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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第42話 3重作戦
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42-7

「ん? ちょっと待って! なんで真愛さんまで?」


 今の真愛さんはヤクザガールズや咲良ちゃんに比べても非常に高い魔力を持つらしいのだけれど、魔法少女に変身する力を失って戦う事ができない。

 つまり真愛さんは自分の身を守る事も逃げる事もできないのだ。


「ああ、実はクトゥグアを召喚するための正確な魔法陣が分からなくてな。汎用の召喚術式を使うしかないんだ。汎用の魔法陣では必要となる魔力量が跳ね上がるようで、その汎用魔法陣でクトゥグアを召喚するというのを敵に信じさせるためには羽沢が必要なんだ。羽沢が莫大な魔力を持つ事は敵も知っているだろうからな」


 明智君の話では「クトゥグア」なる旧支配者は外宇宙の存在のようで僕たち地球人や「魔法の国」、マックス君の使うような異世界の魔法とは体系の異なる術式を使わなければならないそうな。


 あるいは“狂える詩人”とも呼ばれる中世の魔術師アブドゥル=アルハザードが遺した魔導書「死霊秘法(ネクロノミコン)」の原本があればクトゥグアを召喚する魔法陣も分かるのかもしれないけれど、その原本はアメリカの某大学が厳重に管理していて閲覧には厳正な審査が必要ならしい。


 そして日本国内にある物は、例えば宮沢賢治が使っていた「死霊秘法エスペラント語版写本」なんかは精度が低く欠損が多い物らしくて、もしその写本の召喚術式が間違っていた場合、ナイアルラトホテプの軍勢をおびき寄せる事ができないかもしれないという懸念があるそうだ。


 そういうわけで山本さんの汎用召喚魔法陣に頼らなければならない状況らしく、その汎用魔法陣に信憑性を与えるためにはどうしても真愛さんが必要らしい。


「だからって……」

「まぁ、そういうわけで羽沢の護衛のためにお前も『待ち伏せ組』に参加して欲しいんだがな? 羽沢はどうだ? 護衛は誠で不安か?」

「ううん。これ以上無い護衛ね!」

「真愛さんまで……」


 いくら明智君の作戦といっても真愛さんまで危険に晒すとなれば、さすがに僕も躊躇する。

 でも真愛さんは意外と乗り気なようで、かえって「大丈夫、大丈夫!」と心配する僕を逆に安心させようとしてくれていた。


「ほら、誠君もアーシラトさんも他の皆もいるし、ちょっと騒がしいくらいで世界で一番安全な場所の特等席かもしれないわよ?」


 必要以上に茶目っ気を出して笑顔で僕を説得しようとする真愛さんだったけれど、僕からすればまだ宇宙巡洋艦に1人で突っ込んでこいって言われる方が気が楽な話だった。


「誠は不安だろうがな。お前くらいにしか頼める奴がいないんだよなぁ。これで羽沢に何かあったら、俺は友人をむざむざ死地に追いやった馬鹿野郎になっちまう」


 確かに明智君の言う事も分からないではない。


 山本さんたちやマックス君たちもいるとはいえ邪神ナイアルラトホテプの戦闘力は測りかねるところがあるし、アーシラトさんなんかは“神”であるナイアルラトホテプには勝てないと自分で言っている。

 そんな中、すぐに逃げられたとはいえ「風魔軍団」のアジトでナイアルラトホテプを渡り合った僕を計算に入れなければ真愛さんを危険にさらすような作戦は立てられなかっただろう。


「……分かったよ。でも真愛さん」

「なあに?」

「いざとなったら僕は真愛さんを連れて逃げるよ?」

「はいはい、その時はよろしくね!」


 真愛さんは「そんな大げさな……」と苦笑いするけれど、僕は心配がぬぐえなかった。


「……さてと、それでだ。長瀬咲良、君にも総合運動公園で『待ち伏せ組』に参加してほしい。河童がさらわれているのは分かるが、そっちは他の者に任せてくれないか?」

「…………」


 咲良ちゃんも本当は自分で河童さんを助けに行きたいだろうに、明智君は救出は他の者に任せろと言う。


 しばらく咲良ちゃんは考え込み、そして唾を飲み込んで意を決したように口を開いた。


「1ついいですか?」

「何だ?」

「その『突入組』には誰が参加するんですか?」


 せめて河童さんを任せられるような名前を聞いて安心したいのか、咲良ちゃんはじっと明智君の目を見据えていた。


「ああ、魔王マクスウェルを異世界へと放逐した異世界勇者たちのパーティー。スティンガータイタン。星野総合警備の異星人3人組。あとは天昇園の部隊にH市に残ってるレスキューファイター(救助専門のヒーロー)たち。後はH署や本庁直轄の陸戦部隊といったところだろうな」


 咲良ちゃんの目が泳ぐ。


 明智君が今あげた名前はいずれもそうそうたるメンバーではある。

 3高(市立第3高等学校)のヒーロー部の人たちはマックス君と渡り合った人たちだし、神田君のスティンガータイタンも鈍重で古臭い見た目とは裏腹にハドー怪人と互角以上に戦う事ができる。ジュンさん、チョーサクさん、ミナミさんの異星人3人組もその実力は折り紙付き。なんたってミナミさんはこないだ宇宙に行った時は巨大化して宇宙戦闘機の編隊を火力で圧倒していたくらいだ。


