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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第41話 いあ! いあ! ふんぐるうふたぐん!
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41-4

 第1倉庫にたどり着いた鉄子たちは車両ガレージと接している壁面パネルまで移動する事ができた。

 明りを付けてどこにいるとも知れぬ粘性生物に気付かれる危険を冒さずとも、D-バスターたちの暗視装置を頼りにすれば雑作も無い事だ。


 3体のD-バスターが後方を警戒しつつ、2体が2度、3度とパネルに蹴りを入れて固定具を外すとパネルはガレージ側に倒れていった。


「狩野ォ! 下がれェ!!」


 そして鉄子の目に飛び込んできたのはガレージからアジト内への入り口を包囲して粘性生物たちの侵入を懸命に阻んでいるナチスの兵員たちの姿。


 2両のⅡ号戦車L型(ルクス)を中心に5、6名の兵が機関銃や短機関銃を手に戦っているが、周囲には空薬莢などとともに10名以上の兵員の亡骸が転がり、あのアメーバ状生物のものと思われる体液で床は水浸しになっていた。


 兵たちの遺体はどれも体が滅茶苦茶に捻じ曲げられ、中には取りついてきた粘性生物を自分もろとも焼夷手榴弾で焼いたのか炎で包まれているものすらある。


 彼らが何度も敵に押し込まれそうになったのを死力を振り絞って鉄子の到着まで死守していた様がありありと浮かぶような惨状だった。


 思わず鉄子も息を飲むが、震える奥歯と固くなった顎の筋肉を無理やりに動かして声を上げ狩野たちに後退を促す。


 その声でルクスの砲塔上ハッチから上半身を出していた狩野は鉄子に気付いたものの、首に巻いた咽頭式マイクに手をやって車内になにやら下命し、そして狩野のルクスは後退ではなく前進を始めた。


 砲塔上の狩野はホッとしたような表情をしながらナチ式の敬礼をして見せ、それから砲塔側面に取り付けていた燃料携行缶(ジェリカン)を取って中に入っていたガソリンをルクスの車体にかけていく。


「戻れ! やめ、止めてくれェ!!」


 彼が何をしようとしているのか察した鉄子が喉が張り裂けんばかりに叫ぶが、ルクスは前進を続け、粘性生物たちは何体も取りついていく。

 車体から体を出していた狩野に襲い掛かり、車体のバイザーから車内へと侵入していく黒い粘性生物。


 だがルクスは止まらない。


 操縦手も粘性生物に取りつかれたのか1度、ルクスは左へ大きく曲がるものの、すぐに進路を修正してガレージとアジト内部とをつなぐゲートへとたどり着く。


 そして狩野に絡まるアメーバ状生物が彼の首を捻じ曲げるのと、もう1両のルクスが狩野のルクスへ2cm機関砲を発射したのはほぼ同時だった。


 ルクスの「戦車」とは名ばかりの薄い装甲を撃ち抜いた機関砲弾はそのままエンジンを破壊して発火させ、さらに狩野が車体へとかけたガソリンへと燃え移ってルクスを火達磨にする。


「……狩野」


 狩野という男、いかなる政治主張も軍事趣味も持っているわけではない。

 彼は元々、地下アイドル時代の鉄子の1ファンであった。

 彼はキレキッレのオタ芸を見込まれて鉄子の武装親衛隊(Waffen-SS)にスカウトされてきたのである。


 その狩野が今、鉄子を守るために死んだ。


 狩野が命を賭して作り上げた炎のバリケードは粘性生物をそれ以上に近づける事はなく、まさに「鬼神をも哭かしむる」ということができるだろう。


 だが、そんな事よりも鉄子の脳裏に思い浮かぶのは、在りし日の両手にケミカルライトスティックを持ちオールバックのお下げを振り乱して踊る彼の姿であった。

 痩せた体のどこにそんなスタミナがあるのだろうとステージの上の鉄子が思ってしまうような彼の動き、額に巻いたバンダナを汗で濡らしながらも休むことなく動き続ける彼を見れば長丁場のステージであっても自分も負けていられないと思えたものだったのだ。


 その狩野が死んだ。


 自分を守るために死んだ。


 自分と出会わなければどこか別の場所で平穏に暮らしていたかもしれない男が死んだ。


 半ば放心状態にあった鉄子は息苦しさで自身が過呼吸に陥りかけていたことに気付く。




 だが敵は鉄子の死別の感傷すら奪い去っていく。


 突如として轟音がガレージに鳴り響いたかと思うとゲートを塞いでいた狩野のルクスが吹き飛び、もう1両のルクスを巻き込んで反対側の壁面に衝突してそこで止まる。


 そして未だ炎の残るゲートから現れたのは黒い人型だった。

 一切の光を反射しない、この世の闇を一身に集めたような黒い人の形をしたモノ。


「……あれが邪神?」


 医務室で寝ていた鉄子にはサクリファイス・ロッジ代表の内原に化けていたという邪神を見た事はない。

 D-バスターたちや狩野から軽く話を聞いただけだ。

 それでも目の前に現れた異形から感じる尋常ならざる気配から、アレこそが「UN-DEAD」を壊滅状態に追いやった邪神ナイアルラトホテプだと察してしまったのだ。


 邪神はあの黒い粘性生物を引き連れてガレージへと踏み入り、残ったナチスジャパンの兵を次々と惨殺していく。


「鉄子ちゃんの事、頼める?」

「2人いれば……」

「なら、こっちは3人で……」


 手短に話を済ませたD-バスターたちは一斉に動き出し、2体は呆然としたままだった鉄子の手を引いてガレージの隅で暖気運転していた「ヤークト・パンテルⅡ」へと走り出す。


「逃ガスナ! 追エ!」

「てけり・り……」


 邪神のもはや人のものと言えるかすら怪しい声に粘性生物ショゴスが鉄子たちを追おうとするが、残る3体のD-バスターが立ち塞がる。


「征くぞ!」

「分かってる! リミッターオフだ!」

「ここから先は10分間の通行止めよ!」


 3体の消耗品(エクスペンタブル)アンドロイド、最初で最後の戦いが始まる。


狩野さんは昔、ヒョロガリ+オールバック+バンダナ+出っ歯+ケミカルウォッシュジーンズ+シャツをズボンにinでした。

きっと極〇の大〇〇達さんが人里が恋しくならないように肩眉をそり上げてから山籠もりしたのと同じような感じなのでしょう。

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