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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第51話 戦闘開始
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51-7

「えっ……?」

「あ、すいません……」


 隣に座る石動誠が漏らした「Ω-ナンバーズ」という単語に思わず榊原も驚いて少年の方へと目を向けると、全長3km近い宇宙巡洋艦を単独で沈めてしまうような戦力を有する少年も赤面して小さく頭を下げていた。


「あ、いや、構わないのだけど、君、もしかして12チャン見てるのかい?」

「え、ええ。でも、なんで?」


 不思議そうな顔をする少年に榊原も自分のスマホの画面を見せると合点がいったのか「ああ!」という表情をして、だがすぐに引きつったような表情へと変わる。


 デスサイズという大アルカナは元々、暗殺を主目的として設計された改造人間なのだという。

 なるほど、かの秘密組織ARCANAの戦力であれば敵対する者、あるいは組織を完膚無きまでに殲滅することは容易かったハズだ。だが、敵対組織が巨大であった場合、真正面から戦っては時間がかかりすぎるという事も十分に考えられる。

 そういう場合はデスサイズを潜入させて要人を暗殺し、組織を瓦解させてしまう方がてっとり早いという事もあるのだろう。


 確かに隣のソファーに座る少年の表情はコロコロと変わり、それが見る者に親しみの情を抱かせるのだ。

 案外、石動誠の子供のような可愛らしい外見は彼の兄が天から与えられた天才的な格闘センスと並びたつものなのかもしれない。


「……え~と、もしかしてオジサンも集団ストーカーの仲間だったり?」

「ち、ちがうよ!?」


 スマホの画面を見せた事で榊原もネット掲示板の同じスレッドを見ている事が知られたわけだが、スレの最新の書き込みを見てみると、羽沢真愛の護衛班が石動誠にビーム攻撃を受けて撮影機材を喪失したという報告があったばかりだ。


 何か誤解があるのかと努めて榊原は明るい笑顔を作るものの、先ほどまでと違って石動誠はよそよそしい態度になっていた。


 あからさまではないがジリジリと榊原から距離を取り、ジトッとした目で彼の事を警戒している事を隠そうとしない。

 その辺を歩いている小学生にいきなり「君のお母さんが病気で倒れたから一緒に病院に行こう。さ、車に乗って!」とか言ったら、きっと今の石動誠と同じような態度になるだろう。


「しゅ、集団ストーカーとか人聞きの悪い事は止めてくれ」

「……違うの?」

「非公認非認知のファンクラブのようなものだ!」

「…………」

「ちょっ!? ま、待って!?」


 今度こそ石動誠はハッキリと榊原から距離を取って1つ離れたソファへと動こうとする。


 これにはたまらず榊原もいくらか大きな声を出してしまう。

 羽沢真愛のクラスメイトである石動誠に誤解されたままであるというのは今後の活動に差し支えるという事もあるが、彼は知り合ったばかりの少年に嫌われたくなかったのだ。


 それにしても羽沢真愛の護衛班を狙撃したハズの石動誠がなんでスーパー銭湯にいるのだろう? と思わないではないが、狙撃を受けたという報告が何時間か前の事柄を何らかの事情で遅れて報告したのかもしれないと思えばありえない話ではないと納得する。


「……ほ、ほら! 書き込みに『護衛班』ってあるだろ? 俺たちもまったくもって役に立たないわけじゃあないんだよ?」

「そうなの?」


 榊原はしばし思案したものの集団ストーカーと非公認のファンクラブを隔てる明確な線引きができず、代わりに話を反らして石動誠に自分たちの存在意義をアピールする事にした。


「ほら! ゴールデンウィークの初日にあった『ハドー総攻撃』、あの時に真愛ちゃんも後輩のヤクザガールズに協力したって話は覚えているかい?」

「う、うん……」

「その時に真愛ちゃんは避難場所からヤクザガールズの拠点である大H川中学校まで移動したわけだけど、その時の護衛は自衛隊の可変型ロボット、ヴァリアントだけだっただろ? おかしいと思わないかい?」

