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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第8話 燃えよ 三浦君!
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8-1

 マックス君と出会った翌日の土曜日、僕は郊外にあるZION(ザイオン)ショッピングモールに買い物に来ていた。


 お目当ての品はランニング用シューズ。

 5月の連休明けに行われる体育祭で、僕は3000m走の選手に当たっていた。

 今現在は登下校の際に履いているスニーカーで屋外での体育の授業も受けていたけど、これを機会に体育用にランニングシューズを買おうと思ってきたのだ。なんだかんだ土埃で登下校用の靴が汚れるというのもあるけど、高校生になったんだから革靴とかも履いてみたいしね。


 元々、マジキチ共(ARCANA)に拉致られる前は、中学校の部活で陸上部の長距離走をやっていた。

 もう競技として走ることはないだろうと思っていたけど、体育祭とはいえまた走ることができて、実はとても嬉しい。


 とはいえ所詮は学校の体育祭。陸上部でもないのにスパイクシューズを持ち出すのは浮いちゃいそうで恥ずかしい。

 普段の体育の授業にも使うことを考えるとランニングシューズが無難だろう。それもレーシングタイプではないヤツ。あと、ガチ勢ではないのだから色もまともなヤツがいい。できるだけ「普通」の靴だ。


 中学の時に使っていた、計測時以外の練習の時に使っていたシューズみたいなのがいいんじゃないかな? 確か国産スポーツ用品メーカー「タダクニ」のなんか大気圏突入できそうな名前の靴だ。


 お、あった、あった。うん! これこれ!

 その靴はレース用に比べていくらか重いものの、その分、クッション性は良さそうでありつつも靴底は硬くエネルギーロスの少なそうな設計だ。かかとのホールド感も良さそうなのも好印象だ。

 実のところ、今の僕にとっては靴のクッション性なんかは意味を持たないのだけれど。しかし、体育の授業にも使うことを考えると、薄くて軽すぎる靴は、例えばサッカーの時にはボールを蹴った時に無意味に痛覚信号を刺激されるだろう。


 僕のポンコツ電子頭脳は3000m走での勝利のために「7分20秒67(世界記録)」のタイムを切ることを提示してきた。

 つまり5分を切ることができることができる僕なら、ほぼ間違いなく勝てるというわけだ。

 今まで、この体のことで色々と悩まされてきたけど、靴選びで悩むのなら大歓迎だ。


 試着して良さそうなサイズを決めて色を選ぶ。あまり目立たたず奇抜ではないものを……、ダークブルーのでいいかな?

 型落ち品ということで12000円のお値段。うん。悪くないな! 




 納得の戦果を上げ、ほくほく顔の僕がスポーツ用品店を出ると、真愛さんと亮太君、それにアーシラトさんに出会った。


「お! 少年! 何してんだ?」


 アーシラトさんが目をパチクリさせる。その長い尻尾には亮太君が乗っていた。


「あ、誠兄ちゃん、コンチハー!」


 そして真愛さんは2つの違う店舗の買い物袋を手に持っていた。


「こんにちわ! 誠君もお買い物?」


「あ、皆。こんにちわ。ちょっと運動靴欲しくて……」

「へ~、いいのあったか?」

「うん! これ!」


 ん? アーシラトさん。自分から聞いてきたわりには興味なさそうな……。とりあえず手に持った袋を軽く上げて見せる。時間も丁度いいし、せっかく会ったんだから真愛さんたちを食事に誘おうかな? ガッツリ系がいいかな? オシャレカフェ系がいいかな?


「あ、そう? じゃ亮太のこと見ててよ。アタイと真愛で服、見てくっから!」

「なんですと!」

「え? あ! ちょ……、ちょっとアーシラトさん!? 腕を引っ張らないで……」


 それだけ言うと、躊躇する真愛さんを引っ張ってアーシラトさんは消えてしまった。

 後に残ったのは彼女の尻尾から飛び降りた亮太君と僕だけ。


「……じゃ、軽くハンバーガーでも食ってゲーセン行こうぜ!」


 わあ、慣れてるなあ。




 真愛さん+α×2を食事に誘う儚い希望を捨てきれない僕は、モール内のグフグフバーガーで本当に軽く食べたのだが、ガッツリとセットメニューを食べた亮太君を見て彼女たちの買い物時間について認識が甘かったと反省した。すぐに合流するならガッツリ食べるわけないもんね!


