表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第52話 デスサイズ、死す!!
455/545

52-9

「ありえない! D-バスター如きが僕に触れただなんて!」


 平行世界の石動誠は駆け出していた。

 手元のビームマグナムを消し、代わりに“皇帝”の長剣を呼び出して。


 激昂していたというわけではない。

 かといって冷静だったわけでもない。


 石動誠にとってD-バスターが自分に触れたという事は、たとえ一切のダメージがなかったとしてもありえない事なのだ。


 太陽が西から昇って東へ沈むような。

 地から天へと雨が昇るような。

 カンカン照りの真夏の日差しの下で凍えるような思いをするような。


 理解不能。

 石動誠の心中を一言で表すならばその言葉に尽きる。


 故に少年は真っ白になった頭で理解不能の事象を排除しようと駆けたのだ。


 改造人間用の20kg近い重量級の長剣は走る少年の体が沈みこむたびにアスファルトに触れて甲高い音を立てて火花を散らす。


 そのまま片手で逆袈裟のように振り上げて斬りつける。


「……ハッ!」

「フゥゥゥ、ファタアァァァ!!」


 D-バスター1号は迫る斬撃にも動じずに半身の姿勢を取り、僅かに体を反らして剣閃を避け、そのまま少年の空いた脇腹へと前蹴りを叩きこんだ。


 最適の間合い。

 最高のタイミング。

 最善の選択。


 D-バスターは脇腹へしたたかに打ち込まれた前蹴りを素早く引き戻すとそのまま前へと詰めて、敵の右のコメカミへと拳を打ち込む。


 だが追撃はそこまで。

 小さく低弾道のバックステップで距離を取ると、対する敵も剣を中段に構えてジリジリと後ずさる。


「お前……、D-バスターじゃないなッ!? 近接戦特化の改造型か!!」

「いいや……」


 あまりに的外れな石動誠の言葉に思わず笑みが零れた。


それ(近接戦特化)は1式D-バスターだ。私は遠距離から中距離戦用のD-バスター1号だ」

「はぁっ? え? 1式? 1号? ど~ゆ~命名規則だよ?」

「……ちなみにさっきチャリ持って帰ったのが初号機な!」


 敵を挑発するため、自身が中遠距離戦用の存在である事を誇示するべく右の前腕部の3連装ビームガンをカシャカシャと展開、収納を繰り返して見せるも、石動誠は別の事に気を取られていたために僅かに気落ちする。


 ……だが、まだ手はいくらでもあるのだ。

 少なくともD-バスター1号の仮初の命が尽きるまでに使い切れないほどには。


 脇腹に叩き込んだ前蹴りも、しっかりとコメカミを捉えたハズの拳もロクにダメージは与えられていない。


 そもそも脳以外の全身ほぼ全てを人工物と置き換えている大アルカナが脇腹だのコメカミだのといった人体の急所を打たれたところでダメージがあるわけがないのだ。

 もしダメージを与えられるような威力の攻撃ならば、そもそも急所を狙う必要もない。


 だがD-バスター1号にとって最大の攻撃力を誇る両腕の3連装ビームガンはこれまでそのことごとくが躱され続けていた。


 D-コマンダーⅤの話では3連装ビームガンは平行世界で大量生産されていたD-バスターの標準装備だったそうだ。

 つまりはこれまで百数十体のビームガン装備のD-バスターと戦ってきたペイルライダーにとってはもっとも読まれやすい攻撃といってもいいだろう。


 しかしD-バスター1号の手にあるカードが3連装ビームガンである以上はたとえ手札がブタであってもそれで戦わなくてはならない。


 ビームソードを使う元祖D-バスターも、電撃付きの特殊合金製ワイヤーを使う本家D-バスターも、異星の格闘術を使う1式も今はすでにショゴスと融合してしまっている。

 幸い、何でかショゴスと融合してしまったD-バスターたちは“人外たらし”こと西住涼子に懐いているために先の騒動でも破壊されずに済んでいた。だが、もうこれ以上は元同僚たちを戦わせる気にはD-バスター1号にはなれなかった。


 おまけに自分の他に唯一、残っているD-バスター初号機の専用武装は水中専用武装パワード・スーツである。


 “こちら”の石動誠は空を飛べる自分たちと戦うためのD-バスターが空を飛べない事に疑問を抱いていたが、D-バスター1号からしてみれば空を飛んでいる敵は自分がビームガンで撃ち落とせばいいだけ。むしろ問題は水中専用の装備を持つ初号機だ。


 なにせ水深1000メートルの水圧に耐えながら戦闘を行う事ができるパワード・スーツの内部機構として調整を受けている初号機であるが、そもそも石動誠も石動仁もそんな深海に行く事は無いのだ。当然ながら「UN-DEAD」のアジトだってそんな場所にはない。


 おまけに水中環境での戦闘に適応している初号機は海水を冷却に使う事を念頭に置かれているために陸上でリミッターを解除してしまうと他のD-バスターたちの半分ほどの時間で自壊してしまう。

