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「ど、どしたの? 石動君……」
「せんせ~! なんか1.5キロ先から盗撮されてました~!」
「そ、そう……」
数Ⅰの山崎先生は何度も目をパチクリさせながら僕とビームが飛んでいった先を何度も見返していた。
そら、いくら特怪災害に慣れたH市の教員とはいえ1km以上も先から盗撮されてるなんて想定外だろうし、ましてや生徒が授業中に大出力のビーム兵器をブッ放すなんて何と言ったらいいのか分からないだろう。
相川さんに窓を開けてもらった後に席を離れてもらったのは超高熱のビームの余波を懸念しての僕なりの配慮だろうと山崎先生も理解しているのだろう。
もしかしたら「盗撮くらいで命まで奪う事は……」と言いたいのかもしれないけれど、多感な時期の生徒たちの前だ、盗撮犯を擁護しているとでも受け取られれば生徒たちから、特に女子なんかからは総スカンを食らいかねないと考えているのだろうか。
「……ふむ」
山崎先生はビームの熱でアルミサッシの窓枠が壊れていないか確認するために開け放たれた窓枠まで行って、窓を開け閉めして壊れていないか確かめると、いつもの笑顔に戻っていた。
「はい。石動君、お疲れ様。後で話を聞くかもしれないからその時は協力よろしくね」
結局、山崎先生は校長なり警察なりの判断を仰ぐ事にしたのか教卓へと戻っていく。
そして、それからほどなくしてチャイムがなって昼休みの時間となった。
昼休みになってしばらくは教室中の皆が僕の元に押し寄せて質問攻めにあったけど、明智君が自分のタブレットで録画していたライブカメラの映像を見せて盗撮されていたのは事実だが、大して面白い物が映っていたわけではないという事を説明してくれる。
僕のビームマグナムを見せてほしいという人もいたけど、銃身とか人間が触ったら凍傷になるほど冷却されているから危ないと説明したら素直に信じてくれたのか、すぐに興味を失ったようだった。
それからいつものように天童さんと三浦君の机を僕の机とくっつけて、そこに真愛さんも来てお弁当を食べ始める。
「誠。これを見てくれ」
「あれ? 明智君、お昼御飯は?」
いつもなら明智君は自分の席で御弁当を食べ終えてから僕たちの所に来るというのに、僕たちが御弁当を開いて昼食を食べ始めたかくらいのところで明智君がタブレットを持ってくる。
明智君から受け取ったタブレットを見てみるとブラウザでネットの提示版が表示されていた。
(凸厳禁!)真愛ちゃんを見守るスレPart810
542: ヒーローオタのゆうすけ 20××/06/××(月) 12:23:13.52 ID:××××.net
なんか勉強中の真愛ちゃん撮影してたらデスサイズにビームブッパされたんですけどwww
543: ヒーローオタのゆうすけ 20××/06/××(月) 12:23:59.03 ID:××××.net
ひぇっ! 成仏してクレメンス!
544: ヒーローオタのゆうすけ 20××/06/××(月) 12:24:30.21 ID:××××.net
≫542 嘘乙
デスサイズに狙われて、何で生きて書き込みできるんだよ?
545: 542 20××/06/××(月) 12:25:16.88 ID:××××.net
≫546 グンマ帰りを舐めんなwww
距離さえとっときゃ大アルカナ相手だって逃げ切ってみせるわwww
まあ50万するカメラはやられちまったけどな!
546: ヒーローオタのゆうすけ 20××/06/××(月) 12:26:30.75 ID:××××.net
電車で行ける異世界、グンマか。
異世界帰りとなると今日の担当はΩ-ナンバーズか?
