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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第10話 僕の行く末
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10-4

「貴女がラブリー☆キュート?」

「ええ、『元』ですけど……」


 山本組長は信じられない物を見たとでも言わんばかりに目を見開く。

 そしてバッ! っとロッカーに走りだして何か棒状の物を取り出し、真愛さんの元へ駆け寄ってその棒を差し出す。


「す、すいません! これで決めポーズお願いします!」

「え、ええ。いいけど……」


 その棒状の物体はマジックバトンだったっけ? プリティ☆キュートの変身アイテム兼武器を模した子供用の玩具だった。山本さん、プリティ☆キュートに憧れて魔法少女になったって聞いたことがあるっけ。


「マジカルバトン……、懐かしいわね」


 あっ、名前がちょっと僕の記憶と違った。

 山本組長からバトンを受け取った真愛さんは昔を思い出すように目を細める。対照的に組長は真愛さんがバトンを手に持っただけで期待で目を大きく開ける。


「こんなに擦り傷だらけになるまで遊んでくれて、組長さんはキュートが好きなのね」


 小さな頃に買って貰ったのであろう玩具は擦り傷以外にも塗装の剥げなども見られる。だが、それは山本さんが愛着を持ってずっとそれで遊んできたが故だった。今でも彼女にとって大切な物なのだろう。その証拠によく磨かれており、プラスティックの黄ばみや手垢の黒ずみなどは見られない。


「それじゃ……、変身の時のヤツでいいかな?」

「はい!」


「スゥ……」と真愛さんが深呼吸をする。それからバトンを胸の前で構え、軽やかなステップを踏み始める。


「マジカル・ラブリー・マーチン・バトンでピルパルポ~ン!」


 バトンマーチングや新体操の要領でクルクルと体の前後左右でバトンを振り回して、最後は右手のバトンと左手で作ったピースサインを顔の前で掲げてウインクを決める。


「子供は皆、魔法の天使! 愛と勇気の爆熱の魔法少女、ラブリー☆キュート見参!」

「「「おおおっ~~~!!」」」


 変身ポーズが決まると室内にいたほぼ全員が拍手して歓声を上げる。呆気に取られて反応を取れないでいるのはマックス君だけだ。


「いや~、やっぱり人前で見られてると意識すると恥ずかしいわね……」


 真愛さんが顔を耳まで真っ赤にする。やっぱり高校生にもなると恥ずかしいんだ。アレ。


「そんなことないです! 凄い素敵です!」

「大丈夫です! ウチの組の皆は羽沢さんに憧れてこの業界にゲソ付けた連中ばかりです」


 山本さんと栗田さんがフォローを入れる。


「本当にそうだね。結局、君たちがマジカルバトンと呼ぶエグゼキューショナーを使いこなせたのは真愛だけだったよ」


 ラビンとかいう謎ウサギも賛同する。


 ん? ちょっと待て!? あのウサギ、マジカルバトンの事を何て言った? エグゼキューショナー? それって……。僕の疑問に電子頭脳がネットで拾ってきた回答を示す。


≪エグゼキューショナー:Executioner 執行者≫


 これだけだと何の執行者か分からないが、マジカルバトンが武器でもあることを考えると……。


≪エグゼキューショナー:死刑執行人、また転じて殺し屋≫


 ガッデム! あの馬鹿ウサギ、子供に何て物を渡してるんだ!

