表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第43話 信じるという力
339/545

43-5

 新宿2丁目の地下に隠されていたのは米軍でも最新鋭の垂直離着陸輸送機だった。


「さあ、例の『届け物』はこれの中に……」


 ロキに促されて機体の後部へと回るとカーゴ(貨物)スペースの扉は開け放たれた状態になっていて、内部に収められていた箱状の貨物を見る事ができる。


「これはもしかしてARCANAの半永久機関!?」

「ええ。先月、ハドーと貴方が戦っている所を私が横からかっさらっていった物です。もっとも、いくらか改造を加えてありますがね……」


 輸送機の貨物室に収められていた物。

 それはARCANAが僕たち大アルカナ用のパワーアップ装置として開発していた物だった。


 僕たち大アルカナの主動力源である時空間(ディメンション)エンジンは無尽蔵ともいえるエネルギーを異空間から取り出す事ができる。


 でも僕たちが今いる空間には元に戻ろうとする力が働いていて、その斥力があるために時空間エンジンの出力の上昇には限度がある。

 そのためにこのARCANAはこの大型の時空間エンジンを搭載した機械を用い、ある程度の範囲へと異空間からのエネルギーを流入させることで、空間の元に戻ろうとする力を飽和状態にする事で効果範囲内にいる大アルカナの出力上昇の障害を取り払おうとしていたのだろう。


 でもスットコドッコイ共(ARCANA)の前に立ちはだかったのが組織の支配から脱した僕たち兄弟、つまりは兄ちゃん(デビルクロー)(デスサイズ)の2体の大アルカナだったためにこのパワーアップ装置は使われる事無くARCANAは壊滅した。


 自分たちがパワーアップしても僕たちも同じように強化されては意味がないと思ったのだろう。

 むしろこの強化装置がもたらす単純な出力上昇は僕のような機動力で敵を翻弄するタイプや兄ちゃんのような重装甲とパワーで敵を粉砕するタイプの改造人間にこそもっとも効果があるだろうし。


 そしてARCANAが壊滅した後、装置はヴォルト工業なる企業がどこかの地下アジトで発見したのかこのH市の工業団地にある施設に運び込まれ、その情報を入手した「超次元海賊ハドー」によって奪取され半永久機関としてハドーの艦隊がこちらの世界を渡るための超次元ゲートの動力源として使われていた。


 ハドーとの戦闘で僕はこの装置を使って出力を強化してハドー肝入りのロボット怪人を撃破したけれど、突如として現れたロキに装置を奪われていたのだった。


 その装置がここにある?


「貴方はこの機械を完全に破壊するつもりだったようで修理するのには骨が折れましたがね。なんとか間に合わせる事ができました」

「修理? これを誰が……」


 僕はハドー戦において、この装置にアクセスして故意に過負荷を生じさせて基盤を焼き切ってやろうとしていたのを思い出す。


 機能停止目前にてロキに装置を奪われていたものの、ARCANAの超科学力を思えばとても修理できるとは思えない。


 でも僕の疑問に対する答えは背後からやってきた。


「あら~! ロキちゃん、燃料の補給さえおわればいつでもイける♂わよ!!」

「まっ! こんな可愛い子まで連れてきて! 僕ぅ、フリフリの服でも着てみない!?」


 そこにいたのは奇妙な2人組だった。


 1人は背の低い髭面のお爺さん。

 髪も髭も真っ白で、意思の強そうな鋭い視線が特徴的ながらも唇には真っ赤なルージュが引かれていた。


 もう1人は灰色の毛に覆われた犬、いや耳や鼻などのパーツに比べて目が小さく見えるし狼かな? まぁ、いいや。狼の獣人。

 この地球の科学力を大きく超えた技術力で異種の生物と遺伝子レベルで融合させられたその姿はハドー獣人としか思えない。


 でも何故か狼獣人は白と黒を基調としたたくさんのフリルが取り付けられたゴスロリ服を着ているし、ヒゲのお爺さんも服装こそは輸送機の整備のためかツナギを着ているものの、口紅の他にもよく見ると薄化粧をしていた。


「ああ、紹介がまだでしたね。こちらがドヴェルグ、最近はドワーフと言った方が分かりやすいですかね? ドワーフの順子さん。そしてこっちが元ハドーの『2丁目の狂犬』こと犬太さんです」

