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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第41話 いあ! いあ! ふんぐるうふたぐん!
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41-5

 2本の光剣が黒い粘性生物を切り裂いていく。


 元祖D-バスターが両手首の内側に内蔵されていた刀剣の柄の形をとった発振器を取り出してプラズマセイバーを展開しているのだ。


 重装甲格闘戦型の大アルカナ、デビルクローの装甲の継ぎ目を狙うために高精度の剣撃で戦う元祖D-バスターは次々とショゴスの核である目玉を切り裂き、あるいは突き立てていく。


 デビルクローの一撃一撃が必殺の威力を持つ拳や脚を受けてしまえば特殊合金製のD-バスターのフレームも間違いなく大破してしまう事が予想されていた。

 そのために元祖D-バスターの戦闘スタイルは「蝶のように舞い、蜂のように刺す」を体現したかのように素早く、そして敵に動きを読ませない緩急織り交ぜたのものである。


 続々とアジト内部からガレージへと雪崩れ込んでくるショゴスのただ中に飛び込んではプラズマセイバーを見舞っていく姿は優雅な踊り子のようでもあり、また全てを薙ぎ倒す暴風雨のようでもあった。


「オ、オノレ……!」


 邪神が怒りと焦りが入り混じったような声を振り絞る。

 無理もない。

 明らかにガレージに侵入してくるショゴスの数よりも撃破されるショゴスの方が多いのだ。

 このままではじきに元祖D-バスター1体で全てのショゴスを撃破してしまうだろう。


 業を煮やしたか、あるいはこれ以上の寄生型ショゴスの損耗は計画に差し支えると判断したのか、邪神は右手を天にかかげておぞましい呪文の詠唱を始める。


「オオ! にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな! にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな! 出デヨ! 我ガ眷属! 凍テツク荒野ノかだすヨリ来タレ!」


 そして天に掲げた手で歴史の中に埋もれた旧き印を作ると、邪神の周囲の床にいくつもの黒い底の見えない空間が生じ、中からおぞましい異形が現れる。


 中世ヨーロッパのガーゴイルのような翼を背中に生やし、頭部にはねじ曲がった牛の角。体は主である邪神と同じように黒く、あらゆる光を反射しない異形。


「ないとごーんとヨ! ヒネリツブシテシマエ!」


 次々と床に生じた空間から現れる夜魔(ナイトゴーント)は言葉もなく飛び上がり、牙や爪で光剣を振るうアンドロイドを切り裂こうと殺到していく。


 だが結果は一緒だった。


 元祖D-バスターの豪快無比でありながら精密細緻の必殺剣「石動兄弟抹殺剣」は群がる敵をショゴスだろうがナイトゴーントだろうが構わずに斬り捨てていく。


 周囲は異形の化け物たちが死した後に残した体液で土砂降りの雨のような状態になり、もはや敵に囲まれた元祖D-バスターの姿を外から見る事はかなわない。

 しかも、そのような状態でありながらも戦闘用アンドロイドは前へと進んでいく。


「エエイ! 先ニ鉄子ヲ狙エ!」


 正攻法で駄目ならば搦め手でと、邪神は配下の一部を2体のD-バスターに手を引かれてⅤ号駆逐戦車改(ヤークトパンテルⅡ)へと向かっていく鉄子へと向かわせる。


 D-バスターシリーズは非常に高度な人格AIを持ち、それは一種の感情を有しているようにも見える。

 そしてD-バスターは戦闘用に調整されているアンドロイドであるために自身がいかに苦戦しようと闘志が萎えるという事は無い。


 だが家族同然の鉄子が殺された時、果たしてお人良しのアンドロイドはまともに戦う事ができるだろうか?


 邪神はその時のアンドロイドの顔を想像して思わず口角を歪めた。

 だが……。


「おぅっと! そいつぁ通らねえぜぇ!?」


 鉄子たちを追い始めたナイトゴーント6体が一瞬の内にこま切れになって床に落ちて汚水へと姿を変える。


「石動兄弟抹殺鋼線。私の武器はこういう屋内でこそ真価を発揮する」


 本家D-バスターがアンカー付きの特殊合金製超極細のワイヤーを振り回して鉄子たちに近づこうとする敵を攻撃していたのだ。


 本家D-バスターの腕はあまりに高速でワイヤーの先端に取り付けられたアンカーを振り回しているために残像が生じているほどであり、アンカーをブチ当てられた夜魔は一瞬で絶命し、ワイヤーもまた類まれなる切れ味の刃物のように軌道にあった夜魔をなんの抵抗もなく切断していく。


 さらにワイヤーからは紫電がほとばしっており、ショゴスも鋼線に触れると超高電圧によって一瞬で焼け焦げてしまう。


 本家D-バスターの「石動兄弟抹殺鋼線」は装甲を捨てて高機動力を得た大アルカナ、デスサイズを捉えるためのものであり、その軌道は変幻自在。

 壁や床、天井などにアンカーをぶつけて軌道を変化させる事でさらに対処は難しくなり、しかもアンドロイドの空間認識能力と演算能力は不規則な軌道すら完全に計算することを可能にしていた。