 ただ彼らはいかんせん知名度が低い。

 スティンガータイタンの活動期間は長いものの、大半は神田君のお父さんが操者だった時の話だし、異世界勇者はこっちの世界に帰還後は基本的に学生として暮らしている。ジュンさんたちも普段は警備員として働いているわけで大々的に名前を売っているわけではない。


 彼らが揃って「知る人ぞ知るヒーロー」的な扱いなのだろう。

 ハドー総攻撃後にヒーロー登録した咲良ちゃんが彼らを知らなくても無理は無いのかもしれない。


「ち、ちなみにですけど……。テンショーエンってどんなヒーローなんですか?」

「ああ、あそこは特別養護老人ホームでな。旧軍上がりの人が多いんだ!」

「……ろう……じん……ホーム?」


 明智君?

 もっと、こう、咲良ちゃんが納得できるような説明の仕方があるんじゃない?


「だ、大丈夫だって! ほ、ホレ! ベリアルが子羊園に攻めてきた時にアタイを助けに来てくれた内の1人にジジイがいただろ? あのジーサンも今はそこの老人ホームに入ってるらしいし!」


 希望を失ってしまったような咲良ちゃんにアーシラトさんが慌ててフォローを入れる。

 明智君もさすがに焦ったのか咲良ちゃんが安心して河童さんを任せられるであろう材料を頭の中からひねり出してきた。


「あと、んと、え~と! ほ、ほら! 最近、売り出し中の『鷹の女王』ってのも天昇園で働いている人みたいだし、あそこにはあのハドー怪人が5人もいるらしいし、こないだニュースを騒がせた宇宙テロリストの降下部隊もほとんど彼ら天昇園の人たちが処理したんだぞ!」

「え? ハドーって……、宇佐さんとか寅良さんって老人ホームで働いてるんですか!?」

「あ、ああ……」

「……もっと良いトコで働けばいいのに」

「それは言ってやるなよ……。ついでに言うと寅良さんの妹の伽羅さんは向こうの社会福祉法人が経営してる児童養護施設で働いてるらしいぞ」


 なんでも「風魔軍団」のアジトに咲良ちゃんが乗り込んでいった時の救出に天昇園の戦車やハドー獣人たちが参加したのは子羊園と向こうの児童養護施設の繋がりがあったためらしい。


 ていうかアレだね。

 この街(H市)じゃ老人ホームや児童養護施設にも戦力を置いとかないといけないのかな?

 子羊園の園長さんも元エクソシストだとかでナイトゴーント相手に暴れまわってたし。


「あ、あと、こういうのはどうだ?」

「なんです?」


 明智君がタブレットを操作して1枚の画像データを咲良ちゃんに見せる。


「ん、あれ? この人って……」


 咲良ちゃんが困惑したような目で僕と真愛さんを見てくる。

 気になった僕たちも明智君のタブレットを見てみると、そこには1輌の装甲戦闘車両の周りに幾人かの人たちが集まっている写真だった。


 その装甲戦闘車量のデータは僕の電脳内には無い。

 でも旧ナチスドイツのヤークト・パンテルやヘッツァー、そして旧西ドイツのカノーネン・ヤークト・パンツァーを足して割ったような無砲塔の対戦車自走砲に見える。


 でも、そんな事よりも僕が気になったのはその車輛の周りにいる人たちだった。


 カメラを向けられた時の条件反射か笑顔でピースサインを作っているD-バスター2人に宇佐さんはまぁ、ひとまず置いておいて、鉄子さんは涙を流して駄々っ子のように泣いてるし、モデルのように等身の高い、6月だとういうのに赤いロングコートを着た人は満足気な顔をして腕組みをしているし、腰の曲がったお爺ちゃんは脚立に乗って対戦車自走砲の側面に円と楕円を組み合わせた印をペンキで描いている。よく見ると後ろの方に西住さんが途方にくれた顔でいるのが写っていた。


「……明智君、これは?」

「『UN-DEAD』のアジトから逃げてきて投降したナチスジャパンの生き残りが乗ってきた車輛を銀河帝国軍が接収したそうな」

「接収って、銀河帝国軍が?」

「このやたら色白の女の人が例の地球に逃げてきた皇族らしい。その人がナチスジャパンの駆逐戦車を気にいったらしくてな……」

「ああ、だから鉄子さん戦車取られて泣いてんだ。てか、銀河帝国のお姫様が技術に劣る地球の装甲戦闘車輛を気にいるなんてあるんだ……」

「なんでも車長席に椅子が付いてるのが気に入ったらしい。それでハーケンクロイツを銀河帝国のエンブレムに塗り替えてるとさ!」


 椅子が付いてるからって、そんな理由で戦車を取られる鉄子さんには同情するけど、それにしてもドン引きするような駄々のこね方だ。


 明智君はナチスジャパンの車輛を接収した事で天昇園の戦力が向上したってところを見せようとこの写真データを見せたのだろうけど、僕や真愛さん、咲良ちゃんも昨日、一緒にお茶を飲んでお菓子を食べた鉄子さんが地べたの上で駄々をこねるところを見せられて困惑するしかなかった。

誠君は駆逐戦車の事も「戦車」と思ってますが、彼はあんまりそういうのには興味が無いのでしょう。

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