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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第44話 戦え! ヒーロー“たち”!!
346/545

44-5

 涼子がヤークト・パンテルⅡの主砲を発射した瞬間、彼女の身体を今までに経験したことが無いような強烈な衝撃が襲った。

 前後にシェイクされるような衝撃で敵に先手を打たれたのかと思ったほどだが、そうではない。


 敵との距離はまだ100メートル以上。

 黒い粘液に塗れたいかにも旧式の怪人たちの内、先頭を突き走る獅子頭の怪人と涼子は照準口越しに目が合ったような感覚さえ感じていた。


 だが敵が何かしたようには思えない。

 まるで知能の全てを失ったような怪人たちは涼子たちを乗せた駆逐戦車を1秒でも早く始末するため最短距離を突き進んで突っ込んでくるだけだ。


(これが105mm砲の衝撃なの? 47mmとはまるで違う……)


 涼子の超視力とその視力によって鍛え上げられた頭脳は彼女を時間がゆっくりと進むスローモーションの世界へと誘う。


 その緩慢に進む世界の中で涼子は自分の右側でゆっくりと後退を始める駐退復座機を知覚して、先ほどの衝撃が主砲の発射によるものだという事をやっと理解した。

 ヤークト・パンテルⅡの105mm砲はチハ改の47ミリ砲など比較にならない強力なエネルギーを投射する事が可能なものの、その反動も凄まじいのだ。


 そしてヤークトの砲から解き放たれた砲弾はスローモーションの世界の中でゆっくりとオレンジ色の火球となって鞭を振り回しながら迫る獅子頭の怪人へと飛んでいき、怪人の大胸筋を模したデザインの装甲版へと命中する。


 そして爆ぜる。


「…………ッ!!!!」


 105mm榴弾は怪人の鈍色に光る胸部装甲を叩き割って体内に侵入。そこで信管が作動して弾頭内に充填されていた高性能爆薬を起爆させる。


 榴弾の威力は凄まじく、獅子頭の怪人は僅かな破片を残してこの世からその痕跡を消し、それどころか獅子頭に続いて駆けていた2体の怪人をもその爆発の余波に巻き込んでいた。


「…………これは……」


 怪人の破片が飛んできて駆逐戦車の傾斜装甲を叩いて音を立てたのが合図であったかのように加速された涼子の意識は現実へと戻ってきていた。


「呆けるなッ! 敵はまだいるぞ!!」

「D子しゃん、突っ切れ! Урааааа(ウラー)!!」

「おっしゃ! 任せろ!!」

「機銃、使うよ!」


 獅子頭の怪人は完全に消し飛んだが、爆発に巻き込まれた怪人の内の1体は飛び散った体の各部を繋げて再生しようというのか黒い粘液質が蠢いて不気味に動き出していた。


 だが、島田は操縦手へ突撃を指示。

 操縦手のD-バスターもエンジンを最大限にブン回して加速。再生途中だった怪人を履帯で踏みつぶして泊満たちの元を急ぐ。


 怪人たちの後ろから地を駆け、空に翼をはためかせてやってくる夜魔(ナイトゴーント)の群れを車体上部の遠隔操作(リモコン)式機銃で薙ぎ払いながら前進。

 さらに1体の怪人が駆逐戦車の前に立ちはだかるが、D-バスターはアクセルを緩める事なく怪人を跳ね飛ばした。

 車体の傾斜装甲の上部と下部の丁度、つなぎ目、楔のようになった部分はヤークトの40トン以上の重量を持って斧のように怪人を切断していった。


「鉄子さん」

「……何だ?」


 涼子は駐退復座機越しに見える鉄子が震えている事に気付いて声をかけた。

 返ってきた返事も震えて無理に硬い口調を守っているように思える。


「さっきの怪人。……いえ、さっきの人たち、知り合いですか?」

「……ああ、そうだ。ライオン頭が『イソギン・ライオン』、電磁鞭の使い手で卓球同好会の会員。爆発に巻き込まれたのはバードウォッチング同好会長とネトゲ廃人だったな……」

「そう……、ですか……」


 予想したように鉄子はかつての、それも昨日までの仲間が野獣と化したように襲い掛かってくる事に、そしてその仲間だった者たちと戦う事に精神を苛まれているのだ。

 涼子の位置からでは砲が邪魔で鉄子の表情を窺い知る事はできないが、なんとなく下唇を血が出るほどに噛み締めている彼女が思い浮ぶ。


「分かってはいるんだ。アイツらだって自分とこの組織が潰れてからも地下に潜る事を選んだ連中だ。今の自分の意にそぐなわい事をやらされるくらいなら殺してくれと言うだろうというくらいはな……。でも、割り切れなくてなぁ……」

