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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第52話 デスサイズ、死す!!
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52-15

 僕が少しでも戦い続けるために気を付けなくては物が2つある。


 1つ目はビームマグナムにビームサブマシンガン、2種類のビーム兵器。


 ビームサブマシンガンの方は数発くらいならデスサイズマントで防げない事はないだろうけど、マントもいつまでももつ物でもないし、直撃を受けてしまえば連射性の確保のために1発1発の威力は低いビームですら僕の装甲は耐えられないだろう。


 ましてや対兄ちゃん(デビルクロー)用のビームマグナムは防御なんて無意味。

 なんとか避けるしかないのだけれど、幸いにも僕がそうだったように“向こう”の僕もビームマグナムを故障しているのにナノマシンが修復してくれないとでも思っているのか連射できないようだ。


 そして2つ目、もちろんそれは時空間断裂(ディメンション・)兵器(ウェポン)


 ディメンション・エネルギーを注がれ赤く輝く刃はありとあらゆる装甲をそこにある空間ごと切り裂いてしまうがために防御手段は同じ時空間兵器の時空間エネルギーが持つ斥力で弾くしかない。


 だというのにペイルライダーが搭載している3基の時空間エンジンからもたらされる大出力のエネルギーは時空間(ディメンション)断裂刃(・カッター)を常時展開させる可能なようだ。

 時空間エンジンを1基しかもたない僕には時空間断裂刃の常時発動だなんてできるわけもなく、発動の際のタイムラグを考えれば時空間断裂斬に時空間断裂斬をぶつけて相殺するというのはなかなかにシビアな話だろう。




 そんな事を考えていたのだけれど、変身した僕に対してペイルライダーは真っ直ぐに突っ込んできた。


 大きく踏み込んだ足によってアスファルトは砕かれ、眩いほどに唸るロケットエンジンの青白いイオンは終末の騎士を加速させる。


「……なッ!」

「オラァァァ!!」


 牽制だフェイントだ、そういうものはまるでなく、ただただ真っ直ぐなパンチ。

 体を弓なりに反らせてから繰り出される拳は隙の多いものではあったものの、その分、驚異的な突進と相まって、装甲車が突っ込んでくるような威圧感すら感じさせる。


「チィっ!!」

「ふんッ!!」


 予想外の突進に面食らったけど、なんとか右側面に半歩動いて、奴の拳は左手の兄ちゃん形見の爪付き籠手でいなす。


 爪付籠手から目が眩むほどの火花が飛び散る。

 僕もなんとか右拳で反撃。


 ペイルライダーは突進のせいで僕の拳を躱す事はできず、いや、そもそも避ける気なんて無かったのか?

 ともかく僕の拳は奴の頭部に横から殴りつける形でクリーンヒット!


 また火花が飛び散るものの、明らかに奴の拳を籠手で防いだ時よりも僕の拳が作り出した火花は小さなものだった。


「よう。さっきは君の質問に答えてやったんだから、今度は僕の質問に答えてくれよ?」

「ハァッ!!」


 僕のパンチなんて蚊が止まったようにしか感じていないのか、奴は陽気な声で喋りながらハイキックで僕の首を狙ってくる。


 脚部のイオン式ロケットも併用した回し蹴り。


 僕も同様のハイキックで迎撃するものの、質量差と推力差を覆す事はできずに僕は軸足を中心に独楽のように回る羽目になってしまう。


 しかも1発の蹴りに蹴りを合わせただけだというのに、それだけで僕の右足の装甲は損傷を負っていた。

 対して向こうに損傷はまるで見られない。


「おっと、なあ? なんで羽沢真愛だけ皆から助けてもらえるんだろうなぁ?」

「知るか!!」


 奴は僕の左ストレートをスウェーで躱しながら、なおも続ける。


 でも、僕が吐き捨てるように叫びながら背部のウェポンラッチからマーダーマチェットを取り出して斬りつけると、それは奴の予想外だったようで洋鉈の一撃は奴の胸部装甲から火花を散らさせた。


「答えてくれたって良いじゃない? 忍者ヤローに集団ストーカー、果てはD-バスターまで。ヒーローに犯罪者、何も考えてない欠陥品まで揃いも揃って羽沢真愛を救おうとする。何でだ?」

「真愛さんはお前とは違う!!」


 洋鉈の一撃で盛大に火花を散らした割りに奴の装甲はさして傷付いたようには見えず、もしや鉈の方が削れて火花を出したのかとも思ったけれど、僕にそれを確かめる暇などない。


 ペイルライダーは左手で僕の左肩を掴んで離れないようにして、右拳でボディーブローを叩きこんできたのだ。


 削岩機のように拳が打ち付けられるたびに僕の体を衝撃が襲い、その度に火花が飛び散る。

 まるで僕の装甲が花火にでもなったかのようだった。


「僕は誰にも助けてもらおうなんて思ってないし、助けてくれるような奴なんかいないだろうけどさ。兄さんは違うだろう? なんで! なんで兄さんの事は誰も助けてくれなかったんだろうな!?」


 こいつ!

