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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第49話 パラレル・ワールド
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49-5

 再びフュンフの両目は眩い光を発し始め、部室の壁面へと像を結んでいく。


 そこに映し出されたのは燃える街。

 そして1輌の戦車だった。


 ただの戦車ではない。


 周囲の建築物との対比から推定すると、もはやそれは戦車というよりは「移動要塞」あるいは「陸上戦艦」と言ったほうが近いのかもしれない。


 全長は約40メートルほど、全高も12メートル近くはあるだろうか?

 ホバー推進によって燃え盛る街を進む超巨大戦車。


「ホバー・ラーテ!?」


 チハとは別の意味で戦車と呼ぶには憚られるその兵器には意外な事にネズミという名が付けられていた。


 ドイツ語で“Ratte”とはハツカネズミ属よりも大型のクマネズミ属を指すものであるけれど、ネズミはネズミ。

 並の戦車とは比較する事すら馬鹿らしくなる巨大戦車の名称としては酷く不釣り合いなものに思える。


 元々、ラーテを計画していたのは第二次大戦中のナチス・ドイツ。

 ドイツの戦車と言えば泊満さんが駆るタイガー重戦車やこないだ鉄子さんたちが「子羊園」に乗ってきたルクスなど猫科の動物の名前が付けられるものだろうけど、超巨大戦車にネズミの名を付けたのは情報の秘匿するためだろうか。


 そして旧ナチス・ドイツで計画されたラーテの設計データを入手したナチス・ジャパンが「UN-DEAD」合流後に異星人の技術をもってホバー推進機構を搭載して完成させたのがホバー・ラーテ。


 “こちらの世界”では鳥取砂漠の緑化事業のために平和利用される事となったホバー・ラーテだけれども、“向こう”ではバリバリの戦闘兵器として活用されているらしい。


「さっき、ペイルライダーが東京を核攻撃するって言ったでしょ? この日がその当日。なんとか『虎の王』用に改修を終わらせたD-バスターとラーテで日本政府と『UN-DEAD』は最後の決戦を挑んだんだ……」

「え? 決戦?」


 両目を光らせたままフュンフは説明を入れてくる。


 でも「最後の決戦」という割りに画面の中に映っているのはラーテ1輌だけ。

 車体や砲塔のあちこちから針ネズミのように設置された機関砲や高射機関砲が景気よく曳光弾を上げているけれど、ただ1輌で火の海と化した街をゆっくりと進むラーテの姿は勇壮さは感じられず、かえって虚勢を張っているかのような物悲しさすら感じる。


「水爆なんか使われたら残留放射能で東京は何年も人が住めない場所と化す。日本政府は長年に渡って東京という土地が使えなくなる事よりも一時的に使えなくなる方を選んだ。街に火を放ったのはペイルライダーじゃない。私たちなんだ……」


 暗がりの中でフュンフは街に火を放つという行為を実行に移した時の悔しさを思い出したのかしばらく唇を噛み締めていた。


「なんでそんな事を?」

「さっきの動画でライノさんが使ってた低出力のビームを無効化する粒子があったろ? アレを効果的に使うために火災によって上昇気流を作り出すためだよ。……でも、割り切れるもんじゃあないよね」


 サイ怪人が使ったチャフ・グレネードに混入されていた粒子はゆっくりと地表に落下していっていた。

 恐らくは上昇気流を作る事によって対ビーム粒子の落下させず効果時間を増加させようという苦肉の策なのだろう。


 良く映像を見てみると火災が発生しているのはホバー・ラーテの周囲がほとんどで、対空砲火が飛んでいく先、つまりはペイルライダーがいるであろう方向では火災の規模が明らかに小さい。


 とはいえ敵と戦うために街に火を放つなどという行為が許されるとは、改めてペイルライダーの脅威のほど、そしてラーテと「虎の王」が“向こう”の日本人にとってどれほど重要なものであるのか認識させられる。


「実際、先の『第二次浜松会戦』で切れるカードを出し尽くしちまって、もう政府にも私たち(UN-DEAD)にも組織的な抵抗力なんてもう無いんだ。『虎の王』と彼の『ヘルメス』に全てを託して乗るか反るか後は神頼みってね……」

「ヘルメス?」

「『虎の王』専用ホバー・ラーテ改。そして、それに搭載されたシステムの総称さ!」


 ヘルメスとはギリシャ神話に登場する神の1柱。


 主神たるゼウスの使いであり、旅人の守護神として、また幸運や富を司る神としても知られている。

 その一方で死者の魂を冥界へと案内する「死者の王」としての側面も持ち合わせているという。


 果たして、ヘルメスの名が贈られた戦車は一体、泊満さんとペイルライダー、どちらに死をもたらすというのだろうか?


 ……うん?

 そういや、先に結果は聞いてたっけ。


 フュンフが部室の壁に映し出す映像はそこでカメラが切り替わったのか先ほどまでとはガラリと視点が変わり、1人の男の後ろ姿が映し出される。


 ラーテの砲塔に搭載されたカメラから撮影されたのであろう光景。


 燃える街を見下ろすように大きなヘルメットを装着した男性が腕組みをしながらラーテの車体上に立っていた。


 男性が着ている薄型の宇宙服のような、ロボットアニメのパイロットスーツのような白いオーバーオールから伸びた数本のコードはヘルメットの両側面へと接続され、人が使うにはあまりにも巨大に見えるヘルメットを保持するためにツナギ服の背側からは保持のためのフレームが伸びて支えとなっている。