 陸上で使う武器は無いというのにだ。


 つまりD-バスター1号はたった1人で時間を稼がなければならない。

「天昇園」から出る時に宇佐と伽羅の自転車に乗っていく事を言い出したのも、初号機に自転車を持って帰らせるため。


 だがD-バスター1号は1人であって、1人ではない。


 彼女が製造されてから約1年の時を共に過ごした「UN-DEAD」の仲間たちはそのほとんどがすでに死んでしまった。

 しかしD-バスター1号はアンドロイドであるが故に彼らとの思いでを色褪せる事なく記憶し続けている事ができるのだ。


 近接格闘戦用に作られた1式だけではなく自分にも格闘戦の訓練を施してくれたベルサー星人。

 日本の少年なら誰しもが知っているマンガを教えてくれた狩野。

 そしてどんな難敵が相手だとしても、仲間のため自分を犠牲にしてでも戦い続ける闘志を教えてくれたライノグレネード。


 対して敵は自分を舐め切って変身すらしようとしない石動誠。

 つけ入る隙が無いわけではない。


 今また石動誠はD-バスター1号目掛けてまっすぐに駆け出す。

 今度は長剣を両手で握りしめて右肩に担ぐようにして。


「そう何度もまぐれが起きると思うな……!」


 長剣で仕留めるつもりというよりは、まるでそのままタックルでもしてくるつもりなのかというほどの勢いで少年は突進してきていた。


 悪くはない選択肢だろう。

 そもそも石動誠は元々、可愛いだけのただの少年。

 そして改造人間にされたとて今、手にしている長剣は彼の標準装備ではない。

 石動誠は剣術など知らないのだ。


 マトモに剣を振るえないのならば改造人間としての性能でゴリ押しですり潰すつもりなのだろう。


「ハァァァ……!」


 改造人間の突進を前にD-バスター1号は避けるような事はせず、ゆっくりと深呼吸しながら両腕を回して構えを取っていた。


 左腕は下から回しつつ、肘を曲げながら頭の上へ。

 右腕は上から回しながら股間の下へと。

 脚は先ほどのような片足を下げた半身の形ではなく、左右へと広げられていた。


 日本の少年ならば誰しもが知っている世紀末マンガに記されている秘奥義の構え。


 さらにD-バスターはタイミングを見計らって衣服と手に仕込んでいた自動車のドレスアップ用青色LEDを点灯。


「ほ、北斗七星ッ!?」


 LEDによって作られた7つの点は同じくLEDの線によって繋がれ、星座の形を作っていた。


 遮二無二、剣どころか肩からぶつかるような勢いで突っ込んできていた石動誠もこれには思わずビクリと足を止めてしまう。


 無論、石動誠とて良く良く見てみればそれがLEDによる物だとはすぐに気付いただろう。


 だがD-バスター1号はその僅かな隙を見逃さなかった。


 一子相伝の暗殺拳、その秘奥義の構えから放たれるは神速のカウンター。

 すでに両者の距離は互いの鼻をつまめるほど。

 そして足を止めてしまった石動誠にほとんど接射のビームガンを躱せるハズもない。


「く、くぅぅぅ……」


 だが石動誠は意図的に左へと倒れ込むようにする事でビームガンの速射のほとんどを避け、銃口の位置的に避けられないものは自身との軌道上に長剣の刃を持ってくる事で辛くも被弾せずに回避する事に成功していた。


 そのまま地面を転がるようにしてD-バスターから距離を取る。


「ちょ、おま! 小細工が酷すぎるだろッ!?」

「君を相手にしているんだ。やれる事は何だってしてやるさ……」


 D-バスター1号は“こちら”の石動誠と羽沢真愛のために時間稼ぎをするつもりである。

 しかし今の策なら「ワンチャン、やれんじゃね~の?」という思いもあった。

 だが、その必殺の策も不発。

 しかも手傷の1つすら負わせられないとは、さすがに想定外だ。


 “向こう”の石動誠の人間態の人工皮膚に損傷を与えておけば、自身が自爆した後も羽沢真愛の捜索に不便を強いるであろうと思っていたのだが、それすらも叶わないとは。


 しかし、ここで止まるわけにはいかないのだ。

 次の策へと移る。


「それよりも夜空を見てみろよ……」

「うん?」


 D-バスターはゆっくりと右手の人差し指で天を指さし、石動誠の注意を空へと向けさせる。


「君には見えるんじゃないか? 北斗七星の隣で赤く輝く死兆星が!」

「ええと、6月の北斗七星の位置は、と……、って、ほぁぁぁ!?」


 石動誠が夜空の北斗七星を探している隙に、D-バスターは右腕を頭上に上げたまま、左腕をゆっくりと動かしてビームガンを発射!


 だが、これも石動誠に寸前でバレてしまい回避を許してしまう。


「お前、卑怯過ぎるだろ……」

「はっ!? 私ぃ、悪の組織の『UN-DEAD』製なんで~、卑怯とか良く分かんな~い!」

今まで設定すらしてなかった残り1体のD-バスターの専用装備を今回でこじつけてやったぜぇ~!


水中戦用パワード・スーツはUN-DEADのアジトに置きっぱなしで政府に接収されてしまったと思うから本編で使う事はないだろうし、補足説明しておくと、D-バスターはアンドロイドなので人間みたいに圧縮空気のボンベやら空気のチューブやらは必要ないのですが、代わりに背中に補助冷却器を背負う形。


補助冷却器のおかげでリミッターを解除しても稼働を続ける事ができるけど、戦闘開始とともに補助冷却器を投棄して身軽になって戦い、他のD-バスターと同様に戦闘開始10分ほどで自爆しちゃう。

武器はパワードスーツになんやかんや付いてると思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] Dバスター・・・やり方はこすい気がするけど、善戦している! 勝ちそうには見えないけど。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