表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第44話 戦え! ヒーロー“たち”!!
343/545

44-2

 突如として羽沢真愛たち3人の前に現れた邪神ナイアルラトホテプ。


 空は先ほどまでと同じくブ厚い雲が立ち込めて、地のグラウンドや観客席にも変わった様子は無い。


 ただいきなり邪神が忽然と何の兆候も示さずに現れたのだ。


 どうやって?

 長瀬咲良はおろか、かつて魔法少女であった羽沢真愛にも現役の魔法少女である山本組長にも理解が及ばない。

 例えテレポーテーション(超常力瞬間移動)を使ったとしても転移の後には魔力の残滓が空間に残るのだが、黒い人型の姿を取った邪神の周囲にはなんら魔力の痕跡を見つける事ができなかったのだ。


 だがどうやってここに現れたのか理由が分からずとも山本組長は邪神に向かって斬りかかっていく。

 姿勢を低く落として、刃を上に向けた魔法短刀(ドス)を構え一直線に邪神の腹部を抉りに突っ込んでいくが、しかしナイアルラトホテプが右掌を向けると手の平から幾本もの鞭のような触手が現れて山本の手首やドスの刃に絡みついて山本の突進はそこで止まってしまった。


「な、なにこれ!?」


 驚愕しつつも山本は腕に力と魔力を込めてドスに絡みつく触手を断ち切ろうとするが手首を固められているせいでそれも叶わない。


「フム……。『ですさいず』ハ此処ニイナイノカ……?」


 一方のナイアルラトホテプはすでに山本を敵と見做していないように周囲へ首を回してデスサイズの所在を探る。


「オジキがいなくたって!!」

「ソノ結果ガコノざまダト言ウノニカ? 御目出度イナ!」


 身動きの取れなくなった山本を嘲笑うかのように邪神は背中からも無数の触手を出現させて山本へゆっくり近づける。その様子はまるで「お前の事などいつでも始末できる」とでも言っているかのようだ。


あれ(デスサイズ)ガイタナラコウヤッテ遊ブ事モデキン。あれハ未ダニ手ニシタちからニ慣レテイナイノカ、スグニ殺シニカカッテクル。あれガコチラ側ナラソレデモイイノダロウガ『ひーろー』ナラ前口上ヲ聞クナリ、投降ヲ促スナリシタラヨカロウニ……」


 邪神はそれもまた山本を嘲笑っているかのように長々と言葉を紡いでいた。


 だが山本を脅かそうとしているのか触手の先端を不規則に動かしながら徐々に近づけていくが、その時、黒い人型の頭部、こめかみが爆ぜた。


 観客席最上段にいた豊田が魔法狙撃銃で邪神の頭部へと銃弾を叩きこんだのだ。

 “貫通(ピアシング)”と“加速(アクセル)”の魔法がかけられた銃弾は邪神の左側頭部から右の側頭部へとまっすぐ貫いて抜ける。


 だが、それだけでは終わらない。


 上空から土砂降りのような銃撃がナイアルラトホテプへと降り注ぐ。

 銃弾は邪神のすぐ間近にいた山本へも振るが彼女の頭上に半球状の魔法障壁が現れて銃弾を防いでいた。


「チィッ! 『突風(ガスト)』ニ『2丁拳銃(ダブルトリガー)』、『流星(ミーティア)』カ!?」


 邪神に襲いかかる新手からの返答は無い。

 だが今度は豊田の銃弾は邪神の胸板へ叩き込まれ、真上から降りしきる小沢の銃弾は次々と山本を縛る触手を撃ち抜いていき、そして箒に跨った栗田が上空から垂直に加速したままの勢いで突っ込んでくる。


 小沢の銃弾で山本は自由を取り戻して飛びのいたのと栗田が地面に追突するのはほぼ同時だった。


 自身の特化能力である“障壁”魔法で魔力の円錐状防護壁を作った栗田の最終的な急降下速度は音速を超え、衝撃波(ソニックブーム)とともに邪神目掛けて落下。


 栗田は弾力を持たせた障壁で落下の衝撃を殺して土煙に紛れて地面を転がりその場から離れ、栗田の退避を援護するように地表近くまで下りた小沢が未だ収まらぬ土煙へ2丁拳銃を乱射。


「梓ちゃん、ありがと!」

「どういたしまして、それにしてもまさか警戒網を無視していきなり貴女のところに出てくるなんてね。羽沢さんも長瀬さんも下がって下さい!」

「え、ええ……」


 不意の事で我を忘れて何もできないでいた羽沢真愛と長瀬咲良へ栗田本部長が退避を促すと、彼女の言葉で我を取り戻した咲良が言われた通りに下がろうとするも隣にいた羽沢真愛は動かない。


