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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第10話 僕の行く末
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10-1

 ある日の放課後、僕は近所のスーパーに食材の買い出しに出かけていた。

 ゴールデンウィーク前の穏やかな陽気は歩いていても汗をかくこともなく心地いい。一度、アパートに鞄を置きに帰ったが、学生服を着替えることなくまた出かけた。


「おっ! 死神の坊っちゃん! 今日はアジが安いよ! サワラも旬になってるよ!」

「あっ、どうも」


 スーパーに行く途中、商店街で魚屋の源さんに声を掛けられる。

 魚屋の店先には様々な魚が保冷ケースの中で氷の上に並べられている。中にはスーパーでは見ないような魚も置いてある。

 値段はどうだろう? 源さんが安いと言うアジは確かにスーパーと比べても安いけど、アイナメとかホンビノス貝とかはそもそも売ってるところ見たことないから高いんだか安いんだかわかんないや。ん~、どうしよう。


「坊っちゃん。悩んでんのか!? もしかして宇宙人は捌けても魚は捌けねぇってか?」


 ギクッ!


「そ、そんなコトはないですよ?」

「あ、そうか。なんならコッチで捌いてやろうかと思ったけど必要ねぇか!」

「やっぱりお願いします……」


 僕だって源さんが捌けない宇宙人を捌けるんだから。源さんは魚を捌く、僕は宇宙人を捌く。適材適所ってヤツだ。高校1年生の男子は魚を捌けなくても平気だよね?


「ん? そうかい。で、何にする?」

「え~と、アイナメって刺身でイけますか?」

「おう! 鮮度抜群だよ!」

「んじゃアイナメの小さいヤツを刺身で、あとアジの一夜干し2枚。ホタテも6枚お願いします」

「あいよ! 今すぐ刺身にすっからちょっとまっててくれよ!」


 今晩はアイナメの刺身で、アジは明日と明後日の朝食用だ。ホタテは明日の晩ご飯にフライにでもしよう。それだとタルタルソースも欲しくなるな。


「あいよ! お待ちどう様!」


 あっという間に中型のアイナメが刺身になる。綺麗な白身の刺身は程よい脂乗りを予想させ口の中に唾が出てくる。源さんがパックの中にワサビの小袋を2つ入れてくれるが絶対にそれでは足りないだろう。


「あ、すいませんチューブのワサビも1本ください」

「ん? これじゃ足りねぇか?」


 そう言って源さんは小袋をもう2つ足してくれる。


「ありがとうございます」

「いいってことよ!」


 アイナメ、アジ、ホタテをそれぞれ新聞紙に包んでくれて、会計を済ませて魚屋を後にする。


 今日と明日のメインのオカズはゲットしたし、予定を変更してスーパーは止めて商店街で済まそうかな。

 幸いお弁当用の冷凍食品は余裕があるし。あとは八百屋さんで野菜を買って、お惣菜屋さんでお弁当にも入れられるような副菜を買えばいいかな。


 とりあえず次は八百屋さんだ。


「死神さん! 見てってくんな!」


 エプロンをかけた八百屋の奥さんが声をかけてくる。源さんに負けず劣らず威勢がいい。

 それにしても人を「死神」呼ばわりするのはいかがなものだろう? いや、間違ってはいないけどさ!


「えーと……、キャベツと玉ねぎと長ネギください」

「あいよ! 菜の花オマケしてあげるからお浸しにでもして食べてくんな!」

「わあ! ありがとうございます」


 いや、まて。菜の花ってどうやって調理するんだ? 鍋で茹でて絞るだけでいいのかな? まあ後でネットで調べるとして有難くもらっておこう。


 お惣菜屋さんでは大きなトンカツやメンチカツに心が動かされるけど、メインを張るおかずはもうあるんだ。また今度にしよう。


「死神の兄ちゃん。野菜とか取ってるかい?」


 総菜屋のお婆ちゃんまで死神呼ばわりか! 責任者出てこ~い!


「死神の兄ちゃんは商店街の守り神様だからね。体は大事にしておくれよ」


 ん? ああ、「死神」呼ばわりは悪口じゃなくて、こないだ商店街を襲った宇宙人を退治したからか。そうなら悪い気はしないな。むしろ小恥ずかしいくらいだ。


 金平ごぼう、レンコンと蒟蒻の炒め物、ヒジキの煮物、切り昆布の甘煮を購入して総菜屋さんを出る。

 独り暮らしだとどうしても食物繊維やミネラル類が不足がちになる。ビタミン類は意外と取れているのだけど。その点、町のお惣菜屋さんは本当にありがたい。スーパーやコンビニの物みたいないかにもな出来栄えの味でもないし、添加物の心配も無い。もっとも僕の体に添加物が問題となるかは知らないけど。


「すいませ~ん! 鯛焼き2つくださーい」

「あいよ~」


 買い物はこれでいいかなと、帰りに例の鯛焼き屋さんによる。


「おっ! 少年!」

「アーシラトさんと亮太君! 丁度いいところに。鯛焼き食べます?」

「あんがと! 誠兄ちゃん!」

「いいのか? 悪いな!」


 偶然、二人に出会った。今日のアーシラトさんはアニメ柄のパーカーを着て尻尾に亮太君を乗せている。

 亮太くんはショッピングモールでもアーシラトさんの尻尾に乗ってたけど、馬の背と違って蛇みたいにニョロニョロ左右に揺れる尻尾に乗ってて酔わないのかな? 僕も頼んだら乗せてくれないかな?


