表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第52話 デスサイズ、死す!!
448/545

52-2

 忍とは隠れる者、眩ます者、そして忍ぶ者。


 だが現代日本東京H市において、たとえ月の無い夜であっても人1人が姿を潜めるような真の闇などありえるのだろうか?


 改造人間のセンサー類を相手に自らの姿を眩ます事など本当に可能なのだろうか?


 否!

 忍の者が身を隠すのは夜の闇でもなければ、僅かばかりの物陰でもない。


 真の忍は人の心の虚を突く。

 故にたとえ目の前で剣閃交える敵であっても謀る事ができるのだ。


 宙を跳ぶ機動装甲忍者(アーマード・ニンジャ)が銃を構える少年目掛けて左手を向ける。


 平行世界より来たりし殺戮者は未だ精神的に未熟なところも多いものの、その戦闘経験と敵の気迫に何かが来ると瞬時に判断してバックステップで距離を取ると次の瞬間にはアスファルトの道路に五寸釘よりもいくらか太い何かが3本突き刺さっていた。


 機動装甲忍者が身に纏う強化戦闘服(パワード・スーツ)「IGA-デバイス」の左手首に装備されている棒手裏剣(シュリケン)射出機(・ランチャーL)だ。


 硬化タングステン製の棒手裏剣は深々とアスファルトに突き刺さるほどの威力を有しているというのに世界最高峰の改造人間である石動誠であっても気付けたのはアスファルトが砕ける音を立ててから。


 アスファルトに突き立った棒手裏剣の実物を見てみれば、艶消しの黒に全体が塗られた物であり、手裏剣を見る事ができなかったというのは百歩譲って分かる。


 だが、射出された時の音も聞こえなかったというのはいかなるトリックだというのか?


 銃火器のように火薬で発射されたものではないにして、仮に圧縮空気や機械式あるいはバネ式だとしても改造人間の音感センサーにすら探知できない程度の音しか立てずにこれほどの威力を出せるものだろうか?


(……いや、音を立てないというわけじゃない。音をかき消しているんだ!)


 その小さな体格には不釣り合いに大型のビーム拳銃を手に少年がほくそ笑む。


 ヒントは忍者が大地に着地しても大して音を立てなかった事である。


 装着者に超人的な身体能力を与えるパワード・スーツの重量はいかほどのものだろうか。いかにも装甲の薄そうな機動装甲忍者の見てくれであっても、その内部に収められた機械自体の重量自体はかなりのものとなるであろう。


 人間1人の体重に加えてパワード・スーツの重量。

 その大重量が高さ3メートルは優に超える大ジャンプをしておいて、その着地がまったくしないというのはあまりにもおかしい。


 つまりは音がしないのではなく、かき消されているのだと判断するのも自然な流れである。


(この高周波音か! ……タネが分かれば!!)


 石動誠は地に降りた忍者に対してビームマグナムの引き金を引いた。


 一見、不可思議に思えた無音の忍者の謎であったが、蓋を開けてみれば大した事はない。

 先ほど忍者が姿を現してから周囲に鳴り響いている高周波音にかき消されていただけの話である。


 最初はその高周波音こそがパワード・スーツの作動音かとも思っていたが、それにしてはスーツがいかに動こうと周囲の音が変移しないのはあまりにも不自然。

 ようは事前に周囲各所へスピーカーを設置していただけの事。


 そして棒手裏剣の射出機も、スーツの足音も、周囲のスピーカーから流れる高周波音に紛れるようにチューニングされているがゆえに無音に感じられるのだ。


 だが石動誠がビームマグナムの引き金を引くのとどちらが早かっただろうか?

 機動装甲忍者の姿が4つに増えていたのだ。


 ビームマグナムの摂氏数万度のプラズマビームはその内の1つを容易く引き裂くが、ビームマグナムは連射の利かない武器であり、ゆっくりとながら迫りくる3体の忍者に慌ててハンマーを起こして再度、射撃。


 だが、もう1体の忍者を撃ち抜いたと思った瞬間、別の1体の背後から機動装甲忍者が跳び上がった。


「ちぃっ!!」

「ドゥフフ! どうでゴザルか? 忍法、分身の術は……」


 分身の術の正体は火薬の燃焼反応によって生じるガスを利用して瞬時に展開されるバルーンである。


 バルーンの背後から飛び上がった忍者はそのまま背部のウェポンラックから引き抜いた黒い忍者刀(シノビ=ブレード)で少年に斬りかかった。


 その刃はまっすぐ唐竹割りに石動誠を断ち切るかと思われたが、瞬時に少年の左手に転送されていた長剣によって忍者刀は顔面まで僅か数cmのところで止められていたのだった。


「その剣も超合金Ar!? 厄介なッ!!」


 シノビ=セラミックス製の忍者刀が長剣に止められると、向こうの剣には刃こぼれ1つ見受けられないというのに機動装甲忍者自慢の刀は僅か一合で半ばまで亀裂が走ってしまう。


