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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第39話 日本全国、所変われば……
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39-15 秋田編10 ギチ・マニトゥ

 白神山地の中心にそびえ立つ巨大なブナの木。


 大地を走る龍脈が地表近くまで上がってきているポイントに立つその巨木はマタギ族から「世界樹」と呼ばれて遥か縄文の時代より畏怖と崇拝の対象であった。


 その威容は近隣に並ぶ山々と遜色がないほどで、枝葉の下に入って数km、絶壁のような幹が見えてくる頃には日の光が届かない世界となっている。


 その世界樹の幹を目指してウェンディゴが歩いていく。

 クマという動物の生態から大きく外れて2本足で歩き続けるその姿には“命”は感じられず、時折、前方につんのめりながら歩くところやプラプラと腕を振る様など、どこか操り人形を思わせるモノであった。


 厚く幾重にも枝葉で覆われたその場所には太陽の光は届かない。

 しかし周囲には仄かな光に包まれている。

 天を覆いつくす世界樹の葉が淡く緑色に発光しているのだ。

 その光は陽光を浴びる若葉の新緑のようで、それがかえって永久に続く夜の世界では妖しい。


「てけり・り……?」


 ふとウェンディゴは前方に、世界樹の幹を目指す自分へと立ち塞がるようにして立つ1人の人影を認めた。


「遅かったじゃない?」

「てけり・り……」


 先に自分と交戦した原住民の少年ではない。山での行動には向かないような服を着た幼女、自分の生命活動を停止させた人間なのかも妖しい存在でもない。

 だがウェンディゴは前方に立つ女性に既知感を感じていた。

 それと同時に強い警戒心も抱く。


 女性にしては身長が高く180cmほど。

 腰まで伸びた長い髪とは似つかわしくない白地に細い黒線の走ったストライプ模様の派手な戦闘服は警戒色を思わせる。

 それ以上に女性の燃えるような瞳がまるで獣王が乗り移ったかのようで、ウェンディゴは体重で考えれば100分の1以下であろう目の前の女性に警戒せざるをえなかったのだ。


 だが警戒しつつも女性は無手。

 銃火器や刃物の類などは見当たらないし、仮に隠し持っていたとしても自分を相手に何ができるというのだろう。

 ウェンディゴはジリジリと前進していくが、ある距離まで進むと同時に壁にブチ当たったように進めなくなってしまう。

 物理的な壁が存在しているわけではない。

 女性の全身を通して発せられる闘気がこれ以上のウェンディゴの前進を拒んでいるのだ。


 ウェンディゴは気付く事が無かったが、巨大クマの背後に本塁(ホームベース)があったと仮定した場合、本塁と女性との距離は正確に60.5フィート(18.4404m)

 野球における本塁と投手板との距離である。

 いわばウェンディゴは幻想のバッターボックスに囚われてしまっていたのだ。自分でも気付かぬままに。




 ウェンディゴの前に再び立った座敷童。……否、すでに彼女は座敷童ではない。


 龍脈を通じて故郷の六甲山と接続(リンク)した結果、龍脈を流れる気を取り込んで存在を変異させていたのだ。


 5、6歳児程度の幼い肉体は座敷童が求め続けて手に入れられなかった野球をするのに最適な肉体へと変換され、あまりにもか弱い肉体で戦い続けたその闘志はそのままに。


 野球をする妖怪は“幻想野球戦士(ファンタジスタ)”へと進化していたのだ。


 それは、かつて現れたクマのウェンディゴを打倒したマタギ族の伝説に語られる存在ギチ・マニトゥ(大いなる精霊)“黄金の鷲”ともはや同種の存在と呼べる存在で、彼女の気性をマタギ式に名付けるのなら“猛る虎”とでも呼ぶ事ができよう。


「さぁ、ラストイニングよ!」


 虎が短く吠えるように呟くと、胸の前で両手を掲げる。


 龍脈を通して全身を流れる大地の気を両手に集中し、熱い魂で精錬、さらに圧縮。


 そして現れたのが純白に輝く一球のボールだった。

 物理的な作用を持つほどに圧縮された気のボール。


 虎は直径7.5cmほどのボールを強く握り込むと左足を大きく振り上げて体を捻り上げる。自身の背をウェンディゴに晒すほどに。


「……セイッ!」


 それは座敷童の風車(ウインドミル)投法ではなかった。


 風を受けて回る風車すら粉砕する旋風、疾風、竜巻。


 幼い体で生きていく事を運命付けられた座敷童だが、己がハンディキャップをむしろ自身を鍛えるためのもの受け止めたがために飽くなき鍛錬を続けていた。

 妖怪、異次元怪人、忍者に鬼、邪神、そしてウェンディゴ。幼い体躯で数多の戦いを野球妖怪として戦い抜いた先に磨き上げられた闘魂は純粋なエネルギーとなって地上に竜巻を生じさせたのだ。


 8.5等身の長身に長い足と腕。

 全身全霊で捻り上げられた体から繰り出されるトルネード投法。


「…………」

「てけ……り……り……」


 剛速球が捕手(キャッチャー)のミットに捕らえられた時のような小気味良い音が常夜の世界に響いたと思うと辺りは無音に包まれる。


 そして胸板に大きな風穴を開けられたウェンディゴはゆっくりと倒れていき、そして2度と立ち上がる事はなかった。


「……バッター、“アウト”。ゲームセット……」


 すでに座敷童の目に映っていたのはウェンディゴではない。

 仲間を、ベリアルを殺した邪神ナイアルラトホテップと戦うための手段を手に入れた彼女はゆっくりと世界樹の元を去っていく。

 暗雲立ち込める東京H市を目指して。

主人公にも新フォームとかないのに……(´・ω・`)


どうでもいい事なんですが、昔に観た映画でマタギが木か竹っぽいチャクラムのような物を使っていたのですが、アレはなんなんでしょう?

私も秋田県民ですがチャクラムとか使えませんが、マタギはチャクラムとか普通に使えるのでしょうか?

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