「うん? どゆこと?」


 石動誠は「ハドー総攻撃」の時は反攻作戦の発動まで温存され、作戦が開始されて後は真っ直ぐに敵中枢へと突入していったのだ。

 つまり石動誠はあの時、羽沢真愛を守らなかった。

 責めるつもりはないが、自分たちの存在意義を認めさせるには十分だろう。


「ほら、ハドーの雑兵のロボットはともかく、ハドー怪人にはレーザー兵器は無効だって事は君も知っているだろう?」

「……ああ」

「なのにヴァリアントたち3Vチームの主武装はレーザー兵器。しかもヴァリアントは空を飛べるといっても真愛ちゃんを抱いて速度も出せるわけもない。そして君も知ってのとおり、あの時は地上も空中もハドーの連中で埋め尽くされていたのに真愛ちゃんは無事だった」


 一説には統幕のブレイブファイブに対抗して航空自衛隊がその航空宇宙技術の粋を集めて作り出したと言われているのが3機の可変ロボット、3Vチームだ。

 ヴィクター、ヴァルカン、ヴァリアントの3機はそれぞれ差異こそありすれ、そのコンセプトから最も大型のヴィクターであっても人型形態時の全高は約3メートル弱。


 特怪事件に対応するためにそのサイズとなったとはいえ、そのそうな機体サイズに航空機形態から人型形態への可変機構まで詰め込まれては当然、武装には大きな制限がかかっている。


「ハドー総攻撃」時に羽沢真愛の護衛に当たったヴァリアントの武装はレーザーガンの他には2基の91式携帯地対空誘導弾と5.56mm汎用機関銃が1丁のみ。

 一応、航空機形態で体当たりするように主翼で斬りつける攻撃もできないわけではないが、とても生身の人間を抱いた状態で使えるようなものではないのだ。

 これではとてもハドー怪人と戦えるようなものではない。


「……となると?」

「その時に真愛ちゃん自身にも知られずに戦ったのが『Ω-ナンバーズ』さ!」

「はえ~……」


 先ほどまで榊原の事をまるで毒虫か何かを見るかのような目で見ていた石動誠が感心したような顔をしていた。

 話に興味が湧いてきたのか、1度は離れていったのがジリジリと榊原の方へと近づいてきてさえもいる。


「ま、ようは『Ω-ナンバーズ』っていうのは、ウチらの中のトップオタってヤツだね」

「トップオタ?」

「アイドルのオタだって、ただ知識だけ蓄えてれば良いってものじゃないだろう? ウン十曲とある曲の振りつけを完璧に覚えて踊れなきゃライブの最前線は張れない。そうだろ?」

「その辺は僕には分からないですけど……」


 先ほど石動誠にコーラを奢る時にキャバクラにハマる同僚の気持ちが分かったような気がした榊原であったが、石動誠の興味深そうな上目使いの眼差しはあるいはキャバクラ以上であるのかもしれない。


 自分のような中年のオッサンが少年相手に知っている事をひけらかし、それを興味深そうに聞いてもらえるという事がこうもインスタントに自尊心を満足させるとは。

 榊原も思わず知らない扉が開いていくような感覚を味わいながら良い気になっていた。


「ま、アイドルのオタなら踊ってコールしてれば良いのだろうけど、真愛ちゃんのファンクラブはちょっと特殊でね。『Ω-ナンバーズ』に数えられるのは10人のみ」

「どんな人たちなんですか?」

「そら、他の奴らから認められるような実力者じゃなきゃなれないよね。ハドー怪人相手に切った張ったの大立ち回りして無事に帰ってこられるような連中じゃないと。そうじゃないと自分のために怪我した奴がいるって知れば真愛ちゃん泣いちゃうかもしれないだろ?」


 良い気になって喋った後で榊原の精神状態は急上昇から一転、一気に急降下していく。


 先ほど自分で「非公認非認知のファンクラブ」と言っておきながら「自分のために怪我した奴がいるって知れば真愛ちゃん泣いちゃうかもしれない」とは、あまりに自意識過剰と思われたのではないか?


