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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第45話 なってしまった者 なろうとする者 なれなかった者
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デモンライザー サクラ 第3話「私はデモンライザー」-1

 突如として総合運動公園のヒーローたちの前に現れた邪神ナイアルラトホテプ。


 邪神はドーム状の空間を作り出して長瀬咲良とツチノコ、そして羽沢真愛を内部へと閉じ込めてしまう。


 外部のヒーローたちの努力も虚しく漆黒のドーム内部へ干渉する事はできず、2人の命運は彼女たち自身の手に委ねられた。


 戦え! 咲良!

 その手にカードを握れ!

 君の切り札をドローしてみせろ!





「これは……」


 咲良は10メートルほど先で狂ったように体をのけ反らせて触手をうねらせる邪神ナイアルラトホテプを睨みつけたまま後ろ手で背後にできた壁に触れてみる。


 熱くもなければ冷たくもない、「熱」という概念をもっていないかのようなその壁は陸上競技上のトラックをほぼ完全に飲み込んでいいた。

 黒く、ただ黒い、闇をそのまま物質にしたかのようなドームは天から地まで一様に漆黒に包まれていたが、いかなる作用によるものか周囲はさきほどから僅かに暗くなった程度の明るさであった。


「フハハハハッ! コレデ邪魔ハ入ラン! 貴様ラ2人ハココデ確実ニ始末サセテモラウゾ!」


 もはや完全に袋の鼠とばかりに余裕ぶって高らかに笑う邪神を咲良はいっそう強く睨みつけるものの、咲良自身この状況を好転させる手があるとは言い辛い。


 左腰のカードホルダーに手をかざして3枚のカードを手元に呼び寄せるものの、彼女が現在使えるカードは「アーシラト」のアックスボンバー、「ウリエル」のシャイニング・ウィザード、「座敷童」の魔力球の3つだけ。


 しかも座敷童の魔力球ならなんとか連続で使う事ができるものの、アーシラトやウリエルの力を使ってしまえば咲良の華奢な肉体は反動で砕けてしまう事は「風魔軍団」の鬼との戦闘で身に染みている。


 四の五の言っていられる場合ではない。生きてこの場から脱出できればヤクザガールズの“治癒”魔法で怪我を回復させる事ができるのだとも思うが、魔力球の投球で牽制しつつ、左右の腕でそれぞれ1回ずつアックスボンバーを使い邪神が膝をついた所でシャイニング・ウィザードでフィニッシュを決める。

 そんな絵に描いたようにすんなりと勝負は決まるだろうか?


 相手は邪神ナイアルラトホテプ。

 あのベリアルですら一方的に嬲られて殺されてしまったほどの敵なのだ。

 あの槍のような鞭のような、あるいはもっと底意地の悪い凶器にも似た触手たちをかいくぐって自分が一方的に攻撃を加えるなど、果たして本当に可能なのだろうか?

 咲良にはそれがまるで「針の孔を通すような」なんてありきたりな表現ではとても収まらないようなとてつもなく可能性の低い事柄に思える。成功の可能性など無視しても構わないような、「壁にぶつかったら量子やら何かの悪戯で反対側に飛び出た」とかいう現実にはあり得ないような話のように。


 かといってドームの外部からの救助も期待できそうにない。


 咲良が羽沢真愛とドームに飲み込まれる前、陸上競技場にはヤクザガールズの組員たちがいて、邪神出現の報を聞いて周辺の者たちも続々と駆け付けていたハズだ。

 その周囲のヒーローたちがこの闇のドームに何もしないなんてあり得ないだろう。

 なにせ咲良はドームに完全に飲み込まれる前、あのアーシラトの雄叫びを聞いていたのだ。きっと今頃はドームの壁面に向かって拳を叩きつけているに違いない。それも無駄と知っても諦めずに何度も何度も、拳から血が噴き出してもアーシラトは壁を殴るだろう。


