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天へとプラズマビームの青い閃光が走る。
10体の改造D-バスターとの息もつかせぬ戦闘による緊張。
そのD-バスターたちが全機揃って自爆した事で訪れた精神の弛緩。
ラーテの対空砲火を掻い潜って迫る時の高揚感。
そしてD-バスターとラーテを脳波で操っていた泊満さんの首の骨を折って確実に仕留めたと思ったであろう油断。
ペイルライダーが戦闘中に感じたであろう精神状態の移ろいは全て泊満さんの手の平の上で踊らされていたにすぎない。
それらは全てこの一撃のための布石だったのだ。
泊満さんの力を抜けた体をラーテの車外へと放り投げ、ペイルライダーが遺体の様子を確かめるように車体の上から下を覗き込むという事をどうやって泊満さんが予想できたのかは分からない。
そもそも遺体をラーテの右側に投げ捨てるか、左側に投げ捨てるかなどはフィフティ・フィフティの賭けのように思える。
でも泊満さんはその賭けに勝利した。
すでにD-バスターを操る泊満さんは絶命しているのであろうが、FPSゲーム風に言うならば「置きエイム」のようにリミッターの解除を遅らせた1体のD-バスターを待機させておき、敵が姿を現した時に攻撃を開始するように設定していたのだろう。
“向こう”の僕も伏兵の存在に気付いて体を反らして攻撃を避けようとするものの、ただ1機残ったD-バスターのビーム砲はペイルライダーの右肘を撃ち抜いて超高熱のプラズマは貫通。
重装甲のペイルライダーとて関節部まで装甲で覆ってしまえば身動き取れなくなるという事か。
青白い装甲で覆われた肘から先の右腕は宙へと飛び、そこへD-バスターのビーム砲が追撃してほどなく奴の右腕は完全に蒸発して消滅する。
「……次へ繋げたという事か」
右腕を失ったペイルライダーへの追撃は胴体でも頭部でもなく、溶断された右腕へと行われていた。
自身の命という取返しのつかない代償を払いながらも泊満さんは不確かな勝利よりも、次へと繋がる布石を選んだのだ。
激昂したペイルライダーは手元に転送した大鎌を最後のD-バスターへ唐竹割式に頭頂部から振り下ろし、ビームマグナムをラーテに打ち込んで完全に破壊する。
フュンフが映し出す映像はそこで終わり、部室は再び暗闇に包まれる。
「こうして日本政府からはマトモな戦力は完全に喪失。残ってるのはどう脳味噌こねくりまわしてもロクな戦力にはなりえないような装備くらいなもの。世界最高峰と言われたヒーローたちも何らかの事情で地元を離れられないご当地ヒーローくらい。『UN-DEAD』もパパが首括っちゃって私と総統の2人で開店休業……」
フュンフがパパと呼ぶのはルックズ星人の事だ。
宇宙人も首つり自殺とかするんだ、とも思わないではないが気持ちは分かる。
「“そっち”の私は禁忌に手を染めておいて自分だけ生きる事が許せなかったということですか?」
「……だろうね」
「ヘルメス・システム」とかいう脳波コントロール装置は地球人が使うものではないのだという。
実際、動画内の泊満さんは途中で膝から崩れ落ち、脳への負荷のためか鼻血を流していた。
もしかするとあの装置、仮に泊満さんがペイルライダーを撃破していたとしても脳に障害が残るようなものなのではなかろうか?
それに……。
「友人をけして帰れぬ死地へと送り出し、娘のように可愛がっていた私たちから人格を消去して1個の兵器へと作り替える。きっとパパにはそれが耐えられなかったんだろうね……」
やはり動画に映っていたヘッツァーとかいう改造D-バスター、完全に無表情で動作に一切、遊びのようなものが無いと思ったら人格を消去されてたのか……。
アンドロイドは生物ではない。
それは分かってはいるけれど、D-バスターのような人格を持つ機械からその人格を消去するというのは“死”に等しい事なのではなかろうか?
正直、僕にそれをやれと言われたとしてもちょっとどうかと尻込みするというか、ハッキリ言って御免こうむりたい。
誰だってそうだろう。
誰だってそう割り切れるものではないのだ。
そして“向こう”のルックズ星人もそうだったのだろう。
だというのにペイルライダーと戦うために地球人を死へと追いやるシステムを整備し、わざわざロボットではなく人格を持つアンドロイドとして作り出したD-バスターから、それも144機の内、僅かに残った12機の内の11機の人格を消去してただの兵器へと作り変える。
“向こう”のルックズ星人はそれに耐えられなかったのだろう。
そして彼は自ら死を選んだのだ。
「……さて、最後に君たちに見てもらう動画はペイルライダーが“こちら”の世界に来た理由、そして奴の目的が出てくるからね。ドンミスイット!」
部室内に立ち込める重い空気を払うためかフュンフはパシンと手を叩き、それからまた両目を光らせて部室の壁へと映像を映し出していく。
映し出されたのは瓦礫に溢れた街。
でも、その街には見覚えがあった。
4階建てのビルの上に建てられた鉄骨組の電波塔は真ん中辺りからポッキリと折れて倒れているが間違いなくそれは僕がハドーのロボット怪人と戦った場所だったし、そのビルの近くに落ちた看板にも通りの配置も僕が良く知っているもの。
そこはH市だった。
平行世界のH市。
どのような破壊がもたらされたというのか、まともに建っている建築物は1つとしてなく、砕けたコンクリートの破片が砂ぼこりのように舞うH市。
そこに2人の人間の姿があった。
「え? ナニ、コレ……」
「うわぁ……」
僕もその他の初見の皆も思わず声を漏らす。それほどに異様な光景が繰り広げられていた。
そこにいたのは2人の子供。
『オラァ! シャッ、オラァ!』
『な、なんなの!? この子!?』
擦り切れて埃で汚れたセーラー服の少女がマウントポジションで組み伏せたもう1人の子供を殴りつけていた。
狂ったように両の拳を打ち付ける少女の拳の皮膚は破れ、鮮血が周囲の瓦礫や地面に突き立てた黒い杖へと飛び散るがかまわず殴り続ける。
組み伏せられている少年、ていうか僕と同じ姿をした奴も振り下ろされる拳を防ごうと防御姿勢を取るものの、彼の右腕は肘から先が無く鬼気迫る形相の少女の連打を防ぎ切れないでいた。
そして、その少女は僕が知る姿よりも髪が少しだけ長いものの、間違いなく彼女は“向こうの世界”の咲良ちゃんだ。
“向こう”の僕が“向こう”の咲良ちゃんに馬乗りでボコボコに殴られているという光景。
次回、デモンライザー対ペイルライダー!
そして咲良ちゃんの元へ援軍が!?




