9-2
「マコっちゃん! オハヨー!」
「あっ、天童さん。おはよう!」
月曜日、天童さんはいつも通り登校してきた。
よかった。いつもの天童さんだ。
「いやあ~、土曜は参ったよ! おっ! マコっちゃんもアリガトな!」
そう言って僕の背中をバンバンと叩く。
うっ……、あんまり強く叩くもんだから電子頭脳が脅威認定の準備段階に入ったぞ! どんな力で叩いているんだろ? いつも通りどころか元気すぎるでしょ!?
「てかマコっちゃん、実は意外と強いんだな~! てか背、伸びてなかった? シークレットシューズ?」
「意外と強いかどうかはともかく、背は伸びてるよ。人工強化骨格が展開して身長205cmになるのだ!」
まあ元が暗殺用改造人間なので、シューズどころじゃないシークレットな存在とは言えるかもしれない。僕自身がだ。
「ドゥフフフ! どこにも掲載されていないデスサイズの情報ゲットで御座る!」
「「うわっ!」」
いきなり背後から声を掛けてくる三浦君に、僕も天童さんも驚いて声を上げてしまう。
「あ、三浦君。おはよう! もう大丈夫なの?」
「ヌフフ。モチのロンで御座るよ! 石動氏には助けられたで御座るね」
「いいよいいよ!」
「おっ! デブゴンも元気そうじゃね~の!」
「天童氏もいつも通りで何よりで御座る」
天童さんが笑顔で拳を向けると、三浦君も応じてコツンと拳を軽くぶつける。
本当に「いつも通りで何より」だ。
「話は戻るけどさ~、デブゴン」
「何で御座る?」
「デブゴンはマコっちゃんが実は強いって知ってた?」
「え? いや、『実は』なんてレベルじゃないで御座るよ? 天童氏も知ってるハズで御座るよ?」
「いや、私は土曜に初めてマコっちゃんが戦ってるトコ見てさ~」
「いやいや、一昨年の年末のブレイブファイブの3人が殉職した事件。去年の4月の『巨大空母』事件。同じく去年の12月の『反物質爆弾搭載弾道弾』事件とかは天童氏も覚えているで御座ろ?」
「ハハ! 当たり前じゃね~かよ。どれも何日もテレビのニュースはその話題で持ちきりだったじゃねーか!」
まあ僕からしたらテレビの中の話じゃないんだけどね。
「そんな事をやらかすARCANAって組織を石動氏は兄上殿とたった二人だけで壊滅させたので御座るよ。どう考えても弱いわけないで御座るよ?」
いや~。そう言われると照れるな~。
が、天童さんの反応はというと……
「あれ? ん? そう言われてみると……そういう気もする、ような?」
あ、コレ。ピンときてない感じですわ。
「いやあ、でも拙者も生デスサイズ見たかったで御座るな~」
「見てなかったの? あ、怪我でそれどころじゃなかったか……」
ヒーローとか大好きでヒーロー同好会とか入っちゃう三浦君からしたら痛恨の失態にも近い感覚かもしれない。
「え? いや、上空の正体不明の魔法少女ばっかり見てたで御座る」
「優先順位の問題だった!」
まあ天童さんの膝枕に夢中でした。って言われるよりは三浦君らしいか。
「てか、あん時にも『流星』だのなんだの言ってたけど。目撃情報が少ないとか、正体不明とかさ。それ、アっちゃんの事か~?」
「あ、天童さんは知ってたんだ。栗田さんは一部で『流星のアズサ』って二つ名で呼ばれてるんだ」
「へ~」
「石動氏はともかく、天童氏も『流星』と知り合いで御座るか?」
「僕は去年、埼玉で……」
「アタシは中学の先輩だし!」
「ああ天童氏は大H川中で御座ったな」
ん? 今の言葉、凄い違和感があったな。
「ねえ、天童さんの後輩って事はさ、三浦君の後輩でもあるんじゃないの? ヤクザガールズの子って学校じゃ正体を明かしていないとか?」
「いや、拙者と天童氏はそもそも中学校が違うで御座るからな」
「そうだよ」
二人とも揃ってキョトンとした顔で僕を見る。
え?
三浦君と天童さんは中学校が違う。
土曜日の公園での話から、真愛さんと三浦君は中学校が同じ。
つまり天童さんと真愛さんも中学校が違う。
…………
……
「ええ~!!」
「どうしたで御座る? いきなり」
「天童さんって入学3日でメッチャ馴染んでなかった!?」
「え? 入学式からメッチャ馴染んでたけど?」
笑顔で天童さんは言うけどさ、普通じゃなくない?
だって普通は中学校が一緒だった人同士で固まって、それから部活が一緒とかで大会で面識あるとか。塾で顔見知りとか。共通の知り合いとかで徐々に打ち解けていって、一緒に授業とかで何となくクラスの空気って出来ていくもんじゃないの?
「いや石動氏。だって天童氏で御座るよ?」
「あ、納得!」
「拙者なんて入学式の日に教室に来て、自分の席を探して荷物を置いたら『YO! デブゴン!』で御座るよ!?」
「はは! 天童さんらしいや!」
「お早う。皆、朝からご機嫌だな。」
明智君が登校してくる。真愛さんも一緒だった。
「おはよう! 二人共」
「ちぃ~す!」
「おはようで御座る」
「おはよ!」
「ところで誠、ちょっといいか?」
「ん? なあに?」
「市の災害対策室から伝言なんだが、土曜の分の報奨金は220万だってよ。毎回、メッセンジャー代わりにされるのも何だし、お前もメアドぐらい登録しておいたらどうだ?」
「に……!?」
え? 今、信じられない言葉を聞いた気が……。 あっ、ジンバブエドルか!
「220万円だ」
「ヒュ~♪」
天童さんは口笛を吹くが、当の本人である僕はそれどころじゃない。
「に、にひゃくにじゅうまんえん!!」
さ、流石は特怪事件のメッカH市。金払い良すぎ! M市じゃ考えられないことだ。
「ナ、ナンデ! 220万円ナンデ!」
そんな金額、高校生にポンと渡していい金額じゃないでしょ!?
狼狽する僕に明智君が続ける。
「何でって。ハドーの標準レベル怪人が1体100万円で2体で200万。Cクラス認定集団の指揮官撃破で20万の合わせて220万だ」
「あ~、そんな所よねぇ」
「そうで御座るな!」
狼狽する僕に対して真愛さんと三浦君はいたって冷静だ。
え? これって普通の金額なの?
「あの……、こないだの商店街のプライズム星人は1体3000円だったんですけど……」
「ああ、あれは別格だ。むしろハドーだって高くはないぞ」
「そ、そうなんだ……」
「お前な~。カロリー取っておけばナノマシンが勝手に直してくれるお前と違って、他のヒーローたちはどうやって生活して、どうやって装備を整えてると思ってるんだ? 対戦車ミサイルとか1発いくらするか知ってるか?」
「そ、そっか。そうだよねぇ……」
プライズム星人ェ!




