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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第50話 邂逅
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50-4

「ま、まあ、誠君もそんな怖い顔をしないで。D子ちゃんだって場を和ませようとしてやった事なんだから……」


真愛さんは「アハハ……」と力無く笑いながらD-バスターたちをフォローしているけれど、間違いなくアイツらはマジでやっているわけでそれを「場を和ませるため」なんて言うとかえって2体の立つ瀬がなくなるような気もする。


ていうか確かに僕も「何、やってんだ?」という感じでD-バスターたちを睨んだ自覚はあるのだけれど、そんなに怖い顔をしていたのかな?


思ったよりも僕自身、動揺しているのかもしれないな。


「話を元に戻そうか? 我々は何をすべきだろう……」


D-バスターの茶番を泊満さんが咳払いして終わらせると部室内は再び重苦しい雰囲気に包まれた。


「真愛さんには身を隠してもらっていた方がいいのかもしれない」

「……え?」


僕がそう言うと真愛さんは驚いたような顔をして僕を見つめてくる。


次の言葉を発するのが喉に何かがつっかえているように難しい。


身を隠すと言っても具体的な事はまだ何も言えていない。


いつまで?


ペイルライダーを正攻法で倒せる手段が思い浮かばない以上は奴が諦めて“向こう”に帰ってくれるまでという事になるのだろうか。

一体、それはいつになるというのだろう。


どこに?


それが思い浮かばない。

僕の電脳にはハッキングツールもインストールされていて現代の地球の技術で使われる暗号通信は意味を持たない。当然、“向こう”の僕にだってその機能はあるだろう。

例えば防衛省かヒーロー協会なりに真愛さんの保護を頼んだとしても、誰かが電子メールで真愛さんの事を書いてしまえばそれだけで真愛さんの身に危険が及ぶのだ。


「そりゃあ真愛さんの事は僕が命に代えてでも守るよ。でも、でも……。う~ん、こういうのは言い難いけどさ、刺し違える事すらできそうにないよ……」


真愛さんにこう言わざるをえないのはなんとも情けない話だ。


僕にとっては世界が滅茶苦茶になる事よりも、文明が崩壊するような事よりも真愛さんが死ぬような事の方がよっぽど大ごとなのだ。

でもその1人の女の子すら守る事ができない。


そして、それを自分の口から当の真愛さんに告げなくてはいけないとは。

つくづく自分が情けないと思う。


……あれ? うん?

今、「刺し違える事すらできそうにない」っていう言葉に気を取られて、もっと別の言い辛い事をさらっと言ってしまったような気が?


僕が辺りを見渡すと天童さんと鉄子さんがなんでかニヤニヤとした顔で僕の方を見ていた。


「ちょっ、そんな……」

「明智君、災害対策室の木村室長あたりに真愛さんの保護を頼めないかな? なんなら今日からでも本格的な場所が見つかるまではどこか自衛隊の基地にでも」

「……いや、それは避けたほうが良いかもな」


しばらく椅子に座ったまま腕組みをしながら下を俯いて考え込んでいた明智君が顔を上げる。

彼は眼鏡をクイッと左手で持ち上げて言葉を続けた。


「自衛隊の基地といっても警備はザルなのはお前も知っているだろう? それにどこに奴の目があるかわからん。中途半端な行動は奴に警戒されるだけかもしれんぞ?」


そういえば僕のハッキング機能については明智君も知っているのだった。


去年の夏、埼玉で行動を共にしていた時、航空自衛隊の入間基地で彼と寝食を共にしていたわけなのだけれど、譲司さんたちが弾薬の補給申請だの出先での食事の仮払いの清算などの書類を彼に投げていたのを僕が見かねて手伝ってあげようとした時、パソコンのパスワードを知らないハズなのにログインしていた僕に彼が聞いてきたのだ。


そして深夜までパソコンとにらめっこして作戦を練っている彼のためにコンビニまで買い出しに行ったりもしたわけなのだけど、基地内のコンビニは就寝ラッパで閉店になるし僕たちに割り当てられていた隊舎は正門から遠く、正門で警備の人に入出門許可証を見せるのも面倒なので基地を取り囲む柵を飛び越えて買い物に行っていたのだから自衛隊基地の警備のザルさについては僕自身が一番良く知っている。


自衛隊の基地というのは思った以上に広大で航空機や銃器などの兵器類を納めている場所以外はそんなモンなのかもしれない。


「そうだなぁ、1日……、いや2日待ってくれ。ペイルライダーでも居場所が掴めないような隠れ家を見つけ出す。それまでは誠、お前が羽沢を守れ!」

「ハハッ! あいかわらず無茶を言う」


明智君が言う事は時に無理難題に思える事がある。

でも、彼はけして不可能な事は言わない。少なくとも彼自身は「困難であっても実現可能」くらいに思っている。


去年の埼玉ではヤクザガールズの先代組長だった米内さんなんか明智君の作戦に荒んでいた頃の僕だってドン引きしてしまうようなキレ方をしていたものだけれど、今は彼の言葉に「お前ならできる」と言われているようで少しだけ気が楽になった。


「……あとさ」

「うん?」

「咲良ちゃんもどっかに行ってもらった方がいいような気が……」


フュンフが見せてくれた動画、その3本目の冒頭で“向こう”の僕は咲良ちゃんにマウント取られてボッコボコにされていた。

しかもその後、足4の字固めなんでかけられているし、もしペイルライダーがこの街に来て偶然にでもこっちの咲良ちゃんを見たらどう思うだろうか?


奴の標的が真愛さんだけだとしても、もしアイツが咲良ちゃんの事をマジでヤベェ奴とか思っていたならば思わぬ障害とならないように咲良ちゃんだけは排除しようと考える恐れがある。


「僕がお金出すからさ、『岩手で雪女が出た!』とか『グンマーでオークの大群が殺到してクサツが陥落しそう』とか嘘で彼女を東京から離せない?」


あ、そういや、咲良ちゃんの仲間の河童さんは岩手から来たんだっけ?

なら向こうの雪女あたりは知り合いでいるのかもしれないし、この手は使えないか。


ならいっその事、熊本あたりに行ってもらうのはどうだろう?

向こうには知り合いもいるし口裏を合わせてもらって「吸血鬼が出た」とか。

それなら向こうの吸血鬼は大概、去年の内に倒しているハズだから咲良ちゃんにも危険が無いと思う。


……まぁ、あの全裸天使を見たらペイルライダーも思わず固まっちゃうだろうし、その隙を突いて奇襲を仕掛けるというのもワンチャンあるのかもしれないけれど、いくらなんでも不確定要素が強すぎる話だ。

電車で行ける異世界、グンマー。

皆おいでよ草津の湯!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ほぼほぼ告白してて草。 戦いの前にそう言う事言うとフラグががが アイアンマンみたいに3000回愛してる感じかな? 次も楽しみにしてますぜ!
[良い点] 430話到達、おめでとうございます。 これからもがんばってください。 >>「そりゃあ真愛さんの事は僕が命に代えてでも守るよ。でも、でも……。う~ん、こういうのは言い難いけどさ、刺し違える…
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