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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第40話 巨大怪獣出現! その名はクトゥルー!!
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40-6

 子羊園の外に出てきた僕たちだったけれど、アーシラトさんと園長さんの流れ作業で次々とビンタをしていく様を見てしばらく呆然としていた。


 僕と河童さんの“ツヴァイリング”は当然の事ながら詠唱している2者の声が届く範囲でなければ効果が無い。今みたいに事故を起こした自動車のクラクションや半狂乱になった人の叫び声が響いている中ではさらに効果範囲は狭くなるだろう。


 その上、1回の詠唱に2分くらいはかかるのだ。

 前にマックス君と話をしている時に魔法には“短縮詠唱”や“詠唱破棄”なんて技術があるという事を聞いた事があるけれど、“ツヴァイリング”はあくまでしっかりと読み上げて対象者に詩の内容を理解してもらわなければならないのだ。そうでこそ勇気を魂から呼び覚まし人間の尊厳を取り戻してもらう事ができる。

 つまり時間短縮とかはできない。


 どう考えても肉体系宗教屋さん2人のビンタの方がてっとり早い。


「……僕たちも列の整理でも手伝おうか?」

「せやなぁ……」

「あ、でも石動さんのビンタとか効きそうじゃないですか?」


 機関銃のように猛ペースで列に並んだ被害者たちにビンタを浴びせていくアーシラトさんに園長さんのペースに列の整理や介抱をしているシスターさんたちや近所の人たちの方が先に参ってしまいそうだった。

 皆、息を切らせ額に汗を浮かべて次の被害者を2人の前へ引き出しては引き抜いていく。


 その列の整理の手伝いに向かおうとした僕たちだったけど咲良ちゃんが疑問の声を上げる。


「いやぁ、僕にはちょっと無理かな? 逆に聞くけど咲良ちゃん、泡吹いて震えている人にマジビンタとかできる?」

「わ、私にはちょっと……」


 まぁ大概の人にはできないだろうね。

 ああいうのはノリと勢いで生きてるアーシラトさんや、右の頬を打たれたら左の頬を差し出して挑発しちゃうようなゴリゴリに覚悟ガンギマリの宗教家にしかできない業なのだろう。




 3人で列の整理に向かっていたところ、後ろから声をかける人がいた。


 真愛さんだ。

 先ほどは何人ものSAN価チャックに失敗した子供たちを見て動揺しているようだったけれど、大分、調子を取り戻したようで僕もホッとする。


 いや、あれ? むしろ、なんか怒ってる?

 真愛さんは顔をいくらか紅潮させ、目じりが上がっていた。

 どうしたんだろ?


「あっ、誠君! 明智君から電話よ!」

「う、うん……」


 咲良ちゃんと河童さんには先に列の整理へ向かってもらい真愛さんから保留中のスマホを受け取る。


「もしも~し! 明智君?」

「明智だ! 大変だ、誠! 羽沢がおかしくなったぞッ!」

「は?」


 明智君らしくなく張り上げた声が漏れて聞こえているのか真愛さんは頬を膨らませている。

 こんな時にこういうのも不謹慎かもしれないけどハムスターのようで可愛らしいと思う。


「え? どゆこと?」

「なんか『SAN価チャックに失敗した子供たちに誠と河童が宮沢賢治の詩を朗読したら元に戻った』とか言い出してるぞ!」

「…………」

「早く手遅れにならない内に病院へ!」


 チラリと真愛さんの顔を見ると「病院へ行け」と言われたのが癪に障るのか真愛さんは口元をヒクヒクと動かしていた。


「……僕がそれは本当だって言ったらどうする?」

「はあ?」

「ついでに近所のSAN価チェック失敗した人にアーシラトさんと子羊園の園長さんがビンタ食らわせて正気に戻してるって言ったら?」

「お前なあ……」


 そこで僕は真愛さんに断りを入れて通話をテレビ電話モードに切り替えてから脳筋宗教家2人とその前にできた列へとスマホのカメラを向ける。


「…………」


 その様子を見てさすがの明智君も言葉を失ってしまったようだ。


「どう?」

「……えぇ」


 振り絞るような明智君の声に真愛さんも膨らませた頬を解いて、クスリと笑う。

 まあ明智君の気持ちも分からなくもない。


 それから明智君に“ツヴァイリング”について説明すると、彼から市の災害対策室に話をしてくれる事になった。

 なんでもテレビやラジオの放送、あるいは防災放送で詩の朗読を流す事でも効果があるかもしれないという事だ。


「でもさ、それで“ツヴァイリング”になるかな?」

「さあな。でもやれる事はやっておいた方がいいだろう? ステレオ放送の右側と左側でその“ツヴァイリング”とかできるかもしれんぞ?」


 それは思いつかなかった。

 つくづく彼の発想とそのスケールには驚かされる。


「ところでさ、去年、倒したハズのク・リトル・リトルが何でまた出てきてんのかな?」

「あ、ああ。本当はその話をするつもりだったんだ」

「うん」


 テレビやラジオを使った“ツヴァイリング”のアイデアに僕の心に楽観的な雰囲気が出ていたのは否定できない。

 それでも次に明智君の口から出てきた言葉で僕は頭をハンマーで殴られたような衝撃に襲われた。


「アレはク・リトル・リトルじゃない。アレはクトゥルー。去年、埼玉に現れたヤツの本体だ」

「は?」


 本体って事は去年のヤツよりも弱いという事はないだろう。

 そして去年の埼玉では万を超える犠牲者を出しているのだ。

 その本体が東京に向かって迫ってきている?


 そしてさらに……。


「昨日の未明に保護されたナチスジャパンの生き残りからもたらされた情報だ。『UN-DEAD』は少数の生き残りを除いて壊滅したらしい……」

「え? え?」


Twitterやってます

雑種犬

@tQ43wfVzebXAB1U

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