「どうにかならないんですかね?」

「無理だな!」


 足組したままのラルメが端的に切り捨てるが、鉄子にとっては涼子の口から出る同情交じりの慰めの言葉よりはよほどありがたいものだった。

 第一、「どうにかならないんですかね?」なんて言葉を言う数十秒前に榴弾ブッ放してイソギン・ライオンたちを吹き飛ばしたのは涼子自身なのだ。


「そ、そうだ! 姫サマんとこの超技術でなんとかなりませんか?」

「無理だと言っておるだろう。鉄子が持ってきたビデオデータを見た時から薄々は分かっておったがの。あの黒い粘性生物はショゴス」

「ショゴス?」


 ラルメは銀河帝国でも「ショゴス」なる生命体については分かっていない事が多いと前置きしながらも説明を始める。


「元々、ショゴスは「古き者ども」などと呼ばれる種族に使役されるために品種改良された生物だという」

「なら、上手くて手懐ける事ができれば……」

「そもそも「古き者ども」という種族が妾や涼子たち地球人とは違うヒューマノイドタイプではないのにか? 『古き者ども』の天敵は妾たちのようなヒューマノイドタイプの生物だったのだぞ?」


 数千万年前、猿から進化したヒューマノイドタイプは急速に宇宙全体に生息域を拡大していき、それは「古き者ども」の生息域の縮小を意味していた。つまりはショゴスなる生物は「古き者ども」と敵対していた人型(ヒューマノイドタイプ)への強い敵愾心を刷り込まれているらしい。


「そして『古き者ども』の文明が滅びた後も、その遺跡で時おりショゴスのコロニーが発見されて銀帝勢力圏内でも問題になっておったわ! それに様々な目的のために改良しやすいらしいのかナイアルラトホテプなどの旧支配者連中に良いように使われておっての。今回は差し詰め『寄生強化型ショゴス』といったところかの。以前にも別の星系で似たようなショゴスが確認されておるが、細胞レベルで完全に融合してしまって引きはがすのは不可能であったのだ」


 確かに怪人にショゴスが取りついているだけなら超再生能力は説明できない。

 石動誠から報告を受け、そしてつい先ほど榴弾でバラバラになりながら手や足、内蔵などがそれぞれ蠢きながら1つになろうと動いていたのを涼子たちも目撃したばかりだ。

 それらがラルメが言う「細胞レベルでの融合」という結果ならば涼子には怪人からショゴスを引きはがす方法など思いつくわけもなかった。


「……ショゴス怪人、か……」

「おっ! 言い得て妙じゃの!」


 涼子は「UN-DEAD」の怪人たちと会った事は無い。

 だが、彼らが作り上げたアンドロイド「D-バスター」シリーズは人当りが良く好感が持てる連中であったし、彼らの仲間であった鉄子も自分を強く見せようとする癖があるもののそんなに悪い人間には思えない。


 それに鉄子からもたらされた昨晩の「UN-DEAD」壊滅のビデオデータを見ても、邪神や謎の生命体であるショゴスを前に「UN-DEAD」のメンバーは相互に援護しあい、時には仲間をかばってショゴスに取り込まれ、そしてついには鉄子たちを逃がすために戦い抜いたがために鉄子とD-バスター2体は天昇園へと逃れてくる事ができたのだ。


 彼ら「UN-DEAD」は悪党であったかもしれないが、けして邪悪な存在ではなかった。


 出会い方次第では友人になれるかもしれなかった。


 だが、それもすでに叶わない。


 邪神の放ったショゴスによって「UN-DEAD」の者たちはただただ暴れまわるしかできない獣のような存在へと作り替えられてしまったのだ。


 涼子は自身の胸にふつふつと怒りの炎が湧きあがっているのに気付いた。

 その上、脳内は冷たく冴えわたり、右手は1ミリ(1000分の1)秒の遅延も無く脳からの指令でトリガーを引く事ができるのではないかと思えるほどだ。


「……で、姫サマ? そのショゴスとやらの弱点は?」

「ふむ」


 照準装置を覗き込んだまま涼子はラルメへ問うた。

 そんな彼女をラルメは面白そうな物を見るように微笑を浮かべていたが、それすらも涼子には見えていた。いや、感じ取る事ができていたといった方が正しいか。


「まずは高熱。逆に冷気には強いな。それから電撃。物理的な攻撃ならば核を潰せなければ無敵に強いが、さきほどのように爆発などの衝撃波が体内を伝わる事によって核を破壊する事も可能なようだな」


車長席からの言葉を聞いて、涼子は驚愕したように嘘をついているんじゃないかと確認するように照準装置から目を離してラルメを見た。


「えぇ!? そんなに弱点あるんですか!? そんなん負けようが無いじゃないですか!」

「ハッハッハ! 涼子も豪気なものよのう!」

Twitterやってます。

雑種犬

@tQ43wfVzebXAB1U

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