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「お客様ぁ~! 普段のビジネスシーンでかさ張るアサルトライフルを持ち運べない時ってありますよねぇ~! でも、ボディアーマーへの備えもおろそかにしたくない。そんな欲張りなビジネスパーソンの皆様にご好評頂いているのがコチラ! ベルギーはFN社が開発したP90!!」
背広姿の糸目の男はまるでテレビか何かの通販番組のような事を言いながら手にした短機関銃を連射する。
「ふぁっ!! なんだこのオッサン!?」
長方形の箱型に近い異形の短機関銃P90は一般的な短機関銃が拳銃弾を用いるのに対して、専用に開発された5.7×28mm弾を用いる。
小口径の弾薬を用いる事で初速を上げ、近距離では軍用規格のボディアーマーすら貫通しうる威力を発揮するのだ。
だが、その小口径弾の高初速と連射力も改造人間を捉える事は叶わない。
糸目男の身のこなしを見て次に銃口がどこへ向けられるか予測して回避しつつ、避けきれない弾は長剣の腹で受け流していた。
「大将ッ!」
「おう!」
糸目男の合図に応えるのと同時にタクシードライバー風の男の右人差し指に嵌められた金の指輪から炎が迸る。
「冥王が命ずる! 炎よ! 敵を撃て! ≪キマンジ≫!!」
ごく短い詠唱で迸る炎は収束して渦巻く火球を形作り、タクシードライバー風の男が火球を押し込むような動作をすると敵目掛けて一気に加速して飛んでいく。
世界最高峰の改造人間である石動誠もさすがに魔法は警戒したのか、その場から大きく跳んで15メートルほど離れた自販機の上へ、それからもう1度跳んで展望台の屋根へと逃れた。
その隙に糸目男はほぼ弾を撃ち尽くした短機関銃のマガジンを交換。
だがタクシードライバーと霜の張り付いたアンドロイドは距離を取った改造人間へと追撃を行う。
「あ~……、ビームガンあったかいんじゃあ~!」
「風よ! 我が先駆けの益荒男となり敵を包め! ≪カラッカ≫!!」
先ほどD-バスター1号の体を包んだ風よりも遥かに酷烈な風はもはや千万の軍勢の突撃にも似て少年を押し包む。
「くぅっ……!」
石動誠は姿勢を低く落として四方八方から襲い来る猛烈な風に耐えながら、それでも敵から目を離さずD-バスターのビームガンの速射を回避。
「ちょっ! おま、折角、体が冷えて自爆の心配がなくなったのに何でまたビームガン使って熱を出すの!?」
「馬鹿め! 私たちがそんな事を気にするとでも思ったか!」
ビームガンを発射する事にD-バスターの深部体温は再び上がり始め、皮膚や髪、着ている衣服に張り付いていた薄氷はすでに溶けて水へと変わっている。
だが死の恐怖をとうに振り払っているD-バスターは両腕のビームガンを撃ち続け、光弾は空を切り、展望台の屋根を撃ち抜いて天へと昇っていく。
「そして今ならなんと! これからの行楽シーズンに重宝する閃光発音手榴弾を1ダースお付けしてお値段据え置き! お値段据え置きなんです!!」
風魔法で動きを阻害しているにも関わらずD-バスターのビームガンを回避し続ける石動誠に、糸目男は搦め手を仕掛けようとスプレー缶のような形状の物を2つ展望台の屋根へと放り投げる。
糸目男が使ったのは米軍でも採用されているM84。
通常の爆発によって周囲に破片を撒き散らして敵を殺傷する破片手榴弾とは違い、マグネシウムを主原料とするM84が発する閃光と爆音はそれをマトモに見た者の感覚を失調させ無力化する事ができる非致死性兵器である。
「うわっ! 目が、メガァ……」
そして現に閃光をマトモに見てしまったD-バスターが目をしばたたかせているように、改造人間や人造人間の目である光学センサーといえど、夜間の暗さに慣れた状況ではスタン・グレネードで無力化はできないまでも死角にダメージを与える事ができるハズであった。
