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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第44話 戦え! ヒーロー“たち”!!
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44-8

 突如として海上自衛隊第1護衛隊の窮地に現れた「UN-DEAD」のホバー・ラーテであったが、何故かその砲塔上には少女の姿があった。


「おい! あれ……」


 だが日吉が部下へ声をかけてみるものの、部下たちは援護してくれたように見えるものの未だ真意の知れぬラーテの対応で慌てふためき誰もモニタースクリーンに映る少女に気付いた者はいないようだった。


「ラーテ! 爆雷投射ァ!」

「総員、対衝撃姿勢!」


 ラーテの砲塔後部の車体の上に並べられた火器類が火を吹きながら超巨大戦車は猛スピードで海面を駆けていく。

 そしてラーテが「おはり」の左へ付けると車体から大型の投射機が現れて全周へ爆雷を投射した。


「おはり」の方へ飛んできた爆雷は上手く軌道を変えて飛び越えていき右側面へと向かい、「おはり」を取り囲むように着水。


 そして爆発。


「おはり」全周360度は水柱に包まれて視界はゼロになるが、艦橋の日吉たちにも水柱の中に水魔たちの体の破片が混じっているのを見る事ができた。


「チィッ! やはり海底を進んできていた奴らがいたのか!」


 先ほど突如として現れて「おはり」に取りついた巨大オウム貝を見て薄々は気付いていたが、「深き者ども」は前方から接近してくる集団とは別に海底に潜んでいた者たちがいたのだろう。


 ラーテは異星人の技術をもって改大和級を超える索敵能力をもっているのか一早くそれに気付いたのだろう。


「おはり」「きい」2隻の改大和級戦艦も改装を受けて異星の技術が盛り込まれているが、昨年、フィジョーバ星系人から塩と引き換えに入手できたのは宇宙戦闘機や火器類のみで海中探索能力は以前のままであったのだ。


 つい数時間前まで攻撃対象であったラーテに明らかに遅れをとってしまった事で日吉は歯ぎしりして悪態をつくが、不意に艦橋内の大型モニタースクリーンが切り替わって大型爬虫類のような異形がバストアップで映る画面へと切り替わる。


「ごきげんよう。『おはり』の諸君!」

「貴様は……!」


 画面に映るのは90年代頃に壊滅したハズの「凶竜軍団」の改造人間であった。

 だが首長竜を模したその怪人の目に日吉は何故か違和感を抱く。

 救援に恩を着せるようなわけでもなく、窮地に陥っていた日吉たちを嘲笑うでもない。

 怪人の目はどこまでも澄んで、まるでどこか遠くを見つめているようであった。


 その怪人が頬を緩ませて日吉へ笑いかける。


「我らの聖女は言っている。『饂飩を食べられる者は幸いである』と……」

「……は?」

「感じるぞ! 貴艦の今日の昼食はウドンだな! ならば我らは同志!」

「……そ、そうだね」


 日吉は直感で見抜く。

 極々、一般的な日本人である彼は狂信的な宗教の信望者とは距離を置いて生きてきたが、画面の向こうの怪人は彼らが苦手とする類の宗教にイカれた人種特有の目をしていたのだ。


「さあ! ともに戦おう! 『絶える事のない清流のせせらぎと万丈に実る小麦の大地』のために!」

「うん。が、頑張ってね?」

「ああ。向こうでまた会おう!」


 そこで通信は途切れてモニタースクリーンは先ほどまでと同じソナーの画面へと戻る。


 たった数十秒の通信で一気に疲れ果てた日吉はふと山口艦長の出身が香川県である事を思い出した。

 ホバー・ラーテが向かっていたのも香川がある四国である。


「なあ? 艦長……」

「な、なんです?」

「君んトコの地元じゃ精神を書き換える洗脳兵器でも持っとるのかね?」

「そんなんあるわけないでしょ!?」


 日吉も山口の言葉はもっともだとは思う。

 だが「凶竜軍団」の怪人が口走っていた「清流やら小麦やら」とか「聖女」いうのは香川一帯で流行しているカルト宗教の文句そのものであった。


「一体、奴らに何が……?」

「いやぁ、普通に香川で美味いウドンでも食って改心したんじゃないスかね?」


「んなワケあるか!」と突っ込むのも面倒になった日吉は左方向のラーテに目を向けると、ラーテは蛇行運転をするように1度、右へ舵を取ってから左へ舵を切り直し、いまだ「おはり」に取りついたままの巨大オウム貝へと車体をぶつける。


