40-7
「は? 『UN-DEAD』が壊滅……?」
そりゃ僕からしてみれば奴らには因縁なんて無いのだけれどさ。
向こうは僕たち兄弟と戦うためのD-バスターなんて物を作ったりしてるんだしさ。いつかその内、戦う事になるのではと思っていたのに、知らん内に壊滅!?
え?
最近、寝る前なんかにベッドの中で「果たして僕はD-バスターが敵として現れた時に戦えるのだろうか?」なんて考えて悶々としていたのに、知らん内に壊滅だって?
結局はD-バスターが相手でも戦っちゃうんだろうけど、やっぱり嫌だなぁ~って思ってたのに戦う前に組織の方が無くなっちゃったよ!
いやいや、それよりも大事な事は……。
「D-バスターたちは? 鉄子さんは無事なの?」
「ん? ああ、確か保護されたナチスジャパンの代表はそんな名前だったかな?」
「ああ、良かった……」
明智君から鉄子さんとD-バスターの無事を聞かされて思わずホッとする。
僕だって昨日、お菓子を摘まみながらお茶をした相手が知らない内にいなくいなってしまうのは嫌なのだ。
「ただ俺も話を聞いただけだが、D-バスターは2体だけしか残っていないらしい」
「へ、へぇ~……」
いや、そんな事を言われても僕は2体しか知らないんだけど?
薄々は予想していたのだけどD-バスター、やはり1体見たら30体はいると覚悟しなきゃいけないタイプのヤツだったのかな?
明智君の話ぶりでは彼もそう思っていたのだろうか? 彼はD-バスター1号としか会った事はないハズなのに複数体いるのが前提のような話方だ。
それから投降して保護されたという鉄子さんとD-バスターたちの様子を聞こうと思っていたのだけれど、突如として周囲から湧きあがった悲鳴によってそれどころではなくなってしまう。
「キャアアアアア~!!」
「ば、バケモノ!?」
「何だ!? こいつら!!」
慌てて敵を探すけど、索敵の必要などはなかった。
いつの間にか子羊園の周囲一面、天と地に数えきれないほどたくさんの異形が埋め尽くしていたのだ。
「明智君、話は後で!」
真愛さんにスマホを返して子羊園屋内へ入るように促す。
「誠君も気を付けて!」
「うん!」
ただならぬ雰囲気に真愛さんが緊張した面持ちで僕に告げる。
虚空から突如として現れたかのようにいきなり出現した異形。
背にはヨーロッパの彫刻のガーゴイルのような一対の翼を持ち、頭には2本の牛のように曲がった角。
見たことの無い敵だったけど、真っ黒の全身の一切の光を反射しない質感はあの邪神ナイアルラトホテプを連想させるものだ。
「アーシラトさん! 咲良ちゃん!」
「誠! 上空の敵を任せていいか!? アタイらは下で皆を守りながら戦う! 咲良もいけるなッ!?」
「うん!」
「は、はい!」
園庭に詰め掛けてきた人の内、子供たちや未だ旧支配者の狂気に囚われている人を守るように正気を保った人たちは狼たちから子羊を守る羊の群れのように円陣を組んでいた。
「シャァァァァァ!!」
空から地に降りて円陣に近づいてきた異形にアーシラトさんのナックルアローが炸裂!
そのままさらに身を引いて大きく弓なりに体をしならせてもう1発! 先ほどのとは別の異形へと鉄拳を叩きこむ。
2体の異形は顔面を拳で打ちぬかれると泥水のようになってその場に零れる。
「間違いない。こいつら“夜魔”だ!」
「ないとごおんと?」
「ナイアルラトホテプの眷属さ! 気を付けろ!」
倒した時の変化で確信したのかアーシラトさんが僕たちに警戒を促す。
あの邪神の手下という事は敵の目的は咲良ちゃん? それとも真愛さんか?
