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その後、すぐに授業用のタブレット端末にメールがどんどん入ってきて何事かと思ったら、先ほど僕が教室のテレビに表示させた昨年のゼス先生の画像をコピーしてほしいというクラスメイトたちからのお願いだった。
男子生徒たちからのメールが多かったのだけれど、意外と女子からのメールも多い。
この辺はゼス先生の人気の高さを窺わせるものがある。
異星人とはいえ海外のスーパーモデルばりの美貌に加えて親しみやすい性格のゼス先生のあられもない姿であれば男女を問わずに欲しくなるものなのだろうか?
ただ、僕としてはこの画像を本人に内緒で配るというのは少し罪悪感があった。
そうだ!
多分だけど……。
「先生~!」
「うん? なあに」
僕は手を上げてゼス先生に話しかける。
「皆、ゼス先生の写真データが欲しいって言ってるんだけど配布していいですか?」
僕がそういうとクラス中にざわめきが起こる。
「馬鹿、本人に聞いたら駄目って言われるに決まってるだろ!」とか「こそっとくれればいいのに……」という小声が聞こえてくるけれど、僕が思うには地球人の感覚では駄目な事もゼス先生から許可してくれるのではないかという確信に近い予感があった。
「別にいいけど、戦闘服の画像データを欲しがるだなんてさすがはH市民ねぇ……」
「ハハッ! ありがとうございます!」
「なんなら私が作ったロボットとか、あとはあの時に後輩たちが着ていたプロテクターなんかも私が手を加えたものだけど、そっちの画像データも欲しいなら石動君からもらってもいいわよ?」
「……多分、そっちはいらないと思います」
よし!
やっぱり分かってない。
何で皆がゼス先生のデータを欲しがるかなんて分かったらそもそもあんな恰好なんてするわけがないのだ。
ゼス先生の許可が下りた事でクラス中からは歓声が上がり、まだ授業中という事もあって先生が注意しなければならないほどだった。
「そういや先生は金曜日に拘留とかされたんですか?」
「いえ、さすがにそれどころじゃなかったみたいで結局は私もそのまま他の人たちの避難に協力していたわよ?」
僕はタブレットに登録しているフリーのメールアドレスに入ったメールを確認してゼス先生の写真データをそれぞれ送信していく。
教室が落ち着いた所で1つ気になった事を聞いてみた。
ナイトゴーントとかいう連中は大して強くはなかったけれど数が多かったし、あの黒い粘液質に寄生された怪人は旧式とは思えない性能を発揮し、おまけに面倒な再生能力まで有していたのだ。
対してゼス先生の戦闘服は防御と回避にステ全振りで攻撃力は皆無。
それで良く無事で生き残れたものだと思う。
老人ホームのお爺ちゃんたちやお巡りさんに拘留されたせいで逆に保護された形となったのかとも思えばそれも違うという。
じゃあゼス先生も住民の避難の後にはシュブ=ニグラスとの戦闘に参加したのだろうか?
「先生はあのデカい黒山羊とは……」
「冗談でしょ? 『旧支配者には関わっちゃいけない』これ、宇宙の常識だから」
「……そうっスか」
できれば、それは先週の内に聞いておきたかったな~!
具体的には土曜に山羊女がアパートに来る前に!
チラリと後ろの方を向くと真愛さんも「アハハ……」と困った顔で笑っている。
チャイムが5時限目の終わりを告げ、6時間目の古文の準備をしていると私物のスマホに着信通知があった事を示しているのに気付く。
メールと電話の着信が1件ずつ。
メールの方はヒロ研の草加会長から「今日の放課後、部室に集合」との内容だ。
なんだろ?
そして電話の着信の方はスマホに登録していない知らない番号からの着信だった。
「042」から始まる電話番号という事は東京、それも市外局番「03」から始まる23区からではない。さらにいえば東京の23区外でも八丈島や小笠原みたいな離島地域の市街局番は「049」からとなる。
もちろんこのH市も市外局番は「042」だ。
どこからだろうとスマホでその電話番号を検索してみると「特別養護老人ホーム 天昇園」の電話番号である事が分かった。
なら心配はいらないかと6時限目まであと3分ある事を確認してから廊下に出てリダイヤルしてみると呼び出し音が鳴り始めてすぐに電話は取られ女性の声が聞こえてくる。
「はい! 天昇園です」
「あ、もしもし。石動と申しますが、そちらからの着信履歴がありましたので掛け直したのですが……」
「ああ、石動さんですか。私です、鉄子です」
電話に出たのは「ナチス・ジャパン」の鉄子さんだった。
聞けばなんでも「天昇園」でお世話になっているので仕事を手伝う事にしたらしいのだけれど、介護の仕事もできないし、かといって他の仕事もロクにできないというので電話番をしているらしい。
「実は石動さんのお耳に入れておきたい情報がありまして、こちらに来て頂きたいのですが……」
「えと、今日は放課後、同好会の活動があるみたいなんですけど、明日じゃ駄目ですか?」
「同好会!? だ、大丈夫です! 大丈夫です!!」
そう言って鉄子さんは慌てたようにガチャリと電話を切ってしまう。
……何だったんだろ?
わざわざ鉄子さんが僕に電話をかけてくるような用事で、しかも学校の同好会の方を優先していいような用事。
ちょっと僕には想像できなかった。
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。




