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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
番外編2 仁義無き争い
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EX-2-2

 さくらんぼ組の現在の組員は9名。その内の4名が山本候補を推す栗田派であることを表明する。しかも、その4名は埼玉帰りの実力者揃いである。

 更に栗田、小沢、井上の3名は宇垣や他の全組員の眼前で山本の後ろに立つという、一種のパフォーマンスとも取れる行動をおこす。これは山本(栗田)のためになら自分が矢面に立っても構わないという明確な宣言であった。


「それじゃ来週の月曜の放課後に全組員による投票を行うとして、それまでの期間を選挙期間とするとしようか?」


 壁面スピーカーの上からラビン相談役が提案する。


「私はそれで構わねぇよ!」

「私もそれでいいよ」


 山本、宇垣の両者が相談役の提案を受け入れたことで、この場は一端、閉会となる。


「それじゃ、よろしくね。宇垣さん!」


 山本の笑顔に対し、宇垣は今にも飛び掛からんばかりだった。


「山本ォ! 牛の糞にも段々があるんだ。私とアンタ、五分と五分だと思うな!」

「え~! 宇垣さん、『牛の糞』だなんて汚~い!」




 宇垣組長代行としては十分に勝ち目のある選挙戦と言えた。

 同じ2年の永野とは小学校も一緒で、中学校に入学してからは1年生の時からクラスが一緒で、休日には一緒に遊びに行くほど仲がいい。

 1年の古賀、豊田、加藤も夏休みの間、自分と永野の二人で面倒を見てきたのだ。その間に古賀は自分の特化能力を見つけ出していた。


 自分の特化能力「治癒(ヒーリング)」で恩を売るのもバッチリだ。

 治癒魔法に適正があると見つけて以来、磨き続けてきた能力は今では回復速度も速く、速度を落とせば同時に複数の対象へ魔法を施すことが可能になっていた。

 宇垣は常日頃から組員のかすり傷ですら治療してきた。選挙戦を見越してきていたわけではないが、1年生の3人の信頼を得ているという自負がある。


 加えて埼玉帰りの4人だ。

 知性派(インテリヤクザ)気取りの腹黒メガネ。

 無口過ぎて口より先に鉛弾が出ることがあるほどのトリガーハッピー。

 馬鹿過ぎて常に話が噛み合わない馬鹿。

 女児向け特撮ドラマが大好きと広言して憚らないガキ。

 誰一人として何を考えているか分かったもんじゃない。

 3年生全員の死亡という非常時の後で、そんな奴らに自分の命を任せていいと思うやつはいないだろう。


 それでも油断はしない。

 永野が裏切る事はないにしても、1年生三人の内の1人が裏切るだけでも逆転されるのだ。念には念を入れておく……




 緊急総会翌日の放課後、栗田、山本、小沢の栗田派3人は組事務所に集まっていた。そこに井上が飛び込んでくる。


「山ちゃ~ん! 宇垣先輩が、組長(オヤジ)たちを私らが『ぼーさつ』したって吹いてるみたいなんだけど!」

「え~! ヒド~い!」


 頬を膨らませて不機嫌になる山本。が、すぐにキョトンとした顔になる。


「ところで『ぼーさつ』って何?」

「そりゃ『棒』で『殺す』ってことなんじゃない?」

「…………」


 山本の疑問に対し、素っ頓狂な回答をする井上。その二人をアワアワしながら何も言えない小沢。


(なんで私はここにいるのかしら?)


 三人を眺めながら栗田は一人で考える。

 いつの間にやら自分は山本派という事になっているらしい。

 そりゃ山本さんとは家が2軒隣で昔から仲が良かった。とはいえ山本は魔法少女になって5カ月、地獄の埼玉帰りとはいえ経験が浅すぎる。

 今年は宇垣さんに任せて、彼女が組長になるのは来年度になってからでもいいのではないか?

 それが栗田の本心であった。


「大体、棒きれで殴ったところでオヤジが殺せるわけないじゃい!」

「だよな~!」

「……山本さんに井上さん? 謀殺っていうのは(はかりごと)をもって殺すということで、私たちがオヤジさんたちをこう……、た、例えばだけど情報を操作して孤立無援の状況に追い込んだとか。そういうことを宇垣さんは言ってるのよ」


 栗田の説明に対し、小沢がウンウンと頷く。


(大体、井上の馬鹿はともかく、何で小沢さんまで山本さんにつくのかしら? 小沢さんって私よりもキャリアとかそういうのに煩いと思ってたけど……)


 小沢が付いたのは山本ではなく、栗田であると栗田には知る由もない。


「ねえ、山本さん? この際だから聞いておくけど。貴女は組長になって組をどうしたいの?」


 栗田にとってはどうしても聞かずにはいられなかった。

 もし、彼女の言う言葉に信がおけないのなら、何もかも捨て去ってしまってもいい。そんな気さえしていた。

 宇垣が考えていたように、何を考えているかしれない相手に命を預けるわけにはいかないという思いは、皮肉にも埼玉で生死の一線を彷徨った栗田にこそ人一倍強い思いがあった。


「梓ちゃん。そんなの決まってるじゃない。」


 山本は昔から見慣れた笑顔で栗田の問いに返す。


「ヤクザガールズを……、さくらんぼ組を本来の形に戻す。それが私の考えだよ!」


 笑顔の裏に秘められた真意を量り知ることはできない。

 が、しかし、山本も埼玉での経験で何かを感じていたのだろう。昔から彼女を知る栗田にしか分からない事であったが、確かにそう感じさせる物があった。

 結局の所、栗田がどんなに覚悟を決めようと山本を見捨てる事など出来はしなかった。


「……まあ、それはさておき。これからどうしますか?」


 小沢が口を開く。選挙戦についての話だ。組事務所には宇垣を始め、他の4名についても姿は見えない。埼玉組4名と居残り組5名に分かれたと考えてもいいだろう。

 そして選挙で勝つにはあと1名の支持を得なければ勝つ事はできない。


「カトちゃんとはクラスも一緒だし、拝み倒してみようかな~」


 井上が足をぷらぷらさせて誰に言うでもなく呟くが難しいだろう。クラスメイトで同じ組に属しているとはいえ井上と加藤は普段、特に仲がいいわけではない。むしろ面倒見のいい宇垣によく懐いている感がある。


「永野さんは……、無理ですね。宇垣さんとは親友(マブ)の仲ですからね」


 小沢も一言、これは周知の事実だ。


「古賀さんも無理じゃないかしらね? 宇垣さんのアドバイスで特化能力を見つけて、彼女には足を向けて寝られないって言ってたらしいし……」


 栗田が告げる。これで残りは一人、豊田だけだ。幸い豊田と山本は同クラス。話す時間ならいくらでも見つけられるだろう。

 しかし、山本はそんなことには興味無さそうに言う。


「ねえ、皆。数で喧嘩は勝てないんだよ?」

(喧嘩に勝てなくても、選挙には勝てるでしょうよ!)


 栗田の心配を他所に特に対策らしい対策を取れないまま選挙期間は過ぎていく。


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