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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第50話 邂逅
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50-5

 真愛さんと2人きりの下校。


 明智君は泊満さんや鉄子さん、ルックズ星人にD-バスターたちと今後の対応を協議するために市の災害対策室庁舎へと向かっていった。


 大きく傾いた太陽は街を夕焼け色に染め上げ、それはいつもならば穏やかでのんびりとした1日の終わりを実感させてくれたものであったろう。


 しかし今日ばかりは赤く染まった景色はまるで違ったモノに見える。


 朝来た道が血に染まったようにも、炎に包まれているかのようにも見える。


 それはフュンフから見せられた動画のせいもあるのだろうけど、それだけではない。

 なにせこの街のどこかにペイルライダーが身を潜めているのかもしれないし、あるいは今こうしている次の瞬間に僕と同じ顔をした殺戮者が目の前に飛び出してくるかもしれないのだ。


 でも、僕の気持ちを重く沈ませているのが真愛さんの様子だった。


 彼女は部室で解散となってから一言も口を開いてくれていない。

「それじゃ今日のところは帰ろうか?」と僕が言ってもいくらかムッとしたような顔で頷いて返してよこしただけ。


 こうして下校中も並んで歩いでいても真愛さんはそのままの表情だ。


 やはり命を狙われているというのは恐ろしいのだろう。

 いや、真愛さんの怒ったような顔は恐ろしいというよりは明らかに不快の色を示している。


 平行世界の存在とはいえ、真愛さんの命を狙っているのが僕だから?

 部室で「命に代えてでも守る」と言った直後に「刺し違える事すらできそうにないよ」と言ったのがお気に召さなかった?


 いつも笑顔を浮かべている真愛さん。

 天童さんやD-バスターがわけの分からん事を言い出しても困った顔で笑っているような彼女のそんな顔を見るのは初めての事なので、僕もどうするべきなのかわからずにただただ僕は何も言えずに彼女と並んで歩いていた。


 できれば真愛さんには笑顔でいてほしいと思いながらも、生憎と僕には主体的に問題を排除する力は無いのだ。


 せめて「ペイルライダーが真愛さんを狙っている」というのが僕の思い過ごしであってくれれば……。


 半ば現実逃避に近い事を考えながらも、平行世界の自分の事を思うにそれはあり得ないだろうという事だけは分かる。


 ロキに騙された事に思い至った“向こう”の僕にとって、それでもロキが賭けの代償として言い出したトールハンマーは諦めるには惜しい物だろう。


 “向こう”のロキはトールハンマーなる武器の事を「もっとはかどる」だの「意外と便利」だの僕が好きそうな言葉を並べ立てていたっけ。


 実の所、「トールハンマー」なる武器、あるいは兵器は僕が考えるに大した物ではないと思う。


 ちょっとネットで検索してみたけれど、伝承によると「トールハンマー」の持ち主はよりにもよってロキの息子と相討ちになって死ぬというのだ。

 あのロキの、だ。

 あのモヤシっ子というか、ヒョロヒョロとしたゴボウ野郎の息子と相討ちっていくらなんでもしょっぱすぎやしないだろうか?


 まぁ、その息子さん本人とはあった事がないけど、多分、きっとそうだろう。


 でもペイルライダーの奴からしてみればどうだろう?


 1年かかって日本の人口を半分にして世界中を混乱に陥れてきたようだけれど、それでもこの惑星にはまだ人間が何十億と住んでいるのだ。


 一体、いつ終わるともしれぬ道のりに奴自身、ロキに「飽きてきた」とも言っていた。

 飽いたとしても使命感からその歩みを止める事はないのだろうけど、そんな時に横から「はかどる」だの「意外と便利」などと言われたら、きっと僕ならコロッと話に飛びつくだろう。


 そのトールハンマーを手に入れるため、ペイルライダーは騙された事を知っていながらもロキとの賭けを完遂しようとするだろう。


 “向こう”の世界に戻った時、ロキの顔面に真愛さんの首でも叩きつけて「これでいいんだろ!?」とでも言ってトールハンマーの譲渡を迫るつもりなのだ。


 そして、それは真愛さんの首でなければならない。

 いや、ヒーローに詳しくないであろう“向こう”の僕にとっては自分に嘘を付かず、ロキに対しても「賭けに勝った」と言い張れるような存在は魔法少女プリティ☆キュートこと真愛さんしかいないのだ。