「ヨロチクビ~!!」

「貴方がデスサイズね~! あ、私、ハドーって言ってもバックレてから20年以上も経ってるから許してチョンマゲ~!」

「……ど、どうも。石動誠です」


 ドワーフとかいう種族についてはファンタジー物のRPGなんかでは馴染みのある名前だった。

 地属性の精霊とかで、鍛冶やら冶金に詳しいとか。


 そしてハドー獣人は高い知能を持つという。

 敵として戦っていた頃はどいつもこいつも口からヨダレを垂らして猛獣のように遅いかかってくるような連中ばかりだったけれど、こちらの世界に居ついてしまえばすぐに慣れて社会に馴染む事も可能だというのは宇佐さんや寅良さんの例を見れば分かる。

 ……まあ新宿2丁目にすら馴染む事ができるというのは予想外だけれども。


 ようするに順子さんの材料工学の知識と犬太さんのハドーの知識をもって半永久機関を修理したということなのかな?


「……ところでさ、『届け物』は『女の子へのアクセサリー』って言ってなかった?」

「ええ。そうですよ」

「これが?」


 その装置はHタワーで見た時よりもいくらか細部の形状は変わっているものの、大きさは高さ1.2mほど、短辺も1m、長辺は2m以上もある大きな物だ。

 とても女の子のアクセサリーと呼べるような代物ではない。


 またロキの奴が僕を騙そうとしているのではないかと訝しむものの、ロキの表情にはいつもの悪意に満ちた薄ら笑いが消え失せていた。

 そしてロキは僕との話を切り上げて順子さんや犬太さんと立ったまま打ち合わせを始める。




 鈍いエンジン音が聞こえてきてそちらを向くと、燃料タンクを積んだ大型のトレーラーが近付いてきていた。


 輸送機の側面にトレーラーは止まると運転席から黒のブーメランパンツ1丁の姿になったバーのママさんが降りてタンクから伸びた太いホースを機体の給油口に繋いでジェット燃料の補給を始める。


「すぐに終わるから乗っててもいいわよ?」

「……はあ」


 底抜けに明るい順子さんや犬太さんとは違い、言葉少なげなママさんにはどこか陰があって、その彼女(?)がわざわざ口から出した言葉には底知れぬ強制力があった。

 未だかつてロキから奪われた半永久機関を前にした不信感はぬぐえないものの、僕は輸送機の中に入って貨物室壁面に取り付けられた折り畳み式簡易椅子に腰を下ろす。


「あら~! マコトちゃん! 元気無いじゃな~い!?」


 手持ち無沙汰になった僕が機体へ燃料を送り込むポンプの音を聞いていると打ち合わせが終わったのか犬太さんが貨物室へと入ってきた。

 ロキはまだ順子さんと打ち合わせ中。犬太さんは貨物式からコックピットへと進み輸送機に電源を入れて各種計器のチェックを始める。


「えと犬太さん、ちょっといいですか?」

「なあにぃ? お姉さんの3サイズ? 聞いて鼻血吹いても知らないわよ? 青少年君?」


 まあ確かに犬太さんは戦闘用のハドー獣人だけあって全身の筋肉が見るからに発達していて大胸筋もゴスロリ服がはちきれんばかりだし、狼の特性かウエストの辺りもくびれている。

 きっと戦闘になれば下半身のバネを活かして突っ込んできて両手の爪を振り回し鋭い牙で敵に噛みついて仕留める戦法を得意としているのだろう。


 でも僕が気になったのはそんな事じゃあない。

 そもそも僕には乳房ではなく大胸筋という意味で「大きな胸」に興奮するような趣味は無いのだ。


「あ、いえ、そんな事じゃあなくて、犬太さんたちはロキを信用しているんですか?」

「ええ、もちろんよ!」


 コックピットの各種スイッチを操作して計器を見たまま犬太さんは僕の質問に答えてくれた。


「まあ、多分、貴方が言う『信用』とは少し違うかもねん! ロキちゃんたら平気で嘘を付くし、そもそも何を考えてるかさっぱりワケワカメだし~! でも私たちロキちゃんの事が好きだからね~! マコトちゃんにも信じてあげたい友達っているでしょ?」


 やがて犬太さんは点検が終わったのかコックポットの副操縦手席から首を後ろに回して屈託の無い笑顔を僕に向けてくる。


 確かに、彼女(?)の言う通り僕には「信じてあげたい友達」はいる。

 明智君の立てる作戦は相手の隙を突く綱渡りのような物や、わずかな好機を逃がさないための強行策も多い。

 でも僕は彼が本心から悪党に屈する事を良しとしない反骨精神を知っているし、なにより彼は自分が戦えないからこそ頭脳の限りを尽くしてヒーローたちに協力しているのを知っている。

 例え彼の作戦に穴があったとしても僕は後悔する事は無いだろうし、彼のミスは僕がカバーしてしまえばいいぐらいに思っている。


 犬太さんや順子さん、ママさんにとってはロキがそうだと?