「……さすがは大アルカナと言ったところかな?」
だがD-バスターよりも遥かに至近距離でスタン・グレネードの閃光と爆音に晒されたハズの石動誠はまるでダメージを負ったようには見えない。
「僕を大アルカナと呼ぶのは止めてくれない? 僕はもう大アルカナなんか遥かに凌駕した存在なんだよ」
「そう……、かい?」
先ほどまで吹き荒れていた暴風にもみくちゃにされたTシャツを気にするように両手でパンパンと叩いてみせる少年はとてもスタン・グレネードの影響下にあるとは思えなかった。
「それにオジサンが魔法使いなのは分かったけど、もしかしてソッチのオッサンは超能力者?」
「驚いたな……、もうタネがバレたのか……」
少年の言葉に糸目男はスーツの袖を腕まくりしてみせ、そして何の雑作も無くそのまま腕を前へと差し出すと指先からゆっくりとカメレオンのように姿が消えていく。
手首まで消えたところで今度は逆に手を引き抜く動作をするとまるで逆再生のように手首から手、そして指が現れた。
そしてその手には大型の自動拳銃が握られていた。
短機関銃の替えのマガジンも、2つのスタン・グレネードも、この不思議な能力をもって取り出した物だろう。
「異空間収納能力。君は私をただの人間のように見ているかもしれないけれど、私はこの能力のおかげで針鼠のように武装しながら身軽に動けるのさ!」
糸目男「Ω-8」は名を福田という。
そして、その超能力は読んで名のとおり自身だけがアクセスできる異空間に物品を出し入れできるというもの。
かつて営利犯罪企業「悪徳商会」においてはその異空間収納能力を用いて違法な物品の密売に深く携わり、グンマ出張所所長の地位まで上り詰めた男である。
異世界グンマにて「冥王S」と呼ばれていた榊原と出会った福田は人身売買に禁制品の密輸といった悪事で資金面から冥王の覇道を支えていた。
一見、戦闘には役に立たなそうな能力ではあるが、かつての取引ルートから仕入れた多種多様な火器を持ち運べるという事はただ1人の男に軍隊並みの火力を与えていたのだ。
「ついでに言わせてもらうとね。君は自分を大アルカナと呼ぶなと言うけど、私だって言わせてもらいたい。私は冥王。ただの魔法使いと一緒にしてくれるなッ!」
そしてタクシードライバーの榊原こと「Ω-7」。
彼もまた、支配者だけではなく戦士としても超一流の男であった。
先に簡単に発動してのけた≪キマンジ≫に≪カラッカ≫はそれぞれ灼熱属性、疾風属性の上級魔法である。
グンマ系統の魔法においてはさらに強力な≪ヤキマンジュー≫≪カラッカゼ≫が存在するが、それらは一流の魔法使いが数十人単位で協力して発動させる大規模なものだ。
榊原のように複数の属性の上級魔法を個人で発動でき、さらにその詠唱を短縮する事ができる者などもはやグンマの地においても存在しない。
魔法使いに超能力者。
榊原と福田の2人は先の「ハドー総攻撃」において揚陸艇2、戦闘用獣人3、戦闘ロボと空戦ロボ合わせて60の戦果を上げていた。
超次元海賊と呼ばれるハドーとて榊原の魔法に抗う事はできず、福田が町中に突如として作り出す要塞の如き火力には対応する事ができなかったのだ。
「……もう後悔しても遅いよ?」
だが新手が魔法使いと超能力者と知ってもなお少年は不敵に口角を歪め、そして展望台の屋根の上で左手を前へと突き出した。
「……変身!」
いつの間にか少年の手首に顕れていたブレスレットに嵌め込まれていた円環が回りだす。
ちなみにグンマ系統魔法の雷属性も出そうかと思ったけど名前が思いつかなかったのでパス!
あと本作ではこれまで「地球人で魔力を持つ者は極めて稀」みたいに書いてきたけど、グンマは異世界なのでセーフ!




