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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第42話 3重作戦
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42-6

 明智君はバッグの中からコンビニで売っているような折り畳みタイプのH市の地図を取り出してテーブルの上に広げて見せる。

 僕と咲良ちゃん、アーシラトさんも地図が見えるように明智君の両隣へと動いて彼の「2重作戦」とやらの説明を待つ。


「怪人集団、奴らは邪神の配下に寄生された『UN-DEAD』の連中らしい。そしてナイトゴーントも伝承からナイアルラトホテプの配下とみていいだろう。そして奴らが占拠しているエリアがこの辺からこう……」


 H市の最南端、東京湾に面している臨海エリアは東京23区と神奈川県とを結ぶ国道が走っている。

 その国道を境にするように明智君は赤のサインペンで地図に線を引き、海と赤線で仕切られたエリアの中心海寄りの場所に×印を付けた。


「そしてここが河童が捕らえられている港湾センタービルだ」


 地図の縮尺を参考にするなら占拠されているエリアは2km四方にも満たないものだろう。


「さて……。この範囲を広いと見るか狭いと見るか?」

「いや、さっきのテレビで見た感じだと結構な戦力が集中してるわけだから狭いと思うよ?」


 狭い範囲に濃密に戦力が集中している。


 これは僕の感覚では非常に厄介なものだ。

 隠密性で侵入するにも苦労するし、機動力で突破するには濃密な火線を掻い潜らなくてはならない。

 ついでに言うなら僕の暗殺用改造人間としての能力の1つである子供の姿で侵入して怪人態になって目標を達するという手口が使える相手でもない。


「そうだな。俺もそう思う。この敵が待ち構える中に少ない戦力で突っ込んでいくというのは自殺と大して変わらんだろうな」

「四国に向かった人たちにいくらか東京に戻ってもらったら?」

「いや、クトゥルーの咆哮で正気を失った人たちの中には朝の出勤ラッシュで自動車の中だったって人も多くてな。彼らの自動車が道路を塞いで東京に近づけないみたいだ。ヘリを使おうにもそれで動かせる人数には限りがあるしな」


 鉄子さんからもたらされたというあの動画からするとまだクトゥルーは肉体だけの状態で、あの咆哮も最初に僕が感じたように欠伸とかクシャミとかそういうものだろう。ただ生理的な行動で、けして何かの意思がある行動ではない。


 だが、その結果、東京近郊の交通は完全に麻痺してしまったといっていい。

 これがクトゥルーが完全に復活してしまったのなら一体、どうなってしまうのだろう? 去年、埼玉に現れたク・リトル・リトルですらその被害は赤夢市にとどまっていたというのに。僕にはとても想像もつかない。


「あっ! ドラゴンフライヤーは?」

「ああ、俺もそれを考えたんだが今、修理中で使えないみたいだな」


 なんでもハドー総攻撃の時の損傷がまだ修理できていないらしい。

 しかもアカグロに乗っ取られた銀河帝国の宇宙巡洋艦を迎撃する時のミッションでさらに負荷がかかって、今はエンジンのオーバーホールに入っているとか。


 ドラゴンフライヤーはブレイブファイブの2号ロボだけれども「突撃戦闘輸送艇」だなんて他に類を見ない艦種だし、あれが使えるなら多少の対空砲火はものともせずに港湾センタービルまで突っ込んでいけそうなのだけれど。どうせ自称ブレイブファイブ予備メンバーの龍田さんは四国まで連れてってもらえないのだろうし。


「そうなんだ。ところでさ、ナイアルラトホテプは河童さんを十字架に磔にしてどうするんだろう? まだ向こうも準備が整ってないのかな?」

「いや、生贄にするにしても、もう少し向こうが近付いてきてからだろうな」


 僕の疑問に対する答えは明智君ではなくアーシラトさんから返ってきた。


「ニュースで謎の島が東京に向かって接近してるってやってただろ? アレは『こっちに美味しいエサがあるから来い』って邪神が呼び寄せているのさ。誰だって遠くで作ったモノより目の前で料理してくれた方が嬉しいだろう?」