 ふと男性が右を向くと、やや遅れて右方向の高層ビルの陰から大通りへと青白い光が幾つも現れて蚊柱の如く光は交差しあった。


 その内の1つは僕の良く知るイオン式ロケットのもの。

 恐らくはアレがペイルライダーだろう。


 そしてペイルライダーにまとわりつくように追いすがる8、いや、9、……10の青白い光はアフターバーナーを炊いたジェットエンジンの噴炎のように見えた。


 だがジェットエンジンによる機動とは思えないほどに目まぐるしく上下左右へと動き回り、同じく変幻自在の機動を見せるぺイルライダーをすら数の力で包囲しつつビーム射撃による攻撃を加え続けている。


 さらに絡み合う青白い光たちの後方からさらにラーテが無数の火器で援護射撃を始めるもペイルライダーはおろか10のジェットエンジン搭載機も機関砲弾の射撃の中で変わらずに戦闘を続けていた。


「……アレは?」

「ヘルメスシステムの柱であるD-バスター改だよ」


 フュンフはカメラ映像をズームさせてジェットエンジン搭載機の1体の姿をデジタル補正したものを画面の端へと表示させた。


「……こ、これがD-バスター!?」


 それは僕が知るD-バスターとは良く似ているものではあるのだけれど、それでいてまるで異なるものといえる。


 頭部と右前腕に搭載されたD-バスター1号と同型の3連装速射型ビームガンのみがD-バスターの形を留め、その他の箇所は軽量化のためか人間を模した人造皮膚を排除された姿。


 人間の背骨を模したメインフレームにその他の骨格の代わりとなるフレーム、そして人間の骨格にはない補強用のサブフレームに各種機器が搭載された胴体に、両脚部にはそれぞれターボファンエンジンが装備されてパンタロンを履いたようなシルエット。


 左腕の手も取り除かれて代わりに打撃用なのかノミのような物が装備されているし、何よりも完全に無表情となってしまっているD-バスターの顔が彼女たちがただの機械と化してしまった事を物語っているようで胸が痛くなる。


「……まさか、これは……」


 D-バスター改とやらの姿が画面に映し出された時、これまで黙って動画を見ていたルックズ星人が絞り出すような声を出した。


 彼にはこの姿のD-バスターについて、あるいは「ヘルメスシステム」とやらに思い当たる事があるのだろうか?

 実の所、ルックズ星人は先ほど視点が切り替わった時、ヘルメットを着けた男性が画面に映ったのを見た時から妙にソワソワしているというか様子がおかしかったのだ。


「教えてください。これを……、こんな事をしたのは私だというのですか!?」

「そうだよ。まっ! それをしないといけないくらいに追い込まれていたって事かな? パパが気にする必要はないよ……」


 フュンフは先ほどの口惜しさと隠そうともしない顔から一転、慈悲の心に溢れ、それでいて物悲しい表情でルックズ星人を慰める。


「それにしても、何でD-バスターにこんな動きができるの?」


 10体のD-バスター改は右腕のビーム砲で執拗にペイルライダーへと攻撃を加えているが、対するペイルライダーもパワーに任せて全方位から迫りくる攻撃を避けつつ両手に持ったビームガンで反撃を試みていた。


 右手に持つのは標準装備のビームマグナム。

 左手に持つのは“恋人”から奪った物であろうビームサブマシンガン。


 1本目の動画後半にてビームを無効化する粒子で覆われた防御フィールドの中にいるサイ怪人の両脚を切断したのはビームマグナムによる射撃だったのだろう。

 それほどに威力が高いビームマグナムも連射は効かず、さらにエネルギーチャージにも時間がかかる。


 その一方でビームサブマシンガンは連射も効き、“こっちの世界”で僕たちが戦った時に見たものに比べて威力も増大しているように思える。


 でも威力がどれほど高かろうが、連射が効こうが当たらなければ意味が無いのは一緒だ。


 10体のD-バスター改はジェットエンジンによる機動力もさるものながら、空中で体を捻り、あるいは腕や脚を振って慣性を自在に操って体操選手が空中で姿勢を変えるようにぺイルライダーのビーム射撃を紙一重の所で躱し続けている。


 しかも10体は互いに巧みな連携を取ってペイルライダーを死角を突こうと、あるいは上空へ逃がさぬようにと目にも止まらぬ速さで動き続けているのだ。


 ペイルライダーが1体に狙いを定めようとしても、どうやってそれを察知したというのかD-バスターは死角から、または虚を突いて真正面からビームの雨を浴びせ、そうこうしている内に狙いを定めた1体には逃げられるという具合。


 とてもこれがD-バスターの動きとは思えない。


 僕のイメージだとD-バスターが10体いようが皆揃って全力ダッシュで真正面から突っ込んでいきそうなものなのだけど。

 ……まぁ、奇声を上げて10体のアンドロイドがダッシュで突っ込んできたら僕もビビっちゃうかもしれないけど。


「……どういうカラクリなの?」

「カラクリじゃないよ! システムだよ! 脳波コントロール対応型D-バスター『ヘッツァー』とシステム機材を搭載した車輛、そしてそれらを脳波で操る『虎の王』。これが『ヘルメスシステム』だよ!」

三浦君「ヘルメスっていうか、エ〇メスで御座る……」


ラーテの2連装砲ってエル〇スっぽくない?

なおラーテの操縦や射撃も泊満さんがやってるけど、機関砲や高射砲の給弾のために内部には狩野さんたちが乗ってる模様。


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― 新着の感想 ―
[良い点] Dバスターがファンネルみたいになっている・・・! 関係ないけど、僕は『ファンネル』と『ビット』の違いがよく分からなかったりします。 (ガ○ダム系はスパロボアンソロジーからの知識しかないので…
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