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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第44話 戦え! ヒーロー“たち”!!
342/545

44-1

H市総合運動公園。

2000年代前半、H市の人口密集地である市中央部と臨海エリアの間に広がるいわゆる郊外エリアの再開発事業が計画された。

その中で大規模郊外型商業施設であるZIONなどが誘致され、また様々な運動競技に対応できるスポーツ施設としてH市総合運動公園が建設されたのだ。


サッカーグランドや8面分のテニスコートにスケートボード用のハーフパイプ。また屋内施設には温水プールにバレーボールや卓球用の器材が用意されてボルダリング用の壁面まで設置されている。


中でも圧巻は5000席の観客席を備える陸上競技用グラウンドだ。

国際的な競技基準をクリアしたフィールドとトラックを備えたグラウンドはこれまでも様々な国際大会で使われてH市の名を国内外へと発信するのに大いに役立っていた。


だがこの日は様子が違っていた。


観客席には人の姿が極めて少なく、しかも清掃業者でもないというのに箒を手にしている者がほとんど。

中には箒を傍らに置いて身の丈に合わない大型の狙撃銃を構えている者もいる。


だがよく見ると観客席の下階にある選手たちの待機場所には白いユニフォームを着こんだ一団もいる。

彼らは揃って今時は珍しい坊主頭で手にした木製のバットへ釘を打ち付けたり有刺鉄線を巻き付けていた。

良く見れば彼らが着ているユニフォームが野球の物である事が分かるだろう。彼らの顔つきが一様にまだ若い少年たちである事を思えば坊主頭にも説明がいく。


まだ少年たちとはいえ日本、いや世界のフィジカルエリートが嗜む野球の道を行く者が自身のバットに自ら傷を付けて釘を打ち込むとはいかなる事態なのであろう?

身近なバットへ釘を打ち込んで殴打の際の殺傷力を増すという事は反社会勢力に属する者たちの間ではよく行われる事だが、野球選手たちがこのような真似をするなど前代未聞の事である。


近年においては総合格闘技イベントの興隆により異種格闘技戦というものも珍しい物ではなくなった。

レスリング、ボクシング、柔道、柔術、サンボ、空手、テコンドーetc.

だが諸兄たちはそれら異種格闘技戦において野球選手が戦うのを見た事があるだろうか?

いや、無いだろう。


ようするに野球選手とその他のスポーツ格闘技者との間ではけして埋める事のできない溝が空いているのだ。

最大で時速160kmを超える初速の投球を全身の筋力とバネだけで成し遂げる投手。

その投球をスポーツ力学上とても万全とは言えないような姿勢で受け止める捕手。

そして、投手渾身の投球を軽々と場外まで打ちこむ強打者。


もし総合格闘技のリングにバットを持った野球選手が上がったならば、そこで行われるのは“試合”ではなく“虐殺”になるであろう。


その野球選手たちが己の誇りすら投げ捨ててバットに釘を打ち込んでいるのだ。

彼らがこれから望む戦いにかける悲壮な覚悟が周りで見ている者にも伝わってくるようではないか!