「うん。おおむねウリエルさんと同じ意見だな……」


 咲良ちゃんの前でするにはいささかデリカシーに欠けると言わざるとえないアーシラトさんの例え話に明智君も賛同する。


「それじゃ大急ぎで突っ込んでいかなくてもいいって事?」

「ひとまずはな……。そこでだ」


 明智君は地図へと視線を戻して赤くラインを引かれたエリアのすぐ近くの1点に〇印を付ける。


「ここは……?」

「H市総合運動公園。ここに敵の戦力を誘きよせ、逆にこちらが待ち受ける形を作る」


 タブレットを操作してH市総合運動公園の航空写真のデータを僕たちに見せる。

 テニスコートやゲートボール場、子供が好きそうなフィールドアスレチックのエリアの中心には陸上のトラックが設けられ、ゴール側には片面だけの観客席が設けられていた。


「もちろん敵も港湾センタービル付近を空にするわけないだろうが、防衛網が手薄になったところでこちらの部隊を突入させて河童を救出する」


 なるほど、敵をおびき寄せて待ち伏せする作戦と、臨海エリアに突入する作戦で「2重計画」か。


「でも、おびき寄せるってどうやって? メガホンで『バ~カ!』って叫んでみる?」

「ハハ、それでもいいがな。それで釣れるのはD-バスターくらいのものだろう? これを見てくれ」


 明智君はタブレットを操作して運動公園の配置を図式化したものと数名の顔写真、それとそれらに幾つかの注釈がついたものを見せてきた。


 顔写真は僕の他、アーシラトさん、咲良ちゃんにヤクザガールズの山本さん、マックス君。そして何故か真愛さんのものもあった。


「これは……?」

「今朝になってから大急ぎで作ったものだから雑なのは勘弁してくれ」


 まぁ、クトゥルーが現れて河童さんがさらわれてから作ったモノにしては上出来だろう。


「ヤクザガールズの組長に協力してもらってここにこうデカい魔法陣を設置して……」


 タブレットを指でタッチして雑な魔法陣を陸上トラックの内側、フィールドに書き込んでいく。


「誠、組長の特化能力は覚えているか?」

「『召喚魔法』でしょ? でもアレって組員くらいしか呼べないって聞いたよ? 河童さんは呼べないと思うな」


 あまり知る人の多い話ではないのだけれど、山本さんの魔力量の問題で波長の近いヤクザガールズの組員しか召喚できないと聞いたことがある。


「呼ぶのは河童じゃあない。いや、正確には召喚するフリをするのはってところか……」

「するフリ?」

「前に話したのを覚えているか? 世の中にはナイアルラトホテプに喧嘩を売る時だけ代償無しで来てくれる旧支配者がいるって話」

「でも、アレって……」


 なんでもその旧支配者はナイアルラトホテプを毛嫌いしているらしくて、交信さえできれば2つ返事で来てくれるらしい。

 ただ、その旧支配者も「敵の敵は味方」とはいかないみたいでナイアルラトホテプを攻撃してくれるのはいいけど、その被害が人間に及ぶのも気にしないような話だったハズだ。


「まぁ、だから『召喚するフリ』をするわけだな。その旧支配者『クトゥグア』を呼ぶぞ~! ってな!」

「ああ、なるほど!」

「ナイアルラトホテプが『UN-DEAD』のアジトを占拠した時に警察無線を傍受する装置とかも抑えているだろうしな。警察無線や防災無線でガンガン『クトゥグアを召喚するまで戦線を維持しろ』とか流してもらうのさ。そうでなくても魔力を垂れ流しにしてやれば偵察くらいよこすだろ?」


 明智君の話で合点がいった。

 タブレットに映し出されている顔写真は僕以外は魔力を持つ人ばかりだった。

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雑種犬@tQ43wfVzebXAB1U

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