 そして鋼線を流れる電流もまた開発者いわく「大アルカナの装甲越しでも多分イケる。イケるといいな~」と言わしめたものであり、これだけでも並みの敵なら撃破可能というレベルのものである。


「チィッ!」


 邪神の軍勢は本家D-バスターの鋼線の射程範囲を越える事はできず、その隙に鉄子たちは車両にたどりついた。


 未だ呆然としている鉄子を1体のD-バスターが肩車するように持ち上げ、また1体が車体に飛び乗って引き上げる。

 そのままハッチに鉄子を押し込めて、自分の車内へと入り、もう1体も別のハッチから車内へと。


 すでに狩野たちの手によって暖機運転されていた駆逐戦車はすぐさま急発進してガレージを飛び出していった。


「エエイ! 忌々シイ!」


 先ほどの暗い笑みとは裏腹に大きくかぶりを振って悔しがる邪神だったが、その懐に音も無く飛び込んでいく者がいた。


「ハアアアアア!!」


 懐へと飛び込んでいき、そのまま体を捻り上げながら拳を邪神の顎へと突き上げる。


 地球のボクシングのアッパーカットにも似た奇襲はすんでのところで躱されるが、攻撃は止まらない。


 突き上げたアッパーを振り下ろすような手刀。

 さらに距離をつめるようなサイドステップからのワンツー、ローキック。


「調子ニ乗ルナ!」


 邪神は全身から槍のような、鞭のような、あるいはイカやタコのような触手を繰り出して迎撃する。

 一瞬でウニのよう姿となった邪神の触手に死角はなく、距離を詰めていた者に逃げ場は無い。

 だが……。


「何!? 回シ受ケ!? 貴様ハ1式カ!?」


 邪神の眼前に躍り出た1体のD-バスターは右手を時計周りに、左手を反時計周りに大きく回して突き出された触手を払いのけた。

 そして、そのまま何事もなかったようにバックステップで距離を取った。


 これぞ1式D-バスターのアンドロメダ拳法改「石動兄弟抹殺拳」である。

 1式は元祖と本家により敵の布陣が崩れた事を見るや、大将首であるナイアルラトホテプを直接、叩こうと格闘戦を仕掛けてきたのだ。


「イカニ徒手空拳ヲ極メヨウト我ニソンナモノ通用セン!」

「自分自身で試してみろよッ!」


 邪神の触手がさらに伸び、まるで巨大な女性の長い髪が風に流れているかのような姿となる。


 無数の触手に狙われた1式は右腕で、左腕で、脚で捌き、いなし、躱し、そして跳んだ。

 空中で数回転した1式は1本の太い触手の根本付近に降り立つ。


「……三戦(サンチン)!?」


 自身の触手の上に降り立ったアンドロイドの構えに邪神も思わず声を漏らす。

 開いた足幅に対して膝の間隔は狭く、足先は内側を向いている。両脇を締めるかのように肘を内側に向けて両の手の甲を敵に向けるような、他に類を見ないような独特の構え。


 サンチンとはアンドロメダ拳法の基本の型の1つであり、地球でも琉球唐手において同様の型が使われている。


 そして、読者諸兄も良くご存じのようにアンドロメダ拳法のサンチンとは主に低重力下での戦闘を想定したものであるが、琉球唐手においては船上のような不安定な足場での戦闘に用いられるものなのだ。


 さらに琉球唐手は一流派、首里手(しゅりて)は地球上のありとあらゆる拳法の中でも“一撃必殺”を重視する流派である。


「ハッッッ!」


 そして今、宇宙拳法と地球拳法のハイブリッド、1式D-バスターの正拳突きが邪神の顔面に叩き込まれた。

 サンチン独特の構えは触手の上という不安定な足場もものともせず、アンドロイドの性能は遺憾なく発揮される。


 巨岩が砕けるような音が鳴り響き、ついに邪神は膝から崩れ落ちる。


 元祖、本家、1式。

 3体のD-バスターは鬼神もかくやという働きを見せ、3体から立ち上る陽炎はまさに仲間を失った彼女たちの怒りが姿をもったかのようであった。


 だが、その陽炎こそ、彼女たちの命が残り少ない事を示していたのである。


≫「何!? 回シ受ケ!? 貴様ハ1式カ!?」


なんて言ってますけど、ええ、そうです。「UN-DEAD」の人たちでもD子たちの見分けは付かないのです。


服の色で見分けがつくようにしようかという話も出たけれど、D子も女の子なので服の貸し借りをしたり、おおらかな性格なので適当にタンスに入ってるのをもってって着たりするので、なし崩し的に服の色で見分けをつける案はオジャンになりました。


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