 だがキャッキャウフフと盛り上がっている女子たちにそれを言う度胸は僕には無い。ゴメンね、真愛さん。




「いい物を見せて貰ったことだし、休憩にして皆でお茶にしましょうか! お土産も貰ったことだし!」

「「「は~い!」」」

「皆さん、今、お茶をお出ししますので座ってお待ちください」

「あ、すいません……」


 1年生と思わしき子たちがテーブルクロスを用意したり、電気ケトルでお湯の準備をしたりする中、応接セットに案内される。


「そういえば今日は小沢殿は休みで御座るか?」

「そういや井上さんもいないねえ?」


 三浦君は命の恩人に礼を言いたいのだろう。僕も去年の埼玉からの知り合いの不在に気が付く。


「いえ、今丁度、小沢も井上も後3人ほどパトロールに出てます。何も無ければそろそろ帰ってくるでしょう。何かあれば通信が入るでしょうし」

「ああ。それで一人、変身してる人がいるんだね」


 ヤクザガールズたちは三角帽子を介して「念話」の魔法で意思の疎通を行う。貴重な魔法を使う代わりに電波妨害などを受けない利点を持つ。もっとも魔法使い以外は魔法が使えないので他のヒーローとの連絡のために別途、通信手段を用意する必要があるのだが。


「ほう? それが魔法少女か?」


 そういやマックス君はこっちの世界の魔法使いに興味があって来たんだった。


「ええ。石動さんも彼女とは初対面でしたよね? 彼女が若頭(カシラ)の宇垣です」

「どうも初めまして。オジキと『蒼龍館の魔王』の話は常々、伺っております」

「いえいえ!」


 またオジキって言われた! そんな歳じゃないのに!


「衣装ばかりでなく、体まで作り変えているようだな……」


 マックス君が顎を手で撫でながら、宇垣さんと他の組員たちを見比べながら言う。


「はい。こちらの世界の人間は魔力の使用が不可能ではないのですが、実用レベルとなると……」

「だから、魔法で肉体を魔力を使用できる物へと作り変えると」

「え? ちょっと待って? その変身するための魔法はどうやって使うの?」

「それは僕から説明するよ。触媒を……、ヤクザガールズたちの場合は魔法の(マジカル)小指の指輪(ピンキーリング)だね。それを用いて生命力を魔力に変換しているのさ。もっとも魔力増幅器(ブースター)も内蔵しているから生命力を使い過ぎて健康上の問題が出るということは無いよ」


 謎ウサギの「生命力を魔力に変換する」という言葉、どこかで聞いたことがあるような気が……、あっ! そういえば!