 それは長年の付き合いで確信に近い思いがあったが、一方で壁面からは何の音も振動も伝えてはこないのだ。


 完全に外部とは遮断された環境にあるといっていい状況なのだろう。


 座敷童のカードを魔杖のカードリーダーに読み込ませ体内に取り込むと、僅かな脱力感とともにベリアルが今際に際に付けた傷跡から魔力で生成されたボールが出現し、咲良はそれをアンダースローで高笑いし続けるナイアルラトホテプへと投球する。


 邪神は投げつけられた魔力球を避けるような事はせずに右手を伸ばして手の平で受け止めてみせた。

 手の平に直撃した魔力球はたわんで弾け、そのまま魔力の残滓は霧散して消えるが邪神には毛ほどにも効いた様子が無い。


 だが、そんな事は咲良も折り込み済み。

 1投目の着弾を確認しないままにもう1つの魔力球を生成して背後のドーム壁面へと投げつける。


 やはり咲良の投球は壁面に触れると音を立てる事もなく弾けて消えた。


「ドウシタ? ソンナモノデ御仕舞カ?」


 邪神が嘲るように笑う。


 周囲を包む闇よりもさらに一際深い闇が形をとったような邪神は不規則に蠢く無数の触手の中から顔を覗かせて首を傾げてみせる。


「来イヨ! 『デモンライザー』、“悪魔ヲ呼ビ起コス者”ヨ! ……アア、ソウイエバ悪魔ハイナカッタナ! アノ雑魚ハ我ガ殺シテシマッタノダッタナ!」

「……ッ! こ、この……!」


 ベリアルは咲良たちを逃すために単身、ナイアルラトホテプに立ち向かい、そして命を落としたのだ。


 そのベリアルをこうも馬鹿にされては咲良も冷静ではいられるわけがない。


 痛いほどに魔杖を握りしめ、せめて一矢報いてやろうと1歩、足を踏み出した時、咲良の左腕を掴む者がいた。

 当然、この空間に咲良、ツチノコ、ナイアルラトホテプの他にいるのはただ1人、羽沢真愛だ。


「羽沢さん、行かせてください!」

「落ち着きなさい! 頭に血が上った状態では勝てるものも勝てないわよ!」

「……え?」


 羽沢真愛の言葉に咲良は思わず自分の耳を疑った。


 この空間に閉じ込められてからずっと邪神を睨みつけていた目を羽沢真愛へ向けると、彼女も内心では不安なのか右手で咲良の左腕を掴みながらも左手は胸の前で固く握りしめられている。


 その眼も恐怖と不安のために潤み、長い睫毛を濡らしてさえいる。

 だが、その眼は完全に諦めた者の目ではない。

 自分が今までそうしていたように涙目になりながらも羽沢真愛はしっかりと邪神を見据え、口元には微かに笑みを作ってさえいた。


 そして羽沢真愛は「勝てる戦い」と確かに言ったのだ。


 この場で唯一、戦える存在であるハズの自分が玉砕前提の戦いを挑んだとしてもまともな勝ち筋が見えてこないというのに一体、羽沢真愛には何が見えているのだろう?

 咲良は思わず息を飲む。


「……一体、どういう事ですか?」

「咲良ちゃん、良く考えて。貴女はナイアルラトホテプがわざわざ直接、殺しにくるほどの存在だというのよ? そして、そのような存在であるハズの貴女を一方では猫が鼠をなぶり殺して遊ぶように煽って楽しんでいる。つまり今のままの貴女は容易い相手なの……」


 確かに明智元親が立案した「2重作戦」はどのような理由によるものか邪神には通用しなかった。

 だが、わざわざナイアルラトホテプは総合運動公園に単身、現れ、そして咲良と羽沢真愛を抹殺すべく闇のドームへと閉じ込めていたのだ。


 そのような面倒な事をわざわざする理由とは何なのだろうか?


「つまり、それは……?」

「良く考えて! 自分で答えにたどり着かなければ心の底から信じる事はできないから! 魔法の力は『不可能を可能にする』! でも咲良ちゃん自身が心の底からできると思わなければ世界の因果を捻じ曲げる事なんてできないわ!」

誠くん「タイトル……、乗っ取られた\(^o^)/」

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