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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第40話 巨大怪獣出現! その名はクトゥルー!!
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「マっちゃん、“ツヴァイリング”や! 元岩手県民ならできるやろ!」

「う、うん! 分かった!」


 河童さんと僕は異常をきたした子供たちやシスターを1ヵ所に集めさせ、それから2人で挟み込むような位置へと動く。


「誠君! 一体、何を……?」

「僕たちに任せて!」




 いわゆる「旧支配者」とカテゴライズされる存在。

 他にも「異星人」や「宇宙怪獣」というカテゴリーが存在するにも関わらず、なぜ「旧支配者」というカテゴリーが別に設けられているかという事を疑問に思った事はないだろうか?


 その理由は至極単純。

 彼ら旧支配者とはまさに「太古に宇宙を支配していた存在」であって、現在、宇宙に生息しているあらゆる生命とは隔絶した存在なのだという。


 旧支配者、例えばク・リトル・リトルの体には地球の水生生物やコウモリのパーツによく似たモノが散見されるけど、それはあくまで彼らが地球の生物の遺伝子を取り込んだ結果であって、本質的には現行の生物学では解明できない異質な存在だそうな。


 しかも地球人は地球という惑星から離れる事もできない宇宙でも未開の種族だそうで、その地球人が外宇宙の脅威である旧支配者の存在に触れてしまった時、想像力の限界をゆうに超えるモノを強制的に認識させられてしまう事によって精神に異常をきたしてしまうのだ。

 そして精神の変調は肉体の制御をも困難にする。

 丁度、僕の目の前の子供たちやシスターさんたちのように。


 その現象を専門用語で「スペース(Space)アノマリー(Anomaly)による精神(Nervous)崩壊(breakdown)」略して「SAN」という。


 ただ旧支配者のような外宇宙からの脅威に関わらず超常的あるいは宇宙的な恐怖を知る事で想像力を拡張して精神崩壊を防ぐ事は可能ならしく、怪人だ異星人だのといった連中と切った張ったの生活を送っているヒーローにはSANは起こり辛い事が分かっている。


 一部の学者先生の説によれば個人の精神強度を数値化する事も可能らしく、とりわけ対旧支配者という分野において研究が進められ「SAN価」と呼ばれている。

 その学派では外宇宙的な恐怖や狂気に精神が対抗(レジスト)できずに精神崩壊をおこす事を「SAN価チェック失敗」というそうな。


 つまり元魔法少女で旧支配者「アンゴルモアの恐怖の大王」をソロ狩りした経験を持つ真愛さんや、妖怪や悪魔を仲間にして戦う咲良ちゃんはSAN価チェックに成功したためにク・リトル・リトルの咆哮を聞いても平気。

 痙攣しながら口から泡を吹いている子供たちやシスターはSAN値チェック失敗という事だ。


 去年、ク・リトル・リトルが埼玉に出現した時もSAN値チェックに失敗した人たちが大勢、出てしまった結果、避難行動に支障をきたして万を超える犠牲者を出してしまった。


 ようするに旧支配者というカテゴリされる存在とは戦う前にSAN価チェックによる洗礼が待っているのだ。




 でも、かつて、その地球人が認識してしまったら狂ってしまうような旧支配者と戦った英雄がいた。


 妹と2人、エスペラント語(対旧支配者人工言語)版ネクロノミコンを手に数多の血戦を潜り抜け、戦いの中で妹を失った彼は残りの余生を後世の同じ道を選ぶ者のためにと執筆活動についやした。