 内心、ドギマギしながら石動誠の表情を窺ってみるも、変わらず少年は半ば呆けたように興味深そうに自分の知らない世界の話を聞いていてくれたので榊原もホッとする。


「ま、そんなわけで『Ω-ナンバーズ』っていうのは自他ともに実力のある者たちでね。誰よりも最前列で真愛ちゃんの活躍を見てゾッコンやられちまった奴らだって話だよ。……1名を除いてね」

「1名を除いて?」

Ω(オメガ)(エックス)……」


 つい先ほど勝手にドギマギした照れ隠しか榊原は必要も無い事をベラベラと喋っていた。

 それを自覚できないわけでもないが、少年の上目遣いの視線を見ているとついもう少し石動誠と話を続けていたくなるのだ。


 もしかするとデスサイズには主任務である暗殺の前段階である情報収集を円滑に進めるような機能でもついているのであろうか?


「ほれ、君の知り合いのアーシラトっているだろ?」

「え、ええ……」

「彼女は別に我々の仲間ではないし、そもそも彼女は我々の事なんか知らないだろうけど、『Ω-ナンバーズ』だけでは真愛ちゃんを守れそうにないって時にアーシラトを引き寄せて敵にぶつけるって計画があるらしくて、そういうわけでその計画内で彼女は『Ω-X』として扱われてるそうだよ」

「へぇ~、なんか昔の怪獣映画みたいですね」

「ハハッ! そうだね!」


 石動誠の言葉に思わず榊原も声を上げて笑う。

 若者と話のネタが通じるのはそれだけで愉快な事であったし、確かにアーシラトとかいう話が通じているのか通じていないのか良く分からない、まるで暴風雨のような存在はサイズこそ人間と大して変わらないだけで怪獣と大した違いもないのかもしれないと言い得て妙だと思える。






「今日は色々と教えてもらってどうもありがとうございました。あ、コーラもご馳走様です」


 やがて石動誠はペットボトルのコーラを飲み終えると立ち上がり、榊原に対してべコリと頭を下げる。


「ああ、また会える事を祈っておくよ」


 榊原も名残惜しい気持ちはあるが、少年をわざわざ引き留めるだけの理由もない。

 結局、石動誠が去った後は食堂に向かい、ツマミと缶チューハイを購入して席に座り途中までだった掲示板の書き込みの確認に戻る。


 だが、缶チューハイを開けて1口、喉を湿らしてすぐに彼のスマホに着信が入った。

 スマホの着信画面には「Ω-8」の文字が躍っている。

 榊原は口の中に小振りの鶏軟骨の唐揚げを1つ放り込んでから電話に出た。


「もしもし? 大変だったみたいだな。あのカメラ幾らだっけ?」

「レンズも込みで120万だ。そんな事より招集だ。『Ω-7』」

「あいよっと……」


 先ほど、もう少しで榊原が口を滑らせそうになっていた事。

 それは彼自身が「Ω-ナンバーズ」の一員であるという事だ。


 榊原が石動誠に対して言った「誰よりも最前列で真愛ちゃんの活躍を見て」というのは、とどのつまり「Ω-ナンバーズ」とはかつて魔法少女プリティ☆キュートこと羽沢真愛と戦い、彼女の気まぐれか命のあった者たちだという事。


 かつて“中つ国”グンマ圏にてオークを率いて覇を唱え、小学校の遠足でグンマを訪れていた羽沢真愛と戦い敗れ去った「冥王S」こそ榊原のかつての姿である。


 そして営利犯罪企業「悪徳商事」のグンマ出張所所長であった「Ω-8」とはグンマ時代からの友人であり、仲間内では「グンマ組」として知られていた。

なおグンマでは真愛ちゃんが考えなしに榊原さんを追っ払ったせいでオークたちの統率が無くなり被害が増えてる模様。

でも、その内、咲良ちゃんあたりが力の象徴である指輪を届けに行かされるんじゃないかと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >>非公認非認知のファンクラブのようなもの 『モノは言いようなんだな』って感じました。 結局やっている事はストーカー行為なのに・・・。 やっぱりタクシー運転手のおじさんもストーカーの一人…
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