いや、こうも多数の戦う術を持たない人がいてはそんな事は言っていられないか。
「変……身……!」
周囲を見回しながら左手首へ変身ブレスレット「回る運命の輪」を顕現させて変身。怪人態へと変わる。
そのままイオン式ロケットを吹かして飛び上がると腰のホルスターから引き抜いたビームマグナムをファニングで6連射してから手元に大鎌を転送して手近の異形へと切りかかっていく。
ナイトゴーントとかいう敵も翼を宙を駆けながら手に生えた太く鋭い爪で僕を切り裂こうと、あるいは掴みかかろうとしてくるけれど、僕の方が運動性は高い。
「ハァァァッ! ん?」
大鎌が当たった瞬間、確かに硬いゴムに刃を入れるような感触はあったものの、刃が敵を切り裂き、それが致命傷に達するや一瞬で泥水のような黒い液体に変わっていく。
確かにこれは特徴的。アーシラトさんがすぐに気付いたのも納得だ。
そして敵は1体1体は強くないようだけれど、数が多い。
怪人態に戻った事でセンサー類のスペックをフルに使えるようになり視界の隅に敵性反応の数がカウントされていく。
その数は200を超えて減ったり増えたりを繰り返している。
倒されて減り、新たに出現したモノが増えているようだ。昨晩の内に子羊園周辺に設置しているナノマシンセンサーと僕本体を連動させる事で死角はほとんど無いハズなのに突如として新たに反応が増えていくのだ。
《RISE! 「ザシキワラシ」!》
《POWER RISE! 「一球入魂ライザーボール」!》
「えいッ!」
咲良ちゃんの対空砲のような投球が次々とナイトゴーントを撃ち抜いていく。
彼女の地上からの投球を運良く避けられたとしても無理のある回避行動は大きな隙を生み、僕の大鎌や洋鉈の餌食となるだけだ。
「どおぅっっっせぇい!」
「フンッッッ!」
地上からアーシラトさんの隙を縫って近所の人たちに迫ろうとする夜魔を河童さんが低い姿勢からのブチカマシで押しとどめ、動きの止まった敵の喉笛を園長さんの手刀が切り裂く。
意外なというか、嬉しい誤算というか、ただの人間である園長さんもナイトゴーント相手に戦えるようで驚いた。
園長さん、けっこうないい歳だと思うのだけれど、それでも先の「ハドー総攻撃」で生身の徒手空拳でハドー怪人1体を屠ったというワザマエは頼りになるということか。
僕も咲良ちゃんも河童さんも必死で敵を倒していくけれど、中でもアーシラトさんと園長さんの動きがめざましい。
敵のまとまった中に飛び込んではナックルアローやアックスボンバーで異形を黒い泥水へ変えていくアーシラトさんに、咲良ちゃんや河童さんの隙を埋めていくように動き回って手足を奮う園長さん。
俗に「嬉しい事は他人と分かち合う事で喜びは数倍になる」なんて言うけれど、彼女たちにとっては闘魂注入ビンタも他人に闘魂を叩きこむだけではなく、自分の闘魂を奮わせ燃え上がらせる効果があるのかもしれない。
……まぁ、僕はゴメンだけど。
「皆! 敵の増加が止まったよ! このまま殲滅しよう!」
「分かりました!」
「はい!」
「ハハッ! 攻め込まれてるのに殲滅とか豪気やな!」
「そうでなくちゃな!」
戦闘を開始してから10分ほど、少し前から増加が止まり減少する一方になったカウンターに気付いて上空から皆に告げると明るい返事が返ってくる。
雰囲気も悪くない。このままいけるか?
でも……。
「おい……! アレ、なんだ……!」
90秒ぶりに新たな反応が現れる。
現れた反応は5つ。
僕たちの目の前、上空5メートルほどをゆっくりと進むそれに対してアーシラトさんが声を上げた。
それは磔にされた人間を思わせた。
4体のナイトゴーントが磔にされた人を鎖で吊るして運んでいたのだ。
吊るされている者は両足を閉じ、両腕を真横に開いているところはどことなく十字架を思わせる。
そして吊るされているのは人間ではなかった。
サイを思わせる鼻先に太い角を持った頭部に重厚な肉体。
リボルバー拳銃の弾倉を思わせる多砲身式の火器が両腕の代わりに取り付けられた怪人。
「『Re:ヘルタースケルター』の怪人? 何で? いや、それよりも……」
生物と機械の融合という特徴的な意匠。
腰のベルトや首や膝に施された装飾。
それらを確認して僕の電脳は吊るされているのが何年も前に壊滅したハズの組織「Re:ヘルタースケルター」の怪人である事を示していた。
でも、それよりも僕の気を引いたのは怪人の体表のところどころを覆う黒く虹色に光を反射する粘液質のモノだ。
それについても僕の電脳はデータアーカイブから1つのサンプルを示していたのだ。
怪人を吊るしていたナイトゴーントが鎖から手を放して投下。
鈍い物音とともに怪人は子羊園の園庭に降り立つと活動を開始しはじめる。
「みんな、離れて! コイツ、なんかおかしい! 『Re:ヘルタースケルター』の怪人なのにショゴスとかいうのの反応もある!」
異様な敵の出現に僕は迷わず地上へ降りていた。
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