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「UN-DEAD」アジト地下の食堂。
ホバー・ラーテの持ち出しと電波ジャックによる宣戦布告について寝耳に水の状態であった「UN-DEAD」の面々であったが、彼らの前に遅れて現れたのは「サクリファイス・ロッジ」代表だった。
「内原さん、今までどこに……?」
「ええ、すいません。私も色々と立て込んでいたものでして……」
サクリファイス・ロッジ。
その名が示しているように生贄という外法中の外法に手を染めたカルト宗教団体である。
1999年、終末思想に染まった他カルトの構成員を吸収する形でサクリファイス・ロッジは最盛期を迎え、そしてマスクドホッパー、スティンガータイタン、ジョージ・ザ・キッドなどのヒーローたちの活躍によって組織は壊滅状態に陥っている。
現代表の内原は元々、中級幹部格の研究員であった。
だが他の上級幹部が軒並み戦死、あるいは当局に逮捕されたがためになし崩し的に代表に担ぎ上げられていたのだ。彼のオカルティストには珍しく義理堅く律儀な性格が支持を集めたというのもある。それに彼自身、自分の思い通りの研究をさせてもらっていた恩義もあったために代表就任の要請を快くうけていたのだ。
サクリファイス・ロッジ残党が「UN-DEAD」に合流してからも、血気に逸る構成員を抑えつつ他「UN-DEAD」参加組織との融和に努めていた結果、現在ではサクリファイス・ロッジ内のみならず「UN-DEAD」全体からの信頼を集めていたのだ。
無論、内原も外法に手を染めた悪の組織に参加するだけあって人格上の問題はある。
自分の研究に掛かり切りになって自室兼研究室にこもりきりになる事も多いし、自室から出てきても何か考えているのか仏頂面だったり話しかけても上の空だったりという事も多いのだが、その程度の事などは悪の巣窟「UN-DEAD」においては可愛いものだと受け止められていた。
その仏頂面の内原が満面の笑みを浮かべている。
その笑顔を見た誰しもが「実験か何かが上手くいったのか?」と思っていた。皆、ラーテの無断使用や電波ジャック放送に内原が関係しているとは思っていなかったのだ。
しかし、それでも彼の浮かべた笑顔に垣間見える狂気に背筋が凍るような思いをしていた。この場にいるのは異星人に改造人間、強化人間などの荒くれ者も多いというのにだ。
「……随分とご機嫌ですね?」
「ええ! 例の旧支配者招来計画の実現の目途が立ったものでしてね!」
「旧支配者?」
「ああ、知っているのは運営会議に参加している格組織の代表者だけでしたっけ」
普段の内原とは明らかに違う鷹揚な喋り方に一同は違和感を抱くが、彼の見せる狂気染みた表情に誰も何も言えなくなってしまう。
だが、次に彼が言った言葉、それは一同を驚愕させるものだった。
「そういうわけで現時点を持って『UN-DEAD』の指揮権は私が頂きますよ!」
「何だと!?」
「まさか! ラーテも電波ジャックも貴方が!?」
突然のクーデター宣言に一同は聞き間違いかと思いながらも内原を包囲するように取り囲んで彼の真意を確かめようとする。
「ええ、アっ君さんの命令書を偽造して凶竜軍団の方々に「極秘任務だ」と言って私が指示しました」
「……何のために」
「何のために? それなら答えはこうです。『貴方たちは手ぬるい』」
ルックズ星人を嘲笑するように会釈してみせた内原に向かって2人の男が飛び掛かった。
「貴様ッ! 内原さんではないな!」
「代表をどこにやった!?」
2人は「サクリファイス・ロッジ」の構成員だった。
1人は符術で呼び出した炎を両の拳に纏い、もう1人は外法によって昆虫の棘ばった甲殻と融合した右腕を振りかぶって内原の左右からとびかかる。
「ふっ……」
「なっ……!」
内原の両腕が伸びる。
炎にあぶられてとろける飴のように伸びた両腕は槍となり、飛び掛かった2人の胸板を貫通。
哀れ空中で串刺しになってしまった2人が絶命すると内原の両腕はスルスルと縮んでいき、何事も無かったかのように人の腕の形に戻る。
ドサリ……。
床の上に落ちた2人の胸には野球ボールほどの貫通痕が背中までハッキリと抜けていた。
この死体の傷口をH市の警察関係者が見たならば気付いたであろう。日曜に遺体で発見されたヒーロー「モーター・ヴァルキリー」に残された彼の命を奪った致命傷と2人の傷口が同じ物であることが。
だがモーター・ヴァルキリーの事など知らぬ「UN-DEAD」の面々はただ人間であったハズの内原が見せた白昼夢のような出来事に恐怖した。
「フフフ……。『代表をどこにやった』だと? 1年以上も前に“私”とすり替わって事にも気付かない間抜けがよく言う」
内原の体が変化を始める。
闇が、煌々と電灯が燈っているハズの食堂の至る箇所から闇が表れては内原に集まっていく。
やがて闇はヘドロのように形を持って内原を覆いつくして人の形を取った。
闇で作られた人。
一切の艶を持たないのは光を反射していないということか。
「誰も気付かなかっただろう? 『手ぬるい』と言った理由も理解できたか? それよりもだ……」
内原の声で語る黒い人型。だが、その声は彼の口から発せられているとは思えない響きをもっていた。
「私に気付かなかったのはともかく、不思議には思わなかったのか? 『旧支配者招来計画』を元々、研究していた『世界怪奇同盟日本支部』はデビルクローとデスサイズによって1人残らず殲滅されたのだぞ? しかも、その場には自衛隊の犬、ブレイブハウンドもいたのだ。当然、奴らのアジトはすぐに自衛隊が調査を始めたのだ。どうやって資料を持ち出せたと?」
「“無貌の神”“這いよる混沌”ナイアルラトホテプか……!」
この場において黒い人型の正体に気付いたのはただ1人。
「UN-DEAD」のまとめ役であるルックズ星人だけだった。
「ご名答! だが気付くのが遅かったなぁ?」
ルックズ星人がナイアルラトホテプを知っていた理由。
それは彼らルックズ星人が母星を失う原因となった事件もかの邪神によって引き起こされていたからであった。
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