「すいません。鯛焼き、もう4つ追加で」

「あいよ~」


 アーシラトさんはともかく亮太君に夕食前の鯛焼き2つはどうかと思ったけど、余ったら余ったで僕が食べればいいやと計6個の鯛焼きを買う。


「こないだの公園で食べよっか」

「それじゃ飲み物代はアタイが出すよ」

「ありがと~」

「ゴチになります」


 公園の入り口近くの自販機で飲み物を買ってベンチが設置されている一画に向かう。




 ウィン、ガシャコン、ガシャコンガシャコン、ウィーン! ガシャコンガシャコン!


「ん? 何の音だろ?」


 何か機械の動作音がする。工事の重機のような連続した音ではない。それよりも不規則で小刻みに動いているような?


「あの音か? え~と……、おーい! タクミー!!」


 アーシラトさんには機械音には心当たりがあるようで、後ろを向いて尻尾を伸ばして3メートルほどの高さになると音の主に呼びかける。


「…………」

「鯛焼き食わないか~?」

「……」


 向こうが何を言ってるかは分からない。僕の聴力で聞き取ることが出来ないということは大分、遠くにいるか凄く小さな声で話しているということだ。


 ガシャコンガシャコン! ウィン、ウィン、ガシャコンガシャコンガシャコン!

 機械音は公園を囲う生垣に沿って動き、やがて入り口から姿を現した。

 機械音の正体は2メートル以上あるロボットだった。そのロボットは小学生と思わしき少年に付き従っている。

 ロボットの外観は大雑把に積み木を積み重ねたような見るからに旧式の物で、左肩に短砲身の大砲を担ぎ、

 右腕には大きな杭打ち機が取り付けられている。それらと戦車のキューポラを思わせる頭部にOD色(オリーブドライ)のカラーリングは軍用兵器を連想させるのに十分だ。


「何だい? 亮太と悪魔、……それに擬態ロボットか……」


 少年が腕のダイバーズウオッチのような大きな腕時計と僕の顔を幾度か見比べて言う。


「な、何、この子!? いきなり人をロボットよばわり!?」

「ハハ! ゴメンな~。コイツは神田工(かんだ たくみ)。後ろのスティンガータイタンで戦う同業者だ」

「タクミ~! こっちの兄ちゃんはロボじゃなくて改造人間! 見た目はアレだけど凄い人なんだぞ!」


 アーシラトさんと亮太君がそれぞれに紹介してくれる。


「あ……、ゴメン。コミュニケーターが警報を出してたから……」

「そういう事なら仕方ないよ。はい! 鯛焼き食べるでしょ」

「……頂きます。あの、ホントすいませんでした」

「いやいや! ロボットが人間に擬態してると思ったら注意して当たり前だよ」


 工君は素直に僕に謝罪して鯛焼きを受け取ってくれた。

 工君は妙に髪が長く両目が隠れそうになるほどで、猫背がちな姿勢とともに陰気な印象を受けるが礼儀正しい子だった。


「同業者ってことは工君もヒーローなんだよね」

「はい。と言っても、死んだ父からタイタンを引き継いだわけですが……」

「タイタンは40年選手なんだってよ! アタイもブン殴られて腹に穴開いた事があるわよ!」


 アーシラトさんが工君を補足する。

 アーシラトさん、真愛さんだけでなくこんな重そうなロボットにもボコられてたのか。そのガッツは一体、どこから来るのだろう? 今、発泡酒の缶を煽っている姿からは想像もつかない。まあ、それはアーシラトさんに限らず、どの侵略者にも言えることだけど。


 それにしても40年選手って……。


「40年前って言うと、特怪事件の頻出期が始まった頃?」

「はい。とはいえ元の設計は旧日本軍にまで遡るそうですが、それから色々と改修されて今に至るみたいです」


 旧軍の設計かあ。第一印象の「軍用兵器」ってのは間違ってはいなかったみたいだ。


 ロボットの一際目を引く大砲を見てみると電子頭脳が注釈を出してくる。


≪85ミリ低圧砲:旧ソ連製、歩兵支援用の榴弾を主に使用する≫


 これが「色々と改修されて」って所なのかな?

 てか榴弾砲ってヒーローの使う武器じゃないよね? 破片飛び散って大変じゃないですか? 

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