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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第45話 なってしまった者 なろうとする者 なれなかった者
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デモンライザー サクラ 第3話「私はデモンライザー」-2

「エエイ! 余計ナ事ヲベラベラト!!」


 前進から飛び出た触手によってまるで巨大な髪の長い女性の頭部のようになったナイアルラトホテプが怒声を張り上げた。


 風にそよぐ長い髪のような、あるいは海中でたゆたう海藻のような触手の中から邪神の黒い腕が突き出ると手の平に周囲の闇が凝縮していき、ハンドボールほどの大きさになると咲良へ向かって猛スピードで放たれる。


「危ないッ!!」


 だが邪神の放った魔法弾は咲良の前に飛び出してきた羽沢真愛によって防がれた。


 邪神と同じように右手を突き出した真愛の僅か数10cm手前で闇の魔法弾は何かに阻害され、風にかき消される煙のように四方へ飛び散って消える。


「真愛さん、危ないですよ!?」

「今の咲良ちゃんでは防げないでしょ!!」

「フン! 貴様トテ魔法ヲ使エナイ身デハ、タダ濃密度ノ魔力ヲ放出シテ魔法ヲ押シ留メルクライガ関ノ山デハナイカ! ダガ、ソンナ非効率ナ魔力ノ使イ方デハ……」


 邪神の全身を覆う触手が蠢きながら背中側へと移動してナイアルラトホテプの身体が露わとなり、邪神は両手を真愛へと向けられた。


「防ゲルモノナラ防イデミロ! 力ヲ失ッタ矮小ナ人間ヨ!」


 ナイアルラトホテプが1つずつ目を開ける。

 左眼を、右眼を、そして眉間の位置に3つ目の眼を。

 燃える炎のような3つの眼が見開かれた時、邪神の両手から先ほどの魔法弾が再び放たれた。


 ただし、今度は連射だ。


 左右それぞれの手から機関銃のように放たれ続ける魔法弾に咲良の前に立ちふさがった真愛の表情は歪み、右手を左手で押さえながらも必死で邪神の魔法弾を防ぎ続ける。


 だが“障壁”魔法ではなく、ただただ魔力を放出して魔法弾を防ぎ続けるようなやり方ではやはり消耗が激しいのか、徐々に押されているように咲良には見えた。

 かつては「最強のヒーロー」と謳われて「旧支配者アンゴルモアの恐怖の大王」すら単独で撃破した羽沢真愛が一方的に防戦一方なのに徐々に後退を余儀なくされ、しかもナイアルラトホテプは2人を嘲笑うかのような余裕すら見せているのだ。


(……このままじゃ駄目だ! 考えろ、考えるんだ!)


 咲良は真愛が魔法弾を防ぎながらジリジリと後ずさるのをただ黙って見ているしかなかった。


「座敷童」のカードの力で攻撃を加えれば邪神の魔法弾の連射も緩むのでは? とも考えたが、今でさえ真愛は自分とすぐ後ろの咲良を守るための範囲に魔力を集中させて押されているのだ。自分が横に出て邪神の攻撃がこちらに向けばきっと真愛は咲良を守ろうと魔力の放出範囲を広げようとするだろう。

 そうなった時、果たして真愛の魔力は邪神の魔法弾を防ぎきれるだろうか?


 そして「座敷童」の魔力の投球ではナイアルラトホテプを倒しきれないであろう事を考えるとやはり真愛が言っていたように別の手を考えなければならない。


 だが、どうやって?


 真愛も、アーシラトやベリアルも「魔法は『不可能を可能に変える力』だ」と言っていた。

 しかし何をすればあの神の如き、いや神そのものであるナイアルラトホテプを倒せるのか咲良には検討もつかなかったのだ。


 憧れの存在であった羽沢真愛が自分を信じて、そのために自分を守ろうと必死で邪神の攻撃を受け続けてくれているというのに自分は何も思いつけないでいる。


 無力感に打ちひしがれて咲良の目に涙が滲んでくるが、それでも咲良は考える事を諦めないでいた。


(ベリアルさんなら……。こんな時、ベリアルさんならきっとどうする?)