 亮太君に連れられてきたゲームコーナーは僕の予想以上の規模で、シールプリント機だけで20台以上の規模だった。その他、所狭しとメダル機やパチンコ台にクレーン台、エレメカが並べられている。


「ねぇ! 誠兄ちゃんはどんなのやるの!」


 子供の楽園に来た興奮からか、周りの騒音からかいつも以上に亮太君の声が大きい。


「亮太君は何をやりたい?」


 返事の代わりに駆けだす亮太君についていくと、1台の空いているシールプリント機の前に来た。


「一緒に撮ろーぜ!」


 うん……異存はないよ? できれば真愛さんと一緒に撮りたかったってくらいで……。


 全身が写せるタイプの機種だったので二人でポーズを決めて撮影。

 撮影後、デコレーション画面に映ると≪バスで来た≫と書いておいた。

 プリントアウトが終わったら備え付けの鋏で2等分して片方を亮太君に渡す。


 それから二人でぷらぷらとコーナー内を見て回ってると1台のビデオゲームが目に留まった。


「HEROES BATTLE EXTREME」?


 いや、問題なのはタイトルではない。

 そのゲームのデモ画面に出てくるのは知り合い、もしくは知り合いが過去に戦った相手ばかりだった!


 ブレイブファイブがチームで戦い。

 ジャスティスマンティスさんのWシックルが画面を切り裂く。

 米内さんが炎に包まれた町を肩で風切ってゆったりと歩く。

 あの巫術と刀で戦う巫女さんは何て名前だっけ?

 この人たちは知り合いじゃないけど、いかにも勇者、ダークエルフ、魔導士、スライムみたいな一行の背後に浮かび上がる巨大な影はマックス君!?

 そして……

 暗闇を切り裂いてくる青白い光芒。

 現れたのは兄ちゃん(デビルクロー)だった。


「あ…………」

「ん? 誠兄ちゃん、コレに興味あんの?」

「うん…………」


 デモ画面を見詰める僕の顔を亮太君が不思議そうに眺めていた。

 そういえば兄ちゃん兄ちゃんばっかり言ってた僕が、今は亮太君から兄ちゃんって呼ばれているのか。思えば遠くへきたもんだ……


 しんみりと感傷に浸っていた僕だったが、次の亮太君の言葉に思わず現実に引き戻される。


「自分も出てるのに?」

「ふぁっ!?」

「え、知らないの?」

「知らん! 知らんぞぉ! 僕は全然、知らないよ!」

「え? マジで!? …………じゃあ、見てなよ!」


 そう言って筐体に100円を入れてシングルプレイを選択。

 え? こういう時って協力プレイか対戦プレイをするんじゃないの? 後ろで見てろってどゆこと? そんなに難易度高いの? それとも俺の超絶プレイを見てろとか?


 ゲームが始まると僕の疑問は更に増える。

 まず、僕がプレイヤーキャラクター選択画面にいない。

 沢山のヒーローがいるし、僕は何処だろな? と思ってるのを尻目に亮太君が選択したのはデビルクロー。え? 僕がゲームに知らない内に出てるって話じゃないの?


『悪魔の手ってのは、人に差し出すためにあるんだぜ!』


 兄ちゃんのセリフと共にゲームがスタート。

 どうやらジャンルは3Dアクションらしい。綺麗なCGで形作られたデビルクローが迫りくる敵をばったばったとなぎ倒していく。


『フン! ハッ! オラァァァ!』

『デビルクロー……デビルクロー! パンチ!』


 あ、デビルクローパンチをキャンセルしてデビルクローパンチ。スーパーアーマーがついてるのか攻撃を受けても突進を続ける。


「あ、誠兄ちゃん。10分ちょいかかるからちょっと待ってて!」


 うん。僕は忘れられたわけじゃなかったんだね。良かった!