 だが1000トンを優に超えるラーテの体当たりを食らってもオウム貝は「おはり」艦体に幾重にも触手を絡ませているためにひるむ事すらしなかった。


 ラーテはまた舵を切って「おはり」から離れて再度、体当たりを敢行。

 だが駄目だった。


 もう1度ラーテは離れて今度はルルイエ海岸のクトゥルーと巨大半魚人へ目掛けて2連装主砲を発射。

 しかし三度、巨大半魚人が甲高い雄叫びとともに障壁魔法を展開して虚空で砲弾を弾いてみせる。


「やはりダゴンを何とかせんとクトゥルーを攻撃する事はできんか!」

「しかし、どうやって!?」


 日吉は山口の問いに答える事はできなかった。

 46cmレールガンもトマホークミサイルも通用しない相手に取れる手段など彼らには存在しない。

 あるいは防衛省が誇るスーパーロボット、スーパーブレイブロボの装備する大型熱線砲なら望みがあるのかもしれないが、どの道、ブレイブマシンはハドー戦での損傷の修理が未だ終わっていないのだ。


 ふと先ほどの少女の事が気になった日吉はラーテの砲塔を見た。


 先ほどよりも近くにいるラーテの砲塔上に少女はまだいた。

 巨大オウム貝への体当たりのための蛇行運転にも振り落とされず、主砲の発射の砲口炎にも動じた様子も無い少女は立ち上がって先ほど懐から取り出した棒状の、バトンのような物を天に掲げていた。


「お、おい! あの子!?」

「どうしたんですか、司令?」

「ラーテの砲塔上に女の子がいるだろ!?」

「えっ? いや、見えませんけど……」

「なんだと?」


 山口艦長の他、通信員やその他の艦橋勤務の者たちに聞いても誰1人、少女の姿を見る事ができた者はいなかった。


「……ッ!?」


 愕然としながらラーテの砲塔へ視線を戻すと薄っすらと少女の体が消え始めているではないか!

 やがて少女の姿が完全に消え失せると日吉は戦闘の最中にも関わらず口を半開きにしたまま呆けたように立ち尽くすしかなかった。


「司令! あ、アレ!?」

「お、おお! 君にもあの子が!?」

「何を言ってるんですか!? そんな事よりもラーテの上空!」


 駆け寄ってきた山口艦長が窓の外を指さす。


 彼が何を言っているのかは一目で分かった。ラーテの上空に先ほどまでは存在しなかったモノが突如として現れていたのだから。だが、そこにあったモノを日吉は理解する事ができなかった。


 一見、それは巨大な脳味噌のような化け物に見えた。

 だがそれは白くて細長い何かの集合体であるようで、化け物は形作っていた細長い紐状の何かは解れだしている。


「FSM! FSM出現!」


 発狂したように叫びだした山口を艦橋勤務の海曹たちが両脇から取り押さえるように抑え込むが、日吉は彼の目が狂った者のようには思えず、彼が何を言わんとしているのか聞いてみる事にした。


「まあ待て。艦長、『FSM』とは何かね?」

「司令! アレはフライング・スパゲッティ・モンスターです!」

「うん? ゴメン、ちょっと良く分かんない」

「だから、アレは(フライング)(スパゲッティ)(モンスター)です! かつてイタリアに現れた個体とは細部が異なる事から恐らくは亜種、敢えて言うならFUMでしょうか?」

