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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第39話 日本全国、所変われば……
276/545

39-5

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 静まりかえった室内。

 壁面スクリーンに投影されていたプロジェクターが動画の再生を止めても誰も口を開こうとはしない。


 廃ホテルの地下に設けられた「UN-DEAD」のアジト。

 その白く無機質な食堂にごったがえしている無数の異形の者たちはたった今、再生されたばかりの動画ファイルに完全に気圧されていた。


「私はパワードスーツを着ていたおかげで自爆攻撃にも耐える事ができ、スーツが故障した後も敵や仲間たちの遺体がクッションとなっていたためにこうして生き延びる事ができたわけです……」


 最初に口を開いたのは「UN-DEAD」のまとめ役であるルックズ星人、ああああ・ああ・あああ、通称「アっ君」だ。


 本日の午後4時に日本全国に対して行われた「UN-DEAD」の電波ジャック放送。

 だが当の本人である「UN-DEAD」の面々ですらそれは寝耳に水の事だった。

 当然、まとめ役であるルックズ星人の元に各参加組織のメンバーが詰め寄る結果となったが、いきり立って詰め寄る面々に対してルックズ星人は自身が「オーストラリア紛争」の際に撮影した動画アーカイブを見せていたのだった。


「この後、オーストラリア軍の支援を受けて何とかオーストラリア大陸から離脱する事ができたんですけどね……」

「うん? 『オーストラリア軍の支援を受けて』って、アっ君、オーストラリアを侵略しにいった側だろ?」

「ええ……」


 誰かが声を上げる。その言葉を誰が言ったかを確かめる事なくルックズ星人は疑問に対して答えはじめる。

「UN-DEAD」では身分の差に関係なく誰しもが意見を忌憚なく口にする事ができる。そのような組織の文化を作り上げた事、それはルックズ星人にとって誇りの1つだった。

 彼以外にも疑問に思っている者が多いのか互いに顔を見合わせたり首を傾げている者が多い。


「多分、ですけどオーストラリア軍も『もういいから、とっとと帰って!』みたいな感じだったんじゃないですかね? 何しろ私たちを攻撃してきた暴徒の群れはオーストラリア政府の統制が効く相手じゃなかったみたいですから……」

「ああ、暴徒の群れを引き寄せるような連中にはとっとヨソに行って欲しいと?」


 先ほどの動画を思い出せば思わず納得の理由だった。


「不思議には思っていたんですよ? オーストラリアの軍隊や警察ではない集団。それどころか軍隊ですらない。しかもオーストラリアに多く住んでいるコーカソイドや現住民族であるアポリジニとは明らかに人種的特徴の異なる集団が何故、私たちを襲うのか? ヒントは彼らが使っていた言語『日本語』でした」

「だからアっ君たちは……」

「はい。日本に来て、彼らが『ウドンの民(香川県民)』と呼ばれる者たちだと知りました」


 宇宙に名を馳せた「フラッグス移民船団」。

 だがオーストラリア侵攻の失敗から間もなく船団は蔓延していた疫病により全滅し、侵攻部隊で日本に渡ってくる事ができたのはわずかに2人。

 そしてルックズ星人とともに日本に来たベルサー星人はすでに大天使ウリエルとの戦闘で死亡していた。


 ルックズ星人にとって、故郷から遥か遠い地球で天涯孤独の身になってしまったわけだが、まだ彼には「UN-DEAD」の仲間たちがいた。

 だからこそルックズ星人たちは過去の苦い敗戦の記録をさらけ出してでも仲間たちの疑念をはらしたいと思っていたのだ。


「で、まだ私が四国に、香川に手を出すと思ってる人~!」

「……って、なあ?」

「うん。あんなん見せられたらなぁ……」


 ルックズ星人は小さく右手を挙げて食堂にいる面々に挙手を促すが、手を挙げた者は誰1人としていなかった。


「アっ君も知らなかったってのは分かったけどよ。じゃあ誰が?」

「いや、何のためにという方が重要だろう?」

「そういや、ラーテを持ち出した連中と通信は?」

「不通だそうだ」

「んな馬鹿な! ラーテに積んでいた通信機はアっ君とこのスゲぇヤツなんだろ!?」

「ああ、整備も万端、それは我々が保証する。例え地球の裏側だろうと不通などありえない」

「あれ? 鉄子さんは?」

「あぁ、えと、さっきの動画を見て具合がな……」

「あぁ……」


 疑念が向けられていたルックズ星人がシロであると判断した面々は喧々諤々の議論を始めるが、中々に結論が出るものではなかった。


 なお子羊園から戻っていたナチスジャパンの代表も先ほどまでルックズ星人に詰め寄っていたものの、今は医務室のお世話になっている。

 そしてD-バスターシリーズは医務室でナチスジャパン代表の介抱をしている1号を除いて厨房で晩御飯の支度をしていた。


「う~ん。こうしてああだこうだ言っていても埒があかんな……」

「ステルス連絡機を飛ばしては?」

「あれ? そういや内原さんは?」

「うん? そういや見てないな……」


 議論が煮詰まっても結論が出てこないので、誰となく知恵者として知られる「サクリファイス・ロッジ」代表の姿を求めるがそこに代表の姿は無かった。


 電波ジャック放送の事も知らずにまた自室兼研究室に引きこもっているのかと呼びにいこうとドア近くの者が動き出したのとほぼ同時にサクリファイス・ロッジ代表が食堂へと入ってきた。


「ああ、皆さん、お待たせしました! ええ、今日は皆さんに良いお知らせがありますよ!」

それなりに長く物語を続けていると「モノサシ」のようなものができてくると思うんですよ?

例えば「ハドー怪人」。

誠君やベリアルさんは簡単にモブハドー怪人を簡単にやってしまいますけど、咲良ちゃん(+河童、座敷童、ツチノコ)は上手く知恵を使ってやっと1体を相手できるとか。


そして今回で「香川県民から逃げる事ができるベルサー星人をも倒す大天使ウリエル」というパワーヒエラルキーが出来上がってしまったわけですね。。。

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