれないような儚げな日常。
でも儚げで脆弱で幻想のようなものだったとして、それを誰かが壊して良いという事があるだろうか?
いや、断じてそんな事はない。
砂絵のように砂糖細工のように、壊れやすいモノだからこそ誰かが守らなければならないのだ。
そして僕にとっての“平穏でほのぼのとした毎日”には真愛さんがいてほしい。
だから命懸けでも守りたいんだ。
「マーダーマチェット!!」
「何!?」
ペイルライダーのハゲワシのクチバシのように迫り出した両の肩アーマー、その先端付近に取り付けられた時空間エンジンから金色の粒子が散布されだしたのを見て、僕は友の形見を呼ぶ。
「邪悪を焼き尽くせ! オルタナティブ・マーダーフレイム!!」
「厨二かよッ!?」
僕の呼びかけに応じてアスファルトの上に転がっていた洋鉈は独りでに動き出す。
自分の性格的に僕が武器を使わなければしばらくは時間が稼げると思っていたのだけれど、僕の想像よりもだいぶ早く奴は“恋人の鱗粉”のために金色の粒子を散布し始めた。
もしかすると奴にとっては僕は目を背けたい過去。あるいは「弱かった頃の自分」という忘れ去りたい恥部なのかもしれない。
理由はともかく、奴が武器を使い始める以上、僕も手をこまねいていてはいられない。
「……チィッ! 何だってんだ!?」
独りでに宙を飛び高速回転しながら敵へと向かっていくマーダーマチェットに2度3度と斬りつけられながらペイルライダーは悪態を付く。
もちろんマーダーマチェットでも奴の装甲に傷すらつけられないのは織り込み済み。
にも拘わらず悪態を付くという事は、もしかすると奴は僕が洋鉈をコントロールしていると思ってハッキングを仕掛けようとしたのかもしれない。
でも電波にしろ赤外線、あるいはレーザー通信や光子通信にしろマーダーマチェットをハッキングできるわけがないのだ。
なんたって僕だって何で動いているのかわかんないんだもの。
回転する洋鉈はさらにその速度を増していき、やがてその空気抵抗によって削られた欠片は自然と発火して敵の体を包む。
「これはッ!? クソッ! あのオバサンの鉈か!!」
鉈が作り出す全てを焼き尽くす炎に巻かれたペイルライダーだったけど、D-コマンダーから見せてもらった動画でそうしたように奴は装甲表面を剥離させて炎から逃げ出す。
もちろん、それも予想通り。
(……ロード! オーバークロック:プリセット2)
ペイルライダーは自身を包む炎から逃れるために自身の装甲の表層をパージさせた。
そして、その瞬間、奴の注意は僕から離れていたのだ。
僕がその瞬間をゆびを咥えて待っているわけがない。
必要な演算能力を得られるようにシミュレーションして事前に設定していたファイルを読み込み、電脳のプロセッサーをオーバークロックする。
動作周波数アゲアゲ。
電圧モリモリ。
冷却マシマシ。
ロケットを吹かして一気に立ち上がり、腰のホルスターからビームマグナムを引き抜き、銃を持つ右手首を固定、右肘はしっかりと脇腹へと押し付ける。
「僕はヒーローだッ!! 真愛さんの、真愛さんだけのヒーローだ!!」
ビームマグナムの引き金を引いたまま左手でハンマーを連続して叩く。
まるで扇で仰いでいるように軽やかに素早く。
だからこの技はファニングというのだ。
「なんで!? なんでビームマグナムを連射できる!?」
フルチャージされたビームマグナムの6連射はまっすぐペイルライダーへと向かっていき、だが“恋人の鱗粉”の金色の粒子にぶつかるとジグザグに折れ曲がっていく。
でも6条のビームは空中で幾度も折れ曲がりながら結局は僕の狙い通りにもう1人の僕へと命中。
“恋人の鱗粉”はペイルライダーのビームだけを反射させるわけではない。
反射を演算させる事ができれば僕も同様の事が可能なのだ。
でも奴はそんな事を考えなかっただろう。
だって僕はそういう奴だから。
力で磨り潰して憂さを晴らす時にそんな事は考えたりしない。
大出力のビームを6発も受けてはさすがにペイルライダーと言えどタダでは済まなかったのか装甲表面で爆発を起こして姿勢を崩していた。
「行くぞ! デビルクロー……!」
ロケットに損傷を受けている事も無視して全力で飛び立つ。
左手の爪付籠手に内蔵されているエネルギーセルに蓄積していた時空間エネルギーを開放して爪先へと流し込むと全てを切り裂く刃が長く伸びた爪となって形成された。
僕はヒーロー。
“殺人鬼”マーダーヴィジランテさんの友で。
“日本一のガンマン”譲司さんの弟子で。
“最強のヒーロー”兄ちゃんの弟だ。
「デビルクロー!! パァァァンチ!!!!」
なお「パンチ」というけど(中略)。
それはともかく、時折咳き込むように噴射を止めるロケットのせいで加速は普段より1割ほど遅い。
わずか1秒にも満たない時間の中で僕は気を揉んでいた。
(早く! 早く!! もっと早く!!!!)
……やったか!?
それはともかく、ガンプラやらガレキやら組み合わせてペイルライダー作れないか構想してたんだけど、ゲ〇ググの肩にデモ〇ベインの足のデッカイ奴(どっちがクリティアスでどっちがティマイオスだか分からん)合わせてたらデモベの足、折れちゃった
\(^o^)/
しかも後からサ〇サリスの肩アーマーの方が良かった気がして、もう完全に(模型製作の)モチベが無くなった
\(^o^)/
しかも後から考えたら髑髏っぽい顔面はどうするつもりだったんだ? って考えるともうね……。
\(^o^)/




