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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第42話 3重作戦
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42-5

「お、おい! 誠! どうしたんだ!?」


 スイートカロリーモンスターをやっとの事で平らげ、某ボクサーのように真っ白に燃え尽きた僕は椅子に腰かけたまま、ただぼぅっとしていた。


 シロップ入りの牛乳は当初こそホットケーキよりまだマシな甘さだと思っていたのだけれど、かき混ぜる事をしていなかったためにシロップが底の方に溜まっていて、最後の方はシロップ原液を飲むのに等しい事になっていたのだ。


 シロップが染みてシロップの味しかしないホットケーキをシロップ原液で喉へと流し込む。箸休めはブロックのバターの塩気だけ。


 なんとか暴力的な甘さをお腹の中に収めた僕にとってこの食休みは長い戦いを終えたような晴れやかな気持ちに包まれたものだったが、実の所、本当の戦いはこれから。

 なにせ先の戦闘での損傷を早急に回復させるために超カロリー食を食べたわけで。


 そして、いつの間にか子羊園に明智君が到着していて焦ったような声を出して僕の両肩を揺すっていた。


「誠! お前、どれほどのダメージを……」

「へ、へっちゃらさぁ~……」


 どうやら明智君は僕がぐったりしている理由を先ほどの戦闘による損傷のためだと思っているようだ。

 まぁ、過程をすっ飛ばせばそんな感じだのだけれど……。


 ちらりと横目でヘルスイーツを生み出した張本人であるアーシラトさんを見ると随分と満足そうな顔をしていらっしゃる。


 もしかすると僕がぐったりとして動けないのをお腹いっぱいで動けなくなったとでも思っているのかな?

 そりゃあ僕もカレーライスとか食欲に任せて動けなくなるまで食べた事とかはあるけれど食事で満足して動けなくなるのと今の状況は似て非なる物だ。


 そういえばさっき「子供が甘い物食ってるとこ見ると心が落ち着く」なんて言っていたし、彼女と初めて出会った時も甘い物(タイヤキ)もらったっけ。

 神様だか悪魔だか知らないけど紀元前産まれのアーシラトさんは若く見えても意外とオバちゃん気質があるようで、ある意味で親戚のお婆ちゃん宅に行った時に次から次へとお菓子やら果物を出してくるのはこの状態にするためのものなのでは? と思ってしまう。


「本当に大丈夫か?」

「だ、大丈夫……」


 このままベッドに入ってしまいたい気分だけれど、河童さんがさらわれた状況ではそんな事も言っていられない。

 なんとか意識を保って明智君の眼鏡の奥の細い目を見る。


「そ、そうか? なら、これを見てくれ……」


 明智君はリモコンを操作してリビングスペースの大型テレビを付ける。


『ご覧ください! H市臨海エリアに突如として出現した怪人集団は一帯を占拠しています! H市は日本で最もヒーローが集まる街として有名ですが、昨日の「UN-DEAD」なる組織の対応のためにほとんどのヒーローが四国へ向かっている最中での事態となっています! また太平洋上を東京に向けて進む謎の島との関連は不明です……』


 テレビでは切迫した様子のレポーターが声を張り上げている。


 画面には街を占拠する様々な組織の怪人に夜魔ナイトゴーントが我が物顔で警察の機動隊に襲い掛かる所が映し出されていた。

 そして怪人たちの身体の表面にはあのサイ怪人のように黒い粘液質の何かがへばりついている。


 パトカーやLAV(軽装甲機動車)、人員輸送車などが横転して炎上し黒煙を上げる中を警官に誘導されながら民間人が逃げ惑う光景はまさに地獄絵図。


「こいつらはクトゥルーが咆哮を上げたのとほぼ同時に臨海エリアに出現したようでな。SAN価チェックに失敗した人たちの救助もままならない状況だ。避難はあまり上手くはいっていないようだな……」


 明智君が細い目をさらに細めて歯噛みする。


「そうそう。お前が言ってた『ツヴァイリング』。アレはテレビやラジオでも効果があるみたいで定期的に放送してくれるみたいだな」

「ああ、そりゃあ良かった!」


 ようするにツヴァイリングは詩の朗読を聞かせるだけというわけだからそれでいいのだろう。


「ただテレビやラジオの声が届かない場所ではな……。戦場になっちまった臨海エリアなんかは特にそうだろう」

「それじゃあ早く助けにいかないと!」

「まぁ、待て……」


 明智君はショルダーバッグからタブレットPCを取り出すと1枚の画像データを僕と、そして近くに控えていた咲良ちゃんに見せる。


 そこに映し出されていたのは河童さんだった。

 8階建てのビルの屋上、変形十字架に磔にされた河童さんの姿が荒い画像だがハッキリと写っていた。

 磔といっても釘で打たれているわけではないので怪我はしていないようだけれど、河童さんの背中には大きな甲羅があるわけで、ダクトテープで適当に磔られているせいで体が思い切りのけぞって見るからに苦しそうだ。


「河童さんッ!?」

「明智君、これは?」

「望遠レンズで撮影されたものだが、場所は港湾センタービル。怪人集団が占拠したエリアの中心にある施設だ。クトゥルーを乗せた島はまっすぐここを目指しているようだ」


 咲良ちゃんがタブレットの画面に向かって叫ぶ。

 そうしていれば画面の向こうの河童さんに声が届くと思っているかのように。

 もちろん、これは画像データなのでそんな事はない。でも、そうしたい気持ちは分かる。


「『UN-DEAD』からもたらされたナイアルラトホテプの計画では河童を生贄に捧げてクトゥルーの魂を呼び出して奴を復活させるつもりらしいな……」

「早く助けに行かないと!!」

「残念だが戦力が足りないんだな……」

「そんな……!?」


 咲良ちゃんの悲痛な叫びは聞いているこっちの胸がチクチクしてくるほどに切実なもので、その顔は今にも泣き出してしまいそうだった。


 でも事実、ハドー総攻撃の時とは違いH市のヒーローのほとんどは四国に向かっているのだ。

 しかも例の黒い粘液質に寄生されている怪人は旧式といえどパワーは2、3倍は強化されているし、再生能力まで有しているのだ。

 生半可な戦力で敵の防衛線に突っ込んでも返り討ちになるだけだろう。


 でも咲良ちゃんの泣きそうな顔も見ていたくはないし、助け船を出してあげよう。


「で、明智君、今回の作戦は?」

「え? 作戦?」


 泣きそうな顔をしていたのが一転、キョトンとした顔で咲良ちゃんは僕と明智君の顔を何度も見返していた。


「もう! 明智君、咲良ちゃんはこういうの初めてなんだからもっと分かりやすくしてあげないと! 米内さんが生きてたら木刀振り回してる所だよ?」

「ハハハッ! そうだな!」


 明智君はたまに悲観的な情報を並べ立ててから、それを逆転させる作戦はこれだという話し方をする事がある。

 去年の埼玉で僕は何度もそういう物言いを聞いた事があるし、そういう話し方が気に食わないとヤクザガールズの先代組長が木刀を持って彼を追い掛け回しているのも見た事がある。ついでに譲司さんがとばっちりで木刀で殴られるのも……。


「お前たちも知っての通り、今現在H市に残ってるヒーローは子供に老人、後はワケアリの連中くらい。その少ない戦力で河童を救出し邪神ナイアルラトホテプを始末するために俺は2重作戦を提案し、作戦実施のための戦力が整い次第、承認される予定だ」

「2重作戦……?」

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雑種犬@@tQ43wfVzebXAB1U

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