 さすがに大アルカナを超えた存在、ペイルライダーである。


 ここまでは機動装甲忍者の思惑通りだった。

 平行世界の石動誠が周囲に設置したスピーカーから流れる高周波音に戸惑ったのも、そしてすぐにそのタネに気付くのも計算通り。


 事実、機動装甲忍者は左手で棒手裏剣を射出していながら分身の術の起動のための印を右手で結ぶ事ができていたし、その事に気付かれる事もなかった。


 そして高周波音のトリックに気付いたが故に実際は何1つ有利になどなっていないというのに石動誠の精神は緩み、分身の術の心理的効果を増す事になっていたのだ。


 それが忍者の戦い方であった。


 だが、それも一瞬で帳消しとなる。

 セラミックス製の忍者刀は切れ味と軽量さを併せ持つものの金属のような粘り強さは持たず、1度、亀裂が入ってしまえばもう使い物にはならない。


「……ッッッ!!」


 忍者は刀を放り捨て、両手の折り畳み式手甲鈎で斬りかかるが、それも容易く長剣で防がれてしまう。


 それどころか少年は剣術のケの字も知らないような無茶苦茶な振り方ながら上手く鈎爪に剣を合わせて、バッサリと爪は半ばから切り落とされていた。


 機動装甲忍者の「IGA-デバイス」の装甲材と手甲鈎の材質は同一の物。

 これは平行世界の石動誠が振るう“皇帝”の剣は容易く機動装甲忍者をも切り裂く事が可能である事を示していた。


 “こちら”の石動誠が記された依頼の手紙によれば、いくらペイルライダーといえど人間態では時空間断裂刃は使用できないハズであったし、事実、長剣は転送されてきてから1度たりともあの特徴的な赤い光は発していない。


 純粋に“皇帝”の長剣は剣として優れた物であるという事だろう。


「よしッ!!」

「チッ……!!」


 石動誠は長剣を横薙ぎに振るって牽制しつつ、バックステップで距離を取り、剣を右手に持ち帰ると左手を胸の横に掲げて構える。


 それが人間態から怪人態への変身のポーズだと瞬時に察した機動装甲忍者もそうはさせじと両手首の棒手裏剣(シュリケン)射出機(・ランチャーL)十字手裏剣(シュリケン・)射出機(ランチャーR)を乱射して辛くも変身は阻止する事ができていた。


 手裏剣が空気を切り裂き、棒手裏剣がコンクリートのブロック塀を砕いて、十字手裏剣が電信柱を切りつける。


 石動誠も飛びのきながら命中する軌道の手裏剣は長剣の刃の腹で防ぐ。

 音もせず、光学センサーでも熱探知カメラであっても捉える事もできない手裏剣であっても、手首から発射される事が分かっている以上は剣を盾にする事は容易い。

 それくらいの演算能力がなければ“恋人の鱗粉”のビームの軌道を制御する事などできやしないのだ。


「忍法! 火遁の術!!」


 機動装甲忍者が背部のウェポン・ラックから取り出した手投げ弾を投げる。

 石動誠を狙ったものではない。

 自身と石動誠の丁度、中間地点に落ちた500mlペットボトルほどの大きさの金属の容器は着弾と同時に内部に充填された薬剤を噴出して同時に点火する。


 容器に充填されていた物は大部分がナフサ。

 ようは機動装甲忍者の火遁の術とは小型のナパーム弾である。


 無論、火遁の術にせよ先の分身の術にせよ、本来は発声の必要は無い。


 だが機動装甲忍者は手裏剣の弾幕を石動誠が回避し、あるいは剣で防ぎながら再び左手を掲げて変身のポーズを作ろうとしていたのを見逃さなかったのだ。


 そして今からウェポン・ラックから手投げ弾を取り出して投げつけ、それが着弾するまでの時間があれば敵に変身の時間を与えてしまうと判断し、先に声を上げて変身を躊躇わせていたのだった。


 いわば、あえて分身の術の術名を教えていたのは、敵に対して忍法への防御反応を促す布石である。


 さらに忍者は火遁の術の熱と光に紛れて跳びあがり、手裏剣とナパーム弾の雨を降らす。


「ええい! 卑怯だぞ!? 変身中は黙ってお行儀良くしてろッ!!」

「ドゥッフッフ! んなこと言ったって、君だって拙者がデバイスを装着する時に撃ってきたでゴザルよ!」

「……クソッ!!」


 石動誠も忍者に負けじとブロック塀に跳び乗り、電信柱を蹴ってナパーム弾の生み出す灼熱地獄から逃れようとしながら悪態をついた。


 改造人間である石動誠にとって、忍者が放つ手裏剣もナパーム弾もどれも致命傷とはならない。


 そもそもナノマシンによる再生能力を持つ彼にとっては人口皮膚であろうと人口毛髪であろうと時間さえかければ再生可能なものである。


 だが、その時間こそが問題である。


 ヒーローである機動装甲忍者が羽沢真愛に変装し、なおかつ“こちら”の世界では羽沢真愛のクラスメイトである自分を攻撃する。


 これはネットの掲示板に書かれていた「羽沢真愛の命を狙う者」とは自分の事だとバレているという事だ。


 何故か?

 それは今は考えない。


 今はとっとと目の前の忍者を始末して羽沢真愛を追わなくてはならないのだ。


 そのために人間態の損傷もできるだけ避けなければならない。

 たとえ機能的に問題がなかろうと、周囲の者に奇異の目で見られるような損傷はそれだけで羽沢真愛の追跡を困難にするであろうし、再生のために時間を費やすなどもっての他だ。


 だが目の前の忍者もわざわざこうして自分の前に姿を現すだけあって中々の強敵である事は認めなくてはならない。


 先ほどから忍者は自分が変身する事だけはなんとしても防ごうとしているのは見え見えだ。


(……でも、まだ手はある!)

今年は花粉症がしんどいのですが、マスクが相変わらず手に入りません(´;ω;`)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ニンジャ兄貴めっちゃ強い! アクが強いキャラで良いですね! 次も楽しみにしてますぜ!
[良い点] スッゴク忍者マンガっぽい描写やシーンが一杯で引き込まれました! なのに、アーマードニンジャさんの口調は完全にテンプレオタクのそれ・・・もしかして、三浦君の口調はお兄さんの受け売りなのか? …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