 無言で通学路を歩きながら考えてみても、やはり狙われているのは真愛さん以外にはありえそうにない。






 やがて僕の部屋のあるアパートと真愛さんの家の屋根が見えてくる。


 あと少しで家に辿り着くという時、ふと真愛さんは立ち止まって横にいる僕の方を向いた。


「……ねえ、誠君」

「……なあに?」


 僕は努めて平静を装っていたつもりだけれども、その裏腹、僕の緊張を察した電脳は身体の状態を変化させて人口心肺が早鐘を打ち始める。


 僕の様子を知ってか知らずか、真愛さんはいくらかもじもじと躊躇った後に思い切ったように話を切り出す。


「……ねえ。『命に代えても』とか『刺し違える』とか、そういうのは辞めようよ?」

「でも……!」


 僕の言葉はゆっくりと首を横に振る真愛さんが僕を見つめる眼差しに途中で遮られてしまった。


「ペイルライダーはあくまで平行世界の石動誠。貴方じゃないわ」


 いつの間にかさっきまでムスっとした表情をしていた真愛さんの顔には笑顔が戻っていた。

 でもそれはいつもよりも穏やかな物に見える。


「誠君はもっと自分の事を大事にしようよ? 貴方の御両親は貴方を守ろうと死んだ。マーダー・ヴィジランテさんも貴方を守って死んだ。貴方のお兄さんも誠君に後を託して死んでいった。でも誠君までそうする必要はないでしょう? いえ、貴方のために死んでいった人のためにも誠君はもっと自分を大事にするべきだと思うわ」


 ああ、そうか。

 真愛さんが怒っていたのは僕が自分自身の命を大切にしないからか……。


 僕は真愛さんのそういう所はとても好ましいと思う。

 彼女の善良さを真正面から感じられる言葉だ。


 でも、それは真愛さんがかつて最強であったが故に僕の気持ちを理解できないという事がありありと感じられる言葉だった。


 たった1人で宇宙に飛び出して行って旧支配者アンゴルモアの恐怖の大王をソロ撃破してきた彼女には、たかが宇宙船1隻を沈めるのに大勢の力を結集しなければ重力すら振り切れないちっぽけな人間の気持ちは分からないのかもしれない。


 でも、それでもいい。

 たとえ理解されなくとも、人には自分の命を懸けてでも守りたいという時があるのだ。


 真愛さんが例に上げたように父さんも母さんもヴィっさんも兄ちゃんも。そして僕も。


「誠君、誠君が転校初日に私が言った事、覚えてる?」

「もちろん!」


 忘れやしない。

 あの桜吹雪が舞う春の日に真愛さんが言ってくれた言葉だ。


「『折角、平穏な生活に戻ってこれたんだから。これから毎日いつだって『生きてて良かった』って思えるようにしようよ』ってね、言ってくれたよね」

「ええ。だから……」

「だから、僕が暮らす平穏な毎日には真愛さんが必要なんだ」

「え……?」


 僕の言葉に真愛さんはハッキリと動揺の様子を示した。

 ゆっくりと頬が紅潮していくのが見える。

 きっと僕自身も同じだろう。


「平行世界の自分だからなんて理由じゃない! 例えば“向こう”からやってきたのが『ヨソの世界にまで手を広げた“皇帝”』だとか、あるいは『トチ狂った咲良ちゃん』だったとしても同じ事だよ!

 誰が来たからじゃない、真愛さんだから守りたいんだ! たとえ命に代えても!」


なんで誠君は死亡フラグ立ててしまうん?(´;ω;`)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 青春しているなぁ・・・。 死亡フラグを乱立させている誠君だけど、これは『あからさまな死亡フラグを立てる事で、逆に生存する』パターンなのでは?と、変に勘ぐってみたり・・・。 >>あのモヤシ…
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