「ねえ? 先代組長の最期ってさ……」

「なんだい?」


 自分でも驚くほど冷めた声が出るが、ラビンの様子に変わりは無い。


「魔法を使い過ぎてさ。枯渇した魔力を、生命力を変換して補ってね。ついには命を落としてしまったんだ……」

「僕も話には聞いているよ」

「それ、もしかして指輪の安全装置的なモノがユルユルだったりするんじゃない?」

「…………」


 ラビンが無言になる。ウサギの真っ赤な瞳からは彼の真意を窺い知ることはできない。


「答えろ!」


 右手にビームマグナムを転送。目の前のウサギが邪悪な存在にしか見えない。親指を撃鉄にかけ、銃口をラビンの眉間に向ける。

 相手は魔法少女の親玉だ。魔法とかトンチキなモノを使うヤツが相手なら、胴体よりも例え的が小さくとも脳味噌を吹き飛ばした方がいい。僕の経験からの判断だ。

 周りの皆の息を飲む音が聞こえる。


 僕を止めたのは意外な人だった。


「止めてよ……。そんな事、ヨっちゃんは望んでないと思うよ……」


 天童さんが普段からは想像もできない悲しそうな声で僕に語りかける。


「ヨっちゃんはさ。……何て言ったらいいかアタシ、バカだから分かんないけどさ……」


 そう言ってビームマグナムの撃鉄に掛けられた僕の指に自分の手を重ねる。それが払いのける様子でもなく、ただゆっくりと被せてきただけなので、ついそれを許してしまう。

 天童さんは米内さんとクラスメイトだったって言ってたっけな。彼女も何かしら思う所があるのだろう。

 が、天童さんの手がビームマグナムに触れた瞬間、彼女はビク!っと反射的に手を引いてしまった。


「冷たッ! 冷たいっていうか痛ッ! その鉄砲冷たッ! え? どうなってんの?」

「……ビームマグナムは予冷してあるから冷たいよ?」


 予想外だよ! ……なんか白けちゃったな。


「君の疑問に対して、僕は誠意ある回答をしたいが実の所、よく分からないんだ……」


 ラビンが少しだけトーンを落とした声で言う。


「君の言う通り、指輪には安全装置が組み込まれている。それも3重のね。しかも彼女たちヤクザガールズには魔法の実用面での訓練は施しているけど、理論面は教えていないんだ。僕達の用意したセーフティの裏をかかれることが無いようにね。何故、先代があんな事をできたのか。

 これは僕ではなく、本国の調査結果だけどね。『米内蛍の義侠心』の為せる業だってさ。そんなの納得できるかい? 僕には無理だよ。僕達だって彼女たち少女を魔法少女するにあたって、何よりも安全面を考慮してきたつもりさ。もちろん第一に彼女たち自身の安全を考えていたハズだったのに……」


「多分、嘘では無さそうだぞ。指輪に込められた魔術式は巧妙で本来の用途以外では使えないような逆止弁的な機構と、一定量の生命力しか汲み上げられない低容量の生命力電池(ライフ・セル)、それらが機能しなかった時のためのブレーカーのような物が組み込まれておる。それが3重の安全装置というヤツであろう」


 マックス君が宇垣さんの指輪を注視しながら僕に言う。


「流石は石動のオジキ。米内前組長の義兄弟なだけはある。ウチの組事務所で相談役に銃を突きつけるだなんて……」

「それも誰も聞きたくても聞けなかったことを物の数分で言ってのけるなんて……」

「先代とオジキは共に戦ったのは僅かな期間でしたが、先代のためにそこまでの覚悟を決めておられるとは……、先代にとって何よりの手向けです」

「ごめんなさい。オジキが言う前に私がラビンを問い詰めなきゃいけなかったのにね。つい組の再建ばかりに目が行って……」


 つい何の考えも無しに銃を出してしまったが、女子中学生の尊敬の眼差しが良心に痛い。僕はそんなに立派な人間じゃありませんよ?


「流石で御座るなあ。石動氏は死んだ義兄弟のために自分の命を張るとは……」


 三浦君まで感心しちゃってるし! ていうか義兄弟って何? 身に覚えが無いんだけど。こっそり聞いてみよう。


(ねぇ! 三浦君。義兄弟って何?)

(え? 違うので御座るか?)

(まったくもって身に覚えがないんだけど。弁護士に相談したいくらいだよ! それに彼女たち何で僕の事をオジキって呼ぶの?)

(そりゃ先代組長の兄弟分だからで御座ろ? 親の兄弟だから伯父、そういう理屈で御座る)

(そもそも、その義兄弟ってのが……)

(……石動氏、先代と缶ジュースなり1杯のコップの水なり分け合って飲んだりしなかったで御座るか?)

(そういや、彼女たちの撤退支援で殿(しんがり)をやった後に飲みかけの瓶ラムネをもらったっけ……)

(それで御座る! それは「固めの杯」ってヤツで御座る!)

(え? こっちの意向とか聞かないの?)

(向こうはヤクザで御座るよ?)


 嗚呼、納得。


「ッす! コーヒー持ってきました!」


 気合の入ったオカッパの少女がソーサーに乗ったコーヒーカップを差し出してくる。

 ええと、砂糖とミルクはっと……


「あっ! 東郷ちゃん! オジキはオトナだからブラックが好みなんだよ!」


 うん。山本さん。それは兄ちゃんが死んだと思ってた頃にやってた臥薪嘗胆的なヤツでね。つまり屈辱を忘れないため、というか。そんぐらいブラックのコーヒーは苦手なんだ。でも笑顔の山本組長を見ると訂正することもできないもどかしさよ。



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