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「存在しないハズの6体目のD-バスター?」
三浦君と天道さん、真愛さんが隣の将棋部の部室からパイプ椅子を借りてきてくれて闖入者たちが全員座り、草加部長が部室に常備していた缶のウーロン茶を全員に配ったところでカエルのようなぬめった皮膚を持つのっぽらぼうの宇宙人が話を切り出した。
「UN-DEAD」では“新時代の最強ヒーロー”と呼ばれていた兄ちゃんに対抗するため戦闘用アンドロイドD-バスターを製造する事にしたという事。
でも昨年春の超巨大空母「ジャッジメント・デイ」上での戦闘で一時的に兄ちゃんが行方不明になった事でD-バスターの大量生産計画は中止となり、装甲防御力に明確な弱点を抱える僕を相手にするのにはすでに生産された5体のD-バスターの武装を変更することで十分に対処可能とされたという事。
その後、昨年8月のク・リトル・リトル戦で兄ちゃんが再び表舞台に姿を現した時にはすでに稼働していたD-バスターシリーズの反対もあり再生産は行われなかったという事。
「D-バスターシリーズはリミッターをカットして最大出力を発揮すると僅か数分で自壊してしまうという特性があり、彼女たちがそのような仲間をこれ以上増やす事を望まないというのも理解できる話でしたから我々も再生産を強行するという事もありませんでした」
のっぺらぼうの宇宙人、ルックズ星人のアっ君とか言う人。
D-バスター1号から前々から「UN-DEAD」の取りまとめ役は宇宙人がやっているという話は聞いていた。
ただ、D-バスターみたいな珍妙なアンドロイドを作るくらいだからルックズ星人とやらもクレイジーな奴だと勝手に想像していたのだけれど、彼の話方は理性的で知性に溢れ、それでいて穏やかで人間的な情を感じさせる人物だった。
「UN-DEAD」のリーダー格という事もあり最初こそ皆も警戒していたものの、彼のカウンセラーのような、優しい教師のような包容力すら感じさせる口調に次第にピリついていた場の空気は緩んでいく。
「でも現にこの場にはD-バスターが6体いますよね?」
「ええ。私も鉄子君から聞いて驚きましたよ」
僕は部室内を見回してもう一度D-バスターの数を数えてみる。
黒い粘液質に寄生されたのが3体、寄生されてないのが3体。
やはり何度数え直してみてもD-バスターは6体いる。
「ええと、ナイアルラトホテプの奴がなんかしたとか?」
「『なんでもかんでも我のせいにするな!』ってさ!」
鉄子さんは外国ドラマの登場人物のように首を傾げながら両手の平を上に向けておどけてみせるけど、情報保全もガバガバ、幹部が邪神と入れ替わっていても気付かない「UN-DEAD」なら何だってアリという気がしないでもない。
さらにいうとD-バスターの事だし、アメーバが細胞分裂で増えるように増殖して「やってみたらいけた!」とか言い出しそうで怖い。
「何度も同じ事を聞き返すようで申し訳ないのですが、D-バスターの生産数が5体というのは確かなのですか?」
「それはもちろん。D子君の人工知能には私が所属していたフラッグス移民船団の技術が使われてまして、私に知られずに生産するという事は不可能でしょう」
「なるほど」
確かにD-バスターは時々、本当にアンドロイドなのかと思うくらいに人間らしく、このような人工知能が地球の技術だけで作れるとは思えなかった。
質問をした明智君もあっさりと引き下がった事からも同意なのだろう。
「まあ、でもアレでしょ? なんで増えたのかは分からないけどさ、その“6体目”ってのはお前でしょ?」
僕は1体のD-バスターを指さす。
先のD-バスターが言った「ロクに学校行ってないから学生生活にコンプレックスがある」という言葉を証明するかのように何の変哲も無い都立高校の売店で売っている菓子パンを物珍しそうに1人で食べている鉄子さんの左斜め後ろに付き人が控えるように座っているD-バスターだ。
「……よく分かったな!」
「隣に座っているD-バスターじゃなくて、お前がわざわざ身を乗り出して鉄子さんのウーロン茶の缶を開けてやってたからね」
「なるほど。私からしたら当たり前の事なんだけどね」
まあ、鉄子さんも「UN-DEAD」の幹部だと思えば隣に座っている奴が開けてやらないのがおかしいのかもしれないと思うけど、前にD-バスター2体と鉄子さんが「子羊園」に遊びにきた時の事を思えば後ろの1体の方がおかしいと思えたのだ。
「さっきから私の事を“6体目のD-バスター”と言っているけどさ、実のところ私はD-バスターじゃあないんだ!」
「……は?」
鉄子さんの後ろに座っていた1体は立ち上がり、何故か部室の窓を閉じカーテンを閉め始めながら話始める。
「私の製造番号は42。144体のD-バスターを円滑に運用するために生産された分隊長タイプの指揮官型D-バスター、D-コマンダーⅤ。それが私だ!」
製造番号が42?
D-バスターが全部で144体?
ルックズ星人は僕を相手にするのなら5体のD-バスターで十分と言っていたのに?
「もちろんパパが言っていた事も総統閣下が言っていた事も嘘ではないわ……」
「ど、どゆこと?」
もしD-コマンダーフュンフを名乗る彼女の瞳が酷く物悲しいものでなかったなら「お前ら、アンドロイドに“パパ”とか“総統閣下”とか呼ばせてんのかよ!」とでもルックズ星人と鉄子さんを茶化していたところだろう。
でも、僕にはそうする事ができなかった。
すでにこの先の話を聞いているのかルックズ星人も鉄子さんも、そして何より「虎の王」とも謳われた泊満さんですら鉄のように鉄のように重苦しい顔をしていたからだ。
目や鼻、口などの地球人にはある顔のパーツの一切が無いルックズ星人も俯いて小さく首を横に振り、売店のパンにテンションを上げていた鉄子さんも動きが止まっている。泊満さんにいたっては歯噛みしているのか口角を上げて目を細めていた。
「貴方たちはパラレル・ワールドって知ってるかい?」
「パラレル……、ワールド……?」
「平行世界とも言うね。私はそこからやってきた。『滅びかけた世界』から『最強最悪の敵』の存在を伝えるために……」
それが泊満さんが非常事態だと、明確な敵だというモノの正体だろうか?
でも泊満さんは「恐らく世界にも日本にも人類にも文明にも脅威を及ぼさないだろう」と言っていた。なのにD-コマンダーは「滅びかけた世界」から来たという。その世界を滅ぼしかけたのはその「最強最悪の敵」ではないのだろうか?
謎は深まるばかり。
「その敵の名は“ペイルライダー”。奴のせいで私がいた世界では日本の人口は半分に減ったし、144体のD-バスターも私を残して壊滅。そこにいる『虎の王』もあえなく討ち死にさ!」
以上で第48話は終了となります。
次回「第49話 パラレル・ワールド」でまたお会いしましょう。