 さっきは「復讐ではなく、殺すと決めたから殺す」とか言っといて!

 結局は兄さんを誰も助けてくれなかった事を根に持ってるのか!?


「挙句の果てには“こっち”の世界の自分まで敵に回るとはね! うん? 君は僕よりも馬鹿なのかな? 僕ならこんなに実力差がある相手の前に単身出てこないけどね! 君は最初の狙撃で僕を倒せなかった時点で帰るべきだったんだよ!!」


 何度ボディーブローは叩き込まれただろう?

 やがて奴は飽きたのか、それとも猫が鼠をそうするようにいたぶるつもりなのか、左肩から手を離して僕の胸板に前蹴りを叩きこんだ。


 気付いた時には僕は展望台のコンクリートの柱に背中から叩きつけられていた。


 メインフレーム複数個所損傷、副動力炉機能停止寸前、1番冷却器機能停止、2番と3番冷却器にもダメージ。さらに殴られていた腹部より下のエネルギー伝達パイプも機能低下。


 僕の脳内モニターは洪水のように溢れだしているエラー報告で埋もれてしまいそうになっていたけれど、どの道、対処できるようなものではないのだ。

 無視する事にする。


「ああ、君が僕より馬鹿だったと考えれば辻褄は合うか? だから君は兄さんを殺せなかったんだ」

「……さんは違う」


 僕は笑いたい気持ちになっていた。


 ペイルライダーは憂さ晴らしのように僕をいたぶるつもりらしいけど、生憎と僕からすれば真愛さんの逃げる時間が稼げるなら望むところ。


「あン?」

「兄ちゃんの事は知らないけど、なんで皆、真愛さんの事を助けようとするのかは分かる……」

「ふ~ん。なんで?」


 幸い、損傷個所のリストだけで脳内モニターが埋まってしまいそうになるほどのダメージだけれども、致命的な物は何もない。


 なら、僕はまだ戦える。

 奴がビーム兵器を使う気になる前に砕けたコンクリートの中から体を起こしてペイルライダーへと向かっていく。


「真愛さんはあのポンコツD-バスターですら助けようとしていたんだぞ! アンドロイドだって分かっているのに『友達だから』って!」

「ふ~ん。でも1つだけ言わせてもらうと友達は選んだ方が良いよ?」


 それは否定できない!


「僕は真愛さんがそういう優しい人だから、真愛さんのためにならお前にだって向かっていけるんだ!」

「でも機械人形を助けるために脳味噌だけとはいえ人間の君を死なせる事になるって、それ、馬鹿じゃね?」


 咳き込むように時折、燃焼を止めてしまうイオン式ロケット騙し騙し吹かして突っ込み、殴りかかっていく。


 僕の必死決死の覚悟にも関わらず、ペイルライダーの方はまるでDVDでも見ながらボクササイズでもやっているかのように揚々と軽く僕をいなしながら拳を交えていた。


「そりゃ馬鹿だろうさ! それでも僕は真愛さんには真愛さんらしくいて欲しいんだ!!」

「黙ってどっかに隠れていりゃいいのに、それでわざわざ出張ってきて、そんでこんな目に会ってると? アホか?」


 さっき殴られまくっていた時に僕の手からマーダーマチェットは落ちていた。


 そして奴の拳と足は僕の顔面を打ち、胸板を叩いて、腹部へと突き刺さる。

 なんとか致命打となりそうなものだけは爪付籠手で防いでいたものの、僕の装甲の数か所にはすでに亀裂が入っていた。


 しかも僕がまだ生きながらえているのはただ奴が遊んでいるから。

 奴が腰からビーム銃を取り出したり、あるいは手元に大鎌を転送してしまえば、僕は後は極めて分の悪い一瞬の賭けに自分の命運を賭けるしかないのだ。


 だから僕は当分は不毛にも思えるような武器を使わない戦いをし続けなければならない。


 きっと僕がビームマグナムを抜いたり、大鎌を呼び出したりすれば、きっと奴も同じように武器を使いだすだろうから。


 こればかりは自分自身の相手を舐める癖に助けられた形だ。

そういや誠君がボコボコにされるのって今回が初めてですかね?

プロローグは苦戦させてる割りに最初って事もあってアッサリとした感じにしたし。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何故だろう、デスサイズの方は死を覚悟しているのにペイルライダーは手加減できる程度には余裕綽々・・・これが『強者の余裕』って奴ですか? でもそういう奴は大抵の場合、『侮っていた相手に不意を付…
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