「…………」


 日吉は黙って海曹たちに親指でドアを指し示し「連れていけ」と指示する。

 やはり目がマトモに見えても狂人は狂人だったのだ。


「ちょっ!! 司令!? 司令だってさっきまで『深き者ども』とか『ダゴン』とかフかしてたじゃないですか~!!」

「ふ、フかしじゃないわい! ええい! お前たち艦長がご乱心だ。とっとと医務室に連れていけ!」

「そんな~!」

「うるさい! まったく君は頭の中にウドンでも詰まってるのかね?」

「こんな時に褒めたって騙されませんよ!?」


 なおも抵抗を続ける山口艦長であったが、日吉は部下の中に紛れ込んでいたカルト信者の事は後回しにしてラーテ上空の化け物へと目を戻した。


 なるほど、確かに化け物の体を構成する紐状の物体はその比率といい、白さといいウドンの麺のように見える。

 かといってそんな正気を疑われるような事を好き好んで口にする気にもなれなかったが。


 化け物から解けて落ちていった紐状の物体はラーテの砲塔すぐ真上でまるでそこに透明な何かがあるかのように止まり、そこで絡み合い、新たな形を作っていく。


 最初は2つの柱か何かかとも思った。


 だが柱は編み物のように白い紐状の物体が絡み合って、輪郭を作りながら上へと伸びていき、ハッキリと2本の人間のような脚だとわかるようになっていった。

 そして太もも、腰、胴と続いて形作られていき、肩が出来上がったあたりで両肩の真横で腕部が作られ、胴の上に首とその上に頭部が出来上がっていく。


「……白い、巨人?」


 やがて出来上がったのはラーテよりも巨大な人型であった。


 科学の教科書に載っているような人体の筋肉構造図のように皮膚の無い人間に見えるのは細いウドン状の物体が編み上げられてその形を作っているからであろう。


 その巨人は玉子の黄身のような黄色い眼球を持つが口や鼻孔に類する器官は見受けられず、両手にはそれぞれ人間と同じような間接を備える五指があるのにも関わらずに足にはまるで靴を履いているかのように指を確認する事はできなかった。


『DJAAAAA!!!!』


 まるで麺を入れた手ザルを振って湯を切ったような声だった。


 白い巨人は上空に立ったまま拳を振り上げて一気に振り下ろす。

 それだけで半月状の力場が拳の軌道に沿って現れて「おはり」に取りついた巨大オウム貝へと飛んでいく。 


 巨大なオウム貝と「おはり」の間へと半月状の力場は降り、それまで5インチ砲や20ミリ機関砲でなんとか引きはがそうとしても無駄であったオウム貝の触手は力場にスッパリと切断されて「おはり」からオウム貝は離れていった。


「時空間断裂波を観測!」

「なんだと!? 時空間エンジンか!?」

「いいえ、違います! 時空間エンジンの反応、ありません!」


 観測員が金切り声を上げて報告する。


 一昨年から昨年にかけて日本中を震撼させた悪の秘密組織「ARCANA」のハイエンドモデルには時空間エンジンなる未知の動力源が使われて、その動力を利用した「時空間(ディメンション)兵器(ウェポン)」は空間そのものを切り裂く兵器であって、地球の技術では事実上、防ぐ手段が存在しない。


 だが、その時空間兵器を使用した際に生じる時空間断裂波や時空間エンジンそのものが発する特異な微粒子は観測することができていた。


 しかし、時空間断裂波は観測されて時空間エンジンの痕跡が検出されないとはどういう事なのか?


「……恐らくは巨人の腕を振り下ろすスピードが光速を越えてしまったがために空間を切り裂く事ができたのでしょう」

「小細工無しでそんな事ができるというのか……」


 日吉は唖然とするが観測員の推論を否定するだけのものが彼には無かった。


 先の一撃だけで分かってしまう。

 クトゥルーやダゴンと同じく、新たに現れた白い巨人も地球人類の想像力が及ばないような超常の存在である事を。


(せめて、あの巨人が人類の敵でない事を祈るよ……)


 どのような理屈によるものかは定かでなかったが、白い巨人は音も無く宙を飛んでいき、やがてルルイエに降り立つと「深き者ども」の王、ダゴンへと向き合う。


「TIRITIRITIRI!!」

「DJAAAA!」


 やがて白の巨人の灰の半魚人は同時に駆けだして激突すると周囲は火山の噴火のような轟音が埋め尽くした。

艦長、可哀そう。

話を信じてもらえなくて可哀そう(´;ω;`)


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