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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第44話 戦え! ヒーロー“たち”!!
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44-4

ちょっと前に「時系列順に……」とか言ったな?

ありゃあ嘘だ。

「乗車ァ! 乗車ァァァ!!」

「攻撃開始だ! 急げ!!」

「涼子ちゃん、御先するよ!」

「はい! こちらもすぐに!」


 突如として上空に現れた箱型の宇宙船はそのまままっすぐ臨海エリアへと突っ込んでいき、着陸なのか墜落なのかも分からないほどに凄まじい轟音と粉塵を上げていた。


 そして涼子の直感したように間髪おかず砲声が響き渡る。


 それはまるで泊満という男が「私はここにいるぞ」と名乗りを上げているようであり、H市南消防署まで前進してきていた突入部隊の面々は慌てて隊列を整えて各隊ごとに突入を開始し、あるいは車輛へ乗車して各任務割り当てごとの行動を始める。


 一方、未だ実戦経験に乏しい警察官たちはポカンとした顔をして下命も無いというのに動き始めた者たちを何事かと見ていたがすぐに警察戦車隊指揮官の北条警部に叱咤されて動きだす。


「け、警部、これは……?」

「作戦開始だ! 見て分からんのか!?」

「しかし総合運動公園の1隊とは未だに連絡が……」

「だから何だ!? 虎の爺さんがご丁寧に『前線はここだ』と御招待してくださったんだ。いいからとっとと乗車しろ!」


 北条警部はノロノロと動き出した部下たちを怒鳴りつけて各車両への乗車を急がせる。

 機を逃してしまえば勝てるものも勝てないではないかと苛立ちは募るが一方で部下たちが戸惑うのも分からないではない。


 彼らは自衛官でもヒーローでもなく警察官なのだ。

 彼らの警察官としての使命感を信じてはいるし職務への熱意を疑うわけでもないが、どうしても戦車兵としての適性には疑問符が付く。


 第一、部下たちのほとんどは警察官として警視庁の採用試験を受け、警察学校での訓練を経て警官となっていた。

 それが何の因果か戦車隊への配属の辞令1つで軍人なんだか警察官なんだかよく分からない立場へとなってしまったのだ。


 むしろ辞令を受けてから異議を申し立てたり、退職の道を選ばなかった部下たちだけあって意識は高いし、北条も彼らの熱意は買っていいる。


 だが、どうしても彼らは警察官であって戦士ではない。


 目の前に人質に取られた民間人がいるならば万難を排して救出を行うだろう。だが、戦いの機を見て戦地へと飛び込んでいくという事ができないのだ。


 その点、西住涼子という少女は一味違う。


 北条は自身の乗車である16式の砲塔キューポラに体を飛び込ませてハッチを閉じ、サイレンを鳴らす。

 ブ厚い装甲に遮られてサイレンの音は聞こえないが外部カメラでパトランプが点滅しているのは見えるのを確認すると北条は先ほどまで顔を合わせていた少女の事を思い出していた。


 一見、その辺にいくらでもいるような少女だ。

 気の弱そうな少女だが、こんな状況に放り込まれれば誰だって心細くもなるだろうからその辺は割り引いて考えるべきだろう。


 だが、その気の弱そうに見える少女だが目付きが違った。


 警察が自衛隊の御下がりの61式戦車を使っていた頃からの戦車乗りである北条ですら時折「ん?」と思ってしまうような鋭い目付きをする少女だ。


 聞けば1月前の「ハドー総攻撃」においては旧式の戦車というのも憚られるようなオンボロの砲手を務めてハドー怪人、ロボット戦闘員合わせて100以上のスコアを上げているというし、その後に宇宙テロリストが送り込んできた陸戦兵器すらオンボロで撃破しているというのだ。


 しかも西住涼子という少女のためならあの獰猛で知られるハドー怪人も身を挺して戦うというし、あの銀河帝国の皇女も彼女には一目置いているようだ。さらに宇宙空間でも生身で戦闘可能という異星人3人組とも知己の仲のようで、そんな彼女は誰が呼んだか「鷹の目の女王」といういかにも勇ましい2つ名で呼ばれていた。


 北条も「鷹の目の女王」という名は聞いていたが、マスコミが人目を引くために付けた勝手なあだ名か、さもなくば「最強ヒーロー不在の時代」なんて言われているご時世ゆえヒーロー協会のプロパガンダだと思っていた。


 だが、つい小1時間前に初めて会った西住涼子が数時間前に投降してきたというナチスジャパンの生き残りをすでに配下に加えていたのを見て、北条も彼女への認識を改めざるをえなかった。


 しかも北条はあの箱型の飛行物体が南消防署上空を飛び去っていった後、西住涼子が「泊満さんが帰ってきた」と呟いていたのを聞き逃さなかったのだ。


 暗い砲塔の中でその時の事を思い出し思わず背筋が竦むのを感じて北条は舌打ちをつく。


 その後に轟いてきた砲声はこれまでに何度も聞いて聞き間違えようのない8.8cm(アハト・アハト)の物であった事から彼女の直感が正しかった事は間違いない。


 だが、それではまるであの年寄りの爺さんの再来ではないか!