 このゲームコーナーは飲食をしながらのプレイも可能なようだし、ジュースでも買ってきてあげよう。グフグフでコーラだったからオレンジでいいかな? 


 他の台をふらふら見ながら自動販売機で飲み物を買って戻ると、亮太君のプレイは続いていた。スタート時よりもレバー捌きはせわしなく、時にレバガチャと呼ばれる状態になりながらも次々と敵を撃破していく。


「はい、これ!」

「あ、ありがとう!」


 プルタブを起こした缶を渡すと軽く一口だけ飲んで、またゲームに集中する。

 左右に猛スピードで反復横跳びしながらビームマシンピストルを乱射するデビルクロー。正直、いくら兄ちゃんでもカッコ悪い姿だ。これはあんまり見たくはなかったな……


「あ、そろそろ誠兄ちゃん出てくるよ!」


 え? ついに? もう正直、忘れかけてたよ!


『デビルクロー! パンチ!』

『ぬわーーー!!』


 ドゴーーーン!

 STAGE CLEAR!

 ビー! ビー! ビー! ビー! ビー!


 ステージボスの撃破後、警報音と共に画面に赤いライトが点滅する。

 ん? どういう演出だ、コレ?


 レーダー画面に急速接近する敵影。


『ふふ、兄さんを殺すのは、この僕だよ!』


 現れたのはボロボロのマントを纏った骸骨を模した死神。その手には大きな鎌を携えている。

 え……? コレって? 


 FINAL STAGE START!


「誠兄ちゃん、デビルクロールートのラスボスなんだ!」

「oh……」


 嘘だろ!




 結局、亮太君は僕を接戦の末に仕留めた。


「どうだった! 俺のプレイ!」

「……うん。それどころじゃない気分かな?」


 ゲームコーナー脇の休憩スペースで僕と亮太君は缶ジュース片手に休んでいた。

 亮太君はゲームクリアの興奮で顔を紅潮させている。僕はと言えば亮太君とは対称的に気持ちが大きく沈んでいた。


「……やっぱ、敵役って嫌なの?」

「敵なのはいいよ、もう。あんな見た目だしね。……それよりゲームの中とはいえ、兄ちゃんと戦うのが嫌かな?」

「あっ……、ゴメン……」

「ふふふ、いいってことよ! さすがにショックだったけど。亮太君は僕がゲームに出てることを教えてくれようとしただけだし!」

「ホント、ゴメンな!」


 こんな小さな少年にこんな済まなそうな顔をさせたら、僕が兄ちゃんに怒られちゃうよ。この気持ちを伝えるにはなんて言ったらいいだろう?


「そ、そうだ。だったらコンシューマー版をやったらいいよ! それなら誠兄ちゃんもプレイヤーキャラになってるよ!」

「そうなんだ。ふふ、ゴメンね! 亮太君に気を使わせたみたいで!」


 そう言って二人で笑いあう。弟ってこんな感じかな? 兄ちゃんもこんな気持ちだったのかな?


「あ、でも……」

「でも?」


 何故か言いよどむ亮太君。一体、今度はなんじゃらほい?


「デスサイズ、課金DLキャラだったわ!」

「か、かきんだうんろーど!?」


 あのゲームの開発元は僕が感傷に浸るのを邪魔するのが趣味なのかな?




 ♪~~♪~♪~~~♪


 ん? 僕のスマホの着信音。ここにも僕の感傷を邪魔するヤツが。誰からだろ? 真愛さんたちの買い物が終わったのかな?

 予想に反して、スマホの画面には≪天童さん≫の文字が。どうしたんだろ?


「あ、モシモシ? 天童さん?」

「ま、マコっちゃん? 助けて! 町に怪人が出て!」

「え!?」

「アタシと巻き込まれた子供を逃がそうとデブゴンが! デブゴンが!」


よくよく考えてみると、ザイオンの元ネタの中にグフグフの元ネタはありえないですよね。

あくまで元ネタでお願いします。

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