「私ねぇ、最初、こっちの世界に来てから略奪を何度か成功させてるのよねぇ~……。でも略奪してる最中こそ肉食獣の因子のせいか精神が滾っているのを感じていたけれど、その実、どこか満ち足りない感覚がしていたの。そんな中、道玄坂のショーウィンドウでフリフリの可愛い服を見つけちゃってさ~! 心が躍るという感覚を始めて味わったわ~!」


 女性が髪をかき上げるように犬太さんは灰色の毛を右手で撫でつけながら遠い目をして語る。


「でも、私ったら男性ベースで作られてるし、毛むくじゃらじゃな~い? ハドーを脱走して1人でフリフリのお洋服着て楽しんでたんだけど、それでも内心ビクビク目に見えない物に怯えていたわ。その時にロキちゃんを見てね、『ああ、自由に生きていいんだ』って思えたのよ!」

「自由?」

「彼ったらこれ以上ないほどに自由じゃない?」


 まあ、神話の時代から好き勝手やって生きてるのを自由といえば自由なのかもしれない。


「だからね。彼がこれからも好きな事をやって生きるのにクトゥルーが邪魔だっていうなら信じてもいいと思うわよ? ほらロキちゃんたらお馬鹿な人間を見て笑うのが好きじゃない? 彼は人間が滅んじゃったら困るのよ。それに……」

「それに?」


 そこで犬太さんは首を傾げながら、まるで自分でも確証が無い話なのか声のトーンを落としながら話を続けた。


「いえね。多分なんだけど、彼は自由に生きてるからこそ、自由に生きようとしているからこそかつての後悔のケジメを付けようとしているのかもね……」

「ああ、僕には『アフターサービス』とか言ってましたね」

「そうねぇ。何の事だかはサッパリなんだけど、平気で嘘を付くロキちゃんも今回ばかりは信じてもいいと思うのよねぇ……」


 ロキが後悔する事とは一体なんなのだろう?

 ロキは昨年、計画を潰された腹いせにク・リトル・リトルを呼び出したように人の命すら何とも思っていない奴だし、神話によれば同じ神様仲間だって謀略によって死なせるような最低の奴なのは間違いない。


 疑問は尽きないどころかますます増えていくのだけれど、燃料の補給が終わったのかママさんとロキが機内へと入ってきた事で僕は気持ちを切り替える。


 ロキはさぞ大事そうに半永久機関を手で撫でて目を細め、ママさんは素肌の上にヘルメットとフライトジャケットを着こんでいた。


「それじゃ、イく♂わよ!!」


 ママさんの合図で順子さんがガレージの壁面のスイッチを押すと上下左右、あらゆる方向から多数のモーター音が鳴り始め、やがて輸送機は上昇を始める。

 ガレージの一部、輸送機が駐機してあった場所はエレベーターになっていたようで機体はあっという間に地上へと出た。


「……これは」


 数十分前に通ってきた町の変化に僕は驚く。

 新宿2丁目の雑居ビル群は地下へと姿を消し、そこは広大な飛行場となっていたのだ。


「昔、ヤクザなんて人種がいた頃はこの飛行場から戦闘ヘリを飛ばしてロケット弾を撃ち込みに行ってたのよ。そのせいか今じゃ『ヤクザ』なんて魔法少女チームしか使わないような名前になっちゃったけどね!」


 ママさんが自嘲気味に僕に飛行場の説明をすると犬太さんも長い口を歪めて笑みを作って見せてくる。


 ロキは先ほど犬太さんを「2丁目の狂犬」だなんて紹介してきたけれど、きっと彼もヤクザとの抗争で活躍したのだろう。


 そして「雄プレイ♂」の両翼端のエンジンに火が入れられ、少しの暖気運転が終わると機体はゆっくりと上昇を始めた。

なお香川番外編でミスリルの屋台を作ったドヴェルグは順子さんって設定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