「なんで野球部の人たち、準備が終わったのに帰らないんですかね?」

「さ、さあ? なんでかしら? しかも釘バットとか作ってるし……」

「いやぁ……。ウチのガッコの人たち“私ら”にもできるんなら自分たちだってってヤル気満々なんですよね……」


フィールド一杯に描かれた巨大な六芒星を中心とした魔法陣。

その中心部に3人の少女たちが手持無沙汰な様子で大H川中学校野球部員たちを眺めていた。


「ええ? 危ないでしょ!?」

「私もそう思うんですけど、ハドーが攻めてきた後なんか生徒会が武器を寄付してくれとか言い出したんですよ?」

「え? ホントに寄付したんですか!?」

「うん。据え付け型のバルカン砲だけど……、どうせまた何かあった時には自衛隊の人に使ってもらえばいいかなって……」


3人の少女たち。

1人は周囲の少女たちと同じように変形セーラー服に三角帽子の魔法少女、山本組長。

1人はこちらは一般的なセーラー服だが、不可思議な意匠をこらされた黒と金の杖を手にした長瀬咲良。腰の左側には扇状に展開したカードホルダーをベルトで巻いている。

そして最後の1人がこちらもセーラー服ではあるが、長瀬咲良とは違い高校の制服を着た元魔法少女、羽沢真愛。


彼女たちは明智元親発案の2重作戦の1翼である「おびき寄せ作戦」の肝である「クトゥグア召喚偽装作戦」である。


そのために魔法陣の準備が終わり、その他の面々が敵の到来を今や遅しと迎撃態勢を整えているのに対して3人は魔法陣から離れる事ができなかったのだ。


敵の姿は未だ見えないが邪神ナイアルラトホテプの事だ。

この世界の魔法使いたちには不可知の方法で“遠見”の類の魔法を使ってこちらの様子を窺っているのかもしれない。


こちらの偽装作戦がバレてしまってはただでさえ少ない戦力を2分した1方である突入部隊は多大な損害を受けてしまうかもしれないのだ。


だが咲良の足元にいたツチノコは暇を持て余したのかゴロゴロと左右へと転がり、山本もポケットからラムネ菓子を取り出して2人に勧めて自分も口の中へと放り込む。


「宇佐ちゃんたちやオジキさんたちは大丈夫でしょうか?」

「宇佐ちゃんたちは……、こっちがこうならまだ向こうも動いてないと思うけど……。石動さんはどうでしょう? いきなり出てきたロキって人? 神様? あの人も悪い人なんですよね?」

「それこそ誠君なら心配ないわよ。誠君は強いから……」

「へぇ……?」


羽沢真愛の言葉を聞いて山本組長が意味深なしたり顔で笑みを浮かべる。

彼女の言葉に石動誠への信頼以上のニュアンスを感じ取っていたのだ。ヤクザガールズの組長といえども色恋沙汰には興味津々であった。


「もう! そんな顔しないでよ!」

「アハハハ! ゴメンなさ~い!」

「我ニモ何ノ話ヲシテルカ教エテクレ」

「「「…………ッ!?」」」


突如として背後、自分たちのすぐそばから沸き起こった低い声に3人は飛び上がる。


「ウン? 何ヲソンナニ驚イテイル? 招待ヲ受ケタカラ来タノダゾ?」


そこにいたのは全身が闇で覆われた、否、闇そのもので形作られた人型だった。


「ナイアルラトホテプ!?」

「な、なんで……!?」

「…………ッ!?」


もっともその黒い人型を直接、見た事があるのは長瀬咲良だけ。

だが羽沢真愛はかつて自身が倒した「アンゴルモアの恐怖の大王」と同種の邪悪さから、山本組長は昨年、埼玉に現れたク・リトル・リトルよりもドス黒い漆黒の瘴気にすぐさま目の前の存在こそが邪神ナイアルラトホテプであると気づいていた。


「ま、まさか貴方が1人で直接、乗り込んでくるとは……」

「フン、ドウセ明智元親ガ下ラン作戦ヲ立テタノダロウ? オ前ラ『くとぅぐあ』トハドノヨウナ存在ナノカシッテイルノカ?」


邪神は首を傾げてあからさまな嘲笑を向けてくる。

そして黒い人影の胸部から中年男性の顔が浮かび上がってきてカメレオンのように左右の眼球をバラバラに動かしながら口を開く。


「どうせ『炎の神性』だとか『私を毛嫌いしてる』とかくらいしかしらんのだろう? まあ、実際、アレの荷電粒子砲は堪えるがな。ともかく、だ。本物の『クトゥグア』がこの街にいるのにこんなショボい魔法陣を使ってたら、すぐに嘘だと分かってしまうよ! ああ、あいつらクトゥグアが何だか知らないから本物のクトゥグアから正式な術式を聞く事ができなかったんだな。ってな!」


神経質そうな男の顔は邪神の邪悪さがそのまま乗り移ったかのように一気に捲し上げ、それから大声で笑ってまた何事もなかったかのように消える。


「と、飛んで火にいる夏の虫とはこの事ね! 作戦は上手くいかなかったけど、お前を寸刻みにして戦いの前の血祭にしちゃえ!!」


山本が短刀(ドス)を投げ捨てて一気に邪神との距離を詰めていく。


「フン! 『魔法少女ノりーだー』ニ『そろもんノ後継者』、ソシテ『羽沢真愛』! ココデ我直々ニオ前ラヲ殺シテ後顧ノ憂イヲ断タセテモラウ!」

できれば44話は頻繁に場面転換が入るので時系列に沿った書き方にしたいです(するとは言ってない)

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