 僕が以前に住んでいた岩手ではその英雄の出身地という縁か、彼の著作に触れる機会も多く、中でもある種の“祝詞”はソラで暗記できる者がほとんどだ。


 その“祝詞”は神様に対して捧げるものではない。


 いや“神”と言うならば、アーシラトさんが昨日、咲良ちゃんと特訓している時に言った言葉を借りて「人間の中の神性」を研ぎ澄ますものだと言う事もできるだろう。


 自己と他者との境界を認識させ、人間の善性を呼び覚まし、小さく弱くとも誰もが持っている尊厳を奮わせる。


 その“祝詞”“賛歌”“詩”は太古から全宇宙で暴虐の限りを尽くしてきた旧支配者への抵抗する勇気を人間に与えるもののだ。


 その“祝詞”は1人で詠唱する事で自分へ狂気への耐性を付与する事ができるが、2人で詠唱する事で他者へも耐性を与えて現に侵されている恐怖をも振り払う事ができる。

 それを岩手の方言ではツヴァイリング(二重詠唱)という。


 僕と河童さんは互いに目配せして息を合わせて詠唱を始める。

 故郷岩手の狂える詩人、あるいは旧支配者ウボ=サスラの亜種クラム=ボンを打ち倒した英雄、ケンジ=ミヤザワの詩を!


「雨ニモマケズ

 風ニモマケズ

 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ

 丈夫ナカラダヲモチ

 欲ハナク

 決シテ怒ラズ

 イツモシズカニワラッテイル


 一日ニ玄米四合ト

 味噌ト少シノ野菜ヲタベ

 アラユルコトヲ

 ジブンヲカンジョウニ入レズニ

 ヨクミキキシワカリ

 ソシテワスレズ

 野原ノ松ノ林ノ陰ノ 小サナ萓ブキノ小屋ニイテ


 東ニ病気ノコドモアレバ

 行ッテ看病シテヤリ

 西ニツカレタ母アレバ

 行ッテソノ稲ノ束ヲ負ヒ

 南ニ死ニサウナ人アレバ

 行ッテコハガラナクテモイイトイヒ

 北ニケンカヤソショウガアレバ

 ツマラナイカラヤメロトイヒ

 ヒデリノトキハナミダヲナガシ

 サムサノナツハオロオロアルキ

 ミンナニデクノボートヨバレ

 ホメラレモセズ

 クニモサレズ


 ソウイウモノニ

 ワタシハナリタイ」


 僕と河童さん。

 2人の長い詠唱が進むにつれて、目に見えて場の空気が清浄になっていく。


 ヤクザガールズやマックス君が使う魔法のような即効性は無い。

 河童さんはどうだか知らないけれど、僕には魔力なんてないのだから魔法なんて使えないのだ。


 それでも“祝詞”には効果がある。

 何故なら、この“祝詞”は人間の魂を揺さぶるものだからだ。


 長い“祝詞”を詠唱し終わった時、先ほどまで口から泡を吹いていた子供たちやシスターは皆、キョトンとした顔をしていた。

 虚ろだった目には光が差し正気を取り戻した事は一目瞭然。


「ふう! さすがにぶっつけ本番は緊張したな!」

「そうですね……。ん? えっ!? 真愛さん!?」


 無事に詠唱が終わり緊張の糸が切れた僕の背中に真愛さんが抱き着いてくる。


 皺になるのも構わずにワイシャツの背中を両手で握り、僕の頭の上に自分の頭を乗せてくる。


 いきなりどうしたのだろうと思った僕はすぐに気付いた。

 真愛さんの体が震えているのを。


「……誠君、誠君は立派なヒーローね!」


 その短い言葉は僕にとって最高の賛辞だ。

 改造人間デスサイズの性能を誉められたわけではなく、人間の石動誠を誉める言葉だったからだからね!

引用「雨ニモマケズ」宮沢賢治




Q.なんで宮沢賢治が邪神と戦ってんの?


A.「永訣の朝」の妹のセリフが少年漫画のキャラっぽかったから。

  他、「注文の多い料理店」=旧支配者との戦闘

  「セロ弾きのゴーシュ」=魔導士の修行の暗喩

  「銀河鉄道の夜」=ランドルフ・カーター的な異世界旅行

  みたいな?


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