 咲良の脳裏に思い浮かんできたのはあの赤髪金眼の悪魔の悪意に歪んだ笑顔だ。


 こんな時、アーシラトはきっと前へ前へと突っ込んでいくだけだろう。

 あの闘法(スタイル)を実践できるのは彼女以外にはきっといない。

 だから今、この場において参考にすべきは「悪意の悪魔」ベリアルであるべきなのだ。


(悪意。あの邪神を出し抜くほどの悪意を……! ん? あれは……)


 ふと咲良の目に白い線が止まる。


 それは陸上競技場にラインカーで引かれた石灰の線だった。


 その線は巨大な円の中に六芒星が描かれ、その他にもいくつかの数式や呪文が書き込まれた魔法陣だ。


「これは……!」


 その魔法陣はヤクザガールズの山本組長の指揮で作られた汎用召喚術式のための魔法陣だった。

 この魔法陣でクトゥグァなる旧支配者を召喚するように見せかけ、ナイアルラトホテプの軍勢の戦力をこちらに割かせて臨海エリアの突入部隊の河童救出を容易にするための物である。


「召喚……、魔法……」


 もう少し、あと少しで点と点が繋がって線となるような予感に思わず咲良は唾を飲み込む。


「エエイ! シツコイ奴ダ! コレナラドウダ!?」

「きゃあああああッ!!」

「真愛さん!!」


 邪神は魔法弾が防がれ続けるのに焦れたのか、両手を揃えて特大の魔法弾を作り出して放つ。

 これには流石に真愛も魔法弾こそなんとか打ち消す事に成功したものの、その反動か吹き飛ばされて大地へと5メートルほど後方の大地へと叩きつけられてしまう。


「咲良ちゃん、逃げて!」

「フン、モウ遅イワ!」


 なんとか震えながら地に手を付きながら上半身を起こした真愛が咲良へ逃げるように叫ぶが、すでに咲良には逃げるようなつもりなどはない。


 邪神が防壁を失った咲良へ恐怖を植え付けようとか、わざとらしくゆっくりと闇を凝縮して魔法弾を作り出して発射する。


 すでに先ほどまで咲良を守っていた真愛は咲良の3メートルも後方、咲良の身を守るものは何も無いかに思われた。


 だが、咲良の足元から立ち上った青白い光が壁を作り、邪神の魔法弾を打ち消していたのだ。


「コレハ……!?」


 先ほどまで真愛がやっていたような魔力で魔法弾をかき消したのではない。

 それとは反応が異なる。まるで強固な壁に水鉄砲がぶつかって止まるような。

 それは明らかに“障壁”魔法独特の反応であった。


「私がこの召喚用魔法陣に組み込まれている障壁魔法を発動させました!」


 咲良が初めて魔杖デモンライザーを手にした時、頭の中に未知の力によって刻み込まれた知識、それはデモンライザーの使用法以外にも不完全ながら基本的な魔法の知識も含まれていた。


 その植え付けられた知識によって咲良は陸上競技場に描かれている魔法陣に“障壁”魔法の術式が含まれている事を看破し、それを発動させたのだ。


 “召喚”魔法とは文字通りに対象を呼び出す魔法である。

 だが悪魔や魔神を召喚したとして、それだけでは使役はできないのだ。

 対象を魔法陣内に閉じ込め、召喚者を守るために一般的な召喚魔法陣には“障壁”魔法の術式も組み込まれている。

 そうして対象を封じ込めている内になんとか契約を交わし、やっとそこで対象の力を借りる事ができるというわけだ。


「……それで終わりじゃないんでしょう?」

「もちろん。反撃開始です!」


 真愛の質問に簡潔に答えた咲良は魔杖の石突を地に打ち付け、意識を集中していく。

真愛ちゃんがナイちゃんの魔法弾を打ち消した方法は対象物が魔力で構成された魔法弾だったから有効な手法な模様。

(逆に銃弾のような物質はほとんど防げない。「ほとんど」っていうのは真愛ちゃんが魔力を使って体力テストをインチキしてたって話がある以上、ある程度は物理的な作用を持たせる事はできるのだろうけど、どの程度までかは設定してないから。高速の銃弾は防げないんじゃないかな~、ハリセンくらいはどうだろ?ってレベル)

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