チッ、……生きてやがったのか。
ていうか、何だよ? 「Ω-ナンバーズ」って。おっかねぇ……。
明智君の推測によると彼らは以前から真愛さんを集団ストーカーしていたのなら、僕がこの街に引っ越してくる前から彼女とよく一緒にいたアーシラトさんに気付かれる可能性もあったわけで、そうなると命に関わりかねないだろう。つまり「Ω-ナンバーズ」とはアーシラトさんや僕から逃げ切る事のできる能力をもった者たちによる集団なのではないかという事だった。
「さて、計画の練り直しが必要だな……」
ネット掲示板の話はそこそこに明智君は溜息混じりに切り出してくる。
集団ストーカー共の事はひとまず置いておくにして、問題は奴らのせいでペイルライダーがすぐさま行動を起こしかねないという事だ。
昨日、明智君は泊満さんやフュンフたちからペイルライダーの情報を得た後、わざわざ災害対策室へと直接、足を運んで対応を検討していた。
それも通信を傍受される事を避けるためだったのだけど、考え無しの連中のせいでそれも無に帰してしまっていたのだ。
「ちなみにだけど、明智君は今の所、真愛さんの避難場所はどこを想定しているの?」
「ああ……」
僕の言葉に明智君はチラリと周囲を見やり、周りの人に聞かれるのを警戒してかポケットからスマホを取り出して何やら操作して打ち込んでから僕に見せてくる。
そこには「地下帝国」という文字があった。
地下帝国というのは地底人類たちの国で、明智君は中1の時に彼らに拉致され、地上の支配権を賭けてデスゲームをさせられて勝利していたのだ。
その時に確か勝利者である明智君は彼らに1度だけ何でも命令できる権利を得ていたハズ。
その権利を行使して真愛さんを保護してもらおうというつもりだったのだろう。
さらに明智君はスマホに「彼らの迎えは早くとも明日の正午になるらしい」と打ち込んで僕に見せる。
なるほど、地下といってもどこにあるのか分からない地下帝国からの迎えの時間を考慮して明智君は2日間の時間を想定していたのか。
「ちなみに彼らとの連絡の取り方なんだがな……」
「あ、それは言わないで!」
「……そうか」
ペイルライダーの能力はまだ未知の部分がある。
フュンフから見せてもらった動画で奴が撃破した皇帝の右腕や装甲のナノマシンを奪ったのは見ていたが、それだけではなく僕が破壊された後、電脳が無事だったならばハッキングをしかけて情報を抜き取るという事だってできるのかもしれない。
なにせペイルライダーは“もう1人の僕”と言ってもいいような存在だ。
僕が使いそうなパスワードの文字列なんかはすぐに推測できそうなものだし、クラスメイトや「子羊園」の子供たちの誕生日を組み合わせてみようかとも思ったけれど、ゴチャゴチャと数字を組み合わせれば組み合わせるほど僕の思惑が混じって、かえって奴が推測しやすい事になりかねない。
つまり僕は自分が破壊された時の事も考えて、重要な情報は本当に必要なものを除いては知らない方が良いのだろう。
ふと真愛さんが悲しそうな顔をしているのが目につく。
そりゃ僕と明智君と2人揃ってしかめっ面をしていればそうもなるだろう。
真愛さんは自分のせいで他者に危険に及ぶという事に平然としていられる人ではないのだ。
素直に配慮が足りなかったと反省する。
こういう時は兄ちゃんみたいにまるで何も考えていないかのように底抜けに明るく振る舞っているべきなのだろう。
……もっとも兄ちゃんみたいにホントに何も考えていないのもそれはそれでどうかと思うけど。
「真愛さん、僕の顔を見て!」
「えっ……?」
「どう? チョロそうな顔でしょ? こんなん相手なら幾らでも上手くやれるって!」
「まあた、そうやって自虐ネタを……」
僕は上手く笑えているだろうか?
真愛さんが口を尖らせながらも頬を緩ませるのを見て、僕も心が温かくなるのを感じていた。
兄ちゃんみたいに皆のヒーローにはなれないかもしれないけれど、せめて真愛さん1人のヒーローではありたいものだと思う。
それに僕にも明智君ほどではないけれど、1つだけ“良い案”が浮かんでいた。
無論、それだけでペイルライダーを倒せるというものでもない。
ただ地下帝国からの迎えが来るまでという時間を限っての事なら良い時間稼ぎになるだろう。
前回の盗撮犯、実はまだ生きてました。
そのくらいの事で人間を殺すのも主人公さん()が反感もらいそうだし、かといって前回でネタバラシまでしちゃうと長くなりすぎるし、それに大事なのは「そのくらいの事で殺すつもりで行動を起こした(殺人未遂)」って事の方なのかな?って。