「千葉巡査長、本庁(警視庁)へ連絡、これより作戦を開始する、と。……それと攻撃ヘリを要請しろ」

「は? しかし今からでは……」


 今年の4月に入ってから初めて戦車に乗った少女に負けてはいられないと北条は自身の脳髄を振り絞って警視庁対戦車ヘリ部隊の派遣を要請する事を思いついた。

 本来であればH総合運動公園の「おびき寄せ部隊」が敵戦力のいくらかを引き付けて、その空いた穴を「突入部隊」が突くという作戦であった。

 だが、運動公園の部隊とは連絡が途絶し、観測部隊からは敵戦力の移動は報告されていない。

 ならば少しでも味方の火力を増やすため航空支援を要請するのは当然の事とも言える。


 しかし、通信担当の巡査長は車長の命令をとても信じられない事のように返してくる。


 当然ながら彼らはビルの立ち並ぶ臨海エリアへと突入して戦闘を行うのだ。

 しかも戦車以外には歩兵が数十名と近接戦闘になるのは必然。

 通信員は味方への誤射を心配しているのだ。


「安心しろ! ヘリのミサイルやら機関砲なんかが当たるような奴がいるかよ! 心配しないで『俺の頭に糞垂れろ』とでも言ってやれ!」


 北条の言葉に巡査長も渋々ながら通信を開始する。もっとも北条の言い方よりも大分、お上品な言い回しであったが。


 だが北条には1つだけ心配の種があった。

 それはヘリに運悪く誤射されるような味方がもしいたなら、それは恐らくは彼の同僚である警察官であろうという事だ。






「出発! 出発です!」


 島田の手を引いて戦闘室に飛び込んできた涼子が操縦手であるD-バスターへ声をかける。


「うん? どうした? さっきの小型機がどうかしたか?」

「泊満さんが敵のど真ん中に乗り込んでいきました!」

「ハハハッ! あの御仁もやりおるものよの!」


 車長席のラルメはどっしりと椅子に座って足を組み鷹揚に笑ってみせる。


「え? 『虎の王』、生きてたの?」

「さっきの砲声を聞かなかったんですか!?」


 装填手席の鉄子が驚いたような声を上げるが、彼女をさらに驚かせるような事がもう1つ。


「と、ところで涼子さん?」

「なんです?」

「あの……、私たちが最前列を走っているように思えるのですが……」


 操縦手のD-バスターは迷いなくヤークト・パンテルを発進させて駆け足の歩兵部隊を次々と追い越していく。

 もう1人のD-バスターは通信手兼リモコン機銃手席に座って各車との通信状況を確認しているし、ラルメに車長席を奪われた島田も通信手席後ろで小さくなっていた。

 鉄子も装填手席に設置してある索敵用潜望鏡で辺りを見てみるが、彼女たちの前には車輛は無く、後ろに続いているのみ。


「最前列って、そうですよ? 私たちが先頭です」

「ほあっ!? お前たちは何を考えているんだ!!」

「だそうですが、姫サマ?」

「うむ。妾は宇宙を統べる銀河帝国の皇族ゆえ、妾が先陣を切るのは当たり前であろう? あ! 妾に何かあったら地球が消し飛ぶからな! そこんとこヨロシク!」

「うっそでしょ!? あんたたち!?」


 鉄子がそう叫ぶのも無理はない。

 彼女たちが駆るヤークト・パンテルⅡは駆逐戦車。

 “戦車”とは付いているが実際の所は対戦車自走砲と言ってもいい。


 大口径の砲を搭載するために旋回砲塔を廃して固定戦闘室を車体の上に乗せたスタイルの兵器であって、砲側の微調整のための可動範囲外の敵を撃つためには車体ごと旋回しなくてはいけないのだ。

 当然、戦車のような機動戦闘には不向きで待ち伏せのような防御戦術に向いた兵器だ。


 装甲こそ異星の技術で硬化処理が行われて強化されているとはいえ、攻勢の先頭になるような兵器ではない。


 だが、それが何だというのだろう?

 涼子にとってヤークトは砲の射角を得るのが面倒な戦車というくらいであったし、島田にとっては彼の人生で初めて得たマトモな装甲と砲火力を有した戦車である。さらにいえばラルメにとってはチハと違って車長席に椅子が付いているだけで大満足なのだ。


「まあまあ、鉄子とやらも安心したまえよ。妾と妾の臣民たちが付いているゆえ」

「あんたが一番の厄介なのよ!」


 しかし鉄子にとっては距離を詰められればマトモに戦えないような駆逐戦車が先頭となって突き進み、しかもその中には「惑星破壊爆弾」なんていうナチスも真っ青の激ヤバ兵器を有する銀河帝国の皇女が乗っているのだ。

 どう考えても悪夢である。


「おっ、皆、敵さん、お待ちかねだよ~!」

「ひぃっ! 下がって! 下がって!!」


 そうこうしている内に涼子たちを乗せたヤークトは邪神の勢力が待ち受ける臨海エリアへとたどり着く。


「鉄子さん、静かにして! あと榴弾! 急いで!」

「は、はいぃぃぃ……」


 涼子は照準装置を覗き込むとそこにはビルとビルとの間に数体の怪人がこちらを向いているのが見えた。


 その瞬間、スーと波が引いて行くように涼子の意識は冷めていき、同時に世界がゆっくりと流れ始めるような感覚を覚える。


 怪人たちも涼子たちへ向けて何やら迎撃の態勢を取り始めたがすでに初弾は装填済み。

 鉄子もギャーギャー騒ぎながらも自らの与えられた任務を果たしていた。


 だが、やはり人型の怪人に駆逐戦車の砲では射撃機会を得るのが難しい。

 敵もそれを理解しているのか左右に分かれて二手から攻めてこようとしていた。


「おっしゃ! 涼子ちゃん、行くよ!」


 敵が近付いてくるのに一向に射撃が行われていない理由に気付いたのか操縦手のD-バスターが車体を左右に振り始める。

 蛇行運転の形になったヤークトであったが、涼子にはそれで十分である。


「ナイス!」


 敵の未来予測位置。

 自車の旋回のタイミング。

 砲弾の初速と減速の割合、そして弾道。


 全てを脳内で計算した涼子はトリガーを引いた。

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