 いや、動けないのだ。


 羽沢真愛の膝は小刻みに震えて、自分でも震えを止めようとしているのかまるで寒さに耐えているかのように両の肘をそれぞれ逆の手で押さえている。そして顔面は蒼白で目は虚ろ。退避を促されてもただ邪神を包み込んだ土煙を見つめてじっとしていた。


 無理も無い。

 かつては“最強”の2文字を2つ名として知られていた羽沢真愛とてすでに変身能力を失い実戦を離れて久しい。

 今の羽沢真愛はただの高校1年生の少女なのだ。自らを殺す意思を持った神性を前にしてどうして普通でいられよう。


「真愛さん! 手を……!」

「……う、うん」


 咲良が無理やりに羽沢の腕を掴んで引かせようとするも、咲良の足元にいたツチノコが急に飛び跳ね、羽沢真愛の足元にもつれる。


「ちょっ!? ……えっ!?」


 未だ精神に不調をきたしかけていた羽沢は足にまとわりついてきたツチノコに抗えずにその場に転ぶが、しかしその瞬間、それまで羽沢真愛がいた場所へ1本の黒い触手が伸びてきていた。

 もし羽沢真愛が転んでいなかったら槍のように伸びた触手に彼女は背中から刺し貫かれていたであろう。


 その触手を皮切りに土煙の中から無数の触手が現れてくる。

 そして魔力の奔流が旋毛風のように吹き荒れて土煙を吹き飛ばした時、そこには栗田の突撃で生じたクレーターのど真ん中に佇むナイアルラトホテプの姿がそこにあった。


「……まるで無傷に見えますね」

「『見える』デハナイ。実際、君ノ攻撃ニヨルだめーじナドマルデ無イノダ『流星』……」


 人型を保ったままの黒い人型も、背中や両腕から伸びて独立した生物のように蠢く触手たちも先ほどと何ら変わった様子が無い。


 栗田の攻撃だけでなく、小沢と豊田の銃撃もまるで無意味であるのは見るからに明らかだった。


「ウオォッシャアアアアア!!!!」

「……ッ!?」


 むしろナイアルラトホテプにとってはフィールドの遠く向こうから聞こえてきた闘魂の籠った雄叫びの方が気に障ったようで明らかに山本や栗田たちよりも声が聞こえてきた方へと注意を払っている。


「あーしらとカ……。負ケル事ハ無イダロウガ面倒ナ奴ガ来ルナ……」


 アーシラトだけではない。

 マクスウェルや残るヤクザガールズ組員たちが先ほどの銃声や激突音、あるいは“通信”魔法を受けて一斉に陸上競技場へと集まってこようとしているのだ。


 邪神はそれらを「厄介な敵の到来」というよりも「心底、面倒な連中が群がってくる」とでも言わんばかりに頭を振って何やら考え込み、そして右腕を天に掲げて呪文を唱える。


『にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな! にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな……』


 呪文が詠唱されるたびにまるでここではない何処かから力が流入してくるように魔力が周囲へと溢れだし、やがて魔力は黒い力場となって顕在化して徐々に範囲を広げていく。


「マズい! 皆ァ!」

「分かってる!」

「…………!」


 山本、栗田、小沢、そして豊田は呪文の詠唱を止めようと短銃や狙撃銃で邪神へ銃撃を加えていくが、いくら銃弾を命中させても何らダメージを与える事はできずに黒い力場は拡大を続けていき、やがて黒い力場はナイアルラトホテプを完全に覆いつくしてさらに拡大。


 半球状の力場は山本たちに触れると彼女たちを押しのけながらもさらに拡大。

 だが不思議な事に山本たちはただ押しのけられるだけだというのに羽沢真愛と長瀬咲良、そして咲良の眷属たるツチノコだけは力場に押しのけられる事なく、その中へと吸い込まれていってしまった。


 やがてフィールド全体を覆いつくしたくらいで黒い力場は拡大を停止する。

 それからは山本たちや駆け付けてきたアーシラト、マクスウェルたちが何をどうしようとも黒い半球はビクともすることなく、ただナイアルラトホテプと羽沢真愛、長瀬咲良を内部へ閉じ込めて不気味に存在し続けていた。


さすがのニャルさんも囲まれて袋叩きは嫌な模様。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